名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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ワークフォースのイメージビジュアル
ワークフォースWorkforce
Workforce

ワークフォース

通算成績9戦4勝

獲得賞金(海外含む・概算)約28,387万円

生年月日 2007.03.14(平成19年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ワークフォースの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム映像
12 GI凱旋門賞 フランス 芝2400 4人気 ムーア 映像
2 GIKジョージ6世&QES イギリス 芝2400 1人気 ムーア
2 GIエクリプスS イギリス 芝2000 2人気 ムーア
1 GIIIブリガディアジェラー イギリス 芝2000 1人気 ムーア
1 GI凱旋門賞 フランス 芝2400 4人気 ムーア 2:35.3 映像
5 GIKジョージ6世&QES イギリス 1人気
1 GI英ダービー イギリス 芝2400 R.Moore 映像
2 GIIダンテS イギリス 2人気
1 未勝利戦 イギリス 1人気

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ワークフォースの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
キングズベストKing's BestKingmamboMr. Prospector
Miesque
AllegrettaLombard
Anatevka
Soviet MoonSadler's WellsNorthern Dancer
Fairy Bridge
Eva LunaAlleged
Media Luna
STORY

旅程 — この馬の物語

2007年生まれの鹿毛の牡馬。父キングズベスト、母Soviet Moon。主な勝ち鞍は英ダービー・凱旋門賞・ブリガディアジェラー。

月の一族に、月のない名

2007年3月14日、ジュドモントファームに生まれた鹿毛。馬主はハーリド・ビン・アブドゥッラー、管理を託されたのはニューマーケットのマイケル・スタウトだった。父キングズベストは2000年の英2000ギニーを、のちに名種牡馬となるジャイアンツコーズウェイに3馬身半差をつけて勝った馬で、その厩舎もまたスタウトである。父を鍛えた男に、息子が預けられた。 母Soviet Moonは走らなかった。だが同じ腹には、セントレジャーステークスを勝った全兄Brian Boru、グレートヴォルティジュールステークスを勝ちブリーダーズカップ・ターフで2着した半弟Sea Moon、フランスのG2を勝った半姉Moon Searchが並ぶ。祖母はEva Luna、その母はMedia Luna。ルナは月であり、ムーンも月である。この一族は代々、月の名で呼ばれてきた。 その月から生まれた仔に与えられたのは、月の気配などかけらもない一語だった。Workforce——働き手、労働力。素っ気ないその名は、しかし父方にひとつ札を伏せていた。父キングズベストの母Allegrettaは、1993年の凱旋門賞を勝ったアーバンシーを産んだ牝馬でもある。凱旋門賞の血は、生まれた時点ですでに、この馬の父方に流れていた。

グッドウッドの六馬身

デビューは2009年9月23日、グッドウッドの芝7ハロン。12頭立ての1番人気に推され、最後の直線で馬群の隙間を縫うように伸びて、Oasis Dancerに6馬身の差をつけた。鞍上はライアン・ムーア。以後この馬が走った全レースで、鞍上が替わることはない。秋にG3へ向かう案もあったが、2歳戦はこの1戦だけで畳まれた。 明けて3歳。2000ギニーもダービーも前売りでは上位人気に押し出されていたが、ギニーには向かわず、5月13日のダンテステークスから始動する。結果はケープブランコから3馬身1/4差の2着だった。キャリアの浅さと、堅すぎる馬場が敗因に挙げられている。陣営はいったんダービー出走を保留にした。決断を促したのは、1週前の追い切りである。動きが良かった——それだけの理由で、この馬はエプソムの丘へ向かうことになる。

エプソム、七馬身 ― 2分31秒33

2010年6月5日、第231回ダービー。12頭立て、芝は乾いて速い。逃げたのは単勝100倍のAt First Sight。ワークフォースは3番人気で、下り坂を抜けて直線に向くと、一頭だけ脚の色が違った。ムーアは、必要より早く先頭に立たせてしまったかもしれないと後に振り返っている。それでも加速は止まらなかった。7馬身差。時計は2分31秒33——1995年にラムタラが刻んだコースレコードを、1秒近く削り取っていた。 ムーアにとって初めてのダービーだった。前日にはスノーフェアリーでオークスを勝っている。そしてその6日前、5月30日の東京では、内田博幸のエイシンフラッシュが日本ダービーを制していた。エイシンフラッシュの父も、キングズベストである。一週間のうちに、日本と英国のダービーが、同じ父の息子たちの手に落ちていた。

同じ厩舎の、十一馬身

7月24日、アスコット。古馬との初対戦となったキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスは6頭立て、単勝1.7倍の1番人気。だが見せ場なく5着に終わる。勝ったのは同じスタウト厩舎のハービンジャーで、着差は11馬身。ワークフォースは勝ち馬から17馬身も置き去りにされていた。ムーアは、ダービーのときのように折り合いがつかなかったことを敗因に挙げている。 この夏、厩舎の凱旋門賞への期待は、当然のようにハービンジャーへ移った。ところが2週間後の8月7日、ハービンジャーは調教中に左前肢の管骨を骨折し、引退が決まる。ロンシャンへ向かう道に残されたのは、11馬身ちぎられた方の馬だった。

アタマ差 ― 極めて重い芝で

凱旋門賞に向かうと固まったのは、レースの3日前である。19頭立て、馬場はVery Soft——極めて重い芝。4番人気。ワークフォースは後方に控え、直線でいったん馬群に包まれた。そこから内へ潜り、脚を伸ばす。前では蛯名正義のナカヤマフェスタが抜け出していた。最終コーナーで鞍上が何度も立ち上がるほどの不利を受けながら、それでも先頭に立った日本の4歳馬である。並びかけ、叩き合い、ゴール板。差はアタマ。2分35秒30、3着のサラフィナはさらに2馬身半後ろにいた。 日本にとっては、エルコンドルパサー以来の凱旋門賞連対であり、内国産馬としては初めてのそれだった。英国にとっては、1981年のシャーガー以来エプソムのダービーを幾度も勝ちながら、凱旋門賞だけを手にしていなかった調教師が、ついにその一つを埋めた日だった。キングジョージで5着に大敗した方の馬が、消えたはずの期待に応えてしまったのである。 血の側から見れば、この日は一つの円が閉じた日でもあった。前年の勝ち馬シーザスターズは、母アーバンシーを通じてAllegrettaの孫にあたる。ワークフォースは、父キングズベストを通じてAllegrettaの孫である。1993年のアーバンシー、2009年のシーザスターズ、そして2010年のワークフォース——ロンシャンの10月は、Allegrettaという一頭の牝馬から伸びた枝が、代を替えて立ち続けた場所でもあった。 この年、ワークフォースはカルティエ賞の最優秀3歳牡馬に選ばれた。一方、11月のブリーダーズカップ・ターフには登録しながら、チャーチルダウンズの芝が堅い(Firm)と見て出走を取り消している。堅い馬場で敗れ、極めて重い馬場で勝ち、それでいて乾いたエプソムではレコードを出す。分かりやすい馬ではなかった。

連覇という名の壁

2011年5月26日、サンダウンのブリガディアジェラードステークス(G3)を単勝2.0倍の1番人気に応え、Poetに1馬身差で勝って4歳を始動する。だがそこから先は、2着が続いた。7月2日のエクリプスステークスは5頭立ての一戦で、ソーユーシンクに1/2馬身届かない。7月23日のキングジョージはナサニエルの2着、2馬身3/4差だった。 そして10月2日、ロンシャン。凱旋門賞の連覇は1977・78年のアレッジドを最後に、33年間途絶えていた。16頭立ての4番人気に推されたが、後方のまま直線でも伸びず、デインドリームから14馬身半差の12着。前の年にアタマ差で抜け出した同じ芝の上で、これが最後の一戦になった。

安平の冬、父と子

引退が伝えられたのは2011年11月。社台グループが購入し、翌2012年から北海道安平町の社台スタリオンステーションで種牡馬になった。そして1年遅れた2013年、父キングズベストもまた日本へ渡ってくる。エプソムの丘で7馬身ちぎった息子と、ニューマーケットでギニーを勝った父が、同じ島で冬を越すことになった。キングズベストは2019年4月16日、疝痛による合併症で世を去っている。22歳だった。 日本で生まれた産駒は、派手ではないが確かな仕事をした。ブライトクォーツは2019年の中山大障害で2着、翌年の中山グランドジャンプで3着。メイショウケイメイは紅梅ステークスを勝ち、地方ではアトミックフォースが盛岡のOROカップを連覇した。そして2016年生まれのディバインフォースが、2021年12月4日、中山の芝3600m——JRAの平地で最も長いステイヤーズステークスを、初コンビの田辺裕信で勝つ。中団後方から長く脚を使い、逃げ粘るアイアンバローズをゴール寸前で半馬身差し切る、ロンシャンのアタマ差を思い出させる勝ち方だった。デビュー戦は8番人気の13着だった馬である。ディバインフォースは2023年3月、繋靭帯炎のため登録を抹消し、乗馬になった。

エプソムの名は、東京にもある

2016年12月、ワークフォースはアイルランドへ売られ、翌年から同国のノックハウススタッドで繋養されることが報じられた。日本での5シーズンを終え、ふたたび海を渡って欧州へ戻ったことになる。 だが残した血は、日本で角度を変えて出てきた。2018年生まれのジャスティンカフェ——父エピファネイア、母の父ワークフォース——は、2023年6月11日、東京競馬場のエプソムカップを大外から差し切り、7度目の重賞挑戦で初めてタイトルを獲った。鞍上は横山和生。そのエプソムカップは、1983年に東京優駿が50回を迎えたのを機に、東京競馬場と英ダービーを開催するエプソム競馬場が姉妹提携を結び、桜と柏を植え、カップを交換した——その縁から生まれたレースである。 エプソムの下り坂で7馬身ちぎった馬の血が、40年前に結ばれた縁の名を持つレースを、東京の直線で勝った。ロンシャンのアタマ差も、安平の冬も、その間にある。走った距離より、旅した距離のほうが、この馬はずっと長い。

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