名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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ホワイトフーガのイメージビジュアル
ホワイトフーガWhite Fugue
White Fugue

ホワイトフーガ

通算成績23戦10勝

獲得賞金29,141万円

生年月日 2012.03.28(平成24年)毛色 芦毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ホワイトフーガの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
11 JpnⅠJBCレディスクラシック 大井 ダ1800 1人気 蛯名正義 1:56.3 上り41.0映像
2 JpnⅡレディスプレリュード 大井 ダ1800 2人気 蛯名正義 1:54.7 上り39.7
4 JpnⅢスパーキングレディー 川崎 ダ1600 1人気 蛯名正義 1:42.9 上り40.0
1 JpnⅡさきたま杯 浦和 ダ1400 3人気 蛯名正義 1:25.7 上り36.4
1 JpnⅢマリーンカップ 船橋 ダ1600 2人気 蛯名正義 1:41.3 上り39.3
9 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 10人気 蛯名正義 1:35.9 上り36.6映像
3 JpnⅢTCK女王盃 大井 ダ1800 1人気 蛯名正義 1:54.2 上り39.0
1 JpnⅠJBCレディスクラシック 川崎 ダ1600 1人気 蛯名正義 1:41.3 上り39.5映像
2 JpnⅡレディスプレリュード 大井 ダ1800 1人気 蛯名正義 1:55.0 上り39.6
1 JpnⅢスパーキングレディー 川崎 ダ1600 1人気 蛯名正義 1:40.5 上り39.5
5 JpnⅡさきたま杯 浦和 ダ1400 4人気 大野拓弥 1:26.8 上り36.3
10 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 5人気 大野拓弥 1:34.9 上り35.6映像
1 JpnⅢTCK女王盃 大井 ダ1800 1人気 大野拓弥 1:53.8 上り37.0
1 JpnⅠJBCレディスクラシック 大井 ダ1800 4人気 大野拓弥 1:51.5 上り38.7映像
3 JpnⅡレディスプレリュード 大井 ダ1800 4人気 大野拓弥 1:50.8 上り37.1
3 JpnⅢブリーダーズゴールドカップ 門別 ダ2000 2人気 大野拓弥 2:09.2 上り39.9
1 JpnⅡ関東オークス 川崎 ダ2100 2人気 大野拓弥 2:18.3 上り40.4
1 OP端午S 京都 ダ1400 8人気 蛯名正義 1:23.3 上り36.7
7 OP伏竜S 中山 ダ1800 8人気 大野拓弥 1:53.9 上り38.7
16 GIIIフラワーカップ 中山 芝1800 6人気 大野拓弥 1:51.3 上り37.1映像
1 3歳500万下 東京 ダ1400 1人気 大野拓弥 1:24.8 上り37.3
2 黒竹賞 中山 ダ1800 2人気 大野拓弥 1:55.0 上り38.3
1 2歳新馬 中山 ダ1800 1人気 大野拓弥 1:55.6 上り38.6

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ホワイトフーガの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
クロフネKurofuneフレンチデピュティFrench DeputyDeputy Minister
Mitterand
ブルーアヴェニューBlue AvenueClassic Go Go
Eliza Blue
マリーンウィナーフジキセキFuji KisekiサンデーサイレンスSunday Silence
ミルレーサーMillracer
ドバイソプラノDubai SopranoZafonic
Ring of Music
STORY

旅程 — この馬の物語

2012年生まれの芦毛の牝馬。父クロフネ、母マリーンウィナー。

初乳のない仔 ― 荻伏の三月

北海道浦河町荻伏、梅田牧場。2012年3月28日に、その芦毛の牝馬は生まれた。 生まれる数日前、母のマリーンウィナーが腸捻転を発症している。母は入院馬房に移され、そこで無事に仔を産んだ。だが開腹手術を受けた直後の母から、仔は初乳をもらうことができなかった。生まれたばかりの仔馬が病に抗う力は、その多くを母の初乳から受け取る。代わりにこの仔は、ドナーホースの血漿を輸血されて免疫を得た。よその馬の血を借りて、最初の数日を越えたことになる。 母マリーンウィナーも、走った馬ではあった。新冠の生まれで、父はフジキセキ。船橋の川島正行厩舎に入り、2008年の5月から8月まで、3歳の夏だけを走っている。船橋、川崎、浦和。5戦して2勝、獲得賞金は243万円。船橋で勝った日の鞍上は、まだ南関東にいた戸崎圭太だった。夏が終わると競走をやめ、繁殖牝馬として荻伏へ移った。 娘の馬主は西森鶴。預けられたのは、美浦の高木登厩舎である。

歌の家系 ― フーガという名

名前は、母系を遡ると読める。 母マリーンウィナーの母は、英国生まれのドバイソプラノ。その母がリングオブミュージック。さらにその母がグロリアスソング——1976年生まれ、1980年のカナダ年度代表馬で、繁殖に上がってからはラーイとシングスピールを産んだ。シングスピールは1996年のジャパンカップを、デットーリを背にハナ差で勝っている。そのグロリアスソングの母が、バラード。 バラード、輝かしい歌、音楽の環、ソプラノ。四代にわたって、この牝系には音楽の名が並んでいる。 母の代でいったん途切れたその連なりが、次の代でフーガという名になって戻ってきた。ひとつの主題をある声が示し、別の声が同じ形で追いかけ、追いついたところで重なっていく——対位法のもっとも厳格な形式である。 白のほうは、毛色である。父はクロフネ。2001年のジャパンカップダートを7馬身差で勝ったアメリカ生まれの芦毛で、娘は父と同じ毛色に出た。 2014年12月6日、中山のダート1800m、2歳新馬。大野拓弥を背に単勝3.7倍の1番人気に応え、2着に1秒2をつけて勝った。追いかける声は、まだどこにも聞こえない。主題だけが、先に置かれた。

二秒三 ― 川崎の独走

明けて2015年。中山の黒竹賞で2着に敗れ、東京の3歳500万下を勝ち上がる。 3月、中山の芝1800m、フラワーカップ。初めての重賞挑戦であり、初めての芝でもあった。16頭立ての16着。勝ったアルビアーノから1秒9離されて最下位に沈み、この一戦を最後に、二度と芝を走らなかった。 4月の伏竜ステークスは7着。5月3日、京都の端午ステークスで鞍上が蛯名正義に替わると、8番人気の低評価をひっくり返して勝った。2着に置いたのは、のちに根岸ステークスを勝つカフジテイクである。 6月10日、川崎のダート2100m、関東オークス。 中団につけた馬体が、一周目のスタンド前で早々に動いた。一コーナーで先頭。あとは独壇場だった。2着ポムフィリアとの差は2秒3。このレースが2100mで行われるようになった1998年以降の最大着差を、この日塗り替えている。それまでの記録は、2008年に8馬身差で勝った白毛のユキチャンが持っていた。白い名を負った芦毛が、白い馬の記録を消したことになる。 大野拓弥は、大跳びの馬に自分のリズムで走らせたかったのだと振り返り、ハナに立ってからは息が入っていたと言った。重賞初制覇だった。

古馬の壁 ― 二〇一五年十一月三日

夏は跳ね返された。8月、門別のブリーダーズゴールドカップはアムールブリエの3着。10月、大井のレディスプレリュードも3着で、前を行ったのはサンビスタだった。3歳の牝馬にとって、古馬の牝馬たちは厚い壁のまま立っていた。 11月3日、大井競馬場。不良馬場のダート1800m、JBCレディスクラシック。初めてのJpnIで、4番人気。 いつもより後ろで、と指示を受けた大野は道中を中団に控え、内の経済コースをロスなく回した。直線、前が一頭ぶんだけ開く。そこをくぐり抜けると、内から鋭く伸びた。2着に置いたのは、前年の覇者サンビスタである。着差は5馬身。 第4回までの勝ち馬はすべて4歳以上だった。3歳での戴冠は、これが最初になる。 高木登は開業9年目だった。前年にスノードラゴンでスプリンターズステークスを勝ってはいたが、あれは芝の1200m。開業以来ダートで数を稼いできた厩舎にとって、砂のGI級タイトルはこの日が最初である。「正直、古馬の壁があると思っていた」[^1]。関東オークスの強さを見てなお、そう思っていたと調教師は明かした。 なお、この日5馬身後ろにいたサンビスタは、一か月後の中京で12番人気のままチャンピオンズカップを勝ち、JRAのダートGIを制した最初の牝馬になる。ホワイトフーガが置き去りにしたのは、そういう馬だった。

出典:スポーツニッポン「【大井・JBCレディスC】ホワイトフーガ豪快差し切りV」2015年11月4日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2015/11/04/kiji/K20151104011442720.html 、閲覧日:2026年7月27日。

五十八キロ ― 連覇の年

2016年は大井のTCK女王盃から始まった。単勝1.2倍に応えて危なげなく勝ち、重賞3勝目。 2月、東京のフェブラリーステークス。重馬場のダート1600mを5番人気で走って10着。勝ったのは同い年のモーニンで、1分34秒0のコースレコードだった。6月、浦和のさきたま杯は牡馬も走るJpnII。56キロを背負って5着に終わり、勝ったソルテの背中を見た。 7月6日、川崎のスパーキングレディーカップ。鞍上に蛯名正義が戻った。端午ステークス以来、一年二か月ぶりのコンビである。斤量は58キロ。好スタートから2番手につけると、有り余る力を抑えきれず、三コーナー手前で早々に先頭へ出てしまった。折り合いを欠いたまま、それでも2馬身。「これだけの斤量を背負って勝つんだから、秋も期待したくなりますね」[^1]。 秋は、その言葉のとおりになった。 9月のレディスプレリュードはタマノブリュネットの2着。そして11月3日、川崎競馬場、JBCレディスクラシック。今度は1番人気に推された。インの3番手から、勝負どころの三コーナーで外へ持ち出し、前の2頭をひとまくり。追いすがってきたのは、前年の桜花賞馬レッツゴードンキである。1馬身半。 ミラクルレジェンド以来、史上2頭目の連覇だった。

出典:デイリースポーツ「【南関東競馬】ホワイトフーガ圧勝 58キロなんの!重賞V4」2016年7月7日配信、https://www.daily.co.jp/horse/2016/07/07/0009259683.shtml 、閲覧日:2026年7月27日。

浦和の四馬身 ― 母の走った競馬場

2017年、5歳。1月のTCK女王盃は58キロを背負って3着。2月のフェブラリーステークスは10番人気で9着。この一戦には二度出て、二度とも掲示板に届いていない。中央のダートGIにだけは、最後まで手が届かなかった。 4月12日、船橋のマリーンカップ。母マリーンウィナーが九年前に走った競馬場だった。58キロで、2着ララベルに0秒6をつけて勝つ。 5月31日、浦和のさきたま杯。牡馬も走るJpnIIで、3番人気。向正面から一気に動いて三コーナーで先頭に立つと、直線で後続を突き放した。4馬身。2着でゴールしたのは、一年三か月前に東京で彼女を10着に沈めたモーニンである。重賞7勝目だった。 母は3歳の夏に船橋・川崎・浦和の三場を走り、二つ勝って競走をやめた。その三つの競馬場すべてで、娘は重賞を勝ったことになる。

三連覇の懸かった日 ― 二〇一七年十一月三日

7月のスパーキングレディーカップは、58キロで4着。勝ったのは3歳のアンジュデジールだった。10月のレディスプレリュードは2着で、クイーンマンボから1秒6離されている。 それでも11月3日、大井競馬場に戻ってきたとき、単勝は1.8倍だった。三年続けて、同じ日、同じレースである。 武豊のプリンシアコメータが先手を取り、ララベルがそれを見ながら3番手。その直後にホワイトフーガがいた。四コーナー、ララベルがプリンシアコメータに並びかけて直線へ向く——その隣で、手応えが怪しくなっていた。伸びない。前の2頭が叩き合うあいだに、砂の女王は後ろへ下がっていった。11着。勝ったララベルから2秒1。 五日後の11月8日、競走馬登録が抹消された。 23戦10勝。中央は8戦3勝で3664万円、地方は15戦7勝で2億5477万5000円。重賞7勝のうち、二つがJpnIである。 手綱を取ったのは、二人だけだった。大野拓弥が12回、蛯名正義が11回。10勝の内訳は、5勝と5勝である。

荻伏へ帰る ― 続いている歌

帰り先は、生まれた梅田牧場だった。 高木登の厩舎はそのあと大きくなる。2023年にはウシュバテソーロでドバイワールドカップを勝ち、日本のダート路線の一角を占める厩舎になった。だが砂の頂を最初に見せたのは、この芦毛の牝馬である。そしてその厩舎は、彼女の仔を預かった。初仔チャプリ——2019年生まれの栗毛、父ヘニーヒューズ——は美浦の高木厩舎からデビューし、のちに船橋へ移った。パッヘルベルカノンも、ガイストゼーゲンも、同じ厩舎に預けられた。 名前は、まだ音楽から離れていない。パッヘルベルカノンのカノンは、フーガと同じく、ひとつの旋律を別の声が追いかける形式である。半妹たちにはペイシャバラード、オーヴェルトゥーレ。2024年に生まれた牡馬テムスキーは、母と同じ芦毛に出た。 そして2026年7月、福島の七夕賞を勝ったアスクナイスショーは、この馬のいとこにあたる。母ケンブリッジヒカリは、ドバイソプラノの娘——マリーンウィナーの半妹である。大井で女王が退いてから九年近く、同じ牝系の歌は、どこかで鳴り続けていた。 生まれてすぐの数日を、よその馬の血を借りて越えた仔は、荻伏で母になった。

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