名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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ヴィブロスのイメージビジュアル
ヴィブロスVivlos
Vivlos

ヴィブロス

通算成績17戦4勝

獲得賞金95,374万円

生年月日 2013.04.09(平成25年)毛色 青毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ヴィブロスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
2 GIドバイターフ メイダン 芝1800 4人気 M.バルザローナ 映像
2 GI香港マイル シャティン 芝1600 4人気 W.ビュイック 1:33.9 映像
8 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 7人気 福永祐一 1:57.7 上り34.7映像
4 GI宝塚記念 阪神 芝2200 3人気 福永祐一 2:12.1 上り36.0映像
2 GIドバイターフ メイダン 芝1800 4人気 C.デムーロ 映像
8 GII中山記念 中山 芝1800 3人気 内田博幸 1:48.1 上り34.9映像
5 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 1人気 C.ルメール 2:14.6 上り34.3映像
2 GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 1人気 C.ルメール 1:48.1 上り33.2映像
1 GIドバイターフ メイダン 芝1800 5人気 J.モレイラ 1:50.2 映像
5 GII中山記念 中山 芝1800 4人気 内田博幸 1:47.9 上り34.4映像
1 GI秋華賞 京都 芝2000 3人気 福永祐一 1:58.6 上り33.4映像
2 GIII紫苑S 中山 芝2000 3人気 福永祐一 2:00.1 上り35.5
1 3歳以上500万下 中京 芝2000 3人気 福永祐一 2:00.5 上り34.4
12 GIIIフラワーカップ 中山 芝1800 10人気 内田博幸 1:50.1 上り35.4映像
12 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 8人気 内田博幸 1:33.7 上り34.8映像
1 2歳未勝利 京都 芝1800 1人気 M.デムーロ 1:48.8 上り34.2
2 2歳新馬 京都 芝1600 1人気 C.デムーロ 1:35.6 上り35.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ヴィブロスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
ハルーワスウィートMachiavellianMr. Prospector
Coup de Folie
ハルーワソングHalwa SongNureyev
Morn of Song
STORY

旅程 — この馬の物語

2013年生まれの青毛の牝馬。父ディープインパクト、母ハルーワスウィート。主な勝ち鞍は秋華賞・ドバイターフ。

ヴの一族 ― 名前と血

青毛は珍しい。父ディープインパクトの子に黒鹿毛はいても、墨を流したような青毛は数えるほどしかいない。2013年4月9日、ノーザンファームに生まれたその牝馬は、父ディープインパクト、母ハルーワスウィート。馬主は、かつて打席の打者を黙らせた抑えの名手――「大魔神」佐々木主浩だった。彼の持ち馬には「ヴ」で始まる名が連なる。ヴィルシーナ、そしてヴィブロス。姉妹はどちらも「ヴ」を戴いていた。 ヴィブロスの名は、ギリシャ・ナクソス島にある小さな村の名から採られている。母ハルーワスウィートが伝えた血は、競馬史に名を刻む一族のものだった。全姉は、ヴィクトリアマイルを連覇したヴィルシーナ。半兄は、のちにジャパンカップを制すシュヴァルグラン。三頭はいずれも、栗東の友道康夫が預かっていた。名牝系の末娘は、姉と兄の影を背に走り出す。

春の二つの大敗

才の片鱗は、すぐには見えなかった。 3歳の春、ヴィブロスは二度続けて大敗している。チューリップ賞は8番人気で12着、フラワーカップも10番人気で12着。桜の季節、同世代の牝馬たちが番組表を駆け上がっていく傍らで、この馬は二桁着順に沈んでいた。手綱は内田博幸。掲示板にすら、名は載らなかった。 転機は夏に訪れる。福永祐一を背に、中京の500万下を差し切ると、続く紫苑ステークスで2着。ようやく相手なりに走る馬になっていた。秋華賞の切符を、上位人気の一角として滑り込みで手にする。前評判の中心にはいなかったが、福永の手が、この牝馬の眠っていた芯を、少しずつ引き出しつつあった。

姉の無念を継いで ― 秋華賞

京都、芝2000m。この一族には、淀の秋に置き忘れた忘れ物があった。 四年前、全姉ヴィルシーナはここで涙を呑んでいる。2012年、桜花賞・オークス・秋華賞――三歳牝馬の三冠路線をすべて2着で駆け抜け、最後の秋華賞はジェンティルドンナにハナ差届かなかった。先行して粘る競馬で、あと一歩が、何度も遠かった。同じ厩舎の友道康夫は、その悔しさを誰よりも知っていた。 妹は、姉とは違う武器を持っていた。3番人気。中団に控え、直線で外へ持ち出す。上がり3ハロン33秒4の鋭い脚が、瞬時に前を呑み込んだ。半馬身差し切って、ヴィブロスがゴールを駆け抜ける。姉が先行で2着を続けた同じレースを、妹は差しで勝ち切った。一族にとって初めての、淀の戴冠だった。 「お姉さんのヴィルシーナは……あの時も勝ったと思ったんですが、悔しい思いをしました」[^1]。友道は、四年越しの忘れ物をようやく取り戻したことを、そう噛みしめた。

出典:スポーツナビ「姉を超える差し一撃! ヴィブロス戴冠 冴えた福永の手綱『思い描いた競馬』」2016年10月16日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201610160003-spnavi、閲覧日:2026年6月27日。

メイダンの直線 ― 世界へ

GIをひとつ勝った牝馬が、次に向かったのは砂漠だった。 2017年3月、ドバイ・メイダン競馬場。芝1800mのドバイターフに、ヴィブロスは5番人気で立っていた。鞍上は、香港の魔術師ジョアン・モレイラ。スタートして馬群の後方、内ラチ沿いにじっと脚を溜める。直線、最内から徐々に外へ持ち出すと、残り200mでようやく5番手。前ではエシェムがリブチェスターを交わして抜け出していた。 だが、脚色が違った。残り100mで前の二頭をまとめて射程に入れ、ラスト50mで先頭。1分50秒20。日本の牝馬が、世界のマイル戦線の一角を、外から鋭く差し切った。海外GI初制覇。秋華賞に続く、二つ目の大きな勲章だった。 この年、一族は実りの秋を迎える。半兄シュヴァルグランが、暮れの東京でジャパンカップを制したのだ。妹はドバイ、兄は府中。友道厩舎のハルーワ一族が、同じ一年で世界と日本の頂に立った。ヴィブロスは2017年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬に選ばれる。国内では未勝利のままの受賞は、海を渡って掴んだ栄誉の重さを、かえって際立たせていた。

勝てない国、戦える世界

皮肉な巡り合わせの馬だった。日本で、ヴィブロスはもう勝てなかった。 2017年秋、1番人気で迎えたエリザベス女王杯は5着、府中牝馬ステークスは2着。明けて2018年は、中山記念8着、再びのドバイターフは2着、宝塚記念4着、天皇賞・秋8着、そして暮れの香港マイル2着。古馬の牡馬混合でも、牝馬の頂でも、あと半歩が届かない。国内のGIは、秋華賞の一勝で止まったままだった。 それでも、海を渡れば話は変わった。シャティンの直線では、ビューティージェネレーションという香港の怪物の影を、最後まで追い続けた。勝ち切れずとも、世界の一線でなら、この牝馬はいつも勝負になった。国内では届かず、国外では迫る。ヴィブロスの旅は、いつしか「二着の旅」の色を帯びていく。だがその二着は、世界の強豪のすぐ後ろという二着だった。

最後の一戦 ― 女王の背中

最後の舞台も、やはりメイダンだった。 2019年3月、ヴィブロスは三たびドバイターフのゲートに入る。6歳。二年前にここで勝った同じ直線を、もう一度駆けた。そして2着。前を行ったのは、日本から来たもう一頭の牝馬――アーモンドアイ。前年に桜花賞からジャパンカップまで駆け上がった、新しい女王だった。ヴィブロスは、その背中を追ってゴールした。 これが現役最後の一戦になった。2019年4月10日、競走馬登録を抹消。17戦4勝。国内GI一勝、海外GI一勝、そして海外GIで三つの二着。派手な無敗街道ではない。勝てなかったレースの方が、ずっと多い。けれど、姉の無念を淀で晴らし、砂漠で世界を差し切り、最後は新しい女王のすぐ後ろでレースを終えた牝馬を、矮小に語る言葉はない。 ノーザンファームへ帰り、ヴィブロスは繁殖牝馬となった。ヴィルシーナシュヴァルグラン、ヴィブロス――姉と兄と、淀の忘れ物を取り戻した妹。ハルーワの血は、次の世代へと、旅を続けていく。

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