名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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ヴェイルネビュラのイメージビジュアル
ヴェイルネビュラVeil Nebula
Veil Nebula

ヴェイルネビュラ

通算成績23戦5勝

獲得賞金13,041万円

生年月日 2018.02.18(平成30年)毛色 鹿毛セン

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ヴェイルネビュラの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
1 阪神スプリングJ 阪神 障3900 4人気 五十嵐雄祐 4:31.7 上り13.9
5 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 6人気 大江原圭 4:44.6 上り13.9映像
4 OP秋陽ジャンプS 東京 障3110 1人気 草野太郎 3:32.8 上り13.7
3 東京ジャンプS 東京 障3110 5人気 五十嵐雄祐 3:27.5 上り13.3映像
1 障害4歳以上OP 福島 障2750 1人気 小野寺祐太 2:57.2 上り12.9
2 障害4歳以上OP 小倉 障2860 3人気 草野太郎 3:08.0 上り13.1
1 障害3歳以上未勝利 福島 障2750 4人気 草野太郎 3:03.4 上り13.3
10 鶴ヶ城S 福島 ダ1700 10人気 田辺裕信 1:45.6 上り37.6
12 BSイレブン賞 東京 ダ1400 13人気 岩田康誠 1:23.8 上り36.0
10 韓国馬事会杯 中山 ダ1800 8人気 横山武史 1:51.4 上り38.0
12 初富士S 中山 芝2000 10人気 石橋脩 2:02.0 上り36.2
6 寿S 中京 芝2000 9人気 和田竜二 2:00.8 上り34.5
10 レインボーS 中山 芝1800 9人気 横山武史 1:51.1 上り35.7
4 初富士S 中山 芝2000 2人気 横山武史 2:01.6 上り35.3
4 常総S 中山 芝1800 2人気 横山武史 1:48.7 上り34.0
4 ウェルカムS 東京 芝2000 13人気 和田竜二 1:59.4 上り34.6
7 関ケ原S 中京 芝2000 9人気 和田竜二 2:00.3 上り34.1
10 GIIIラジオNIKKEI賞 福島 芝1800 12人気 田辺裕信 1:49.0 上り35.3映像
11 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 13人気 戸崎圭太 1:32.9 上り34.8映像
5 GIIフジTVスプリングS 中山 芝1800 5人気 戸崎圭太 1:52.6 上り36.8映像
1 Lジュニアカップ 中山 芝1600 1人気 戸崎圭太 1:36.0 上り34.9
5 百日草特別 東京 芝2000 1人気 C.ルメール 2:02.9 上り33.9
1 2歳新馬 新潟 芝1800 1人気 福永祐一 1:49.0 上り35.1

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ヴェイルネビュラの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ロードカナロアLord KanaloaキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
レディブラッサムStorm Cat
サラトガデューSaratoga Dew
リングネブラハーツクライHeart's CryサンデーサイレンスSunday Silence
アイリッシュダンス
ユーアンミーUanmeMarquetry
Archimillionnaire
STORY

旅程 — この馬の物語

2018年生まれの鹿毛のせん馬。父ロードカナロア、母リングネブラ。

星の名を継いで ― 名前と血

母の名は、こと座に浮かぶ惑星状星雲リング星雲に由来する。リングネブラ。その黒鹿毛の牝馬が2018年2月18日にノーザンファームで産んだ鹿毛には、はくちょう座の網状星雲の名が与えられた。ヴェイルネビュラ。網状星雲は、はるか昔に砕け散った超新星が残した、淡く光る残骸である。星が終わったあとにこそ現れる光——その名は、この馬の生涯を静かに先取りしていたのかもしれない。 父はロードカナロア。安田記念とスプリンターズステークスを連覇した短距離王で、のちにアーモンドアイをはじめ芝の一線級を送り出す名種牡馬である。母父はハーツクライ。瞬発力と底力を重ねた血で、馬主は吉田勝己、預けられたのは美浦の大竹正博厩舎だった。半弟には、スレイプニルステークスを勝ったメイプルリッジがいる。血の格は、疑いようがなかった。 だが短距離王を父に持ちながら、この馬がやがて辿り着くのは、芝1600mでも2400mでもなかった。3900mの障害という、まったく別の空である。それを馬自身も、まわりの誰も、まだ知らない。

点らなかった星 ― 平地の日々

2020年8月16日、新潟の芝1800m。デビュー戦は福永祐一を背に、1番人気に応えて危なげなく勝ち上がった。良血の門出にふさわしい一勝だった。 続く百日草特別ではクリストフ・ルメールが手綱を取り、明けて2021年1月、戸崎圭太とのジュニアカップを制してオープンの扉を開く。デビューからわずか3戦目のオープン入り。集まる人気も、跨る名手たちの顔ぶれも、この馬に約束された未来の大きさを物語っていた。 だが、その先で星は点らなかった。フジテレビ賞スプリングステークスは5着、NHKマイルカップは11着、ラジオNIKKEI賞は10着。距離を変え、舞台を変えても、勝ち鞍は遠いままだった。良血に寄せられる期待は途切れなかったが、平地のヴェイルネビュラは、ついに二つ目の勝ち星から先へ進めなかった。

血ではなく、記録を ― 去勢という分岐

2022年9月、レインボーステークス10着。低迷の続いたこの馬に、陣営は去勢という決断を下した。気性を鎮め、走ることに集中させるための、珍しくない選択である。 セン馬になるということは、どれほど走ろうと血を後世へ残す道が閉ざされる、ということでもある。競馬という営みのなかで、この馬がこれから残せるのは、血ではなく、走った記録だけになった。父ロードカナロアの血を継ぐ種牡馬の未来は、ここで消えた。 だが、失うことと生まれ変わることは、しばしば同じ入口を持つ。去勢を経てもなお平地では浮上できず、2023年7月の鶴ヶ城ステークス10着を最後に、ヴェイルネビュラは芝とダートの世界に別れを告げる。次に踏み込んだのは、生垣と竹柵の待つ障害コースだった。

障害という第二の空 ― 飛越に見つけた光

2023年11月、福島の障害未勝利戦。草野太郎を背にしたヴェイルネビュラは、平地では二年近く忘れていた勝利の味を、飛越の世界で取り戻した。生垣を跳び、竹柵を越えていくその走りには、芝の上では見せなかった落ち着きがあった。 翌2024年、福島の障害オープンを完勝し、初夏の東京ジャンプステークスで3着に走る。このとき初めて手綱を取ったのが、障害の名手・五十嵐雄祐だった。勝ったのは、のちにこのレースを何度も制するジューンベロシティ。ヴェイルネビュラは、まだその背中を追う側にいた。 秋を経て、暮れには障害の最高峰・中山大障害へ駒を進める。大江原圭を背に5着。頂には届かなかったが、平地で長く沈んでいた良血馬は、障害という第二の空で、確かに浮かび上がりつつあった。

アタマ差の完全制覇 ― 二〇二五年阪神スプリングジャンプ

2025年3月15日、阪神スプリングジャンプ。障害3900mのJ・GII。7歳になったヴェイルネビュラは、4番人気の伏兵として5枠5番のゲートに入った。鞍上は、前年の東京ジャンプステークスから再び手綱を託された五十嵐雄祐。 スタートで後手を踏み、序盤は後方に置かれた。距離の長い一戦、五十嵐は折り合いに専念し、行きたがる馬をなだめて脚をためる。中盤で2番手まで押し上げると、最後の直線、前で粘るのは1番人気ジューンベロシティ——かつて東京ジャンプステークスでこの馬の前を走り去った、あの相手だった。障害の重賞をいくつも勝ってきた実力馬との、一完歩ずつの叩き合い。ゴール前、ヴェイルネビュラがアタマだけ前に出る。勝ち時計4分31秒7。重賞初制覇だった。 この勝利は、鞍上にも一つの頂をもたらした。五十嵐雄祐は阪神スプリングジャンプを初めて勝ち、小倉で障害重賞が行われるようになった1999年以降で、4人目となる障害重賞全6場制覇を達成する。最後まで勝てずに残っていた一場が、この阪神だった。「あと阪神がなかなか勝てなかったので、勝ててよかったです」[^1]。点らなかった星の背で、名手は自らの円環を閉じた。

出典:中日スポーツ「4番人気ヴェイルネビュラ重賞初制覇、五十嵐は4人目の障害重賞全6場制覇を達成」2025年3月15日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/1038713 、閲覧日:2026年7月21日。

網状星雲 ― 走り終えて

最後の勝利から間もない2025年4月26日、ヴェイルネビュラは競走馬登録を抹消された。23戦を走り抜いて、5勝。掴んだ重賞は、この阪神スプリングジャンプただ一つ——それが、旅の頂だった。 セン馬は血を残せない。だが、この馬が残したものははっきりしている。良血を背負って点らなかった平地の日々と、飛越の空で掴んだアタマ差の勝利。星が砕けたあとに現れる網状星雲のように、ヴェイルネビュラの光は、最初の星が消えたその先にあった。短距離王を父に持つ鹿毛が、3900mの障害を勝ち切って旅を終えたのは、血統表の予言をやわらかく裏切る結末だった。 競走の役目を終えた馬は、乗馬として第二の馬生を歩み出す。人を背に、これまでとは違う速さで、違う空を。淡く、長く光り続ける星雲の名を負ったまま。

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