名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

名馬録
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タワーオブロンドンのイメージビジュアル
タワーオブロンドンTower of London
Tower of London

タワーオブロンドン

通算成績18戦7勝

獲得賞金4755万円

生年月日 2015.02.09(平成27年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
タワーオブロンドンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
13 GI香港スプリント シャティン 芝1200 5人気 W.ビュイック 映像
8 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 1人気 C.ルメール 1:20.4 上り33.3映像
12 GI高松宮記念 中京 芝1200 1人気 福永祐一 1:09.8 上り34.5映像
3 GIII夕刊フジオーシャンS 中山 芝1200 2人気 C.ルメール 1:08.1 上り34.4映像
1 GIスプリンターズS 中山 芝1200 2人気 C.ルメール 1:07.1 上り33.5映像
1 GII産経賞セントウルS 阪神 芝1200 1人気 C.ルメール 1:06.7 上り33.2映像
2 GIIIキーンランドカップ 札幌 芝1200 2人気 C.ルメール 1:09.3 上り34.9映像
3 GIII函館スプリントS 函館 芝1200 1人気 D.レーン 1:08.6 上り33.5映像
1 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 1人気 D.レーン 1:19.4 上り33.1映像
5 GIII東京新聞杯 東京 芝1600 2人気 C.ルメール 1:32.3 上り34.2映像
2 OPキャピタルS 東京 芝1600 2人気 W.ビュイック 1:32.6 上り32.4
12 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 1人気 C.ルメール 1:33.8 上り35.1映像
1 GIIIアーリントンC 阪神 芝1600 1人気 C.ルメール 1:33.4 上り34.2
3 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 2人気 C.ルメール 1:33.9 上り34.0映像
1 GII京王杯2歳S 東京 芝1400 1人気 C.ルメール 1:21.9 上り33.2映像
1 OPききょうS 阪神 芝1400 1人気 C.ルメール 1:21.7 上り35.2
2 OPクローバー賞 札幌 芝1500 1人気 C.ルメール 1:30.9 上り35.6
1 2歳新馬 札幌 芝1500 2人気 C.ルメール 1:30.4 上り35.3

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
タワーオブロンドンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
Raven's PassElusive QualityGone West
Touch of Greatness
AscutneyLord at War
Right Word
スノーパインSnow PineDalakhaniDarshaan
Daltawa
シンコウエルメスSadler's Wells
Doff the Derby

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2015年生まれの鹿毛の牡馬。父Raven's Pass、母スノーパイン。主な勝ち鞍はスプリンターズS・京王杯2歳S・アーリントンC。

助けてほしい ― 一九九六年、シンコウエルメス

1996年4月28日、東京の芝1600メートル。既に走った馬たちを相手にした未勝利戦で、一頭の鹿毛の牝馬が1番人気に推され、岡部幸雄を背に5着で走り終えた。名はシンコウエルメス。父サドラーズウェルズ、母ドフザダービー。半兄には1991年の英ダービー・愛ダービー・キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制したジェネラス、全妹には2001年の英オークスと愛1000ギニーを勝つイマジンがいる。血の格でいえば、負けるほうが不思議な一頭だった。 次走を前にした追い切りで、彼女は脚を折る。獣医師が一目見て、予後不良――そこで終わらせるのもやむなし、と判断するほどの重い骨折だった。管理していたのは美浦の藤沢和雄である。藤沢は、なんとか助けてほしいと獣医師に食い下がった。手術は行われ、成功した。厩舎総出の介護を経て、三か月後に完治する。 競走馬としてのシンコウエルメスは、その一戦きりで終わった。だが繁殖に上がった彼女は、初仔エルメスティアラを産む。エルメスティアラは一度も競馬場に出ないまま繁殖に入り、その仔が2016年の皐月賞馬ディーマジェスティになった。二番仔エルノヴァはエリザベス女王杯で3着に入っている。2001年からはアイルランドへ渡り、2010年、凱旋門賞馬ダラカニとの間に芦毛の牝馬を産んだ。スノーパイン。フランスのファーブル厩舎から走り、2勝を挙げた馬である。 折れた脚を惜しんだ人がいたから残った命は、そこから静かに枝を伸ばしていった。

海を渡ってきた腹 ― 二〇一五年二月九日

繁殖牝馬になったスノーパインは、レイヴンズパスの仔を宿した状態で日本へ運ばれた。2015年2月9日、北海道沙流郡日高町のダーレー・ジャパン・ファームで、その仔が生まれる。母にとって初めての仔だった。役目を終えた母は、翌年アイルランドへ帰っていく。 当歳のころはやや小柄だったが、離乳を境に一気に伸びた。1歳の秋、中間育成に進むころには、同じ牧場の同世代のなかで馬格も幅も筋肉量も飛び抜けていたという。 名は、タワーオブロンドン。由来はロンドン塔である。テムズ川のほとりに建つ王宮であり、城塞であり、処刑場でもあった建物。そこには古くからワタリガラス――英語でレイヴン――が飼われていて、鴉がいなくなればロンドン塔は崩れ英国は滅びるという言い伝えとともに、数を絶やさぬよう守られてきた。父の名はレイヴンズパス。塔と鴉は、この馬の名のなかで最初から一組になっていた。 馬主はH.H.シェイク・モハメド、のちにゴドルフィン。そして預けられた先は、美浦の藤沢和雄厩舎だった。十九年前、この馬の祖母の命を獣医師に頼み込んで繋いだ、その人のところである。

次のロードカナロア ― 二〇一七年、二歳

2017年7月29日、札幌の芝1500メートル。デビュー戦の鞍上はクリストフ・ルメール。追い切りが仕上がり途上だったため2番人気に留まったが、逃げて2馬身半差で押し切った。 二戦目のクローバー賞は、いったん先頭に立ちながらダブルシャープに差し返されて2着。距離を100メートル詰めた9月のききょうステークスでは、ステッキを一発も使わずに後続を突き放した。ルメールはこの馬を、いずれロードカナロアのような短距離の王になる馬だと評している。二歳の秋に置かれた、ひとつの見立てだった。 11月4日、東京の京王杯2歳ステークス。1番人気。中団から上がり3ハロン33秒2で突き抜け、2着カシアスに2馬身をつけた。1分21秒9。馬体重516キロ、二歳にしてすでに大きな馬だった。重賞初制覇である。 12月の朝日杯フューチュリティステークスは、ダノンプレミアムに次ぐ2番人気。直線で内を突いて追い上げたが、ダノンプレミアムには突き放され、外からステルヴィオにも交わされて3着に終わった。レース後、ルメールはもう少し短い距離のほうがよさそうだと言い残している。二つ目の見立ても、やはり距離のことだった。

一六〇〇の壁 ― 二〇一八年

三歳になったこの馬に、陣営はマイルを課した。 4月14日、阪神のアーリントンカップ。マイルの勝ち鞍がないまま1番人気に推され、中団の後ろから直線鋭く伸びて重賞2勝目。勝ち時計1分33秒4はレースレコードだった。半馬身差の2着はパクスアメリカーナ、4着に岩田康誠のインディチャンプ、5着に北村友一のダノンスマッシュ。のちにGIを勝つことになるこの二頭は、この日は後ろにいた。 5月6日、NHKマイルカップ。1番人気。だがスタートで躓き、直線では馬群に包まれて、持ち味の決め手をほとんど繰り出せないまま12着に沈む。勝ったのはケイアイノーテックだった。この一戦で、計画されていたイギリス・ロイヤルアスコット開催への遠征は白紙になる。続く安田記念も、レース四日前に体調を考慮して回避が発表された。 秋の復帰戦は11月のキャピタルステークス。短期免許で来日していたゴドルフィンの主戦、ウィリアム・ビュイックを鞍上に、後方から上がり32秒4で追い込んで2着。脚は確かに戻っていた。ただ、その脚がいちばん効く舞台がどこなのかは、まだ決まっていなかった。

一二〇〇へ ― 二〇一九年、夏の三戦

四歳の始動戦、2月の東京新聞杯はルメールに戻って2番人気。馬体が10キロ増えていた影響もあって末脚が不発に終わり、5着だった。 5月11日、東京の京王杯スプリングカップ。手綱を取ったのは、短期免許で来日していたオーストラリアの若手ダミアン・レーン。道中は折り合いに専念し、直線で鋭く伸びて1分19秒4のコースレコード。重賞3勝目である。レーンにとっては来日三週目にして二つ目の重賞だった。 そして陣営は、ついに1200メートルへ舵を切る。 6月16日、函館スプリントステークス。この馬にとって初めての1200メートル戦だった。厩舎で使われていたカルシウム剤に禁止薬物が混入していた問題で、登録13頭のうち6頭が競走除外となり、七頭立ての小頭数になっている。58キロを背負ってメンバー最速の上がり33秒5を使ったが、逃げたカイザーメランジェを捉えきれず、アスターペガサスにもクビ差及ばず3着。 8月25日、キーンランドカップ。ここも58キロ。十二番手から外を回して伸びたものの、ダノンスマッシュに4分の3馬身届かず2着。3着リナーテとはハナ差だった。 中1週で臨んだ9月8日、阪神のセントウルステークス。当年の高松宮記念を勝ったミスターメロディを抑えて1番人気。中団から直線残り400メートルで弾け、2着ファンタジストに3馬身をつけた。1分6秒7のレコード。三戦を費やして、この馬はようやく自分の距離に辿り着いた。

中山、半馬身 ― 二〇一九年九月二十九日

スプリンターズステークスの鞍上は、一度決まりかけていた。主戦のルメールが同じ藤沢厩舎の桜花賞馬グランアレグリアに騎乗する予定で、この馬には浜中俊との初コンビが組まれていたのである。ところがグランアレグリアが左前脚の蹄の炎症で回避を決め、ルメールが残った。 中山の芝1200メートル、16頭立て。1番人気はダノンスマッシュ、この馬は僅差の2番人気だった。 ゲートが開くと、モズスーパーフレアが飛ばす。11秒9―10秒1―10秒8、前半3ハロン32秒8の流れである。タワーオブロンドンは十一番手。最大の敵と見ていたダノンスマッシュを右前方に置く位置で我慢し、4コーナーではその外へ被せながら八番手まで押し上げた。 直線。514キロの馬体が一完歩ずつ前との差を詰め、内ラチ沿いで粘るモズスーパーフレアを半馬身かわす。遅れてスパートに入ったダノンスマッシュは3着に封じた。1分7秒1、上がり33秒5。 「馬場が速いので後ろからでは心配だったけれど、直線はずっと伸びてくれたね」[^1] 二歳の秋にルメールが置いた見立ては、マイルでの長い回り道を挟んで、そのままの形で証明された。ルメールにとってはスプリンターズステークス初制覇。藤沢和雄にとっては、1997年のタイキシャトル以来、二度目のこのタイトルだった。

出典:日本中央競馬会「2019年 スプリンターズステークス」、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/sprint/result/sprint2019.html 、閲覧日:2026年7月25日。

裸馬の口取り ― 繋がれた命が勝った日

口取り式で、この馬は馬服を着ていなかった。優勝馬に着せるのが習いだが、藤沢は今日は思った以上に暑いから、と言って着せなかった。 レース後、シンコウエルメスの血でGIを勝てましたね、と声をかけられた藤沢は、自分の手柄ではないという言い方で答えている。 「うん。JRAの獣医さんに感謝だね。彼等が頑張ってくれた事が今回のG1勝ちにつながったよね」[^1] 二十三年前、東京で一度だけ走り、追い切りで脚を折り、本来ならそこで終わっていたはずの牝馬。その孫が、秋のスプリント王になった。ルメールはその経緯を初めて聞いたと言い、それでも藤沢先生なら驚くようなことではない、あの人は本当に馬に愛情を持っているから、と続けたという。

出典:平松さとし「生まれて来なかったはずの馬でG1を優勝した藤沢和雄調教師。同馬の今後に懸ける期待とは……」Yahoo!ニュース エキスパート、2019年10月1日配信、https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a264e36d53f6f35ac37234c9c703e0695a8241a1 、閲覧日:2026年7月25日。

頂からの一年 ― 二〇二〇年

五歳の始動戦、3月のオーシャンステークス。58キロを背負って2番人気。後方から直線で六番手まで押し上げたが、勝ったダノンスマッシュには離され、2着ナックビーナスからも3馬身差の3着に終わる。ルメールは斤量差と休み明けを敗因に挙げた。 三週間後の高松宮記念は、鞍上が二度替わっている。ルメールが当日ドバイで騎乗する予定だったため、短期免許で来日していたライル・ヒューイットソンを迎えることが決まっていたが、同じくドバイへ向かうはずだった福永祐一が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて渡航を取りやめ、最終的に福永が乗ることになった。 無観客での開催だった。中京の芝は重。春秋スプリント制覇を期待されて1番人気に推されたが、結果は12着。福永は、4コーナーまでは抜群の手応えで満を持して追い出したものの、後肢が流れて手応えほど伸びなかった、と振り返っている。この日は先頭でゴールしたクリノガウディーが4着に降着し、モズスーパーフレアが繰り上がって優勝した。2着は、半年前のスプリンターズステークスでルメールが騎乗する予定だったグランアレグリアである。 5月の京王杯スプリングカップは連覇を狙って1番人気に支持されたが8着。勝ったのはダノンスマッシュだった。 休養を挟み、12月13日、シャティン競馬場。ウィリアム・ビュイックを背に香港スプリントへ向かったが、13着。勝ち馬から10馬身以上離された。藤沢は、道中は良い感じになるかと思って見ていたけれど久々の競馬でもあって馬が諦めているように見えた、強い競馬をお見せできるはずだったのだが、と語り、今後はオーナーと相談して決めたいと結んでいる。勝ったのはダノンスマッシュだった。三歳の春から幾度も先着し、先着された相手が、最後の直線の先にいた。 12月24日、競走馬登録抹消。18戦7勝、獲得賞金4億755万円。

塔を継ぐ者 ― 日高の丘から

種牡馬としての繋養先は、生まれた町と同じ日高町だった。ダーレー・ジャパン・スタリオン・コンプレックス。初年度となる2021年の種付料は150万円である。 2024年5月30日、船橋の2歳新馬をパンクビートが勝ち、産駒に最初の勝ち星がついた。 同じ年の11月2日、東京。パンジャタワーという牡馬が、中団から大外に持ち出して京王杯2歳ステークスを勝つ。産駒のJRA重賞初制覇であり、それは七年前に父が重賞初制覇を挙げたのと同じレースだった。 翌年5月11日、東京の芝1600メートル、NHKマイルカップ。9番人気。松山弘平を背に中団を追走したパンジャタワーは、直線で外から一気に突き抜け、武豊のマジックサンズをアタマ差で退けた。父が1番人気に推されながら12着に敗れた、あのレースである。JRAの公式回顧は、この勝利が父タワーオブロンドンの無念を晴らしたものだと書いた。 8月24日には札幌のキーンランドカップも勝っている。父が58キロを背負って4分の3馬身届かなかった舞台である。2026年には、フェリチタが函館2歳ステークスを制した。 藤沢和雄は2022年2月末、定年で調教師を退いている。JRA通算1570勝。同じ年の6月、調教師として顕彰者に選ばれた。 1996年の春、東京で一度だけ走った牝馬は、次を目指す追い切りで脚を折った。その脚を惜しんだ人がいて、繋いだ獣医師がいて、血は海を二度渡り、日高の丘で塔の名を与えられた。ロンドン塔の鴉は、いなくなれば王国が滅びるのだという。この血の鴉は、まだ塔を離れていない。

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