名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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トーセンラーのイメージビジュアル
トーセンラーTosen Ra
Tosen Ra

トーセンラー

通算成績25戦4勝

獲得賞金46,097万円

生年月日 2008.04.21(平成20年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
トーセンラーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
8 GI有馬記念 中山 芝2500 8人気 武豊 2:35.7 上り34.4映像
4 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 2人気 武豊 1:31.8 上り34.1映像
3 GII京都大賞典 京都 芝2400 1人気 武豊 2:24.5 上り33.6
14 GI安田記念 東京 芝1600 8人気 武豊 1:38.7 上り39.3映像
2 GII京都記念 京都 芝2200 2人気 武豊 2:16.1 上り34.0
1 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 2人気 武豊 1:32.4 上り33.3映像
3 GII京都大賞典 京都 芝2400 2人気 幸英明 2:23.2 上り34.6
5 GI宝塚記念 阪神 芝2200 4人気 武豊 2:14.2 上り36.1映像
2 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 3人気 武豊 3:14.4 上り36.4映像
1 GII京都記念 京都 芝2200 6人気 武豊 2:12.5 上り34.1
7 GIII新潟記念 新潟 芝2000 1人気 蛯名正義 1:57.8 上り32.6
2 GIII小倉記念 小倉 芝2000 1人気 川田将雅 1:57.7 上り34.8
2 GIII七夕賞 福島 芝2000 1人気 岩田康誠 2:01.1 上り35.5
3 GIII鳴尾記念 阪神 芝2000 5人気 岩田康誠 2:00.5 上り33.4
11 GIII新潟大賞典 新潟 芝2000 3人気 浜中俊 1:59.7 上り36.2
10 GII日経賞 中山 芝2500 4人気 内田博幸 2:39.1 上り36.8
4 GII京都記念 京都 芝2200 4人気 C.デムーロ 2:13.0 上り35.3
3 GI菊花賞 京都 芝3000 3人気 蛯名正義 3:03.5 上り35.2映像
2 GIIセントライト記念 中山 芝2200 3人気 蛯名正義 2:10.5 上り34.1
11 GI東京優駿 東京 芝2400 7人気 蛯名正義 2:33.0 上り38.1映像
7 GI皐月賞 東京 芝2000 5人気 蛯名正義 2:01.6 上り34.9映像
1 GIIIきさらぎ賞 京都 芝1800 3人気 M.デムーロ 1:47.6 上り33.4
3 福寿草特別 京都 芝2000 1人気 武豊 2:00.8 上り34.4
3 エリカ賞 阪神 芝2000 3人気 武豊 2:05.5 上り34.2
1 2歳新馬 京都 芝1800 1人気 武豊 1:51.4 上り33.8

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
トーセンラーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
プリンセスオリビアPrincess OliviaLyciusMr. Prospector
Lypatia
Dance ImageSadler's Wells
Diamond Spring
STORY

旅程 — この馬の物語

2008年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母プリンセスオリビア。主な勝ち鞍はマイルチャンピオンS・きさらぎ賞・京都記念。

太陽の名 ― 二〇〇八年、千歳

2008年4月21日、北海道千歳市の社台ファームに黒鹿毛の牡馬が生まれた。父はこの世代が最初の産駒となるディープインパクト、母はアメリカ生まれのプリンセスオリビア。 母は米国で24戦3勝。その名が知られたのはむしろ繁殖に上がってからで、2002年に産んだ牡馬フラワーアレイは、2005年8月にサラトガのトラヴァーズステークスを勝っている。この半兄は種牡馬としてアイルハヴアナザーを送り出し、その仔は2012年のケンタッキーダービーとプリークネスステークスを続けて制した。母の父リシウスはミスタープロスペクター産駒、母の母ダンスイメージはサドラーズウェルズの娘である。アメリカの速さとヨーロッパの粘りが、ひとつの牝系に畳まれている。 母は2005年ごろ社台ファームに買われ、種を宿したまま日本へ渡ってきた。その仔は死産に終わり、翌年に産んだ牝馬ブルーミングアレーが日本での第一子になる。この黒鹿毛は、母が日本で産んだ二頭目の仔である。 馬主は島川隆哉。与えられた名は、冠名「トーセン」に、エジプト神話の太陽神ラーを継いだものだった。栗東の藤原英昭厩舎に入る。デビューから引退まで、この馬の管理者は最後まで変わらない。 2010年11月7日、京都の芝1800m、2歳新馬。鞍上は武豊。単勝1.5倍に応え、ゴール前でハーバーコマンドを捉えて勝ち上がった。この日2着に敗れた馬は、翌年の菊花賞で4着に来る。 12月のエリカ賞は3着、年明けの福寿草特別も3着。どちらも武豊が乗っていた。

きさらぎ賞 ― 栗毛に先着した日

2011年2月6日、京都、きさらぎ賞。重賞初挑戦で、手綱はミルコ・デムーロに替わった。12頭立ての3番人気。 最後の直線で逃げるリキサンマックスを捉え、上がり3ハロン33秒4、1分47秒6。重賞をひとつ手に入れた。 2番人気に推されながら0.2秒差の3着に敗れたのは、池添謙一を背にした栗毛だった。オルフェーヴル。 この馬は次のスプリングステークスから走りを変える。皐月賞、東京優駿、神戸新聞杯、菊花賞、有馬記念。2011年に日本の芝でオルフェーヴルより先にゴール板を過ぎたのは、この日の京都にいた二頭が最後になった。

三月十一日、山元町

きさらぎ賞のあと、陣営はトライアルを使わず皐月賞へ直行する道を選んだ。放牧先は宮城県亘理郡山元町、社台グループの山元トレーニングセンターである。 3月11日、地震が来た。敷地はやや高台にあって津波の難を逃れ、在厩馬は全頭が無事だった。だが周辺の道路は寸断され、停電と断水も起きた。馬を運び出す手立てがない。 やがて救援物資を積んだ馬運車が山元にたどり着く。荷を下ろして空いた荷台にトーセンラーは便乗し、二日がかりで栗東へ帰った。 中山競馬場は使えなくなっていた。皐月賞は4月24日、東京競馬場の芝2000mで行われる。蛯名正義に乗り替わったトーセンラーは5番人気の7着、勝ち馬から1.0秒差だった。勝ったのは、二か月半前に自分の後ろにいたオルフェーヴルである。 5月29日の東京優駿は、雨が府中の芝を不良に変えていた。7番人気の11着、勝ち馬から2.5秒。上がりは38秒1まで落ちている。渋った馬場は、この馬の脚が伸びる条件ではない。

淀の三千 ― 菊花賞の三着

秋。9月18日、中山のセントライト記念を3番人気の2着。勝ったフェイトフルウォーとの差は0.2秒だった。 10月23日、京都、菊花賞。3番人気。18頭立ての最内1番枠から中団のうしろに控え、3コーナーの下り坂で押し上げていく。 直線で抜け出したのはオルフェーヴル。2馬身半差で追ったのが安藤勝己のウインバリアシオン。トーセンラーはさらに1馬身3/4後ろ、3着でゴール板を過ぎた。三冠が完成した日の、三番目の場所である。4着には、一年前の新馬戦でこの馬の後ろにいたハーバーコマンドがいた。 二月に先着した相手は、十月には手の届かないところにいた。3歳の一年は6戦1勝。重賞をひとつ勝ち、GIで3着まで来て、震災をひとつ跨いだ。

一番人気という重さ ― 二〇一二年

4歳の一年は7戦して勝てなかった。 2月の京都記念はクリスチャン・デムーロで4着、3月の日経賞は内田博幸で10着、5月の新潟大賞典は浜中俊で11着、6月の鳴尾記念は岩田康誠で3着。鞍上は毎回のように替わった。 夏、岩田を背にした七夕賞と川田将雅を背にした小倉記念で、いずれも1番人気に推されて2着。9月の新潟記念も1番人気だった。蛯名正義の手綱で上がり3ハロン32秒6の脚を使いながら、届いた場所は7着である。 この年、京都を走ったのは2月の一度きり。中山、新潟、阪神、福島、小倉と、馬運車は各地を回った。生涯で1番人気に推されるのは6度あり、応えたのは新馬戦だけになる。

淀に帰る ― 二〇一三年二月十日

2013年2月10日、京都記念。出馬表の鞍上欄に、久しぶりに武豊の名があった。福寿草特別以来、2年1か月ぶりである。 11頭立ての6番人気、単勝9.2倍。直線で抜け出し、2着ベールドインパクトとの差は0.2秒。きさらぎ賞から2年ぶり、通算3勝目である。 武豊は前年11月のマイルチャンピオンシップを、サダムパテックで勝ったばかりだった。京都のマイルでそのタイトルを手にした男が、同じ競馬場の2200mで、二年ぶりにこの馬の背へ戻ってきたことになる。この日から、この馬に乗ったのは一度の例外を除いて武豊だけになる。

三千二百メートルの二着

4月28日、天皇賞(春)。前哨戦を使わずに直行し、3番人気で京都の3200mに入った。 緩みのない流れを、先行勢を見る位置で進んだのはフェノーメノである。最終コーナーで先頭に並びかけ、外から迫るトーセンラーとゴールドシップを確認してからスパートした。トーセンラーは外から迫ったが、並びかける前に相手が抜け出していた。差は1馬身1/4。単勝1.3倍のゴールドシップは5着に沈み、盾はフェノーメノのものになった。 そのフェノーメノの鞍上は蛯名正義だった。皐月賞から菊花賞まで、この馬の背にいた男である。 6月の宝塚記念は4番人気の5着。勝ったのはゴールドシップ。GIで2着、GIで5着。届きそうで、届かない。

一マイル ― 二〇一三年十一月十七日

秋初戦の京都大賞典は3着。この日、武豊はロンシャンにいた。凱旋門賞をキズナで走って4着。京都の手綱は幸英明が取った。 登録していた天皇賞(秋)は使わず、陣営はマイルチャンピオンシップを選ぶ。ここまで19戦。いちばん短い距離は1800mで、1600mを走ったことはない。GIは5戦して未勝利だった。 11月17日、京都、晴、芝は良。2番人気。 コパノリチャードが最内から先手を取り、流れは落ち着いた。トーセンラーは18頭のほぼ最後方、密集する馬群を眺めながら運ぶ。3コーナーの下り坂で勢いをつけ、4コーナーで外へ持ち出された。 直線、粘るコパノリチャードにクラレントが並びかけ、その直後からダノンシャークがスパートし、内からはダイワマッジョーレが迫る。勝負がこの二頭に絞られたかに見えた刹那、大外から黒鹿毛が飲み込んだ。1分32秒4、上がり3ハロン33秒3、2着に1馬身。 レース後、武豊はこう言った。「こんなにスカッとする勝ち方ができるなんて」[^1] 6度目のGI挑戦にして、初めてのタイトルだった。2着に敗れたダイワマッジョーレの鞍上は蛯名正義。半年前の春の盾では前を走っていた男が、この日は1馬身後ろにいる。 そして武豊は、前年のサダムパテックに続いてこのレースを連覇した。JRAで68勝、地方で25勝、海外で7勝。GI通算100勝に届いた騎手は、この日まで一人もいなかった。

出典:日本中央競馬会「第30回マイルチャンピオンシップ 後方から一気に突き抜けたトーセンラーが悲願のGI初制覇」2013年11月17日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/mile/result/mile2013.html 、閲覧日:2026年7月30日。

六歳の京都 ― 最後の一日

2014年。2月の京都記念は2番人気の2着で、勝ったのはデスペラード。6月の安田記念は降り続く雨で芝が不良になった東京で、上がり39秒3の14着に終わった。 10月の京都大賞典は1番人気の3着。勝ったのはラストインパクト。11月23日のマイルチャンピオンシップは2番人気の4着で、一年前に自分が勝ったレースを制したのはダノンシャークだった。父ディープインパクトの最初の世代として同じ2008年に生まれ、同じ京都のマイルで、一年違いの答えを出した馬である。 その3週間前、11月2日の天皇賞(秋)を全弟のスピルバーグが勝っていた。母プリンセスオリビアの仔が日本のGIを勝つのは、兄に続いて二頭目である。 12月28日、中山、有馬記念。1番枠、8番人気、8着。勝ったのはジェンティルドンナで、この日が女傑の引退レースだった。トーセンラーもまた、これを最後の一戦として走り終えている。レース後まもなく競走馬登録は抹消された。25戦4勝、獲得賞金4億6097万6000円。 25戦のうち12戦が京都だった。その12戦すべてで4着以内に入り、4つの勝利はいずれも外回りコースで挙げたものである。

日高の太陽

2015年、レックススタッドで種牡馬になった。翌2016年の秋にブリーダーズ・スタリオン・ステーションへ移り、以後は二つの牧場を二年おきに行き来する国内シャトルの形で繋養される。2023年秋にレックススタッドを退厩し、2024年からは日高町のエスティファームにいる。 母プリンセスオリビアは2016年1月3日に死んだ。21歳。フラワーアレイ、トーセンラー、スピルバーグ――GIを勝った仔を三頭産み、スピルバーグを最後に、もう仔は生まれなかった。血は横にも伸びている。日本で最初に産んだ牝馬ブルーミングアレーの娘ランブリングアレーが、2021年3月13日の中山牝馬ステークスを大外から差し切った。鞍上は武豊だった。 産駒では2021年6月13日、ザダルがエプソムカップを勝っている。トーセンラー産駒によるJRA重賞の初勝利である。ザダルは翌年の京都金杯も勝ち、2024年にはドロップオブライトがCBC賞を、2025年の夏にはキャンディードが中京2歳ステークスを、その年の暮れには再びドロップオブライトがターコイズステークスを勝った。 2026年7月現在、18歳。日高町の牧場で、いまも種牡馬として繋養されている。 京都の外回りには、3コーナーから4コーナーにかけて下り坂がある。あの坂で勢いをつけ、直線で外から一頭ずつ抜いていく。それがこの馬の走り方だった。太陽神の名にふさわしい一日は、2013年11月17日、京都の芝1600mにある。淀の坂を下る仔が現れるたび、その一日は現在形に戻ってくる。

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