名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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トールポピーのイメージビジュアル
トールポピーTall Poppy
Tall Poppy

トールポピー

通算成績14戦3勝

獲得賞金21,799万円

生年月日 2005.01.30(平成17年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
トールポピーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
17 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1400 12人気 池添謙一 1:21.9 上り35.3
16 GIII愛知杯 中京 芝2000 12人気 松田大作 2:01.3 上り35.8
12 OPターコイズS 中山 芝1600 5人気 池添謙一 1:34.2 上り35.4
12 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 5人気 池添謙一 1:46.0 上り35.6
10 GIII中山牝馬S 中山 芝1800 3人気 池添謙一 1:49.8 上り36.0
10 GI秋華賞 京都 芝2000 1人気 池添謙一 1:58.9 上り35.3映像
6 GII関西TVローズS 阪神 芝1800 2人気 池添謙一 1:48.0 上り35.7
1 GI優駿牝馬 東京 芝2400 4人気 池添謙一 2:28.8 上り35.3映像
8 GI桜花賞 阪神 芝1600 1人気 池添謙一 1:34.8 上り34.7映像
2 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 1人気 池添謙一 1:35.8 上り34.1
1 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 3人気 池添謙一 1:33.8 上り35.2映像
2 黄菊賞 京都 芝1800 2人気 池添謙一 1:47.5 上り35.1
1 2歳未勝利 京都 芝2000 1人気 池添謙一 2:02.2 上り35.7
2 2歳新馬 阪神 芝1800 2人気 池添謙一 1:49.0 上り35.9

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
トールポピーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ジャングルポケットJungle PocketトニービンTony BinカンパラKampala
Severn Bridge
ダンスチャーマーDance CharmerNureyev
Skillful Joy
アドマイヤサンデーサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ムーンインディゴMoon IndigoEl Gran Senor
Madelia
STORY

旅程 — この馬の物語

2005年生まれの鹿毛の牝馬。父ジャングルポケット、母アドマイヤサンデー。主な勝ち鞍は阪神ジュベナイルF・優駿牝馬。

高いひなげしの花

2005年1月30日、北海道早来町のノーザンファームに、鹿毛の牝馬が生まれた。父はジャングルポケット、母はアドマイヤサンデー、母の父にサンデーサイレンス。 名はトールポピー。JRAに届け出られた意味は「高いひなげしの花」、そしてオーストラリアでは、抜きん出て成功を収めた人を指す言葉だという。 母アドマイヤサンデーは、現役では重賞のタイトルに一歩届かなかった牝馬である。繁殖に上がってからも初めのうちは恵まれず、最初の仔は二戦目に故障して還らなかった。流れが変わったのは四番仔だった。2004年の当歳セレクトセールで一億円の値がつき、フサイチホウオーと名付けられたその牡馬は、デビューから無敗で重賞を三つ続けて勝ち、2007年のクラシックの中心に立った。 その翌年に生まれた五番仔が、彼女である。兄が皐月賞で三着に敗れ、一番人気で臨んだダービーで七着に沈んだ六週間後、妹はデビューの日を迎えた。 馬主はキャロットファーム。2006年度の募集は一口七万円、四百口、総額二千八百万円で、一次募集は満口となって抽選になった。管理するのは栗東の角居勝彦。四百口ぶんの期待が、はじめからこの背中に乗っていた。

伝説の新馬戦

2007年7月8日、阪神競馬場の芝1800メートル、十五頭立ての新馬戦。二番人気。鞍上は池添謙一。 ゲートで出遅れた。それでも直線で追い上げて二着まで来たが、勝ち馬とは二馬身あった。勝ったのはアーネストリー。三着にドリームシグナル、八着にキャプテントゥーレ。のちに宝塚記念を勝つ馬、シンザン記念を勝つ馬、皐月賞を勝つ馬、そして年末に二歳女王になる馬が、同じ一鞍に収まっていた。この日の一戦は、のちに伝説の新馬戦と呼ばれるようになる。 負けたことよりも、この日に始まったことのほうが大きい。以後、彼女が走った十四戦のうち十三戦の手綱を、池添が握り続けることになる。

抽選をくぐって

新馬戦のあとは放牧に出され、山元を経て札幌へ渡ったが、北の地では一度も走らないまま十月に栗東へ戻った。二戦目は10月20日、京都の芝2000メートル。重馬場を一番人気で走り、ハナ差で初勝利を挙げる。11月の黄菊賞では直線でいったん先頭に立ちながら、ヤマニンキングリーにクビ差だけ差し返されて二着だった。 一勝馬のまま、暮れの阪神ジュベナイルフィリーズに登録する。出走枠は抽選になり、それを突破して十八頭の一角に滑り込んだ。三番人気。直線でオディールやエイムアットビップを抑え、最後はレーヴダムールをクビ差しのいで一着。父ジャングルポケットの産駒が挙げた、最初のJpnI勝ちだった。 未勝利を勝ち、黄菊賞で二着し、阪神ジュベナイルフィリーズを制する——それは前の年、同じ角居厩舎のウオッカが辿ったのとそっくり同じ順路だった。 この一鞍のために、池添はもう一頭の手綱を手放している。九月の新馬戦から乗っていたレジネッタである。レジネッタは武豊に乗り替わって六着。二歳女王の座は、池添が選んだほうの馬に来た。年が明け、彼女はJRA賞最優秀2歳牝馬に選ばれた。

マイナス十キロ

2008年の始動はチューリップ賞。一番人気に推され、上がり三ハロン34秒1という数字を残しながら、逃げるエアパスカルを捉えきれずに二着に終わる。 本番の桜花賞も一番人気だった。しかし当日の馬体重は460キロ、前走から十キロ減っていた。後方から運んで直線を向いたが伸び切れず、勝ち馬から0秒4差の八着。角居はレース後、増えて出られるはずの体が減っていたことを認め、調整の失敗だったと悔いた。 その桜花賞を勝ったのは、十二番人気のレジネッタだった。半年前、池添が降りた馬である。二歳女王の一番人気が沈み、二歳の暮れに六着だった馬が桜を摘む。この世代の牝馬たちは、序列というものをはじめから信じていなかった。

こじ開けた二千四百

5月25日、東京競馬場の芝2400メートル、稍重。十八頭立ての優駿牝馬で、彼女は四番人気だった。 中団で脚を溜め、直線を向く。前は壁だった。池添は内へ切り込み、狭いところを割って先に抜け出した。そこへエフティマイアが迫り、その後ろからレジネッタが伸びてくる。凌ぎ切った。2分28秒8、エフティマイアとの差はアタマ、レジネッタが三着に続いた。桜花賞八着からの逆転で、二つ目のJpnIを手に入れた。 だが、審議のランプが灯っていた。直線での斜行が対象となり、内で進路を狭められたレジネッタとソーマジックが不利を受けていた。長い審議のすえ、着順は動かなかった。動いたのは鞍上のほうで、池添は継続的で修正動作を欠く危険な騎乗と判断され、開催日二日間の騎乗停止を科された。勝ち馬の騎手に制裁が下るという、めったにない決着である。 勝利騎手インタビューに立った池添の顔は青ざめていた。歓声のなかで彼が口にしたのは、他の馬に迷惑をかけてしまった、という詫びだった。オークス馬の栄誉と、自分の手綱が招いた咎と。彼はその両方を、同じ日のうちに受け取った。

秋、届かなかった一冠

オークスのあと、陣営はアメリカンオークスを目指して栗東の検疫馬房に馬を入れた。しかし疲れが抜けず、遠征は取りやめになり、ノーザンファームへ放牧に出された。 戻ってきた秋、ローズステークスは重馬場で六着。それでも秋華賞では一番人気に支持された。京都の芝2000メートル、直線で伸びず、勝ち馬から0秒5差の十着。勝ったのは十一番人気のブラックエンブレムで、二番人気のレジネッタも八着に沈んだ。桜花賞の主役も、オークスの主役も、最後の一冠には手が届かなかった。 次はエリザベス女王杯のはずだった。だがレース週の11月12日に鼻出血を発症し、出走を取りやめている。この年の残りを、彼女は走らずに終えた。 その年の菊花賞を勝ったのは、オウケンブルースリだった。同じ2005年生まれ、同じジャングルポケットの仔である。父にとっては、牡馬による初めてのクラシック制覇だった。娘がオークスを、息子が菊花賞を持ち帰った年に、彼女のクラシックは閉じた。

二年の坂

四歳の初戦は2009年3月の中山牝馬ステークス。三番人気。馬体は十四キロ増えていて、見せ場のないまま十着に終わった。放牧を挟んだ秋、府中牝馬ステークスで十二着、暮れのターコイズステークスでも十二着。年末の愛知杯だけは松田大作が乗った。十四戦のうち池添以外が跨った唯一の一鞍で、結果は十六着だった。 五歳の2010年4月10日、阪神牝馬ステークス。十二番人気。後方のまま何も起こらず、十八頭の十七着でゴールした。翌日に引退が発表され、14日付で競走馬登録が抹消される。二歳女王になった日から、二年四か月が経っていた。 角居は後年、この馬はレースが嫌いになってしまったのだ、と語っている。なぜそうなったのかを、外から言い当てることはできない。走る気を失う馬がいるという事実だけが、静かに残る。 通算十四戦三勝、獲得賞金は二億一千七百九十九万二千円。勝った日は三日しかない。そのうちの二日で、彼女はいちばん大きなものを持ち帰っている。

兄と妹のあいだに

繁殖牝馬としてノーザンファームに戻り、キングカメハメハの仔を二年続けて産んだ。初仔はオリエンタルポピー。母と同じキャロットファームの所有で、母と同じ角居厩舎から四戦したが、勝ち星には届かなかった。二番仔は競馬場に立つことなく世を去っている。 2012年6月22日、彼女は腸捻転で死んだ。七歳。その年に二番仔を産んだばかりだった。 遺したものは仔だけではない。兄フサイチホウオーは、彼女がオークスを勝つ一か月前の2008年4月、屈腱炎で引退している。いったんは乗馬になると伝えられていた。その行き先が変わったのは同年八月のことで、妹の戴冠に後押しされる形で、兄はアロースタッドの種牡馬になった。四シーズンで三十三頭を送り出したところで種牡馬を退き、去勢されて乗馬になり、やがてノーザンファームへ戻る。離乳したばかりの仔馬たちに付き添い、群れを導く役を負ってである。 そして2011年の秋、彼女が一番人気で敗れた秋華賞を、同じ父と母から生まれた全妹アヴェンチュラが勝った。その妹が生まれたのは2008年3月7日——姉が東京の坂を駆け上がる、二か月半前のことである。血はさらに横へ伸び、母の七番仔ヴェラブランカからは、のちにジャパンカップを勝つヴェラアズールが出た。 高いひなげしの花、と名付けられた馬がいた。抜きん出た花は、いちばん風の当たるところに立つ。半年のあいだに二つの大きな冠を摘み、そのぶんだけ強い風を浴びて、七歳で早く倒れた。それでもノーザンファームには、仔馬の群れを連れて歩く彼女の兄がいる。

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