名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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スワーヴリチャードのイメージビジュアル
スワーヴリチャードSuave Richard
Suave Richard

スワーヴリチャード

通算成績19戦6勝

獲得賞金95,727万円

生年月日 2014.03.10(平成26年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
スワーヴリチャードの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
12 GI有馬記念 中山 芝2500 5人気 O.マーフィー 2:33.6 上り38.3映像
1 GIジャパンカップ 東京 芝2400 3人気 O.マーフィー 2:25.9 上り36.5映像
7 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 5人気 横山典弘 1:57.1 上り34.3映像
3 GI宝塚記念 阪神 芝2200 6人気 M.デムーロ 2:11.6 上り35.7映像
3 GIドバイシーマクラシック メイダン 芝2410 3人気 J.モレイラ 映像
4 GII中山記念 中山 芝1800 4人気 M.デムーロ 1:45.7 上り33.8映像
3 GIジャパンカップ 東京 芝2400 2人気 M.デムーロ 2:21.5 上り34.7映像
10 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 1人気 M.デムーロ 1:58.3 上り34.1映像
3 GI安田記念 東京 芝1600 1人気 M.デムーロ 1:31.4 上り33.9映像
1 GI大阪杯 阪神 芝2000 1人気 M.デムーロ 1:58.2 上り34.1映像
1 GII金鯱賞 中京 芝2000 1人気 M.デムーロ 2:01.6 上り33.8映像
4 GI有馬記念 中山 芝2500 2人気 M.デムーロ 2:33.8 上り34.5映像
1 GIIアルゼンチン共和国杯 東京 芝2500 1人気 M.デムーロ 2:30.0 上り35.0映像
2 GI東京優駿 東京 芝2400 3人気 四位洋文 2:27.0 上り33.5映像
6 GI皐月賞 中山 芝2000 2人気 四位洋文 1:58.2 上り34.3映像
1 GIII共同通信杯 東京 芝1800 2人気 四位洋文 1:47.5 上り34.2映像
2 GIII東京スポーツ杯2歳S 東京 芝1800 4人気 四位洋文 1:48.3 上り33.6
1 2歳未勝利 阪神 芝2000 1人気 四位洋文 2:04.0 上り35.4
2 2歳新馬 阪神 芝2000 1人気 四位洋文 2:03.2 上り33.9

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
スワーヴリチャードの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ハーツクライHeart's CryサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
アイリッシュダンストニービンTony Bin
ビューパーダンスBuper Dance
ピラミマUnbridled's SongUnbridled
Trolley Song
キャリアコレクションGeneral Meeting
River of Stars

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの栗毛の牡馬。父ハーツクライ、母ピラミマ。主な勝ち鞍は大阪杯・ジャパンC・共同通信杯。

1億5500万円の栗毛 ― 名前と血

名の由来を辿っても、そこに物語はない。冠名の「スワーヴ」に、リチャードという人名。登録に残るのはそれだけで、英名も素直に Suave Richard と綴られる。だからこの馬を語るには、名ではなく母から始めるしかない。 母ピラミマはアメリカ生まれの黒鹿毛。日本に渡って二度ゲートに入り、2008年5月の東京と9月の新潟で、二度とも15着に敗れた。一勝もできないまま繁殖に上がった牝馬である。半兄バンドワゴンは2013年秋の新馬戦を1秒差で圧勝し、暮れのエリカ賞も連勝して、明けて3歳のきさらぎ賞では1番人気に推された。だが2着に敗れたその日を最後に、2年間ターフから姿を消す。勝てなかった母と、消えた半兄。それが、この馬の前に置かれた一族の姿だった。 2014年3月10日、北海道安平町のノーザンファーム。その母に、栗毛の牡馬が生まれる。父はハーツクライ。同年のセレクトセール当歳市場で、1億5500万円の値がついた。馬主は株式会社NICKS。預けられた先は、栗東の庄野靖志厩舎だった。

馬をつくるはずだった男 ― 勝ち切れない秋

庄野靖志は北海道門別町、いまの日高町の生産牧場に次男として生まれた。少年の頃の目標は、馬をつくる側だった。日本大学の獣医学部を出ると実家に戻り、引退した調教師の大叔父・庄野穂積の指導を受けながら繋養馬の世話をしている。目標を変えたのは、そのあとだ。1996年に競馬学校の厩務員課程へ入り、栗東の高橋隆厩舎で厩務員から調教助手へ、およそ10年を過ごした。自分の厩舎を開いたのは2007年である。翌年ホクトスルタンで目黒記念を勝って重賞初制覇、2010年にはサマーウインドが船橋のJBCスプリントを制した。それでも、JRAのGIだけが手元になかった。 馬をつくるはずだった男のところに、生産の最先端から、一勝もしていない牝馬の仔が――1億5500万円の値札とともに――届いた。 2016年9月11日、阪神の芝2000m。デビュー戦の鞍上は四位洋文――ウオッカディープスカイで日本ダービーを連覇した名手である。単勝1.7倍の1番人気に推されながら、前を行くメリオラをハナ差捉えきれずに2着。3週間後の未勝利戦は圧倒的な支持に応えて快勝したが、初の重賞となった東京スポーツ杯2歳ステークスでは、直線で追い込みながらゴール手前でブレスジャーニーに交わされ、また2着だった。 強い。しかし勝ち切れない。この馬が最初に見せたのは、そういう顔だった。

4分の3馬身 ― 二〇一七年五月二十八日

年が明けた共同通信杯を、後続に2馬身半差をつけて完勝する。クラシックの一角に名乗りを上げて臨んだ皐月賞は2番人気。だがレコード決着になった中山で直線の伸びを欠き、6着に沈んだ。掲示板を外したのは、これが初めてだった。 東京優駿。3番人気。前半1000m通過63秒2という遅い流れのなかを、内めの好位で進む。動いたのは向正面だった――ただし、動いたのはこの馬ではない。後方にいたレイデオロが外から一気に押し上げ、2番手に取り付いたのだ。直線、逃げるマイスタイルを残り100mでレイデオロが捉えて先頭に立つ。外から馬体を併せに行ったのがスワーヴリチャードだった。並びかけ、しかし相手がゴール前でもうひと伸びする。4分の3馬身。タイム差にして0秒1。 秋、鞍上がミルコ・デムーロに替わった。アルゼンチン共和国杯を1番人気で、ソールインパクトに2馬身半差。重賞2勝目である。暮れの有馬記念はキタサンブラックに次ぐ2番人気に支持されたが、後方から追い込む途中で内にもたれ、4着に終わった。勝ったのはキタサンブラック。あの馬が最後に走った日だった。

向正面から ― 二〇一八年四月一日、仁川

4歳初戦の金鯱賞は2番手から抜け出し、逃げ粘るサトノノブレスを半馬身差で捉えた。そして4月1日、阪神の大阪杯。8枠15番、右回り。どちらもこの馬には歓迎材料ではなかった。 スタートで少し立ち遅れ、隊列は後方2番手。ヤマカツライデンが作った流れは、前半1000m通過61秒1のスローだった。残り1000mのあたりから、デムーロは外へ持ち出して進出を始める。押さえ切れない手ごたえのまま先頭に並びかけ、3コーナーではもう単独先頭。直線、内からアルアイン、外からペルシアンナイトが迫ったが、リードは削られなかった。4分の3馬身、1分58秒2。 ――1年前の府中で、この馬を置き去りにしたのは、まさにこの動きだった。スローと見るや向正面から一気に位置を取りに行く手。今度はそれを、自分の脚でやってのけた。 4つ目の重賞が、そのままGI初制覇になる。庄野靖志は開業12年目にして、JRAのGIを初めて勝った。同じレースの9着に、四位洋文がいた。スマートレイアーの背だった。

勝てなかった2分21秒5 ― 二〇一八年の秋

次に選んだのは、初のマイルとなる安田記念だった。マイルGIの勝ち馬4頭を抑えて1番人気に支持されたが、伸びきれずモズアスコットの3着。夏を休養に充て、ぶっつけで臨んだ天皇賞(秋)でも、同期のクラシックホース3頭を抑えて1番人気に推された。 そのゲートで、歯車が狂う。発走直後に隣のマカヒキに寄られ、最後方まで下げられた。淀みのない流れのなかで位置を押し上げることもできず、10着。勝ったのはレイデオロだった。ダービーで先に抜け出した相手に、今度は見せ場すら作れなかった。 ジャパンカップは2番人気。キセキが作ったハイペースを4、5番手で追走したが、前の2頭には届かず3着に終わる。勝ったアーモンドアイの2分20秒6は世界レコードだった。そしてこのとき、スワーヴリチャードの走破時計2分21秒5もまた、2005年にアルカセットが刻んだ日本レコードを0秒6上回っていた。勝てなかった一戦の時計が、それまでの日本記録より速い。2018年の府中とは、そういう場所だった。

最内をこじ開ける ― 二〇一九年十一月二十四日

5歳。始動の中山記念は4着。ドバイに遠征し、ジョアン・モレイラを背にシーマクラシックへ向かうと、直線で先に抜け出したオールドペルシアンを追ったが、並んで伸びたシュヴァルグランに競り負けて3着に終わった。帰国初戦の宝塚記念は6番人気で3着、勝ったのはリスグラシュー。秋初戦の天皇賞(秋)は横山典弘との新コンビで5番人気7着。GI馬が10頭も顔をそろえた一戦だった。 大阪杯を最後に、1年7か月あまり勝ち星がない。ジャパンカップの鞍上は、この日が初コンビとなるオイシン・マーフィーだった。雨で馬場は重。3番人気。 中団の内でじっと構え、4コーナーからも内を選ぶ。残り400m、ラチ沿いから伸びてカレンブーケドールに並びかけ、残り100mで抜け出した。2分25秒9、4分の3馬身。マーフィーにとってJRAのGIは初勝利、庄野にとってもジャパンカップは初めてだった。「たぶん、1週間は寝つけないんじゃないかな(笑)」[^1]。レースを終えたあとの言葉である。 前年まで手綱を取り続けたデムーロは、この日タイセイトレイルの背にいた。

出典:スポーツナビ「スワーヴ復活V導いた欧州の若き天才騎手 夢のJC制覇「1週間は寝つけない」」2019年11月24日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201911240003-spnavi 、閲覧日:2026年7月26日。

十二月二十二日 ― 幕の引き方

1か月後の有馬記念。5番人気、2番枠。好位で積極的に運んだが、勝負どころで早くも手ごたえが怪しくなり、見せ場のないまま12着に終わった。マーフィーは残り800mで歩様がおかしくなったと振り返り、庄野も、そこで無理をさせなかったと説明している。勝ったのはリスグラシュー。この馬もまた、その日が現役最後の一戦だった。 年が明けた1月28日、庄野から引退が伝えられる。レースの2週間ほどあとに右飛節へ腫れと痛みが出たこと、大事には至らなかったが、選出されていたドバイシーマクラシックを見送り、オーナーサイドと協議したうえで現役を退くこと。行き先は社台スタリオンステーションだった。 19戦6勝。獲得賞金9億5727万円。GIは大阪杯とジャパンカップの2つ。1億5500万円で買われた馬は、その6倍を超える金額を稼いで馬場を降りた。 その1か月後の2月29日、四位洋文も鞍を置いた。新馬戦から東京優駿まで6戦、この馬の手綱を取り続け、のちに調教師となる男である。同じ冬に、それぞれの区切りが来た。

安平へ帰る ― 父スワーヴリチャードの章

種牡馬としての初年度種付料は200万円だった。2023年に初年度産駒がデビューし、6月24日にヴェロキラプトルが産駒初勝利を挙げると、その夏には新種牡馬リーディングを独走した。11月にはコラソンビートが京王杯2歳ステークスを勝って産駒初の重賞。12月28日、中山のホープフルステークスをレガレイラが制し、産駒初のGIが出た。翌年の種付料は1500万円――7.5倍である。 2024年10月20日、アーバンシックが菊花賞を制した。父が生涯一度も走らなかった3000mで、産駒はクラシックを獲った。 そして12月22日、中山の芝2500m。レガレイラが差し切って先頭でゴール板を通過する。3歳牝馬による有馬記念の制覇は、1960年のスターロツチ以来64年ぶり、史上2頭目だった。5年前の同じ12月22日、同じ中山の2500mで、スワーヴリチャードは12着に沈んで現役を終えている。日付までそろえて、娘がそれを取り返した。レガレイラは翌2025年にエリザベス女王杯も勝ち、2026年には京成杯をグリーンエナジーが制している。 2度走って2度とも15着だった母から、2年間姿を消した半兄から、この血は始まった。安平町で生まれた栗毛は、いま同じ安平町で、次の世代を送り出している。

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