名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

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シュトラウスStrauss
Strauss

シュトラウス

通算成績14戦4勝

獲得賞金2130万円

生年月日 2021.01.24(令和3年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
シュトラウスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
9 GIジャック・ル・マロワ賞 ドーヴィル 芝1600 7人気 J.モレイラ
12 GIチャンピオンズマイル シャティン 芝1600 6人気 J.モレイラ 1:33.6 上り0.0
1 LアブダビGC アブダビ 芝1600 1人気 J.モレイラ 1:33.98 上り0.0
6 ラッセルボールディングS RRW 芝1300 6人気 J.モレイラ 1:17.5 上り0.0
3 GIIICBC賞 中京 芝1200 4人気 杉原誠人 1:07.5 上り32.6
13 GIIIエプソムカップ 東京 芝1800 3人気 北村宏司 1:45.5 上り36.7
1 L白富士S 東京 芝2000 2人気 北村宏司 1:59.1 上り34.3
2 Lオーロカップ 東京 芝1400 5人気 北村宏司 1:20.7 上り34.3
6 LパラダイスS 東京 芝1400 3人気 杉原誠人 1:21.8 上り34.3
16 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 9人気 北村宏司 1:34.0 上り34.1
9 GIIIファルコンS 中京 芝1400 3人気 北村宏司 1:21.0 上り34.1
10 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 2人気 T.マーカンド 1:34.6 上り36.2
1 GII東スポ杯2歳S 東京 芝1800 4人気 J.モレイラ 1:46.5 上り34.9
3 GIIIサウジアラビアロイヤルカップ 東京 芝1600 2人気 C.ルメール 1:33.7 上り34.3
1 2歳新馬 東京 芝1600 1人気 D.レーン 1:36.9 上り34.5

血統

金色の名は掲載馬 — その馬のページへ/点線の名は押すと一言解説
シュトラウスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
モーリスMauriceスクリーンヒーローScreen HeroグラスワンダーGrass Wonder
ブルーメンブラットBlumenblattアドマイヤベガAdmire Vega
STORY

旅程 — この馬の物語

2021年生まれの黒鹿毛の牡馬。父モーリス、母ブルーメンブラット。主な勝ち鞍は東スポ杯2歳S。

花束という名 ― 二つの海を渡る血

母の名はブルーメンブラット。ドイツ語で「花びら」を意味するその黒鹿毛は、二〇〇八年のマイルチャンピオンシップを吉田豊で制し、牝馬として史上五頭目のマイル女王に名を連ねた。北海道で繁殖に上がった母は、以後も花の名を負った仔を次々と送り出す——全兄ブルメンダールをはじめ、ヴィルデローゼ、ブルーメンクローネ、リンゲルブルーメと、花の名のきょうだいが並ぶ。母系は、名前でつくった一つの花壇のようだった。 その花壇に生まれた黒鹿毛の牡馬に与えられた名が、シュトラウス。ドイツ語の「ブルーメンシュトラウス」=花束に由来する。母の咲かせた花々を、一つに束ねる名前だった。 父はモーリス。天皇賞・秋を勝ち、香港マイルとチャンピオンズマイルを続けて奪った、海を渡って本物になった名マイラーである。母もまた、マイルGIを勝った牝馬だった。父から受け継ぐ海外への資質と、母から受け継ぐマイルの適性。配合表は、はっきりと一つの距離を指していた。 二〇二三年六月、東京の芝千六百。デビュー戦の鞍上はダミアン・レーン。一番人気に応えて好位から抜け出し、シュトラウスは危なげなく初勝利を飾る。束ねられた花は、まず順当にほどけはじめた。

出世レース ― モレイラの太鼓判

二戦目のサウジアラビアロイヤルカップは、二番人気で三着。勝ったのは無敗のまま評判を上げていくゴンバデカーブース、二着はボンドガール。世代の期待を背負う二頭を追って、シュトラウスは直線でしぶとく脚を伸ばした。負けはしたが、器の大きさを感じさせる走りだった。 迎えた十一月の東京スポーツ杯二歳ステークス。のちの名馬を数多く送り出してきた「出世レース」である。鞍上には、香港からジョアン・モレイラが招かれた。四番人気。三番手の好位で折り合うと、直線半ばで持ったまま抜け出し、二番手で粘るシュバルツクーゲルを一馬身半突き放してみせる。母ブルーメンブラットの産駒で初めての重賞制覇、それも重厚なGIIだった。 モレイラは、この馬の将来に太鼓判を押した。素晴らしい未来がある——名手のその評価は、まだ二歳の黒鹿毛に、大きすぎるほどの期待を背負わせた。

約束の裏側 ― 春の失速

期待は、すぐには実らなかった。年末の朝日杯フューチュリティステークスは二番人気に推されながら十着。明けて三歳、中京のファルコンステークスは三番人気で九着に沈む。 決定的だったのは五月のNHKマイルカップだった。マイルの申し子として血統から待望された舞台で、九番人気の低評価、そして十六着——キャリアで最も苦い大敗である。父と母がともに勝ってみせたマイルGIは、息子にはまだ遠かった。 二歳の秋にモレイラが約束した未来は、束ねたはずの花束がほどけていくように、いったん手からこぼれ落ちた。名馬の血を引くことは、名馬であることを保証しない。その当たり前の現実を、シュトラウスはまず突きつけられた。

距離を探して ― 白富士Sの復活

陣営は、この馬の居場所を探しはじめる。三歳夏、東京千四百のパラダイスステークスは六着、秋のオーロカップは二着。あと一歩が続いた。 転機は明けて四歳、二〇二五年二月、東京二千メートルの白富士ステークス。二番人気のシュトラウスは、北村宏司の手綱でしぶとく抜け出し、一年以上ぶりの勝利を掴む。マイルより長い距離で、彼はようやく勝ち味に戻ってきた。 だが定まりはしなかった。続くエプソムカップは三番人気で十三着と大きく崩れ、夏のCBC賞では一転して千二百メートルの短距離へ。そこでも上がり三二秒六の脚を使って三着に食い込む。二千で勝ち、千二百で好走する——距離を決めきれないまま、それでもどこでも走れる馬。母の産んだ花束は、一色には染まらなかった。

海を渡る ― アブダビの初勝利

モーリスは、日本で頭打ちになりかけたところから海を渡り、香港で本物になった馬だった。息子もまた、答えを国外に求める。 二〇二五年十月、シュトラウスはオーストラリアへ飛ぶ。ランドウィックのラッセルボールディンステークス、千三百メートル。手綱には、二歳の秋以来となるモレイラが戻ってきた。結果は六着。だが遠征の歯車は、ここから噛み合いはじめる。 二〇二六年二月、アラブ首長国連邦。新設のアブダビゴールドカップ、芝千六百。一番人気のシュトラウスは、モレイラが前の開いた一瞬を突いて追い出すと、一気に伸びて抜け出した。海外初勝利、それも記念すべき第一回の勝ち馬として、その名は刻まれる。武井亮調教師は、これまで挙げてきたどの白星よりも嬉しいと声を弾ませた。父が渡った海の道を、息子もまた、たしかに歩きはじめていた。

シャティンとドーヴィル ― 二〇二六年の海

二〇二六年四月二十六日、香港・シャティン競馬場。チャンピオンズマイル。ちょうど十年前、父モーリスが日本馬として初めて勝ち名乗りを上げた、まさにその舞台だった。シュトラウスは六番人気の十二着に終わる。序盤で行きたがって脚を使い、直線では前を塞がれて行き場を失った。父が駆け抜けた同じ芝で、息子は最後まで見せ場をつくれなかった。 放牧を挟んで、陣営はもう一枚の海図を広げた。八月十六日、フランス・ドーヴィル。ジャック・ル・マロワ賞。豪州、アラブ首長国連邦、香港につづく四度目の海外遠征であり、この馬にとって初めてのヨーロッパだった。海を渡るときはいつも、二歳の秋にこの黒鹿毛の未来を保証したジョアン・モレイラが背にいる。四度とも、そうだった。 十頭立ての七番人気。快晴、気温は二十七度。稍重という発表とは裏腹に、芝は日本馬向きの硬さに感じられたという。日本から来た二頭——シュトラウスと、安田記念を勝ったばかりのシックスペンス——はそろって外ラチ沿いへ進路を取り、欧州勢は馬場の中央に固まった。直線の入口までは、悪くない位置にいた。だが、追い出してからの反応がまったくなかった。モレイラはそう振り返ったうえで、こう続けている。「相手が非常に強いことを考えれば、きょうのパフォーマンスには満足しています」[^1]。九着。勝ったのは地元の三歳馬ライフだった。 二歳の秋に押された太鼓判は、いまだGIのタイトルという形になっていない。それでも——日本、豪州、中東、香港、そしてフランス。五つの国のゲートをくぐった五歳の黒鹿毛は、母が咲かせた花々の名を、その数だけ遠くへ運んだことになる。束ねられた花がどこでほどけるのかは、まだ誰にもわからない。ただ、この馬の旅の地図だけが、一年ごとに広がっていく。

出典:東スポ競馬「【ジャックルマロワ賞】日本馬2頭は完敗 シックスペンス武豊「日本馬向きの硬い感じだったのに…」」2026年8月17日配信、閲覧日:2026年8月24日。

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