名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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スティルインラブのイメージビジュアル
スティルインラブStill in Love
Still in Love

スティルインラブ

通算成績16戦5勝

獲得賞金43,777万円

生年月日 2000.05.02(平成12年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
スティルインラブの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
17 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 5人気 幸英明 1:48.2 上り33.9
9 GI宝塚記念 阪神 芝2200 14人気 幸英明 2:12.7 上り36.3映像
6 GII金鯱賞 中京 芝2000 4人気 幸英明 1:59.5 上り33.8映像
9 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 3人気 幸英明 2:14.3 上り34.6映像
3 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 1人気 幸英明 1:46.4 上り33.9
12 GIIITV西日本北九州記念 小倉 芝1800 4人気 幸英明 1:45.3 上り36.1
8 GI宝塚記念 阪神 芝2200 10人気 幸英明 2:12.6 上り35.9映像
8 GII金鯱賞 中京 芝2000 5人気 幸英明 1:59.1 上り36.2映像
2 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 1人気 幸英明 2:11.8 上り35.3映像
1 GI秋華賞 京都 芝2000 2人気 幸英明 1:59.1 上り34.9映像
5 GII関西TVローズS 阪神 芝2000 1人気 幸英明 2:02.0 上り35.1
1 GI優駿牝馬 東京 芝2400 2人気 幸英明 2:27.5 上り33.5映像
1 GI桜花賞 阪神 芝1600 2人気 幸英明 1:33.9 上り35.1映像
2 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 1人気 幸英明 1:36.0 上り35.9
1 OP紅梅S 京都 芝1400 2人気 幸英明 1:22.1 上り34.3
1 2歳新馬 阪神 芝1400 1人気 幸英明 1:22.2 上り35.3

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
スティルインラブの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
サンデーサイレンスSunday SilenceHaloHail to Reason
Cosmah
Wishing WellUnderstanding
Mountain Flower
ブラダマンテBradamanteRobertoHail to Reason
Bramalea
SulemeifNorthern Dancer
Barely Even
STORY

旅程 — この馬の物語

2000年生まれの栗毛の牝馬。父サンデーサイレンス、母ブラダマンテ。主な勝ち鞍は桜花賞・優駿牝馬・秋華賞。

同じ勝負服が、二頭

2002年11月30日、阪神競馬場の第三競走。十六頭の牝馬だけの新馬戦に、水色に赤の十字襷という同じ勝負服が二頭並んでいた。一頭がスティルインラブ。もう一頭をヘヴンリーロマンスという。どちらもノースヒルズマネジメントの持ち馬で、オーナーは前田幸治である。 栗毛のほうが三馬身半をつけて勝った。鹿毛のほうは六着だった。三年後、その鹿毛は東京の芝二千メートルで天皇賞(秋)を勝つことになる。 この勝負服は、五年前にも桜花賞と秋華賞を勝っている。ファレノプシスだった。 スティルインラブが生まれたのは2000年5月2日、北海道門別の下河辺牧場である。前田の牧場の生産馬ではない。父はサンデーサイレンス、母はロベルトの娘ブラダマンテ。この母からはすでにビッグバイアモンが出ていて、1996年のラジオたんぱ賞を勝っていた。半兄にあたる。父の父ヘイローも、母の父ロベルトも、その父はHail to Reason。三代前に同じ名が二つ並ぶ配合だった。 馬名の意味は「今でも愛してる」。 預けられたのは栗東の松元省一厩舎。トウカイテイオーで皐月賞と東京優駿を、フラワーパークで短距離のGIを二つ勝った厩舎である。 鞍上は幸英明。鹿児島で育ち、馬に乗ったのは競馬学校に入ってからだった。1994年のデビューから九年目、このとき二十六歳。重賞は1998年の京阪杯で初めて勝った。GIはまだ勝っていない。

一頭ぶんの隙間

年が明けた2003年1月19日、京都の紅梅ステークス。出遅れながら直線で差し切って、二勝目を挙げた。 3月8日のチューリップ賞は稍重の馬場になった。単勝1.7倍の一番人気。直線でわずかな隙間を突こうとして前が詰まり、行き場を失う。追い出せたのは残り百メートルからで、クビ差の二着に終わった。 レースのあと、幸は主戦を降ろされることを覚悟したという。松元は替えなかった。この経験を次に活かせばいい、と励ましている。 4月13日、阪神。桜花賞。単勝オッズはアドマイヤグルーヴと並んで3.5倍だったが、支持率のわずかな差で二番人気になる。 グルーヴがゲートで後手を踏んだ。スティルインラブは好スタートから先行集団に取りついている。そして四コーナー、前に一頭が入れるかどうかの隙間ができた。ひと月前と同じ形である。今度は迷わなかった。幸はそこへ馬を入れ、直線で馬群を割って抜け出す。二着のシーイズトウショウに一馬身四分の一をつけて、決勝線を過ぎた。 GIに乗るのは、これが四十七回目だった。初めて乗ったのは1995年の天皇賞(春)で、十四着に終わっている。九年かかっている。 「騎手をやっていて良かったです」[^1]

出典:競馬チャンネル「騎手がGⅠ初勝利するまでの挑戦回数ランキング【第6位】鉄人が掴んだ初タイトル!そして始まった怒涛の三冠」2025年12月23日配信、https://keibachannel.jp/select/25205/、閲覧日:2026年8月2日。

東京の、二千四百

5月25日、東京。優駿牝馬。ここでも一番人気はアドマイヤグルーヴで、こちらは二番人気だった。 道中は九番手あたりを進んだ。二千四百メートルの中盤で、ハロンが13秒台まで落ちる。牝馬同士の長丁場にありがちな、誰も動かない時間である。四コーナーを回るときも、まだ十番手あたりにいた。 そこからレースが別物になった。残り八百メートルを過ぎて、ハロンが12秒7、11秒5、11秒1と縮んでいく。その加速に、最後まで付き合った一頭だった。最後の六百メートル——上がり三ハロンという——を33秒5。レース全体の上がりより一秒近く速い。 二着はクイーンカップを勝っていたチューニー。十三番人気の馬に一馬身四分の一をつけての勝利だった。 桜花賞と優駿牝馬を続けて勝った牝馬は、1993年のベガ以来十年ぶりになる。アドマイヤグルーヴは七着に沈んでいた。

九月の五着

9月21日、阪神のローズステークス。十二頭立てで、単勝1.9倍の一番人気に推された。 好位につけた。直線で伸びなかった。五着。勝ったアドマイヤグルーヴとは0.5秒の差がついている。 二冠牝馬が、秋の初戦で完敗した。主役が入れ替わったと見るほうが自然だった。本番までは四週間しかない。

先に動いたほう

10月19日。晴れて、芝は良。十八頭が京都の内回り二千メートルに入った。 二つ目のハロンが11秒0で刻まれる。前に行った馬たちは、そこで息を入れそこねた。彼女はその競り合いに乗っていない。一コーナーで十番手。二コーナーでも十番手。前に九頭いた。アドマイヤグルーヴは、その一つ後ろにいる。 向正面は静かだった。ハロンが12秒台で三つ並び、隊列はほとんど動かない。動かないまま、京都の三コーナーの丘に入った。 そこで幸が外へ持ち出す。丘を下るあたりでラップが11秒台まで速くなり、外から一気に押し上げていった。四コーナーを回るころには、前から七頭目あたりにいる。グルーヴはまだ十一番手あたりだった。 京都の内回りは直線が短い。早く動いた馬は、そこから耐える側に回る。 前で粘っていたのはヤマカツリリーだった。松元省一の弟、松元茂樹が管理する馬である。その外に並びかけた。 後ろから、アドマイヤグルーヴが来ていた。三度目である。 先に決勝線を越えたのは、彼女のほうだった。四分の三馬身。ヤマカツリリーはそこからクビ差の三着で、四着も五着も、さらにクビとハナで続いた。上位五頭が、まばたきひとつの幅に収まっている。 三度、同じ相手より先に出た。三度とも、彼女に賭けた人のほうが少なかった。

はじめての一番人気

牝馬三冠は、1986年のメジロラモーヌ以来、史上二頭目だった。ただしラモーヌの三冠目はエリザベス女王杯である。1996年に秋華賞ができてからの三戦で三つとも勝ったのは、この馬が最初になる。 11月16日、京都。エリザベス女王杯。三冠の三戦では一度も背負わなかった一番人気を、この日は背負っていた。そしてGIでは初めて、アドマイヤグルーヴに先を越された。差はハナ。着差の欄に入るいちばん小さい単位である。 そこから先、勝ち鞍は増えなかった。 2004年は中京の金鯱賞から始めて八着。6月の宝塚記念は、出走十五頭のうち牝馬が彼女だけという一戦で、八着。7月の北九州記念は五十八キロを背負わされて十二着。10月の府中牝馬ステークスは一番人気で三着。11月のエリザベス女王杯は九着に終わり、勝ったのはアドマイヤグルーヴだった。 2005年も同じ順に走った。金鯱賞六着、宝塚記念九着。その宝塚で、グルーヴは八着に入っている。二頭の差はクビだった。生涯で九度、同じレースを走っている。先に決勝線を越えたのは三度だけで、その三度が桜花賞と優駿牝馬と秋華賞である。 10月16日、東京の府中牝馬ステークス。出遅れて、十七頭の最後尾でゴールした。これが最後の一戦になる。エリザベス女王杯を前に引退が決まった。 秋華賞のあと、九回走って一度も勝てていない。その九回とも、鞍上は幸英明だった。十六戦、乗り替わりは一度もない。 2006年1月7日、京都競馬場で引退式が行われた。競走馬登録が消えたのは、その四日後である。

相馬中村神社の厩舎

下河辺牧場に戻り、繁殖牝馬になった。初年度の相手はキングカメハメハ。2007年2月19日、母と同じ栗毛の牡が生まれた。 三か月後、東京の優駿牝馬を従姉妹のローブデコルテが勝っている。 7月25日、小腸捻転による激しい腹痛を起こして開腹手術を受けた。28日にまた腹痛が来て、二度目の手術。8月1日に三度目が来る。翌2日の朝に死んだ。七歳だった。小腸の一部が腸のなかへ滑り込んで二重になる、腸重積だったという。 産駒は、その一頭きりになった。 仔はジューダと名づけられ、2010年3月に阪神でデビューする。最初に預けられたのは栗東の松元茂樹厩舎——秋華賞のゴール前で母が交わした、ヤマカツリリーの厩舎である。中央と地方を合わせて十二戦二勝で、競走馬の登録は消えた。 そのあとは福島にいた。2013年の夏、相馬野馬追の総大将が出陣する相馬中村神社の厩舎に、出番を待つ元競走馬が並んでいた。中山大障害を勝った馬。若い騎手に初勝利を運んだ馬。そしてジューダ。甲冑競馬は、鎧と鞍と乗り手を合わせて百キロを超える重さを背負い、旗指物に風を受けながら千メートルを走る。震災と原発事故を越えたこの祭りに出る馬の八割ほどは、走るのをやめたサラブレッドだという。母が五十五キロで走ったものとは、まるで別の競馬である。 2008年3月、幸英明はファイングレインで高松宮記念を勝った。秋華賞から四年半、四つ目のGIである。クラシックは、あの三つが最後になっている。代わりに、年間の騎乗回数でJRAの記録を何度も塗り替えた。2025年11月には落馬で肋骨を十本折り、うち三本が肺に刺さった状態で運ばれている。年が明けた一月末には鞍に戻り、二月に二万五千回目の騎乗を史上最速で迎えた。 彼女が走ったのは十六回、勝ったのは五回である。五つの勝ち鞍は二歳の十一月から三歳の十月までに収まっていて、そのうち三つが冠だった。三つとも、二番人気で獲っている。 その半年に立ち会った男は、それから二十三年、騎手をやめていない。四十七回目でようやくGIを勝った日、彼は騎手をやっていてよかったと言った。あれは、あの一日の感想ではなかったのだと思う。クラシックの来ない春が何度も過ぎて、肋骨が肺を突く冬まで来た。そのぜんぶを、二十七歳の男はあの春に先払いで引き受けていた。

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