名馬の記憶を、
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年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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ステレンボッシュのイメージビジュアル
ステレンボッシュStellenbosch
Stellenbosch

ステレンボッシュ

通算成績15戦3勝

獲得賞金(海外含む・概算)約35,774万円

生年月日 2021.02.12(令和3年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ステレンボッシュの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
10 GI安田記念 東京 芝1600 5人気 D.レーン 1:32.9 上り33.9映像
2 GIIIエプソムカップ 東京 芝1800 5人気 戸崎圭太 1:45.3 上り33.1映像
7 GIII中山牝馬S 中山 芝1800 9人気 C.ルメール 1:47.7 上り35.3映像
10 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 6人気 C.ルメール 2:12.0 上り35.4映像
15 GII札幌記念 札幌 芝2000 3人気 池添謙一 2:03.4 上り37.7映像
8 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 3人気 戸崎圭太 1:32.4 上り34.2映像
13 GI大阪杯 阪神 芝2000 3人気 J.モレイラ 1:57.3 上り34.5映像
3 GI香港ヴァーズ シャティン 芝2400 1人気 J.モレイラ 映像
3 GI秋華賞 京都 芝2000 2人気 戸崎圭太 1:57.5 上り34.3映像
2 GI優駿牝馬 東京 芝2400 1人気 戸崎圭太 2:24.1 上り34.0映像
1 GI桜花賞 阪神 芝1600 2人気 J.モレイラ 1:32.2 上り33.4映像
2 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 5人気 C.ルメール 1:32.6 上り33.5映像
1 赤松賞 東京 芝1600 1人気 T.マーカンド 1:33.8 上り33.6
2 サフラン賞 中山 芝1600 1人気 横山武史 1:35.8 上り35.1
1 2歳新馬 札幌 芝1800 2人気 横山武史 1:51.1 上り35.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ステレンボッシュの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
エピファネイアEpiphaneiaシンボリクリスエスSymboli Kris SKris S.
Tee Kay
シーザリオCesarioスペシャルウィークSpecial Week
キロフプリミエールKirov Premiere
ブルークランズルーラーシップRulershipキングカメハメハKing Kamehameha
エアグルーヴAir Groove
ランズエッジダンスインザダークDance in the Dark
ウインドインハーヘアWind in Her Hair
STORY

旅程 — この馬の物語

2021年生まれの鹿毛の牝馬。父エピファネイア、母ブルークランズ。主な勝ち鞍は桜花賞。

南アフリカの名 ― ステルの森と、風の系譜

馬名は、南アフリカの街の名から採られている。ステレンボッシュ。ケープタウンの東、樫の並木が影を落とすワインの里で、その古い町は「ステルの森」を意味する。 名づけの糸は、母の名から伸びていた。母ブルークランズ――ブルークレーンは南アフリカの国鳥ハゴロモヅル、淡い青灰の羽をまとって高原の風に立つ鶴である。母から娘へ、南アフリカの情景がそのまま手渡されていた。 そして血の背骨は、日本競馬が最も大切にしてきた一族へまっすぐ繋がる。曾祖母はウインドインハーヘア。ディープインパクトを産み、キタサンブラックの父ブラックタイドを産んだ、あの牝馬である。祖母ランズエッジはディープインパクトの四分の三妹にあたる。父エピファネイアの母は、オークスとアメリカンオークスを勝ったシーザリオ。父方も母方も、日本競馬の宝が並ぶ血だった。 ノーザンファームに生まれ、吉田勝己の勝負服を着て、美浦の国枝栄厩舎に入る。アパパネアーモンドアイ――二頭の牝馬三冠を育てた名伯楽のもとへ、風の系譜を継ぐ鹿毛の牝馬が預けられた。

札幌の夏から、クビ差の暮れ ― デビューと阪神JF

二〇二三年七月、札幌。芝千八百の新馬戦を横山武史とともに危なげなく勝ち上がり、旅は静かに始まった。秋、中山のサフラン賞は二着に譲ったが、東京マイルの赤松賞を一番人気に応えて完勝し、暮れの大舞台への切符を掴む。 阪神ジュベナイルフィリーズ。手綱はルメールに替わった。五番人気の評価をものともせず鋭く伸びたが、前でしぶとく粘る一頭を捉えきれない。クビ差の二着。ゴール前で彼女の前に立ちはだかったのは、のちに最優秀二歳牝馬に選ばれるアスコリピチェーノだった。 この一クビの差が、半年後に別の意味を持つ――その先どうなるかは、まだ誰にも分からない。

桜、差し切る ― 二〇二四年の一冠

二〇二四年四月七日、阪神。桜花賞の直線で、ステレンボッシュは中団から外へ持ち出された。モレイラの手が押し出すと、脚色がまるで違う。ためた末脚が花道を切り裂き、先に抜け出していた馬たちをまとめて飲み込んだ。一分三十二秒二。 三着に首差で粘ったのは七番人気ライトバック。そして四分の三馬身差の二着に退いたのは、一番人気アスコリピチェーノ――暮れに自らをクビ差で退けた相手だった。半年越しの答え合わせを、彼女は最良の舞台で済ませてみせた。 モレイラにとって初めての桜花賞。国枝栄にとっては、アパパネアーモンドアイに続く三度目の桜の女王だった。レース後、名伯楽は多くを語らない。「これくらいは走れると思っていた」[^1]。抑えた口ぶりの奥に、この牝馬への確かな信頼が滲んでいた。

出典:日本経済新聞「桜花賞、ステレンボッシュ優勝 自信の末脚、堂々1冠目」2024年4月7日配信、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF071FE0X00C24A4000000/、閲覧日:2026年7月16日。

壁の名はチェルヴィニア ― 二冠目までの距離

優駿牝馬。一番人気に推されたステレンボッシュは、府中の直線で内から鋭く伸び、先頭をうかがった。だが残り二百メートル、外から一頭が猛然と脚を伸ばしてくる。チェルヴィニア。抜け出しかけた桜花賞馬は、半馬身だけ差された。二冠目は、指の先をすり抜けていった。 秋華賞でも壁は同じ名前だった。京都で戸崎圭太とともに三着に粘ったが、頂に立ったのはまたもチェルヴィニア。同世代の一頭が、彼女の前でだけ扉を閉じ続けた。 年の暮れ、彼女は海を渡る。香港ヴァーズ、一番人気。シャティンの芝二千四百で世界の強豪に及ばず三着に終わったが、桜花賞馬は国内に閉じこもらなかった。届かなかった二冠のぶんだけ、この馬はいつも頂の食卓に着き続けていた。

長い一年と、伯楽の退場

二〇二五年は、噛み合わない季節だった。大阪杯、ヴィクトリアマイル、札幌記念、エリザベス女王杯――四たび掲示板の外に沈んだ。桜を差し切ったあの脚は、どこへ行ったのか。誰よりも本人が答えを探していたはずだ。 そして二〇二六年の春、彼女を送り出してきた男が厩舎を去った。国枝栄、定年。三十七年の調教師生活だった。アパパネで、アーモンドアイで、牝馬の頂を二度も極めた名伯楽が、最後に桜の一冠へ導いた娘が、ステレンボッシュだった。引退式典で、飄々としたその人はこう言い残している。「日本の競馬は世界一」[^1]。 主を失ったわけではない。ステレンボッシュは宮田敬介の厩舎へ移り、旅は続く。育ての手が替わっても、走るのは変わらずこの一頭だった。

出典:日本経済新聞「JRA、7調教師の引退式典 国枝栄調教師『日本の競馬は世界一』」2026年3月1日配信、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC011OI0R00C26A3000000/、閲覧日:2026年7月16日。

風はまだ吹いている ― 再び走る日を

転厩後のステレンボッシュは、少しずつ手応えを取り戻していく。中山牝馬ステークスでは流れに乗れなかったが、続くエプソムカップでは上がり三十三秒一の脚で二着に伸びた。長いトンネルの出口に、光が差し始めていた。安田記念では強敵に力を出し切れなかったが、五歳になった今も、彼女はターフの上にいる。 十五戦三勝。派手な数字ではない。だが桜花賞という一冠は、いちど掴めば記録から消えることはない。そして何より、この馬には血がある。ディープインパクトとブラックタイドを産んだウインドインハーヘアの、シーザリオの、風の系譜。 曾祖母の名は、ウインドインハーヘア――髪をなびかせる風。その風は、ステルの森の樫並木を今も抜けていく。手綱が誰に替わろうと、桜を差し切った脚は消えていない。彼女が再び府中や京都の直線を風のように駆け抜ける、その日を静かに待てばいい。

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