名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

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ソウルスターリングのイメージビジュアル
ソウルスターリングSoul Stirring
Soul Stirring

ソウルスターリング

通算成績16戦5勝

獲得賞金3332万円

生年月日 2014.02.13(平成26年)毛色 青鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ソウルスターリングの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
13 GII日経賞 中山 芝2500 7人気 丸山元気 2:35.7 上り39.4映像
3 GII中山記念 中山 芝1800 6人気 北村宏司 1:46.6 上り35.2映像
GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 木幡育也 映像
GIIIエプソムカップ 東京 芝1800 武豊 映像
9 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 8人気 武豊 1:31.2 上り34.3映像
10 GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 3人気 北村宏司 1:45.9 上り34.2映像
3 GIIIクイーンS 札幌 芝1800 2人気 北村宏司 1:46.7 上り34.7映像
7 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 5人気 C.ルメール 1:32.7 上り33.5映像
10 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1600 2人気 C.ルメール 1:35.4 上り34.3映像
7 GIジャパンカップ 東京 芝2400 4人気 C.デムーロ 2:24.9 上り35.7映像
6 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 4人気 C.ルメール 2:09.7 上り39.4映像
8 GII毎日王冠 東京 芝1800 1人気 C.ルメール 1:46.1 上り34.0映像
1 GI優駿牝馬 東京 芝2400 1人気 C.ルメール 2:24.1 上り34.1映像
3 GI桜花賞 阪神 芝1600 1人気 C.ルメール 1:34.6 上り35.4映像
1 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 1人気 C.ルメール 1:33.2 上り33.8映像
1 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 1人気 C.ルメール 1:34.0 上り34.8映像
1 OPアイビーS 東京 芝1800 2人気 C.ルメール 1:48.9 上り33.9
1 2歳新馬 札幌 芝1800 1人気 C.ルメール 1:51.4 上り34.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ソウルスターリングの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
FrankelGalileoSadler's Wells
Urban Sea
KindデインヒルDanehill
Rainbow Lake
スタセリタStacelitaMonsunKonigsstuhl
Mosella
SoigneeDashing Blade
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STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの青鹿毛の牝馬。父Frankel、母スタセリタ。主な勝ち鞍は阪神ジュベナイルF・優駿牝馬・チューリップ賞。

十六冠の仔 ― 名前と血

2014年2月13日、北海道千歳市の社台ファーム。青鹿毛の牝馬が生まれた。 父はFrankel。14戦14勝、GI10勝を挙げて無敗のままターフを去った英国の怪物である。母はスタセリタ。フランスでサンタラリ賞・ディアヌ賞・ヴェルメイユ賞を勝ち、のちに渡ったアメリカでもタイトルを重ねて、通算GI6勝を数えた牝馬だった。その母が2013年、フランケルの仔を宿したまま海を渡り、社台ファームに繋養される。父と母のGI勝ち数を足して十六。競馬関係者はこの仔を「16冠ベビー」と呼んだ。 名は、ソウルスターリング。登録された意味は「魂を揺すぶる様な。そんな走りに期待して」。馬主は社台レースホース、管理を託されたのは美浦の藤沢和雄。そして手綱には、クリストフ・ルメールが座った。この男は、母スタセリタが三歳だった年の主戦騎手でもある。血だけでなく、鞍上までが母から娘へ引き継がれていた。

母に似た、大きなストライド ― 札幌の夏

2016年7月31日、札幌の芝1800m。八頭立ての新馬戦に、単勝1.7倍の1番人気で送り出された。中団に構えて直線で伸び、アドマイヤマンバイをクビ差だけ抑えての勝利。派手さのない勝ち方だった。それでもレースを終えたルメールは、この牝馬に母の面影を見ている。「お母さんのスタセリタに似ていて大きなストライドです。これから楽しみです」[^1] 10月、東京のアイビーステークス。ここで1番人気を譲った相手は、新馬を快勝してきたペルシアンナイト――のちにマイルチャンピオンシップを勝つ牡馬である。ソウルスターリングは先行から抜け出し、その1馬身3/4前でゴールした。二戦二勝。府中の広い芝は、この馬の脚に合っていた。

出典:ラジオNIKKEI「【メイクデビュー】(札幌5R)~フランケル産駒のソウルスターリングがデビューV」2016年7月31日配信、http://www.radionikkei.jp/keiba/post_9424.html 、閲覧日:2026年7月26日。

二歳女王 ― 怪物の娘が、世界に先んじる

12月11日、阪神ジュベナイルフィリーズ。十八頭のなかには、小倉2歳ステークスを6馬身差で圧勝したレーヌミノル、アルテミスステークスを勝ったリスグラシュー、新潟2歳ステークスのヴゼットジョリーが揃っていた。重賞をまだ一つも勝っていないソウルスターリングが、それでも2.8倍の1番人気に推される。 レースは危なげがなかった。常に3、4番手。四コーナーを楽な手応えで回り、直線でルメールが追い始めると素直に反応する。左鞭を一度振るっただけで、2着のリスグラシューに1馬身1/4差をつけた。重賞初制覇が、そのままGI初制覇になった。 この勝利には、もうひとつの意味があった。父フランケルの産駒から出た、世界で初めてのGI勝ち馬である。無敗の怪物が種牡馬として何を伝えるのか――その最初の答えを、阪神の芝1600mで娘が出した。年が明けて、2016年のJRA賞最優秀2歳牝馬に選ばれる。

一・四倍 ― 桜の下で消えた無敗

2017年3月4日、チューリップ賞。単勝1.5倍。五番手から直線で脚を伸ばし、ミスパンテールに2馬身差をつけて完勝する。デビューから四連勝、桜花賞への優先出走権も手にした。 4月9日、阪神。前日のオッズは1.1倍、当日でも1.4倍。断然の1番人気で、牝馬三冠の一冠目に立つ。馬場は稍重。中団に控えて直線を向くと、前で先に抜け出していたのはレーヌミノルだった。追う。届かない。さらに外からリスグラシューに交わされ、着順は3着。勝ち馬との差は0.1秒しかなかった。 無敗のまま桜を手にする物語は、ここで途切れた。四戦四勝という数字に、初めて欠けが入った春だった。

樫の女王 ― 母と同じ手綱で

5月21日、東京競馬場、芝2400m。枠は1枠2番、単勝2.4倍の1番人気。 スタートから2、3番手を進み、四コーナーで前との差を詰める。ルメールが追い出すと直線半ばで先頭に立った。残り200m、同じ1枠のモズカッチャンが内から急襲してくる。だがソウルスターリングは、それを突き放した。1馬身3/4差。3着のアドマイヤミヤビはさらに2馬身半後ろで、二頭だけが抜け出したレースだった。樫の女王。 この一冠には、八年前のフランスが重なっている。2009年、母スタセリタは三歳牝馬の頂点であるディアヌ賞――仏オークス――を勝った。その日、鞍上にいたのがルメールである。母は海の向こうのオークスを、娘は府中のオークスを、同じ手綱で獲った。 藤沢和雄はこの勝利で重賞100勝に到達し、あわせて厩舎にとって初めてのオークス制覇となった。ルメールにとっては前週のヴィクトリアマイル(アドマイヤリード)に続く二週連続のGIで、翌週には同じ藤沢厩舎のレイデオロで日本ダービーも制する。2017年の春、府中の二つのクラシックは、同じ厩舎と同じ騎手のものだった。ソウルスターリングは、この年のJRA賞最優秀3歳牝馬に選ばれる。

反応しなかった合図 ― 二〇一七年の秋

秋、陣営は秋華賞へ向かわなかった。三冠の残り一つを求めず、古馬の中へ出ていく道を選ぶ。 10月8日の毎日王冠には、マカヒキワンアンドオンリーサトノアラジンリアルスティールと、ソウルスターリングを含めて五頭のGI馬が集まった。GIIとは思えない顔ぶれのなかで、それでも単勝2.0倍の1番人気。逃げ馬がおらず、押し出されるように先頭に立つ。残り400mまではまだ先頭だった。だが、ルメールのゴーサインに馬は反応しなかった。ずるずると後退して8着。勝ったのはリアルスティールだった。 三週間後の天皇賞・秋は、台風が東京を洗っていた。前半1000m64秒2という歴史的な不良馬場。直線で大外を回されるロスもあり、キタサンブラックが勝ったその一戦を6着で終える。続くジャパンカップでは、ルメールが同じ厩舎のダービー馬レイデオロに騎乗するため、鞍上はC.デムーロに替わった。中団から伸びを欠き、シュヴァルグランの戴冠を7着で見送る。 樫の女王の秋は、一度も掲示板に名を残さないまま過ぎていった。

痛みの二年 ― 骨折と、二度の取消

2018年、四歳。始動戦の阪神牝馬ステークスは直線で全く伸びずに10着。ヴィクトリアマイルは、苦手にしていた雨の馬場で後方から追い込んだが前には届かず7着だった。 夏の札幌、クイーンステークス。鞍上が北村宏司に替わる。好位から先頭で直線に入り、ディアドラには離されたものの、フロンテアクイーンにクビ差の3着に踏みとどまった。優駿牝馬以来、一年二か月ぶりに掲示板へ名前が戻った日である。 だが秋の府中牝馬ステークスで10着に敗れると、レース後に骨折が判明する。予定は白紙になり、長い休みに入った。 2019年5月、およそ七か月ぶりの復帰戦。ヴィクトリアマイルで手綱を取ったのは武豊だった。八番人気の低評価をはねのけるように直線で有力馬に並びかけたが、結果は9着。次のエプソムカップは、直前に左前肢の跛行が出て出走取消。夏を休養に充て、秋は木幡育也との初コンビで府中牝馬ステークスへ向かうはずが、また同じ左前脚が痛んだ。二度目の取消だった。 この年、ソウルスターリングがゲートに入れたのは、たった一度きりだった。

もう一回ぐらい ― 中山の春

社台レースホースが所有する牝馬は、六歳の3月末が現役の期限と決まっている。2020年3月1日の中山記念は、事実上の引退レースと見られていた。 九頭立ての6番人気。北村宏司が久しぶりに背に戻る。逃げるマルターズアポジーを追うように2番手を進み、直線で勝ったダノンキングリーには交わされたものの、最後まで粘って3着に食い込んだ。休養と二度の取消をはさんで、久しぶりにこの馬らしい競馬だった。 レースのあと、藤沢和雄はこう言った。「2戦連続で出走取り消しになっていたし、もう1回ぐらい走らせてあげたいね」[^1] 勝たせるための一戦ではない。走らせてやるための一戦だった。3月28日、中山の日経賞。丸山元気を背に、三コーナーで一度は先頭に並びかける。だがそこから失速し、13着でゴールした。芝2500mは、この馬が生涯で走った最も長い距離である。 通算16戦5勝、獲得賞金3億332万円。3月31日、競走馬登録を抹消。デビューから最後の一完歩まで、この馬を管理したのは藤沢和雄ただ一人だった。

出典:スポーツニッポン「【中山記念】ソウルスターリング健闘3着 北村宏「踏ん張ってくれた」」2020年3月2日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2020/03/02/kiji/20200301s00004048497000c.html 、閲覧日:2026年7月26日。

魂を揺する血 ― 千歳へ帰る

生まれた場所、北海道千歳市の社台ファームへ、繁殖牝馬として帰った。 一族は、その後も走り続けている。二つ下の半妹シェーングランツ(父ディープインパクト)は2018年のアルテミスステークスを勝った。そして一つ上の半姉サザンスターズが産んだ牝馬――ソウルスターリングにとっては姪にあたる――スターズオンアースが、2022年の桜花賞を制する。鞍上はルメールだった。続く優駿牝馬も勝ち、二冠牝馬になる。ソウルスターリングが1.4倍を背負って取り逃した桜の冠を、五年後、一族が同じ手綱で獲り返したことになる。牝系はドイツの「Sライン」。長く走り続けてきた血である。 自身の産駒も、順に競馬場へ出ていく。初仔スターリングアップ、二番仔スタードメイソン、三番仔にはコントレイルの娘スターリットフレア。2024年に生まれた牝馬の父は、あの不良馬場の府中を制したキタサンブラックだった。 藤沢和雄は2022年2月に定年を迎え、厩舎の扉を閉じている。ルメールは今も日本で乗り続けている。「魂を揺すぶる様な。そんな走りに期待して」――名に託されたその願いが、そっくりそのまま形になった日を一つ挙げるなら、2017年5月21日の府中だろう。1枠2番から先頭へ立ち、内から迫るモズカッチャンを突き放した、あの直線の二百メートルである。

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