名馬の記憶を、再生する。
RACE & RETIREMENT FILM ARCHIVE
YouTubeに散らばる名レースの記録と、北海道で余生を送る引退馬たちの映像を、ひとつの旅(Journey)として結び直すアーカイブ。
レースの三分間だけが、馬の一生ではない。ゴール板の先に続く時間まで、辿れるように。
物語で辿る
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編集部の◎印 — まずはここからハロン棒をつまんで、過去へ。
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この時代を駆けた馬
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HOKKAIDO — HORSE FARM MAP
物語で辿る競馬史
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スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。
シックスペンス
通算成績13戦6勝
獲得賞金4億2,069万円
生年月日 2021.04.17(令和3年)毛色 鹿毛性 牡
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | GI安田記念 | 東京 芝1600 | 8人気 | 武豊 | 1:32.1 | 上り33.9 | 映像 | |
| 7 | GII読売マイラーズカップ | 京都 芝1600 | 4人気 | 戸崎圭太 | 1:32.1 | 上り33.3 | 映像 | |
| 9 | GIフェブラリーステークス | 東京 ダート1600 | 5人気 | 戸崎圭太 | 1:36.4 | 上り37.2 | 映像 | |
| 11 | GIチャンピオンズカップ | 中京 ダート1800 | 5人気 | C.ルメール | 1:51.5 | 上り38.6 | 映像 | |
| 2 | JpnIマイルチャンピオンシップ南部杯 | 盛岡 ダート1600 | 5人気 | 御神本訓史 | 1:34.9 | 上り36.4 | 映像 | |
| 12 | GI安田記念 | 東京 芝1600 | 3人気 | C.ルメール | 1:33.4 | 上り34.7 | 映像 | |
| 7 | GI大阪杯 | 阪神 芝2000 | 1人気 | 横山武史 | 1:56.6 | 上り34.6 | 映像 | |
| 1 | GII中山記念 | 中山 芝1800 | 2人気 | C.ルメール | 1:44.8R | 上り33.9 | 映像 | |
| 1 | GII毎日王冠 | 東京 芝1800 | 1人気 | C.ルメール | 1:45.1 | 上り33.3 | 映像 | |
| 9 | GI東京優駿(日本ダービー) | 東京 芝2400 | 3人気 | 川田将雅 | — | 映像 | ||
| 1 | GIIスプリングステークス | 中山 芝1800 | 1人気 | C.ルメール | 1:49.4 | — | 映像 | |
| 1 | ひいらぎ賞 | 中山 芝1600 | 2人気 | 石川裕紀人 | 1:35.5 | — | — | |
| 1 | 新馬 | 中山 芝1600 | 1人気 | C.ルメール | 1:37.1 | — | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父キズナKizuna | ディープインパクトDeep Impact | サンデーサイレンスSunday Silence |
| ウインドインハーヘアWind in Her Hair | ||
| キャットクイルCatequil | ストームキャットStorm Cat | |
| パシフィックプリンセスPacific Princess | ||
| 母フィンレイズラッキーチャームFinley's Luckycharm | トワーリングキャンディTwirling Candy | キャンディライドCandy Ride |
| ハウスオブダンジングHouse of Danzing | ||
| デイオブヴィクトリーDay of Victory | ヴィクトリーギャロップVictory Gallop | |
| ギャザーザデイGather the Day |
旅程 — この馬の物語
父キズナ譲りのマイル巧者。三度の挫折を越え、2026年安田記念で武豊にJRA最年長GI制覇をもたらしGI初戴冠。
幸運の硬貨 ― 名前の由来
「Something old, something new, something borrowed, something blue, and a sixpence in her shoe.」 古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの、そして靴のなかに六ペンス銀貨を。イギリスに古くから伝わる、花嫁の幸せを願うおまじないである。靴に忍ばせた一枚の硬貨が、生涯の幸運を呼び込むとされた。 母の名はフィンレイズラッキーチャーム――「フィンレイの幸運のお守り」。その娘に与えられた名が、シックスペンス。お守りから幸運の硬貨へ。名前そのものが、すでに小さな物語になっていた。2021年4月17日、ノーザンファーム生まれの牡馬。馬主はキャロットクラブ。美浦・国枝栄の管理馬として、その蹄跡は始まる。
父キズナ、祖父ディープインパクト ― 血の系譜
父は、武豊を蘇らせたあの馬だった。 キズナ。2013年のダービー馬にして、いまや日本のリーディングサイアー。その父はディープインパクト。シックスペンスは、日本競馬の本流ともいえる父系を、まっすぐに受け継いでいる。母フィンレイズラッキーチャームはアメリカで重賞五勝、母父はトワーリングキャンディ。日本の王道血脈にアメリカのスピードが溶け込んだ配合。良血、という言葉がこれほど似合う若駒も珍しかった。 期待は、デビュー前から静かに高まっていた。
無傷の三連勝 ― 春までの輝き
2023年9月10日、中山。新馬戦の単勝は1.5倍。ルメールを背にした圧倒的な支持に、シックスペンスは危なげなく応えた。続くひいらぎ賞も完勝。明けて2024年3月17日、スプリングステークス。クラシックへの登竜門を、この馬は三連勝で駆け抜ける。デビューから無傷でのスプリングS制覇だった。 皐月賞への優先出走権。だが陣営はあえてその王道を回避し、ダービーへ直行する道を選んだ。無傷のまま、日本ダービーへ。ファンの期待は、頂点に達していた。
府中の敗北 ― 力みという誤算
2024年5月26日、東京優駿。シックスペンスは三番人気に支持された。 だが、いつもの走りではなかった。鞍上の川田将雅は、レース後にこう振り返っている。「調教では全く見せていない力みが、返し馬であった」。本来の追走ができないまま、最後まで持ち味を出しきれず九着。デビューからの連勝は、最も大きな舞台で止まった。 それは、エリート街道を歩んできた馬が初めて味わう挫折だった。だが、若駒の物語はここで終わらない。立て直しの秋が、待っていた。
古馬の壁、コースレコード ― 重賞戦線へ
2024年10月6日、毎日王冠。シックスペンスはルメールとともに古馬を撃破し、重賞二勝目を手にする。明けて2025年3月2日、中山記念。二番人気で抜け出すと、時計は1分44秒8――中山芝1800mのコースレコード。世代の壁を越え、古馬の一線級を相手に、この馬は確かに強くなっていた。 だが、GIの頂はなお遠い。大阪杯は一番人気で七着。安田記念は十二着。さらに陣営は大胆な選択に出る。ダートへの挑戦だった。秋、盛岡の南部杯。初めての砂を、御神本訓史を背に二着と好走してみせる。国枝はそのポテンシャルを、ひとつの言葉で評した――「大谷翔平するしかないね」。二刀流。芝もダートも走れる稀有な資質への、最大級の賛辞だった。
転厩、そして空いた手綱
2026年、ひとつの時代が区切りを迎える。 師・国枝栄が定年を迎え、厩舎が解散したのだ。その国枝のもとでのラストランとなったフェブラリーステークスは、九着。アーモンドアイを育てた名伯楽の手を離れ、シックスペンスは田中博康厩舎へと移る。転厩初戦のマイラーズカップも七着。良血馬は、まだ大きなタイトルに手が届かないまま、五歳の春を迎えていた。 そんな六月、運命のいたずらのように、ひとつの手綱が空く。
二〇二六年六月七日 ― 代打の天才
第76回安田記念。武豊は本来、マイラーズカップを勝ったアドマイヤズームで臨むはずだった。 だが、その馬が爪を痛めて回避する。鞍上の空いたシックスペンスに、白羽の矢が立った。武豊にとって、初コンビ。八番人気。誰も、この組み合わせに大きな期待は寄せていなかった。 初めてブリンカーを着けたシックスペンスは、好スタートから二番手につけると、直線で抜け出す。内のワールズエンド、外のガイアフォースが二着同着でなだれ込むのを、クビ差だけ抑えこんだ。1分32秒1。 ゴール板を過ぎた瞬間、武豊は五十七歳。JRA・GI最年長勝利記録の更新だった。父キズナで八年ぶりのダービーを勝ったあの天才が、今度はその父の産駒で、新たな金字塔を打ち立てた。「急きょの騎乗で結果を出せて、すごくうれしい。自分の手綱でダービーを勝ったキズナの産駒で勝てて、本当にうれしい」。武豊は、そう言葉を選んだ。 田中博康調教師にとっては、JRA芝GI初制覇。「彼がジョッキー時代から仲良くしていて、一緒に勝てたらいいねと話していた。それが実現できた」。かつてこの馬を管理した国枝栄も、祝福を寄せたという――「卒業生が、花開いたね」。
受け継がれる絆
父キズナは、低迷していた武豊を蘇らせた馬だった。 そしてその産駒シックスペンスは、五十七歳になった武豊に、最年長GI制覇という新たな栄誉を届けた。父が騎手を救い、仔が騎手に勲章を贈る。十三年の歳月をまたいで、ひとりの天才と、ひとつの血脈が、二度交わった。 靴に忍ばせた幸運の硬貨は、めぐりめぐって、いちばんふさわしい手のひらに落ちた。シックスペンスの蹄跡は、まだ途中にある。この幸運の名が、次にどんな物語を連れてくるのか――競馬場は、その続きを待っている。