名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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シャフリヤールのイメージビジュアル
シャフリヤールShahryar
Shahryar

シャフリヤール

通算成績18戦4勝

獲得賞金(海外含む・概算)約15716万円

生年月日 2018.04.13(平成30年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
シャフリヤールの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
2 GI有馬記念 中山 芝2500 10人気 C.デムーロ 2:31.8 上り35.0映像
3 GIBCターフ デルマー 芝2400 3人気 C.デム 映像
5 GII札幌記念 札幌 芝2000 2人気 武豊 2:00.2 上り35.1映像
2 GIドバイシーマクラシック メイダン 芝2410 6人気 C.デム 映像
5 GI有馬記念 中山 芝2500 8人気 松山弘平 2:31.2 上り34.8映像
3 GIBCターフ サンタアニタパー 芝2400 5人気 C.デムーロ 映像
11 GII札幌記念 札幌 芝2000 5人気 横山武史 2:04.8 上り39.0映像
5 GIドバイシーマクラシック メイダン 芝2410 3人気 C.デムーロ 映像
2 GIジャパンカップ 東京 芝2400 1人気 C.デムーロ 2:23.8 上り33.7映像
5 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 2人気 C.デムーロ 1:58.1 上り33.6映像
4 GIプリンスオブウェール アスコット 芝1990 2人気 C.デムーロ
1 GIドバイシーマクラシック メイダン 芝2410 4人気 C.デムーロ 2:26.8 映像
3 GIジャパンカップ 東京 芝2400 2人気 川田将雅 2:25.2 上り34.4映像
4 GII神戸新聞杯 中京 芝2200 1人気 福永祐一 2:18.7 上り36.6映像
1 GI東京優駿 東京 芝2400 4人気 福永祐一 2:22.5 上り33.4映像
1 GIII毎日杯 阪神 芝1800 2人気 川田将雅 1:43.9 上り34.1映像
3 GIII共同通信杯 東京 芝1800 2人気 福永祐一 1:48.0 上り33.4映像
1 2歳新馬 京都 芝1800 1人気 福永祐一 1:49.9 上り34.6

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
シャフリヤールの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
ドバイマジェスティDubai MajestyEssence of DubaiPulpit
Epitome
Great MajestyGreat Above
Mistic Majesty
STORY

旅程 — この馬の物語

2018年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母ドバイマジェスティ。主な勝ち鞍は東京優駿・ドバイシーマクラシッ・毎日杯。

千夜一夜の王 ― 名と血

シャフリヤール――その名は、『千夜一夜物語』に登場する王に由来する。妻に裏切られて女性を信じられなくなり、毎夜娶っては翌朝に手にかけていた王。だが聡明なシェヘラザードは、夜ごと物語を語り、続きが気になる王に「また明日」と言わせて、千と一夜を生き延びた。物語が続くかぎり、明日が来る――そういう名である。 母はドバイマジェスティ。2010年のブリーダーズカップ・フィリー&メアスプリント(GI)を制し、その年のエクリプス賞最優秀短距離牝馬に輝いたアメリカのチャンピオン牝馬だ。父はディープインパクト――その母ウインドインハーヘアは、日本の血統地図を塗り替えた名牝である。 この父と母の組み合わせは、すでに一頭の大物を世に送っていた。全兄アルアイン――2017年の皐月賞、2019年の大阪杯を制したGI馬である。同じディープインパクトとドバイマジェスティから、二頭目のGIホースが生まれようとしていた。母の名が指し示す中東の地ドバイは、のちにこの弟の運命の舞台になる。2018年4月13日、ノーザンファームに生まれた黒鹿毛の牡馬は、サンデーレーシングの所有馬として、栗東・藤原英昭厩舎に入った。

ハナ差の戴冠 ― ダービー2021

2020年10月、京都の新馬戦を福永祐一で危なげなく勝ち上がる。明けて2021年、共同通信杯で3着に取りこぼすも、毎日杯を勝って本番へ。日本ダービー、4番人気。鞍上は、デビュー戦と同じ福永祐一だった。 直線、シャフリヤールは外から鋭く伸び、無敗の皐月賞馬エフフォーリアと馬体を併せた。府中の長い直線での叩き合い。ゴール板を過ぎたのは、鼻先ひとつ――ハナだけ、シャフリヤールが前に出ていた。勝ち時計は2分22秒5の好時計。福永にとっては、前年のコントレイルに続く連覇、自身3度目のダービー制覇だった。無敗馬を倒しての、ハナ差の戴冠である。

世界へ ― ドバイの夜

秋のジャパンカップで3着。世代の一線と互角に走ったこの馬を、藤原英昭は国内にとどめなかった。2022年春、初の海外遠征。舞台はメイダン、ドバイシーマクラシック(GI)。 鞍上はC.デムーロ。直線で抜け出すと、1番人気ユビアーをクビ差おさえて押し切った。初の海外遠征で、GI2勝目。日本ダービー馬による海外GI制覇は史上初、日本馬のこのレース制覇は2014年のジェンティルドンナ以来だった。母の名が背負っていた「ドバイ」の地で、シャフリヤールは世界に名を轟かせる。「日本にとってすごい夜」[^1]――デムーロは、そう言って喜んだ。

出典:中日スポーツ「【ドバイシーマクラシック】ダービー馬シャフリヤールが完勝…Cデムーロ「日本にとってすごい夜」ドバイデー日本馬5勝目」2022年3月26日配信、閲覧日:2026年6月28日。

海を渡る日々 ― 世界の一線で

ここからのシャフリヤールは、日本の枠に収まらない一頭になった。2022年、アスコットのプリンスオブウェールズステークスで4着。秋は天皇賞(秋)で、のちに世界一へ登りつめるイクイノックスの後塵を拝して5着、続くジャパンカップでは1番人気に応えられず2着に終わる。 翌2023年も、2024年も、シャフリヤールは海を渡り続けた。ドバイのメイダン、アメリカのサンタアニタとデルマー――ブリーダーズカップ・ターフでは二年続けて3着に好走した。勝ち切れない日も多かった。だが、ドバイ、イギリス、アメリカ、そして日本のグランプリ。世界中の大舞台で、つねに上位を走り続けた日本馬は、そう多くない。新たなGIタイトルこそ加わらなくとも、この黒鹿毛は何度でも海を渡り、世界の一線に立ち続けた。

最後の一夜 ― 有馬2024

2024年暮れ、中山。6歳になったシャフリヤールは、有馬記念で10番人気の低評価に置かれていた。鞍上はC.デムーロ。 だが、世界を旅した脚は衰えていなかった。直線で伸びて、3歳牝馬レガレイラと馬体を併せる。ゴール板まで顔の上げ下げが続く叩き合い――鼻先ひとつ、わずかに前へ出たのはレガレイラだった。ハナ差の2着。皮肉なことに、最後の最後でシャフリヤールをかわした牝馬は、彼の父ディープインパクトの母――ウインドインハーヘアの血を引く一頭だった。同じ源を持つ血が、ゴール前で交差した。 これが、現役最後の一戦になった。18戦4勝。ダービーと、ドバイの夜。そして世界中に刻んだ無数の足跡を残して、シャフリヤールはターフを去った。

第二章 ― 引退、そして撤回

2025年春、シャフリヤールは社台スタリオンステーションで種牡馬としての一歩を踏み出した。ダービー馬の血、世界を旅した血を、次の世代へ。多くがそう期待した。 ところが、最初の春の受胎率が、上がらなかった。体調面の懸念から、乗馬への転用すら検討される――種牡馬としての引退が、現実味を帯びる。走ることをやめた名馬は、血を残すことさえ閉ざされかけた。 だが、ここでも物語は続いた。陣営はオフシーズンに試験的な種付けを重ね、獣医師とともに精密検査を繰り返す。半年ほど間をあけて付けた約10頭は、ほぼすべてが受胎した。2025年11月、種牡馬引退は撤回され、翌2026年の供用が決まる。社台スタリオンステーションの吉田勝己は語った。「春は受胎率が良くなくて乗馬にしようという話もあったのです。でも半年くらい間をあけて10頭ほど付けたところ、ほぼ全部が受胎した。こういう例はなかなかないと思いますよ」[^1]。育ての親、藤原英昭は、諦めずに支えた社台スタリオンのスタッフと獣医師たちの尽力をたたえたうえで、こう続けた。「それに応えてくれたシャフリヤールの生命力は偉大ですね。改めて第2章が始まる気がします」[^1]。 千夜一夜の王は、物語が続くかぎり明日を生きた。競走馬として一度、種牡馬として一度――二度、終わりの淵に立ちながら、シャフリヤールはそのたびに「続き」を手にした。ダービーの記憶と、世界を渡った夜の数々を血に宿して、この馬の物語は、まだ次の夜へと続いていく。

出典:デイリースポーツ「引退撤回!シャフリヤールが来年も種牡馬供用へ 吉田勝己氏「こういう例はなかなかない」 藤原師「改めて第2章が始まる気がします」」2025年11月23日配信、https://www.daily.co.jp/umaya/news/2025/11/23/0019737685.shtml、閲覧日:2026年6月28日。

BLOODLINE

血統解説

教科書に載らない配合 ― シャフリヤール、ディープが化けさせた異系の母

母ドバイマジェスティは、日本の名牝系の出ではない。アメリカでダートの短距離を制した女王だ。2010年のブリーダーズカップ・フィリー&メアスプリントを勝ち、その年の最優秀女性スプリンターに選ばれている。海を渡ってディープインパクトと配され、先に皐月賞・大阪杯のアルアインを、続いてこのシャフリヤールを産んだ。同じ父母から出た全兄弟が、そろってGIを勝っている。

血の設計を見ると、この配合は日本の王道から外れている。母ドバイマジェスティの父エッセンスオブドバイは、名種牡馬タピットを出したパルピットの子――アメリカのダート王道、A.P.インディー系だ。父ディープインパクト(サンデーサイレンス系)とはほとんど血が重ならず、シャフリヤールの5代内はアウトブリード。柔らかいスタミナと斬れの父に、硬い米ダートのスピードとパワーの母。共通の祖先で締めるクロスを持たず、まったく異質な二本を一度に合わせた配合である。

教科書には載らない組み合わせに見える。だが結果は逆を言う。グランアレグリアは母父にタピットを持ち、ディープ産駒でマイル路線のGIを6勝した。そのタピットと、シャフリヤールの母父エッセンスオブドバイは、ともにパルピットの子――同じA.P.インディー系だ。どちらもディープに米ダートの血を重ねた設計である。タピットもA.P.インディー系も、アメリカでは超一流の主流血。ただしそれは“ダート”の主流で、日本の“芝”ではむしろ異質だ。ダート色の濃い母系は、素直に読めばダート寄りにも出かねない。それを芝の一線級へ化けさせるのがディープインパクトで、この母からもアルアイン・シャフリヤールと2頭のGI馬が出た。ダート向きに出てもおかしくない血を、芝の頂点へ引き上げたのである。

面白いのは、同じ配合の兄弟が違う形に出たことだ。兄アルアインは2000mを先行で押し切る硬派、弟シャフリヤールは2400mを差すダービー馬。ディープの柔らかいスタミナと、母がもたらす米国のパワー――その配分が、兄では前で粘る力に、弟では長く伸びる差し脚に振れた。異質な血を合わせた配合は資質に幅を持たせ、距離も脚質も一方向に固めない。

走りもそれを映す。東京優駿を差し切って戴冠し、翌年はドバイシーマクラシックを制した。以後も日本・ドバイ・イギリス・アメリカのGIを転戦し、6歳まで一線級で走り続けた。強いクロスの緊張ではなく、異質な血を掛け合わせたアウトブリードの活力とタフさ――それがこの馬に、世界を回る丈夫さと、2400mを勝ち切る総合力を与えている。

※血統表の構造から読み取れる血の性質を書いた。

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