名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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セイウンワンダーのイメージビジュアル
セイウンワンダーSeiun Wonder
Seiun Wonder

セイウンワンダー

通算成績13戦4勝

獲得賞金23,168万円

生年月日 2006.04.30(平成18年)毛色 青毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
セイウンワンダーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
16 GI宝塚記念 阪神 芝2200 7人気 福永祐一 2:14.8 上り37.8映像
1 GIIIエプソムカップ 東京 芝1800 1人気 福永祐一 1:46.1 上り34.6
4 GII読売マイラーズカップ 阪神 芝1600 4人気 福永祐一 1:33.2 上り33.7
6 GI有馬記念 中山 芝2500 10人気 藤田伸二 2:31.6 上り36.9映像
3 GI菊花賞 京都 芝3000 6人気 福永祐一 3:03.7 上り35.2映像
3 GII神戸新聞杯 阪神 芝2400 5人気 福永祐一 2:24.6 上り34.7
13 GI東京優駿 東京 芝2400 3人気 福永祐一 2:36.3 上り40.6映像
3 GI皐月賞 中山 芝2000 4人気 内田博幸 1:59.0 上り34.7映像
8 GII報知杯弥生賞 中山 芝2000 2人気 岩田康誠 2:04.4 上り36.2映像
1 GI朝日杯フューチュリティステークス 中山 芝1600 2人気 岩田康誠 1:35.1 上り35.0映像
1 GIII新潟2歳S 新潟 芝1600 1人気 岩田康誠 1:35.4 上り34.4
1 2歳未勝利 阪神 芝1600 1人気 岩田康誠 1:35.6 上り34.4
2 2歳新馬 阪神 芝1600 1人気 岩田康誠 1:35.5 上り35.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
セイウンワンダーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
グラスワンダーGrass WonderSilver HawkRoberto
Gris Vitesse
AmerifloraDanzig
Graceful Touch
セイウンクノイチサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
アンカースティームリアルシャダイReal Shadai
アイレテスコ
STORY

旅程 — この馬の物語

2006年生まれの青毛の牡馬。父グラスワンダー、母セイウンクノイチ。主な勝ち鞍は朝日フューチュリティ・新潟2歳S・エプソムC。

六十万円の母 ― 三石に生まれた青毛

母は、一銭も稼がないまま競走馬をやめた馬である。 セイウンクノイチ。1998年4月15日、静内の岡田スタッドに生まれた青鹿毛の牝馬で、父はサンデーサイレンス。西山牧場の所有馬として、代表者の西山茂行が使う冠名「セイウン」を与えられた。美浦の栗田博憲厩舎から2000年秋にデビューし、東京、中山、福島、新潟を8度走って、一度も掲示板に載らないまま引退している。8戦0勝、獲得賞金は0円だった。 繁殖牝馬になった初年度の相手はセイウンスカイで、西山牧場で初仔を産んだ。2年目にパラダイスクリークを受胎すると、その秋、繁殖牝馬のセールに上場される。買ったのは、北海道新ひだか町で馬を作る筒井征文だった。競り合いはなく、60万円。気性がうるさい馬だったから他の買い手が引いたのだろう、良い馬なのにもったいない――のちに筒井はそう振り返っている。 筒井牧場は、夫婦二人で繁殖牝馬4頭を世話する家族経営である。筒井には理屈があった。超一流の種牡馬を自分の繁殖牝馬につけるのは、経済的に難しい。しかし、その一流種牡馬の産駒でありながら競走成績のふるわなかった牝馬なら、割安で買える。そして一流種牡馬をつけられたという事実そのものが、母系の良さの証明でもある。走らなかったサンデーサイレンス産駒の牝馬は、彼の理屈のちょうど真ん中にいた。 筒井牧場でセイウンクノイチは2頭を産み、3頭目の相手として2005年に選ばれたのがグラスワンダーだった。筒井はグラスワンダーの供用初年度から自分の繁殖牝馬に交配を続けていたが、この牝馬につけるのは初めてだった。 2006年4月30日、三石の筒井牧場に青毛の牡馬が生まれる。祖母アンカースティームはリアルシャダイの娘。さらに遡れば、五代母サンマリノは、1959年に天皇賞(秋)と有馬記念を勝った牝馬ガーネツトの全妹にあたる。九代母フロリストは競走馬名をフロラーカツプといい、1924年の帝室御賞典を勝っている。60万円の値札の後ろには、そういう血が繋がっていた。

買い手のつかない当歳 ― 二度目の値札

最初の値札には、買い手がつかなかった。 離乳を終えた青毛の牡馬は、コンサイナーに委託されて当歳のセールに上場されたが、売れずに牧場へ戻っている。翌2007年7月の日高セレクションセールで、この馬を引き取ったのは日本中央競馬会だった。税抜800万円。JRAが自ら育てて売る「JRA育成馬」になったのである。 連れて行かれた先は、浦河町のJRA日高育成牧場。1965年に開かれた、競走馬の育成技術を研究し、実際に若い馬を鍛えて競売にかける日本中央競馬会の牧場である。スタッフの手で1年近く育てられた牡馬は、2008年4月のJRAブリーズアップセールに上場された。売る前に走らせて見せる調教供覧で、1ハロンの時計は出場メンバーの2番目だった。 札を入れたのは、栗東の領家政蔵である。馬主の大谷高雄から見立てを任され、大谷名義で競りに加わった。スタート価格は800万円。競り合いは止まらず、落ちたときの値は税抜2600万円――そのセールの最高価格を更新する数字だった。領家は別のアグネスタキオン産駒(のちのナイキハイグレード)と最後まで迷い、調教での動きが良かったほうを選んでいる。 領家政蔵は1943年、鹿児島県曽於郡大崎町の農家の次男に生まれた。中学を出て阪神・田中好雄厩舎に騎手見習いとして入り、大柄な体格を理由に厩務員になれと勧められながら、1963年に免許を取って乗り始める。通算2586戦296勝、重賞6勝。1980年に二度目の受験で調教師免許を取り、翌1981年6月、廃業した中村武志の管理馬を引き継いで厩舎を開けた。1983年、抽籤馬のラブリースターで金鯱賞を勝ったのが調教師としての初重賞。その12年後、ラブリースターが産んだワンダーパヒュームが桜花賞を勝ち、初めてのGIになった。抽籤で回ってきた牝馬の娘が、大きなところを勝つ。似た筋書きを、この調教師は一度見ている。そしてそこから13年、大きなタイトルには手が届いていなかった。 新しい馬には、母の名から「セイウン」を、父の名から「ワンダー」を取って組み合わせた名がついた。セイウンワンダー。名の前半は、母を持っていた牧場の冠名である。

半馬身 ― 戻さないでほしい

2008年6月21日、阪神競馬場の芝1600メートル、2歳新馬。9頭立ての稍重。 当初は武豊が乗る予定だった。しかし武は、同じレースに出る2番人気のツルマルジャパンを選ぶ。空いた鞍に跨ったのが岩田康誠だった。単勝1.9倍の1番人気に応えて2番手を追走したセイウンワンダーは、逃げるツルマルジャパンを最後まで捉えきれず、半馬身差の2着に終わる。ただしこの2頭は、3着のリディックに9馬身の差をつけていた。デビュー戦は、事実上の一騎打ちだった。 レースの直後、岩田は領家に、次からは戻さないでほしいと申し出たという。その言葉どおり、以後の4戦は岩田が乗り続けることになる。 7月12日、同じ阪神の芝1600メートルの未勝利戦を単勝1.1倍で迎え、6馬身差の圧勝で初勝利。9月7日には、いきなり重賞へ向かった。新潟2歳ステークス、不良馬場、15頭立ての1番人気。ところがゲートで大きく出負けし、14番手のまま3コーナーを回る。直線、岩田は外ラチいっぱいまで持ち出した。新潟の長い直線を、上がり34秒4で全頭抜き去る。2着ツクバホクトオーとの差は1馬身半あった。 未勝利勝ちからこの重賞を制した馬は、1981年のビクトリアクラウン以来27年ぶりだった。そして筒井牧場にとっては、サラブレッドでの初めての重賞勝利だった。

中山の最内 ― 父と同じ十二月

新潟のあとは、デイリー杯2歳ステークスか東京スポーツ杯2歳ステークスを使う予定だった。しかし左前脚に蹄球炎が出て、どちらも見送られる。1週間の休養をはさみ、前哨戦を一つも使わないまま、年末の大一番へ直行することになった。 2008年12月21日、中山競馬場の芝1600メートル。朝日杯フューチュリティステークスは、この国の2歳王者を決める一戦である。3か月ぶりのぶっつけで、単勝5.4倍の2番人気。1番人気は武豊のブレイクランアウトだった。武はひと月前に京都で落馬して右腕の尺骨を折っており、この日が復帰戦である。6月の新馬戦でこの青毛ではないほうを選んだ名手が、今度は1番人気を連れて同じゲートに入っていた。 セイウンワンダーは中団の7番手。4コーナーでは内ラチから3頭ぶん外を通ったが、直線を向くと岩田は最内へ切り込んだ。時計のかかる中山の芝と急坂を、メンバー最速の上がり35秒0で押し切る。外から迫ったフィフスペトルとの差は、アタマだった。 領家の言葉は短かった。「精神力はただ者ではないと思っていた馬でしたから」[^1]。この一戦は、翌週から騎乗停止に入る岩田にとって、2008年最後の騎乗でもあった。 父グラスワンダーは、1997年の朝日杯3歳ステークスをレコードで勝っている。同じ12月の中山マイルを父と仔が制したのは、マルゼンスキーとその産駒ニシノスキー・サクラチヨノオーに続く史上2組目だった。加えて、ブリーズアップセール出身のJRA育成馬がGI級競走を勝ったのは、これが初めてである。その前身にあたる抽せん馬まで遡っても、牡馬に前例はなかった。大谷高雄は馬主歴43年で初めての大レース、筒井征文も初めてだった。 年が明け、JRA賞の投票では300票のうち263票がこの馬に入る。最優秀2歳牡馬。当歳のセールで売れなかった馬が、二度目の値札から8か月で、世代の頂に立っていた。

出典:スポーツナビ「岩田鮮やかイン強襲! “怪物2世”セイウンワンダー父子2代制覇=朝日杯FS」2008年12月21日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/200812210003-spnavi 、閲覧日:2026年7月30日。

三度の三着 ― 二〇〇九年の乗り替わり

3歳の始動は3月8日、中山の弥生賞だった。10頭立ての稍重。馬体は12キロ増えて526キロ。2番人気で4番手を進み、3番手で直線を向いたが、そこから伸びを欠いて8着に終わる。逃げ切ったロジユニヴァースは、これで4連勝だった。 1か月後の皐月賞で、岩田は鞍を降りた。同じレースのアンライバルドに乗るためである。空いた手綱は内田博幸に渡った。馬体を10キロ減らして516キロ、4番人気。18頭の後方を進み、4コーナーでは15番手まで下がっていたが、直線を向くと上がり34秒7で追い込んでくる。先に抜け出していたのは、岩田のアンライバルドだった。1馬身半差の2着にトライアンフマーチ、さらに半馬身差の3着がセイウンワンダーである。 5月31日の東京優駿では、その内田がアプレザンレーヴを選び、福永祐一に乗り替わった。午後から降り出した雨で、府中は1969年のダイシンボルガード以来40年ぶりの不良馬場になっている。3番人気。前で運んだロジユニヴァース、リーチザクラウン、アントニオバローズがそのまま上位を占める競馬で、中団から16番手まで下げ、上がりは40秒6。13着、勝ち馬から2秒6の惨敗だった。 夏を休んで9月27日、神戸新聞杯。3番手で直線を向いたが、逃げるリーチザクラウンを捉えきれず、後方から上がり33秒7で来たイコピコにレコードで抜き去られて3着。10月25日の菊花賞は、京都の芝3000メートル。マイルで戴冠した馬にとっては、倍近い距離である。人気は6番手まで落ちていた。それでも7番手前後で淡々と運び、直線でスリーロールスとフォゲッタブルが鼻面を並べた争いの、1馬身4分の1後ろに食い込む。3着。皐月賞、神戸新聞杯、菊花賞――この年、3着は三度になった。 暮れの有馬記念は藤田伸二が乗り、10番人気。13番手から4コーナーで5番手まで押し上げ、ドリームジャーニーから1秒6差の6着。クラシックの一年は、一度も勝てないまま終わった。

三頭が同時に ― 一年半ぶりの一勝

4歳の初戦は4月17日のマイラーズカップだった。524キロ、4番人気。後方13番手から上がり33秒7で追い込んで4着。勝ったのは、菊花賞で逃げたリーチザクラウンである。 続いて安田記念に登録したが、除外された。陣営は秋の天皇賞を新しい目標に据え、その途中に6月13日のエプソムカップを置く。東京の芝1800メートル、18頭立ての1番人気。 道中は中団、3コーナーで8番手、4コーナーで6番手。直線で外に持ち出されたセイウンワンダーは、上がり34秒6で伸びた。逃げていたのはシルポート、4コーナーで2番手まで押し上げていたのがキャプテンベガ。三頭が横に並んだまま決勝線を通過し、1分46秒1という同じ時計が三つ並ぶ。着差はハナ、そしてハナ。最先着はセイウンワンダーだった。重賞3勝目であり、2008年12月の朝日杯以来、1年半ぶりの勝利だった。 2週間後の宝塚記念は、稍重の阪神で58キロを背負い、5、6番手を進んで直線で失速した。16着、勝ったナカヤマフェスタから1秒8。3着には、同じグラスワンダーを父に持つアーネストリーが入っている。 秋はカシオペアステークスから始動する予定だった。しかし出走を前に右前脚の浅屈腱炎を発症し、取り消しになる。競走馬総合研究所常磐支所に送られ、長い療養が始まった。2012年、ようやく復帰の目処が立って厩舎に戻ったが、検査で同じ箇所の再発が判明する。ゲートには、二度と入れなかった。10月7日、競走馬登録が抹消される。13戦4勝、獲得賞金2億3168万5000円。6歳だった。

浦河へ帰る ― 二度目の日高育成牧場

引退したセイウンワンダーが送られたのは、浦河町のJRA日高育成牧場だった。2歳の春に競り落とされ、旅立っていった、その場所である。 そこで去勢され、乗馬になった。やがて馬術の障害飛越競技に出るようになり、いくつもの競技会で上位に入賞している。ゲートを出て走ることをやめた馬が、こんどは跳ぶことを覚えた。 いまの肩書きは、馬事文化振興の普及馬である。平日は牧場の職員が乗って練習し、土日は町内のスポーツ少年団と、高校の馬術部の生徒たちが乗る。1965年に開かれたこの牧場は、若い競走馬を育てて競売にかけることと並んで、地元の高校馬術部やスポーツ少年団に乗り方を教えることを、自分の仕事のひとつに数えている。 当歳のセールで札の挙がらなかった馬である。60万円で買われた、一銭も稼がなかった牝馬の仔である。二度目の値札は2600万円で、それはそのセールの最高価格だった。そして中山の最内を突いて、父と同じ十二月の冠を持ち帰った。 馬を売るために建てられた牧場が、その馬を売り、その馬を迎え入れた。ゲートに入っていた二年よりも、乗馬として過ごした時間のほうが、とうに長い。名の前半は母を持っていた牧場のもので、後半は父のものだった。一度も勝てなかった母と、十二月の中山を勝った父。その両方を半分ずつ背負った青毛は、いまも日高で、次に馬を好きになる誰かを背中に乗せている。

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