名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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サートゥルナーリアのイメージビジュアル
サートゥルナーリアSaturnalia
Saturnalia

サートゥルナーリア

通算成績10戦6勝

獲得賞金52,358万円

生年月日 2016.03.21(平成28年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
サートゥルナーリアの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
4 GI宝塚記念 阪神 芝2200 1人気 C.ルメール 2:15.6 上り37.6映像
1 GII金鯱賞 中京 芝2000 1人気 C.ルメール 2:01.6 上り33.2映像
2 GI有馬記念 中山 芝2500 3人気 C.スミヨン 2:31.3 上り35.4映像
6 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 2人気 C.スミヨン 1:57.1 上り34.9映像
1 GII神戸新聞杯 阪神 芝2400 1人気 C.ルメール 2:26.8 上り32.3映像
4 GI東京優駿 東京 芝2400 1人気 D.レーン 2:23.1 上り34.1映像
1 GI皐月賞 中山 芝2000 1人気 C.ルメール 1:58.1 上り34.1映像
1 GIホープフルS 中山 芝2000 1人気 M.デムーロ 2:01.6 上り35.3映像
1 OP萩S 京都 芝1800 1人気 M.デムーロ 1:49.6 上り35.1
1 2歳新馬 阪神 芝1600 1人気 M.デムーロ 1:37.2 上り34.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
サートゥルナーリアの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ロードカナロアLord KanaloaキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
レディブラッサムStorm Cat
サラトガデューSaratoga Dew
シーザリオCesarioスペシャルウィークSpecial WeekサンデーサイレンスSunday Silence
キャンペンガール
キロフプリミエールKirov PremiereSadler's Wells
Querida

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2016年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ロードカナロア、母シーザリオ。主な勝ち鞍はホープフルS・皐月賞・神戸新聞杯。

祭の名 ― 母がつないだ名づけ

2016年3月21日、北海道安平町のノーザンファームに黒鹿毛の牡馬が生まれた。父は香港スプリントを連覇したロードカナロア、母は日米のオークスを続けて勝ったシーザリオ。キャロットクラブが1口35万円を400口、総額1億4000万円で募った。 母の名は、シェイクスピアの『十二夜』でヒロインのヴァイオラが男装するときに使った偽名である。以来、シーザリオの産んだ仔たちは劇と祝祭の名を分け合ってきた。初仔はトゥエルフスナイト、2番仔はヴァイオラ、4番仔ロザリンド、5番仔クローディオ、7番仔はロンドンの劇場そのままのグローブシアター、8番仔シーリア。3番仔にはギリシャ語で公現祭を意味するエピファネイアが与えられ、6番仔は『冬物語』のシチリア王からリオンディーズと呼ばれた。 9番仔に用意されていたのは、その公現祭の行事の基になったとされる古代ローマの祭りの名だった。サートゥルナーリア。母から始まる名の連なりを遡りきった、いちばん古い層にある言葉である。 名の重みは、そのまま血の重みでもあった。半兄エピファネイアは菊花賞とジャパンカップを、半兄リオンディーズは朝日杯フューチュリティステークスを勝っている。異なる3頭の種牡馬から3頭のGI牡馬を送り出す繁殖牝馬は、日本の競馬に前例がない。その3頭目になるはずの仔が、この黒鹿毛だった。

終わりの決まった厩舎

2018年1月6日、栗東の角居勝彦厩舎が2021年2月をもって解散すると報じられた。定年ではない。実家の家業を継ぐためだと、角居自身が明かした。ウオッカでダービーを、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを勝った厩舎に、終わりの日付のほうが先に立った。 その5か月後、6月10日の阪神。芝1600mの新馬戦に、サートゥルナーリアはミルコ・デムーロを背に出走する。1週前の追い切りでは、たまたま併せ馬が重なった他厩舎のGI馬ペルシアンナイトを追走して並んで入った。単勝1.1倍。好位の内で窮屈になる場面もあったが、隙間が開くと一瞬で抜け出し、ゴール前は鞍上が手綱を抑えるほどだった。 母も、兄2頭も、同じ厩舎の馬だった。角居はこの一族について、それぞれの父の良いところが引き出されていること、共通しているのは本番に強いことと頭が良いことだと語っている。母と兄たちの走りを間近で見てきた男の下に、末の仔もまた入った。

他人の名で獲った戴冠 ― ホープフルS

7月6日、角居が道路交通法違反(酒気帯び運転)で逮捕され、JRAは同日付で調教停止の措置を取った。11月の裁定で、処分は逮捕の日から翌2019年1月6日までの半年と定まる。管理していた78頭は臨時貸付という形で栗東・中竹和也厩舎へ移された。サートゥルナーリアも、その一頭だった。 夏は左前脚の球節に疲れが出て札幌2歳ステークスを回避し、休養に充てられる。復帰は10月27日、京都の萩ステークス。持ったまま内から抜け出し、最後まで追われることなく2着に1馬身3/4差をつけた。 12月28日、中山の芝2000m。GIに格上げされて2年目のホープフルステークスに、単勝1.8倍で臨む。好スタートから2番手、4コーナーで内に包まれかけたが、わずかに開いた隙間を突いて一瞬で前へ出た。鞭は一度も入らなかった。2着アドマイヤジャスタに1馬身半。デムーロは勝利騎手インタビューで言い切っている。「今年一番強い2歳馬です」[^1] 無敗の3連勝でGI馬になった。ただしこの戴冠は、角居勝彦の記録には残っていない。このとき馬を管理していたのは中竹和也である。角居のもとへ戻ったのは、年が明けてからだった。

出典:スポーツ報知「【ホープフルS】サートゥルナーリアが3連勝でG1制覇 圧倒的な強さみせる」2018年12月28日配信、https://hochi.news/articles/20181228-OHT1T50088.html 、閲覧日:2026年7月25日。

アタマ差 ― 兄たちが届かなかった中山

2歳の3戦すべてに乗ったデムーロには、朝日杯フューチュリティステークスを勝ったアドマイヤマーズもいた。1月10日、春のクラシックはルメールと組むことが発表される。中山の2000mはホープフルステークスで経験済みという理由から、トライアルを使わず皐月賞へ直行する道も決まった。 2019年4月14日、単勝1.7倍。道中は6、7番手の外で待ち、直線で一気に抜け出す。伸びてきたヴェロックス、最内から詰めてきたダノンキングリーとの叩き合いを、アタマ差でしのいだ。直線半ばで内へ寄ってヴェロックスの進路を狭めたとして審議になったが、着順は入線どおりに確定し、ルメールには過怠金5万円が科された。かつての鞍上デムーロは同じレースにアドマイヤマーズで出走し、4着に終わっている。 無敗のまま皐月賞を勝ったのは、2005年のディープインパクト以来14年ぶりだった。ルメールはこの一勝で、JRA史上9人目となるクラシック5競走の完全制覇を果たしている。 そして中山の2000mは、この一族が二度はね返された舞台でもあった。兄エピファネイアは2013年の皐月賞で2着、兄リオンディーズは2016年に4位入線から5着へ降着している。末の仔が、アタマ差でそれを片づけた。

同じ勝負服の伏兵 ― 二〇一九年五月二十六日

5月5日のNHKマイルカップで、ルメールはグランアレグリアの手綱を取り、直線で外へ斜行してダノンチェイサーの進路を塞いだ。グランアレグリアは4位入線から5着に降着し、ルメールには16日間の騎乗停止が科される。ダービー当日、彼は乗れない。 代役は、4月から短期免許で来日していたダミアン・レーン。テン乗りだった。共同会見でレーンは、映像で過去のレースを確認したうえで、この馬がいちばん強いと思うと語っている。単勝1.6倍。 だが、ゲートの中で気持ちが高ぶった。出遅れて11番手。大外に持ち出した直線で上がり最速の34秒1を使い、前を行くロジャーバローズダノンキングリーを追ったものの届かず、いったんかわしたヴェロックスにも内から差し返されて4着。デビュー5戦目で、初めて他馬に先着を許した。レーンはレース後、ゲートに着いてから時間が経つうちに馬が入れ込んでしまったこと、早めに動いた分だけ最後が苦しくなったことを挙げた。 勝ったのは2分22秒6のレコードを刻んだロジャーバローズ、12番人気である。浜中俊を背にしたその馬もまた、角居勝彦の管理馬だった。同じ厩舎から出た1番人気と12番人気が、そういう順番でゴール板を通過した。登録を済ませていた凱旋門賞は、この日を境に見送られる。 角居がJRAのGIを勝ったのは、この春の皐月賞とダービーが最後になった。

三歳の秋 ― 追う側の景色

9月22日、阪神の神戸新聞杯。ルメールが戻り、8頭立ての単勝1.4倍。2番手から直線入り口で先頭に立ち、後続に3馬身をつけた。ゴール前には後ろを振り返る余裕さえあった。上がり3ハロンは32秒3。2006年の改装以降、この競馬場の勝ち馬が記録した最速の数字である。 菊花賞への優先出走権を手にしたが、陣営はそれを使わないと明言した。淀の3000mを勝ったのは、同じレースで同じ32秒3を計時した3着のワールドプレミアだった。 10月27日、天皇賞(秋)。ルメールはアーモンドアイに乗る。サートゥルナーリアの鞍上には、5年ぶりに来日したスミヨンが座った。16頭のうち10頭がGI馬という一戦で2番人気。だがゲートに入る前から落ち着かず、好位につけながら直線で伸びを欠いて6着。勝ったアーモンドアイから0秒9差。ずっと力みっぱなしだった、とスミヨンは振り返っている。 12月22日、有馬記念。前走の反省から輪乗りに加わらずゲートへ向かった。アーモンドアイをマークして中団の後ろに控え、最終コーナーから外を回って進出、直線半ばで内のアーモンドアイフィエールマンをかわして一度は先頭に立つ。だが大外からリスグラシューがまとめてのみ込んでいった。5馬身差の2着。 そのリスグラシューに乗っていたのは、半年前のダービーで自分の手綱を握っていたレーンだった。スミヨンは、リスグラシューが引退するなら日本ではこの馬がいちばん強いのではないか、と語っている。年明けのJRA賞最優秀3歳牡馬は、NHKマイルカップと香港マイルを勝ったアドマイヤマーズとの17票差で、この馬に決まった。

雨の阪神 ― 最後の直線

4歳の始動は3月15日の金鯱賞だった。香港のクイーンエリザベス2世カップか、国内なら大阪杯か。目標を決めかねたまま、中京がその前段に選ばれる。58キロを背負い、左回りを不安視する声もあったが、直線で先頭に立つと後続を突き放して2馬身差。上がり33秒2で重賞4勝目を挙げた。 放牧を挟み、大阪杯も香港も見送って、狙いは6月28日の宝塚記念に定まる。ファン投票3位。史上最多となるGI馬8頭が集まった一戦で、1番人気に推された。 だが、直前の雨が馬場を変えた。稍重。道中は10番手、直線を向いても脚が上がってこない。上がり37秒6は、10戦のなかでもっとも遅い数字だった。勝ったクロノジェネシスから2秒1離された4着。ルメールは距離と馬場を敗因に挙げ、角居は距離が長く感じたと語った。 これが最後の一戦になる。秋はジャパンカップに向けて調整されていたが、左前脚に腫れが出て回避。有馬記念も万全な状態で出られないとして見送られた。2021年1月15日に引退が発表され、1月20日付で登録を抹消。10戦6勝、獲得賞金5億2358万5000円。

二月二十七日 ― 母と、祭の続き

その翌月のことである。2021年2月27日、繋養先のノーザンファームでシーザリオが死んだ。日米のオークスを続けて勝ってから、16年が経っていた。ロードカナロアの仔を宿したままだった――サートゥルナーリアの全きょうだいになるはずだった一頭を、腹に抱えたまま。 翌2月28日は、角居勝彦の勇退の日だった。心配な話は何も聞いていなかった、自分の引退に合わせるように逝ってしまった。20年続いた厩舎の最終日、角居はそう明かしたうえで、一言だけ付け加えている。「久々にこたえましたね」[^1] 勇退を前にしたインタビューで、いちばん強かった馬にウオッカを挙げたこの調教師は、いちばん好きな馬にはシーザリオを挙げていた。角居は郷里の石川へ帰り、2023年8月、珠洲市に引退した競走馬を受け入れる牧場を開いている。 サートゥルナーリアは社台スタリオンステーションへ入った。600万円と発表された初年度の種付料は数日で満口になり、初年度から205頭を集める。2024年にデビューした最初の世代で新種牡馬のリーディングを獲り、祖父キングカメハメハ、父ロードカナロアに続いて3代連続の戴冠となった。2025年にはファンダムが毎日杯で産駒初の重賞を、暮れの朝日杯フューチュリティステークスをカヴァレリッツォが勝ってGIを手にする。兄リオンディーズが同じレースを勝ってから、ちょうど10年後だった。2026年5月には、ロデオドライブがNHKマイルカップを制している。 兄エピファネイアからはデアリングタクトエフフォーリアが、兄リオンディーズからはテーオーロイヤルミュージアムマイルが出た。GIを勝った三兄弟が、それぞれGI馬の父になっている。 生まれたのも安平、種牡馬として立つのも安平である。母の名から始まった劇と祝祭の名づけは、9番仔でいちばん古い層に届き、そこで止まった。続きを背負うのは、毎年その町で生まれてくる仔たちのほうだ。

出典:中日スポーツ「角居師56歳 勇退の日にシーザリオ急死『久々にこたえましたね…』 今後は実家継ぎながら引退馬サポート」2021年2月28日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/209939 、閲覧日:2026年7月25日。

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