名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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サトノクラウンのイメージビジュアル
サトノクラウンSatono Crown
Satono Crown

サトノクラウン

通算成績20戦7勝

獲得賞金63,210万円

生年月日 2012.03.10(平成24年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
サトノクラウンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
9 GIジャパンカップ 東京 芝2400 9人気 W.ビュイック 2:22.6 上り35.1映像
12 GI宝塚記念 阪神 芝2200 6人気 石橋脩 2:12.8 上り36.8映像
7 GIドバイシーマクラシック メイダン 芝2410 3人気 J.モレイラ 映像
13 GI有馬記念 中山 芝2500 4人気 R.ムーア 2:34.6 上り35.4映像
10 GIジャパンカップ 東京 芝2400 3人気 M.デムーロ 2:25.2 上り36.0映像
2 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 2人気 M.デムーロ 2:08.3 上り38.6映像
1 GI宝塚記念 阪神 芝2200 3人気 M.デムーロ 2:11.4 上り35.4映像
6 GI大阪杯 阪神 芝2000 3人気 M.デムーロ 1:59.3 上り34.2映像
1 GII京都記念 京都 芝2200 3人気 M.デムーロ 2:14.1 上り34.9映像
1 GI香港ヴァーズ シャティン 芝2400 4人気 J.モレイラ 2:26.2 映像
14 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 8人気 福永祐一 2:00.8 上り35.4映像
6 GI宝塚記念 阪神 芝2200 9人気 岩田康誠 2:13.5 上り36.8映像
12 GIクイーンエリザベス2世カップ 香港 芝2000 5人気 Z.パートン 2:04.3
1 GII京都記念 京都 芝2200 6人気 M.デムーロ 2:17.7 上り36.6映像
17 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 7人気 C.ルメール 1:59.9 上り35.1映像
3 GI東京優駿 東京 芝2400 3人気 C.ルメール 2:23.5 上り33.8映像
6 GI皐月賞 中山 芝2000 1人気 C.ルメール 1:58.9 上り34.5映像
1 GII報知杯弥生賞 中山 芝2000 2人気 福永祐一 2:01.8 上り35.7映像
1 GIII東京スポーツ杯2歳S 東京 芝1800 4人気 R.ムーア 1:47.9 上り33.8
1 2歳新馬 東京 芝1800 2人気 福永祐一 1:50.0 上り33.5

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
サトノクラウンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
MarjuラストタイクーンLast TycoonトライマイベストTry My Best
Mill Princess
Flame of TaraアーテイアスArtaius
Welsh Flame
ジョコンダII JiocondaRossiniMiswaki
Touch of Greatness
La JocondeVettori
Lust
STORY

旅程 — この馬の物語

2012年生まれの黒鹿毛の牡馬。父Marju、母ジョコンダ。主な勝ち鞍は香港ヴァーズ・宝塚記念・東京スポーツ杯2歳S。

望まれし者の仔 ― 血と名

2012年3月10日、北海道安平町のノーザンファームで一頭の黒鹿毛が生まれた。母ジョコンダIIは、この仔を宿したまま海を渡ってきた牝馬である。 父マルジュはアイルランド生まれ、イギリスで走った馬だ。名はアラビア語で「望まれし者」を意味する。1991年のエプソムダービーではジェネラスの5馬身後ろで2着に入り、続くセントジェームズパレスステークスでGIを勝った。種牡馬生活はすべてアイルランドのデリンズタウンスタッドで送り、2011年に引退している。つまりこの黒鹿毛は、父の最後の世代のひとつだった。 血は重く、そして日本の主流からは遠い。3歳上の全姉ライトニングパールは2011年のチェヴァリーパークステークスを勝った英国のGI馬。3代母ラストの半兄には英セントレジャーとアスコットゴールドカップを制したクラシッククリシェ、半姉にはヨークシャーオークスとヴェルメイユ賞のマイエマがいる。 2013年のセレクトセールで6090万円の値がつき、里見治のもとへ渡った。冠名のサトノに、王冠を意味する語を重ねて名が決まる。預けられたのは美浦・堀宣行厩舎。この馬はデビューから引退まで、ただ一人の調教師の手のなかで走ることになる。

ゲートの中の、細い神経

2014年10月25日、東京の芝1800m。福永祐一を背にした新馬戦を、好スタートから外へ抜け出して勝つ。1か月後の東京スポーツ杯2歳ステークスでは鞍上がムーアに替わり、馬群の狭いところをこじ開け、1番人気のアヴニールマルシェをクビ差で退けた。2戦2勝、重賞初制覇。 だがこの日は、勝ち方より先に片づけねばならない用件があった。ゲートの中で立ち上がり、枠内駐立不良を取られたのである。裁定は発走調教再審査。走る才能と同じ濃さで、細い神経が最初から顔を出していた。 のちにこの馬の前に立ちはだかるのは、多くの場合、相手ではなくこの気性のほうだった。

無敗の弥生賞馬

2015年3月8日、中山の弥生賞。稍重の馬場に集まった11頭のうち7頭が重賞勝ち馬という濃い一戦を、福永を背に中団から抜け出して完勝した。3戦3勝。 無敗のまま弥生賞を勝った馬は、これで史上10頭目。先んじた9頭のうち7頭がクラシックを勝っていた——その数字が、春の中山にひとつの期待をこしらえる。皐月賞は当然のように1番人気に推された。 ところが発馬で後手を踏み、最終コーナーでは大きく外を回らされた。伸びてはいたが、届いたのは6着まで。勝ったのはドゥラメンテ。同じ堀厩舎の、同い年の馬である。初黒星は身内から与えられた。

ハナ差 ― 二〇一五年五月三十一日

東京優駿。3番人気に支持され、鞍上はクリストフ・ルメール——中央へ移籍してから初めてのダービー騎乗だった。 道中は後方から5番手。直線、逃げるミュゼエイリアンをキタサンブラックが捉えにかかったところへ、3馬身後ろからドゥラメンテがサトノラーゼンを連れて追い込んでくる。さらにその外を、リアルスティールとサトノクラウンが伸びた。残り200m、ドゥラメンテがサトノラーゼンとの叩き合いを制して先頭に立つ。 サトノクラウンの上がりは33秒8。18頭のなかで最も速い脚を使いながら、前のサトノラーゼンにハナ差だけ足りずに3着。二冠を手にしたのも、ハナ差で泣いたのも、同じ厩舎の馬だった。 秋は菊花賞ではなく天皇賞(秋)を選び、古馬の壁に17着と跳ね返される。3歳の一年は、無冠のまま暮れた。

気性という壁

立て直された4歳の初戦は、関西へ遠征しての京都記念。重馬場をミルコ・デムーロが導き、タッチングスピーチに3馬身をつけて圧勝した。関東の馬がこのレースを勝つのは、1988年のカシマウイング以来28年ぶりだった。 だが復活の狼煙は、そこから細くなる。春の香港・クイーンエリザベス2世カップは12着、初夏の宝塚記念は6着、秋の天皇賞は14着。走る気が道中で切れてしまう——レース中に集中力を欠くという難しさが、この年ははっきりと表に出た。 強いはずなのに、勝てない。4歳の秋、この馬に残された予定は、年の瀬の香港だけになっていた。

シャティンの直線 ― 初めてのGI

その年の10月、アイルランドで父マルジュが老衰のため死んだ。28歳。日本の種牡馬場に立つことは、ついに一度もないまま終わった。 2か月後の12月11日、シャティン競馬場。香港ヴァーズの大本命は、この年キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスとブリーダーズカップターフを勝ったハイランドリール。単勝1.3倍の支持を集めた同馬が、自ら逃げた。サトノクラウンは中団の少し後ろから一気に内へ潜り、そこでじっと動かない。 動いたのは残り800mの手前。コーナーで押し上げ、直線で2番手に並ぶ。残り200mでまだ3馬身、100mで1馬身半、50mで4分の3馬身。ゴール手前でついに前を抜き、半馬身先着した。2分26秒22。日本馬の香港ヴァーズ制覇は、2001年のステイゴールド以来15年ぶり2頭目だった。 2着に敗れたハイランドリールの鞍上ムーアは、週の半ばにこう漏らしていた。「怖いのはサトノクラウン」[^1]。二年前の東京スポーツ杯2歳ステークスで、この馬に乗っていたのが彼だった。 堀は淡々と、一時は調子を落としていた馬を立て直したスタッフに感謝すると語った。父が見ることのなかった、初めてのGIだった。

出典:日本中央競馬会「レース結果・回顧:2016年香港ヴァーズ」(海外競馬情報、文:平松さとし)、https://www.jra.go.jp/keiba/overseas/race/2016hkir/vase/kaiko.html、閲覧日:2026年7月27日。

阪神の坂、府中の泥 ― 二〇一七年

5歳の始動戦も京都記念。前年のダービー馬マカヒキ、日経新春杯を勝ったミッキーロケットに次ぐ3番人気という評価だったが、直線で逃げ粘るヤマカツライデンとガリバルディを交わすと、追ってくるマカヒキとスマートレイアーの脚を封じ、2着に1馬身をつけて連覇を果たした。マカヒキもまた、無敗で弥生賞を勝った馬である。同じ経歴を持つ二頭の決着だった。 大阪杯はキタサンブラックの6着。そして6月25日、稍重の阪神で宝塚記念。11頭立ての3番人気で直線に向くと、内で食い下がるグランプリ王者ゴールドアクターを4分の3馬身振り切った。1番人気のキタサンブラックは9着。デビュー14戦目にして、国内のGIにこの馬の名が刻まれた。 秋は台風の下の天皇賞。不良馬場の府中を1枠2番から好位で運び、直線で先に抜け出したキタサンブラックに馬体を並べにいく。届かなかったのはクビ差。2分08秒3。泥のなかで、この馬は最後まで正攻法を通した。

下り坂、そして最後の府中

天皇賞のあと、歯車は静かに外れていく。ジャパンカップは10着。有馬記念は13着で、鞍上は香港で敵に回っていたムーアだった。 6歳の始動戦はドバイシーマクラシック。香港ヴァーズ以来となるモレイラとの再会も7着まで。連覇のかかった宝塚記念は12着に沈む。あのクビ差の2着から、一年のあいだ掲示板に載ることがなかった。 最後の一戦は2018年11月25日のジャパンカップ、9番人気で9着。この日、府中の芝2400mを2分20秒6で走り抜けた3歳牝馬の名をアーモンドアイという。時代が入れ替わる音を同じ芝の上で聞きながら、この馬は走り終えた。 11月30日、競走馬登録抹消。20戦7勝、獲得賞金6億3210万3100円。GIは日本と香港にひとつずつだった。

三代目の府中

社台スタリオンステーションで種牡馬となったサトノクラウンに、初年度産駒からタスティエーラが出た。管理したのは、やはり堀宣行である。 2023年、タスティエーラは父と同じ中山の弥生賞を勝ち、皐月賞では2着に屈し、5月28日の東京優駿をクビ差で制した。父が最速の上がりで追い込みながら、ハナ差で3着に沈んだ、あの東京の2400mだった。初年度産駒がダービー馬になった。 血の側から線を引くと、話はもう一代さかのぼる。父マルジュはエプソムダービーの2着馬、サトノクラウンは日本ダービーの3着馬。二代続けて、ダービーでは勝ち馬の背中を見ていた。三代目が、ようやくその一頭前へ出たことになる。 2025年、タスティエーラは香港のクイーンエリザベス2世カップを勝った。父が12着と大敗した、あのレースである。 サトノクラウンはいまも社台スタリオンステーションにいる。望まれし者と名づけられた父の、最後の世代の一頭。自分の脚では届かなかった一着を、血が先に運んでいった。

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