名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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サトノアレスのイメージビジュアル
サトノアレスSatono Ares
Satono Ares

サトノアレス

通算成績16戦4勝

獲得賞金19,115万円

生年月日 2014.02.25(平成26年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
サトノアレスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 柴山雄一 映像
3 GIII東京新聞杯 東京 芝1600 4人気 柴山雄一 1:32.0 上り33.4映像
15 GII阪神カップ 阪神 芝1400 5人気 川田将雅 1:23.6 上り36.6映像
4 GI安田記念 東京 芝1600 7人気 蛯名正義 1:31.5 上り33.3映像
3 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 2人気 蛯名正義 1:19.5 上り32.7映像
2 GIII東京新聞杯 東京 芝1600 5人気 柴山雄一 1:34.3 上り33.3映像
2 OPキャピタルS 東京 芝1600 2人気 C.ルメール 1:32.6 上り33.4
6 GIII富士S 東京 芝1600 6人気 大野拓弥 1:35.7 上り35.3映像
6 GIII函館記念 函館 芝2000 1人気 C.ルメール 2:01.6 上り35.8映像
1 OP巴賞 函館 芝1800 1人気 C.ルメール 1:46.5 上り34.1
11 GI皐月賞 中山 芝2000 8人気 戸崎圭太 1:58.4 上り33.9映像
4 GIIフジTVスプリングS 中山 芝1800 1人気 戸崎圭太 1:48.7 上り35.5映像
1 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 6人気 四位洋文 1:35.4 上り34.1映像
1 ベゴニア賞 東京 芝1600 2人気 R.ムーア 1:35.6 上り33.8
1 2歳未勝利 中山 芝1800 1人気 柴山雄一 1:50.2 上り34.8
2 2歳未勝利 札幌 芝1800 1人気 C.ルメール 1:51.8 上り35.3
2 2歳新馬 札幌 芝1800 2人気 柴山雄一 1:52.8 上り34.6

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
サトノアレスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
サトノアマゾネスデインヒルDanehillDanzig
Razyana
Prawn CocktailArtichoke
Crimson Saint
STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母サトノアマゾネス。主な勝ち鞍は朝日フューチュリティ。

軍神の名 ― 母から継いだもの

2014年2月25日、北海道千歳市の社台ファームで、一頭の黒鹿毛が生まれた。父はディープインパクト。母サトノアマゾネスはアイルランド生まれのデインヒル産駒で、日本では3戦し、福島の芝1200mをひとつ勝っている。 名は、冠名のサトノに、ギリシャ神話の戦の神アレスを重ねたものだった。母の名にあるアマゾネスは、その軍神アレスを祖とすると伝えられる女戦士の一族を指す。母から仔へ、名の系図がそのまま伸びていた。 血の速さも母方から来ている。祖母Prawn Cocktailの半姉は、のちに大種牡馬ストームキャットを産むターリングア。半兄には、シャトル種牡馬として成功したロイヤルアカデミーがいる。父の切れ味に、短い距離で鳴った一族が重なった配合である。サトノアマゾネスは4頭の仔を産み、うち3頭がディープインパクトとの間の兄弟だった。GIを勝ったのは、三番目に生まれたこの黒鹿毛だけになる。 馬主は里見治、預けられたのは美浦の藤沢和雄厩舎。デビューは2016年8月14日、札幌の芝1800m。鞍上は柴山雄一だった。2番人気に応えて後方から追い上げたが、コリエドールにクビ差だけ足りず2着。この日この馬の背にいた男は、三年近くのちの最後の一日にも、同じ場所にいることになる。

三連勝 ― 阪神の坂を上がって

2戦目の札幌も1番人気に推されながら2着だった。前を行ったサングレーザーは、のちにスワンステークス、マイラーズカップ、札幌記念とGIIを三つ勝つ馬である。9月11日、中山の未勝利戦を柴山雄一とともにクビ差で制し、三度目でようやく初勝利を挙げた。 11月27日、東京のベゴニア賞。ムーアを背に7番手で脚を溜め、直線で抜け出して連勝。そして12月18日、阪神の朝日杯フューチュリティステークス。18頭立ての大外17番、6番人気。鞍上は四位洋文だった。 前半800m48秒3というゆるやかな流れを中団の後ろで待ち、直線は大外へ持ち出す。残り200mで単独の2番手に上がると、坂を駆け上がりながらラチ沿いに粘るボンセルヴィーソを捉え、外から迫るモンドキャンノに半馬身をつけて先頭でゴールに入った。1分35秒4、上がり34秒1。三連勝でのGI制覇であり、四位にとってもこのレースは初勝利だった。1番人気に支持されたミスエルテは4着だった。 藤沢和雄厩舎は前週の阪神ジュベナイルフィリーズをソウルスターリングで勝っていた。同じ年に阪神ジュベナイルフィリーズと朝日杯フューチュリティステークスの両方を勝った調教師は、これが史上初である。年が明けた2017年1月10日、サトノアレスはJRA賞最優秀2歳牡馬に選ばれた。最優秀2歳牝馬はソウルスターリング。ひとつの厩舎から、その年の王者と女王がそろって出た。

立てなかった舞台 ― 三歳の春

三歳初戦は3月19日のスプリングステークス。1番人気に推されたが、ゲートでつまずいて出遅れ、最後方から追い上げて4着までだった。勝ったのはウインブライト。 4月16日の皐月賞では、支持は8番人気まで落ちていた。ここでも後方からの競馬になり、上がり3ハロン33秒9とメンバー最速の脚を繰り出したが、前は遠すぎた。11着。勝ったアルアインとの間には、脚だけでは詰められない距離があった。 ダービーを前に短期放牧へ出され、5月9日に帰厩する。だが府中への出走は断念された。 このとき藤沢和雄は、GIをいくつも積み上げながら、日本ダービーだけを勝てずにいた。若い馬に無理をさせない――そう決めてきた男の経歴で、そこだけが長く空欄のままだった。そして、その空欄はこの春に埋まる。5月、ソウルスターリングがオークスを勝ち、翌週にレイデオロが日本ダービーを勝った。厩舎にとって初めての牡馬クラシックだった。 前の暮れに2歳女王と2歳王者を送り出した厩舎で、女王は世代の頂に立ち、王者はゲートに入ることさえなかった。十二月に手にしたタイトルは、五月には背負うものに変わっていた。

函館の夏 ― 先を行く背中

陣営はアメリカ・ベルモントパークのベルモントダービー招待への挑戦も検討したが、遠征は見送られた。距離と馬場を考えて選ばれたのは、7月2日、函館の巴賞である。単勝1.5倍の断然人気に、ルメールを背に応えた。二歳の暮れ以来、半年以上ぶりの勝利だった。 中1週で臨んだ7月16日の函館記念も1番人気。しかし重馬場で伸びを欠き、6着に終わる。 そのレースを勝ったのはルミナスウォリアーで、手綱を取っていたのは柴山雄一だった。この馬にデビュー戦で跨り、初勝利を挙げさせた男が、別の馬で先にゴール板を通過していった。

東京のマイル ― 届きかけた場所

秋は10月の富士ステークス、不良馬場に苦しんで6着。11月のキャピタルステークスはルメールでダイワキャグニーとの叩き合いになり、クビ差の2着だった。 明けて2018年2月4日、東京新聞杯。柴山雄一が戻ってきた。またも出負けして後方からの競馬になったが、直線は最内を掬うように伸び、1馬身差の2着まで押し上げる。前にいたのはリスグラシュー。この牝馬は同じ年の秋にエリザベス女王杯を、翌年には宝塚記念と有馬記念、そしてオーストラリアのコックスプレートを勝ち、年度代表馬になる。 5月12日の京王杯スプリングカップは蛯名正義。上がり32秒7という尋常でない脚で追い込み、タイム差なしの3着に届いた。勝ったのは同じ厩舎のムーンクエイクで、時計はレコードだった。6月3日の安田記念も、蛯名を背にスタートで後手を踏みながら、上がり33秒3で先頭集団に取りつく。モズアスコットとの差は0秒2。7番人気での4着は、この馬がまだGIの真ん中にいることの証明だった。 夏はフランスのドーヴィルへ、ジャック・ル・マロワ賞に向かう予定が組まれていた。1998年にタイキシャトルが勝った、藤沢厩舎にとって特別な一戦である。だが7月20日、体調が戻らず遠征は取りやめになった。休養は長引き、復帰は12月22日の阪神カップまでずれ込む。道中で他馬に絡まれて集中を欠き、15着に終わった。

五月十一日、本馬場にて

2019年2月3日、東京新聞杯。鞍上はまた柴山雄一だった。大敗の直後とは思えない走りで内から猛然と追い込み、3着に入る。勝ったインディチャンプとの差は0秒1。この馬もまた、その年のうちに安田記念とマイルチャンピオンシップを勝つ。二年続けて、この馬の前を通り過ぎていったのは、そういう相手だった。 4月にはオーストラリアのドンカスターマイルへ予備登録が入れられたが、遠征はしなかった。次に選ばれたのは、5月11日の京王杯スプリングカップである。 柴山雄一を鞍上に本馬場へ入っていったところで、左前肢に跛行が出た。発走前に競走除外。五月のその日が、この馬がターフに姿を見せた最後になった。同じレースを勝ったのは、厩舎の後輩タワーオブロンドンである。 体調そのものは戻ったが、調教のピッチを上げていくのは難しいと判断され、引退が決まる。10月16日、競走馬登録抹消。16戦4勝、獲得賞金1億9115万7000円。 最初の一戦の背にいた男が、最後の一日の背にもいた。その間にこの馬はGIを勝ち、王者と呼ばれ、勝てない時間を長く過ごした。柴山雄一はその後も乗り続け、2023年の暮れに騎手を退いて調教助手になる。藤沢和雄は2022年2月、通算1570勝で定年を迎えた。

アナトリアへ ― 旅は続いている

北海道日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬になった。2020年からの3年で集めた繁殖牝馬は延べ43頭。2021年に生まれた初年度産駒は、18頭が血統登録された。数としては、控えめだった。 2022年12月、トルコジョッキークラブからのオファーでトレードが成立する。2023年1月にスタリオンを退厩し、2月5日に日本を発った。その翌6日未明、トルコ南東部を震源とする大地震が起きる。向かった先は国の北西部で、移動に影響はなかった。丸2日の輸送と検疫を経て、ブルサ県カラジャベイの牧場へ無事に着いている。 現地での初年度、種付け料4万トルコリラのこの馬に、117頭の繁殖牝馬が集まった。日本での3年ぶんを、ひとつの季節が超えたことになる。2023年7月31日には大井の2歳新馬でアンジェラリュールが勝ち、産駒の初勝利が記録された。そして2026年7月19日、トルコでHaroldcooperが重賞を勝つ。産駒による初めての重賞制覇である。 軍神の名を負った馬は、いま、その神を祖と伝えられる女戦士たち――母の名になった一族――が暮らしたという土地にいる。アナトリア。阪神の坂を大外から駆け上がった1分35秒4は、もう遠い。血のほうは、走り出したばかりだ。

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