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ロジャーバローズ
通算成績6戦3勝
獲得賞金2億6,875万円
生年月日 2016.01.24(平成28年)毛色 鹿毛性 牡
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父ディープインパクトDeep Impact | サンデーサイレンスSunday Silence | Halo |
| Wishing Well | ||
| ウインドインハーヘアWind in Her Hair | Alzao | |
| Burghclere | ||
| 母リトルブックLittle Book | Librettist | Danzig |
| Mysterial | ||
| Cal Norma's Lady | リファーズスペシャルLyphard's Special | |
| June Darling |
引退後・牧場での映像
ゴール板の先の時間旅程 — この馬の物語
2016年生まれの鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母リトルブック。主な勝ち鞍は東京優駿。
「ミリオン」と呼ばれた仔
2016年1月24日、北海道・新ひだか町の飛野牧場に、骨量の豊かな鹿毛の牡馬が生まれた。常時15頭ほどの繁殖牝馬を抱え、年に12、13頭の仔を送り出す、従業員6人の牧場である。 母リトルブックはイギリスからの輸入馬で、競走馬としては10戦して未勝利に終わっていた。だが血の背景が違う。半姉ドナブリーニは、のちにGI7勝のジェンティルドンナを産む牝馬である。飛野牧場は依頼した会社を通じてその血を狙い、2012年のタタソールズ繁殖牝馬セールで23万ギニーを投じてリトルブックを競り落としていた。 その牝馬に、ディープインパクトを配した。生後1か月が過ぎた頃、牧場主の飛野はこの仔馬が「大きな仕事をする」と確信し、1億円の保険をかける[^1]。以来、牧場でのこの仔の呼び名は「ミリオン」になった。名前も行き先もまだ決まっていない鹿毛に、人のほうが先に夢を賭けたのだ。
出典:Number Web「《日本ダービー3年前の大波乱》12番人気、単勝9310円…なぜロジャーバローズは大本命・サートゥルナーリアに勝てたのか?」(江面弘也)2022年5月28日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/853370、閲覧日:2026年7月25日。
バローズの、二度目のダービー
その年7月、セレクトセールの当歳市場。落札したのは猪熊広次だった。7800万円。 猪熊の所有馬には「バローズ」の冠名がそろう。人名にその一族の印を重ねるのが、この馬主の流儀だった。社員や知人から100ほどの候補が集まったものの、リトルブックの仔に似合う名がなく、結局は自分で名づけたという。ロジャーバローズ。 猪熊には、10年前の記憶があった。2009年、アントニオバローズ。シンザン記念を勝ち、ダービーでは府中の直線で一度は先頭に立ちながら、ロジユニヴァース、リーチザクラウンにかわされて3着。あと2頭、届かなかった。その馬は翌年、若くして世を去っている。 血をたどれば、ロジャーバローズはジェンティルドンナのいとこにあたる。母同士が半姉妹で、父はともにディープインパクト。8分の7までが同じ血だった。名牝を出した一族の、もう一本の枝である。
祖父との約束
浜中俊は福岡県北九州市に生まれ、小学5年から地元・小倉で馬に乗り始めた。そのきっかけを与えたのが祖父だった。孫にダービージョッキーになってほしい――祖父は、そう言い続けていたという。 2007年デビュー。2012年には131勝を挙げて全国リーディングに立つ。24歳での戴冠は、武豊、福永洋一に次ぐ若さだった。ただしその年、GIは1勝もしていない。2着さえなかった。 GIのタイトル自体は手にしている。2009年の菊花賞をスリーロールスで勝ち、その後もミッキーアイル、ショウナンパンドラ、ミッキークイーン、ラブリーデイと重ねた。だが2016年のマイルチャンピオンシップを最後に、大舞台の勝利は途絶える。そのマイルチャンピオンシップの当日が、祖父の葬儀だった。約束は、間に合わなかったことになる。 2017年の函館2歳ステークスを最後に、中央の重賞からは1年以上も勝ち星が消える。年間の勝ち鞍は131から60台へ落ちていた。30歳を迎えた春、この騎手はまだ、ダービーを勝ったことがなかった。
預けられた冬
2018年8月18日、新潟の芝2000m。戸崎圭太を背にデビューし、道中5番手を追走して直線で楽に抜け出した。1番人気に応えた完勝である。 このとき、馬柱に載っていた調教師の名は角居勝彦ではない。角居は同年7月から半年間の調教停止処分を受けており、その全管理馬78頭は、中竹和也厩舎に臨時の貸付という形で預けられていた。ロジャーバローズは、中竹の名で走り出したのだ。 秋の紫菊賞はアドマイヤジャスタの2着。年が明けた1月5日、京都の福寿草特別を松山弘平とともに勝ち上がる。その2日後、処分の明けた角居のもとへ、この馬は戻った。デビューから3戦を、本来の管理者は自分の手で送り出せていない。角居はのちに、この馬を自分の目で直接見られた時間の短さを、心残りのひとつとして挙げることになる。
巡ってきた手綱
初めての重賞は3月のスプリングステークス。川田将雅を背に2番人気に推されたが、初めての長距離輸送がこたえて7着に沈んだ。 5月の京都新聞杯。当初は四位洋文が乗る予定だった。その四位が騎乗停止となり、手綱は浜中俊に回ってくる。 浜中はこの馬を逃がした。直線でも粘ったが、外から伸びたレッドジェニアルにわずかに交わされて2着。負けはした。だが、この一戦がなければ、3週間後の府中で二人が組むことはなかった。巡ってきた手綱、というほかない。
2分22秒6
2019年5月26日、東京優駿。元号が令和に替わって最初のダービーだった。 1枠1番。単勝93.1倍、18頭中12番人気。同じ角居厩舎からは、皐月賞馬サートゥルナーリアが単勝1.6倍の圧倒的1番人気で出走している。ひとつの厩舎の、1番人気と12番人気。 ゲートが開くと、リオンリオンが飛ばした。1000m通過57秒8。ロジャーバローズは、その逃げ馬から離れた2番手を、自分のリズムで追走する。浜中にとっては、思い描いていたなかでも最良の流れだった。 直線、早めに追い出して先頭に立つ。差を詰めてくるダノンキングリーを、クビ差だけ凌いでゴール板を過ぎた。 時計は2分22秒6。2015年にドゥラメンテが刻んだ2分23秒2を0秒6縮める、ダービーレコードである。3着はヴェロックス、ゲートで出遅れたサートゥルナーリアは4着に終わった。単勝2桁人気のダービー制覇は、1966年のテイトオー以来53年ぶり。浜中にとっては6度目の挑戦だった。 ゴールを過ぎても、鞍上はまだ確信が持てずにいる。馬を止め、すぐ近くにいたダノンキングリーの戸崎圭太に、残っていたかと尋ねた。戸崎は、握手で答えた。 オーナー席では猪熊広次が見ていた。10年前、あと2頭に届かなかった男の冠名が、こんどは掲示板のいちばん上にあった。
父の死から、一週間
6月1日、凱旋門賞への挑戦が正式に決まった。一度放牧に出され、7月19日に帰厩。パリロンシャンへ向けた調整が始まっていた。 7月30日、父ディープインパクトが世を去る。 そのちょうど1週間後、8月6日のエコー検査で、右前脚に浅屈腱炎が見つかった。同じ日のうちに現役引退と種牡馬入りが発表され、8月8日付で競走馬登録が抹消される。6戦3勝。3歳の夏だった。 角居は、オーナーと相談したうえで引退を決めたと明かしている。能力の高い馬だった、と。心残りはふたつ――自分がこの馬を直接見られた時間の短さと、屈腱炎。 浜中は、この馬が自分をダービージョッキーにしてくれたのだと語った。早い引退は残念だが、命を落とすような怪我でなかったのは幸いだと続け、父を亡くしたばかりのディープインパクトの後継として良い子孫を残してほしい、そしてその仔でまたダービーに挑めたら、と結んでいる。
静内の墓前で
2020年、アロースタッドで種牡馬生活が始まった。イーストスタッドとの間を2年ごとに行き来する国内シャトル種牡馬として、初年度は97頭に種付けしている。 2024年6月23日、産駒のオーキッドロマンスがリステッド競走のパラダイスステークスを勝った。父の血が、格のある一戦を勝ち取った日である。 その2日後、6月25日の未明。5月上旬から患っていた疝痛が急に悪化し、ロジャーバローズは息を引き取った。8歳。生後1か月で1億円の保険をかけられた仔馬が生涯に稼いだ賞金は、2億6875万6000円だった。 2022年にはワグネリアンも急死している。平成最後のダービー馬と、令和最初のダービー馬。わずか7年のあいだに、2頭とも世を去った。 同じ年の8月28日、浜中は静内へ向かった。この馬が終の棲家とした牧場を訪ね、墓前で手を合わせる。ダービージョッキーになるという自分の夢を叶えてくれたこと、そして祖父との約束を果たせたことに、礼を伝えたという。ゆっくり休んでほしい、とも。約束は間に合わなかったが、果たされてはいたのだ。 そして、この騎手にはまだ済ませていないことがある。「実はまだロジャーバローズの子どもに乗ったことがなくて、ずっと早く乗りたいと思っていますし、いつか勝ちたいという気持ちは強いです」[^1]。 角居はすでにターフを去った。2021年2月に厩舎を解散し、いまは石川で、走り終えた馬たちを迎える場所をひらいている。飛野牧場で「ミリオン」と呼ばれた鹿毛は、6戦だけを走り、53年ぶりの番狂わせをダービーレコードで成し遂げて、静内の土に還った。残していった血が、いつかあの日の鞍上を、もう一度あの直線へ連れて行くかもしれない。
出典:中日スポーツ「【浜中俊コラム】ダービー制覇という大きな夢をかなえてくれたロジャーバローズの急死に驚き…いつか子どもに乗りたい」2024年6月30日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/920628、閲覧日:2026年7月25日。
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