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レイデオロ
通算成績17戦7勝
獲得賞金9億2,851万円
生年月日 2014.02.05(平成26年)毛色 鹿毛性 牡
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 7 | GI有馬記念 | 中山 芝2500 | 9人気 | 三浦皇成 | 2:32.1 | 上り36.0 | 映像 | |
| 11 | GIジャパンカップ | 東京 芝2400 | 1人気 | W.ビュイック | 2:28.1 | 上り38.4 | 映像 | |
| 4 | GII産経賞オールカマー | 中山 芝2200 | 1人気 | 福永祐一 | 2:12.4 | 上り33.9 | 映像 | |
| 5 | GI宝塚記念 | 阪神 芝2200 | 2人気 | C.ルメール | 2:12.1 | 上り36.0 | 映像 | |
| 6 | GIドバイシーマクラシック | メイダン 芝2410 | 1人気 | C.ルメール | — | 映像 | ||
| 2 | GI有馬記念 | 中山 芝2500 | 1人気 | C.ルメール | 2:32.2 | 上り35.4 | 映像 | |
| 1 | GI天皇賞(秋) | 東京 芝2000 | 2人気 | C.ルメール | 1:56.8 | 上り33.6 | 映像 | |
| 1 | GII産経賞オールカマー | 中山 芝2200 | 1人気 | C.ルメール | 2:11.2 | 上り34.3 | 映像 | |
| 4 | GIドバイシーマクラシック | メイダン 芝2410 | 2人気 | C.ルメール | — | 映像 | ||
| 3 | GII京都記念 | 京都 芝2200 | 1人気 | D.バルジュー | 2:16.5 | 上り36.4 | 映像 | |
| 2 | GIジャパンカップ | 東京 芝2400 | 2人気 | C.ルメール | 2:23.9 | 上り34.6 | 映像 | |
| 1 | GII神戸新聞杯 | 阪神 芝2400 | 1人気 | C.ルメール | 2:24.6 | 上り34.1 | 映像 | |
| 1 | GI東京優駿 | 東京 芝2400 | 2人気 | C.ルメール | 2:26.9 | 上り33.8 | 映像 | |
| 5 | GI皐月賞 | 中山 芝2000 | 5人気 | C.ルメール | 1:58.2 | 上り34.0 | 映像 | |
| 1 | GIIホープフルS | 中山 芝2000 | 1人気 | C.ルメール | 2:01.3 | 上り35.7 | 映像 | |
| 1 | 葉牡丹賞 | 中山 芝2000 | 1人気 | C.ルメール | 2:01.0 | 上り34.7 | — | |
| 1 | 2歳新馬 | 東京 芝2000 | 1人気 | C.ルメール | 2:04.3 | 上り34.6 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父キングカメハメハKing Kamehameha | Kingmambo | Mr. Prospector |
| Miesque | ||
| マンファスManfath | ラストタイクーンLast Tycoon | |
| Pilot Bird | ||
| 母ラドラーダ | シンボリクリスエスSymboli Kris S | Kris S. |
| Tee Kay | ||
| レディブロンド | Seeking the Gold | |
| ウインドインハーヘアWind in Her Hair |
旅程 — この馬の物語
2014年生まれの鹿毛の牡馬。父キングカメハメハ、母ラドラーダ。主な勝ち鞍は東京優駿・天皇賞・ホープフルS。
黄金の王 ― 名と、海を渡った祖母
2014年2月5日、北海道安平町のノーザンファームに一頭の鹿毛の牡馬が生まれた。父はキングカメハメハ、母はラドラーダ。母の欧字名を La Dorada という。父の名と母の名から連想して、スペイン語で「黄金の王」を意味する名が与えられた――レイデオロ。キャロットファームが一口15万円・全40口・総額6000万円で会員を募ると、その募集はすぐに満口になった。 この馬の背には、日本の競馬が長い時間をかけて引き寄せた一本の牝系が流れている。曾祖母はウインドインハーヘア。ディープインパクトとブラックタイドを産んだ、あの牝馬である。その3番仔が、レイデオロの祖母レディブロンドだった。 レディブロンドを日本へ連れてきたのは、ほかならぬ藤沢和雄である。馬の仕入れでアイルランドを訪れた藤沢が目を留め、購入を打診したが、所有者のクールモアは首を縦に振らなかった。競走生活の間だけ貸し、引退後は返す――その条件でリース契約がまとまり、牝馬は海を渡る。ところが股関節を痛めていて歩様が悪い。返す約束のある預かりものだった。藤沢は3歳も4歳も走らせず、歩様が戻った5歳の6月になってようやくデビューさせた。 そこからが凄まじかった。函館と札幌の芝1200mを4連勝し、中山のセプテンバーステークスも勝って無傷の5連勝。連闘で臨んだスプリンターズステークスは4着。レース後に歩様が悪化し、年齢を考えて引退した。全6戦5勝、3か月半だけの競走生活である。藤沢は彼女を、大器晩成を絵に描いたような馬だったと振り返っている。 契約どおりアイルランドへ返すための検疫に入っていたところを、それを知った吉田勝己がクールモアと交渉して買い取った。レディブロンドはノーザンファームの繁殖牝馬になる。彼女の半弟にあたるディープインパクトは、そのときまだ1歳だった。 残した仔は5頭。2番仔が母ラドラーダ、3番仔が2012年の帝王賞を勝ったゴルトブリッツ――ドイツ語で「金の稲妻」。金の名が、この一族には何度も現れる。レディブロンド自身は2009年、11歳で世を去った。孫が生まれる、5年前のことだった。
無傷の三連勝 ― 二〇一六年の暮れ
牧場でのこの馬は、力を誇示せずとも群れの先頭に立つような仔だったという。ノーザンファームイヤリング、空港、天栄と育成の階段を上り、2016年5月に美浦の藤沢厩舎へ入る。ゲート試験に受かるとまた天栄へ戻され、デビューは秋と決まった。 10月9日、東京の芝2000mの新馬戦。鞍上はクリストフ・ルメール。この日の毎日王冠でアンビシャスに騎乗するため東京にいた、という縁だった。単勝1.7倍の1番人気に応え、好位から抜け出して1馬身4分の1差。 陣営は次に東京スポーツ杯2歳ステークスを予定したが、ルメールには先約があった。翌年のクラシックを見据えるなら、この鞍上は手放したくない。重賞を見送り、12月3日の葉牡丹賞へ回る。今度は後方に控え、大外から先に抜け出したコマノインパルスを差し切って1馬身差。 そこから中2週、12月25日のホープフルステークス(GII)。1.5倍の1番人気。スタートで出遅れて後方に置かれたが、3コーナーから先行集団に取り付き、直線で馬群を割って抜け出した。マイネルスフェーンに1馬身4分の1差。無傷の3連勝で重賞初制覇となった。この競走は翌2017年からGIに昇格する。レイデオロは、GIIとして行われた最後のホープフルステークスの勝ち馬になった。 同じ年、藤沢厩舎はサトノアレスで朝日杯フューチュリティステークス、ソウルスターリングで阪神ジュベナイルフィリーズを制し、同一年の2歳GI独占を史上初めて成し遂げている。最優秀2歳牡馬の投票でレイデオロが得たのは11票。タイトルは同じ厩舎のサトノアレスに渡った。3戦3勝の暮れ、この馬が手にしたのは賞ではなく、春への宿題だった。
直行 ― 皐月賞の五着
弥生賞かスプリングステークスを叩いて皐月賞へ。それが当初の道筋だった。だがホープフルステークスの後にソエが出て、疲れが抜けない。トライアルには間に合わなかった。 藤沢は目先のタイトルのために馬を削らない。1999年にはスティンガーで、阪神3歳牝馬ステークスから桜花賞へ直行させている。あのときも戴冠は叶わなかったが、馬は長く走り続けた。異例の皐月賞直行が決まった。 3月14日に天栄から帰厩し、4月16日の中山へ。1番人気は桜花賞を使わずに来た無敗の牝馬ファンディーナ。以下スワーヴリチャード、カデナ、ペルシアンナイトと前哨戦の勝ち馬が並び、レイデオロは10.4倍の5番人気だった。 内枠から後方の内を進み、直線は馬群を割って伸びた。しかし上位の争いは、遥か前で決着していた。毎日杯から直行してきたアルアインが勝ち、2馬身以上離された5着。初めての黒星である。 それでも上がり3ハロンはメンバー中2番目に速かった。休み明けの一戦としては悲観する内容ではない。ルメールはむしろ、直線の長い府中での上積みを思い描いていた。3週間後、この馬は東京競馬場に初めて立つ。
六十三秒二 ― 二〇一七年五月二十八日
その1週間前、藤沢とルメールはソウルスターリングでオークスを勝っている。桜花賞で初黒星を喫した牝馬が、府中の2400mで巻き返していた。同じ調教師と同じ騎手が、同じ舞台で、2週続けてクラシックに挑むことになる。 1番人気は青葉賞を勝ったアドミラブルで3.5倍。レイデオロは5.3倍の2番人気だった。 6枠12番。スタートから主張せず、後方10番手。前ではマイスタイルの横山典弘が単騎で逃げ、落ち着いた手綱で隊列を作っていた。ルメールは最初の300mで気づく。遅い。このまま後ろにいては勝てない。 マイスタイルが刻んだ前半1000mは63秒2。過去30年のダービーで最も遅い通過だった。向正面、レイデオロは外へ持ち出し、馬群を丸ごと押し上げていく。まくりは、勢いがついたまま止まらなくなれば終いが持たない賭けでもある。この馬は引っ掛からずに逃げ馬の背後まで上がり、3コーナーを2番手で通過した。 直線。逃げ粘るマイスタイルに並びかけ、残り300mでステッキに応えて先頭へ。背後から好位のスワーヴリチャードが迫る。促されたレイデオロは、もう一度伸びた。4分の3馬身。大外から追い込んだアドミラブルは、さらに2馬身ほど後ろにいた。 「スタートして300mほどのところで遅いと思ったので、行かせることを決めた」[^1]。ルメールはそう振り返っている。勝ち時計2分26秒9は、近20年の良馬場のダービーでは2010年のエイシンフラッシュに並ぶ最も遅い決着だった。速さではなく、判断が勝った一戦である。 デビュー5戦目での戴冠は史上2番目の早さ、3歳2戦目での優勝は1985年のシリウスシンボリ以来32年ぶり2頭目だった。父キングカメハメハは2004年にこのレースを勝っている。父仔制覇であり、しかも父も仔も、馬番は12番だった。
出典:Number Web(文藝春秋)島田明宏「初参戦から28年目のダービー制覇。藤沢和雄調教師「思った以上に……」」2017年5月29日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/828153 、閲覧日:2026年7月26日。
おばあちゃんも、お母さんも ― 三代の縁
藤沢和雄にとって、ダービーは19頭目の挑戦だった。 2002年、シンボリクリスエスが青葉賞から挑み、タニノギムレットに1馬身及ばず2着。翌2003年、ゼンノロブロイが同じ道を通って、また2着。トライアルで権利を取った馬が王道を歩んできた馬を負かすのは難しい――藤沢はのちにそう振り返っている。府中の2400mは、この厩舎に二度続けて同じ形の悔しさを残した。 それから15年後、藤沢にダービーを持ってきた馬の血統表には、母の父としてシンボリクリスエスの名が刻まれていた。祖母レディブロンドも、母ラドラーダも、そのシンボリクリスエスも、みな藤沢が預かった馬たちである。 「いつかは勝てるかな、とやってきましたが、思っていた以上に時間がかかってしまいました」[^1]。そう言った藤沢は続けて、この馬は祖母も母も自分がよく知っていて、牧場にいた頃から期待されていたのだと語った。三代を見てきた男が、三代目でようやく手にした冠だった。 ルメールにとっても初めてのダービーである。2002年に日本で初めて騎乗し、2015年に日本へ移籍。前年はサトノダイヤモンドでマカヒキにハナ差だけ届かなかった。3度目の騎乗で、日本ダービージョッキーになった。キャロットファームもまた13頭目の挑戦での初制覇で、2013年のエピファネイアの2着をこの日ようやく越えた。 2か月後、札幌の新馬戦に一頭の弟が出てくる。全弟レイエンダ――スペイン語で「伝説」、父の名と兄の名から連想された名だった。ルメールを背に初戦を勝ち、のちにエプソムカップを制する。母の産んだ弟妹には、その後も「ドラーダ」「ドラード」の音が並んだ。金の名を継いでいく一族である。
出典:Number Web(文藝春秋)島田明宏「初参戦から28年目のダービー制覇。藤沢和雄調教師「思った以上に……」」2017年5月29日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/828153 、閲覧日:2026年7月26日。
古馬の壁
夏を天栄で過ごし、秋の目標はジャパンカップに定まった。菊花賞ではなく、ダービーと同じ東京の2400m。ただし相手は古馬になる。 始動は9月24日の神戸新聞杯。阪神の外回りを4番手から進み、直線であっさり抜け出してキセキに2馬身差をつけた。関東所属のダービー馬がこの競走を勝ったのは史上初めてで、父キングカメハメハも2004年に勝っている。ここでも父仔制覇だった。菊花賞の優先出走権は得たが、使わなかった。 11月26日、ジャパンカップ。キタサンブラックが2.1倍の1番人気、レイデオロは3.8倍の2番人気。スタート直後に不利を受けて中団後方に置かれ、最終コーナーは7番手。直線で逃げるキタサンブラックが後続を突き放しにかかり、レイデオロは大外から追い上げた。ゴール前、キタサンブラックをクビ差捉える。だが最内の好位から抜け出したシュヴァルグランが、一足先に先頭を奪っていた。1馬身4分の1差の2着。この年のJRA賞最優秀3歳牡馬には、290票中289票を集めて選ばれた。 4歳の春はドバイシーマクラシックに照準を定めた。2月の京都記念はルメールが騎乗停止で、短期免許のバルジューが手綱を取る。重馬場で出遅れ、遅い流れに引っ掛かり、途中で位置を上げすぎて直線に余力がなかった。クリンチャーとアルアインに屈して3着。 3月31日、メイダン。ルメールが戻ってきたが、当日のレイデオロはパドックで暴れ、ゲートの中でも隣の馬につられて落ち着かない。逃げるホークビルの緩い流れに対応できず、道中は引っ掛かりどおしだった。4着。日本勢では最先着だが、勝ち馬の背中はずいぶん遠かった。 走るのが大好きな血統だと、藤沢はこの一族を評していた。祖母も母も1200mやマイルを主戦場にした前進気勢の持ち主で、この馬はその気性を受け継いだまま、体つきだけは完全なスプリンターのそれではなく、中長距離の路線を進むことになった。授かった前進気勢は、この春、はっきりと牙をむいていた。
秋の盾 ― 二〇一八年十月二十八日
遠征の疲れが抜けず、宝塚記念は見送った。8月22日に帰厩し、秋は9月23日のオールカマーから。 中団から進み、直線では外へ持ち出さず内を突いた。先に抜け出していたアルアインに並びかけたところがゴール板――クビ差。約1年ぶりの勝利で、時計は2011年のアーネストリーに並ぶレコードタイだった。ダービー馬がオールカマーを勝ったのは史上初。同じ日、阪神では一つ下のダービー馬ワグネリアンが神戸新聞杯を勝っている。 秋の大目標は二つあった。天皇賞(秋)とジャパンカップ。だがこの2週間前、ルメールはアーモンドアイで秋華賞を勝ち、牝馬三冠を決めていた。あの牝馬の次はジャパンカップである。そちらを選べば、鞍上を失いかねない。陣営はジャパンカップを断念し、ルメールを確保して天皇賞に全部を賭けた。 10月28日、東京。GI優勝馬が7頭ひしめく12頭立て。1番人気は大阪杯を勝ったスワーヴリチャードで、レイデオロは3.1倍の2番人気だった。1週前の追い切りではぬかるみに脚を取られて調教を中止する場面もあったが、異常はなかった。 キセキが緩みのないペースで引っ張る。レイデオロは5番手、傍らにサングレーザーを置いて折り合った。直線、先行勢をまとめて捉えると、残り200mまで粘るキセキに詰め寄り、残り100mで交わし切る。外から伸びたサングレーザーに1馬身4分の1差。1分56秒8、上がり33秒6。 ダービー馬による天皇賞(秋)制覇は史上6頭目、オールカマーからの連勝は史上初だった。ルメールにとっては初めての天皇賞であり、秋華賞・菊花賞に続く3週連続のJRA・GI制覇でもあった。 暮れの有馬記念はファン投票1位、11万票。2.2倍の1番人気で雨の中山に立った。中団から進み、直線でキセキを捉えたが、先に抜け出したブラストワンピースを捉えきれない。クビ差の2着。JRA賞最優秀4歳以上牡馬に276票中212票で選ばれ、2年続けての受賞となった。
七枚の横断幕 ― 五歳の一年
5歳の春も、ドバイへ向かった。前年と違い、前哨戦を挟まない直行での遠征である。日本の馬券では1番人気に推されたが、8頭立ての落ち着いた流れに耐えきれず引っ掛かり、押し出されるようにハナへ立ってしまった。先頭で最終コーナーを回り、そのまま失速して6着。 6月の宝塚記念は2番人気で5着。馬場の悪い内で揉まれ、末脚が出なかった。勝ったのは同じキャロットファームのリスグラシューである。 秋のオールカマーは福永祐一が乗った。ルメールは同じ日、阪神でサートゥルナーリアに騎乗している。1番人気に応えられず4着。連覇はならなかった。 11月のジャパンカップはウィリアム・ビュイックを迎えて1番人気に支持されたが、重い馬場に脚を取られ、見せ場のないまま11着。直後に年内での引退が発表された。 最後は有馬記念になった。ビュイックが騎乗停止で乗れなくなり、三浦皇成が手綱を取る。集中して走れない状態が続いていたため、陣営は初めてブリンカーを着けて臨んだ。それでも出遅れ、後方から。7着。単勝は35.8倍の9番人気だった。 ただ、パドックを囲む横断幕は、この馬のものが7枚。出走馬の中で最も多かった。1倍台の支持を集めたアーモンドアイでも、この年の主役だったリスグラシューでもなく、前年の秋を最後に勝ち星から遠ざかっていたダービー馬の名が、中山の柵にいちばん多く並んでいた。 12月25日付で競走馬登録は抹消された。17戦7勝、獲得賞金9億2851万700円。ダービーと天皇賞を勝ち、ジャパンカップと有馬記念では2着に泣いた競走生活だった。
父としての春 ― 一勝より一生
行き先は安平町の社台スタリオンステーション。サンデーサイレンスの血を持たないダービー馬であり、キングカメハメハの後継であり、ウインドインハーヘアの牝系を継ぐ。期待は大きかった。初年度の種付料600万円はすぐに埋まって満口となり、196頭の牝馬と交配している。セレクトセールでは初年度産駒15頭が上場され、1億円を超える価格が5頭についた。 だが、走り出すまでには時間がかかった。産駒がデビューした2023年、初勝利はマテンロウゴールドが挙げたものの、初年度産駒は2歳の重賞に一頭も出走できていない。3歳になっても重賞では勝てず、種付頭数は39頭まで落ち込んだ。牡馬に極端に偏る出方も、大柄な馬体の産駒が力を出す傾向も、父キングカメハメハに通じると評された。ただ、その評価はなかなか数字にならなかった。 潮目が変わったのは2025年3月23日である。サンライズアースが阪神大賞典を勝ち、産駒に初めての重賞タイトルがもたらされた。そこからは堰を切ったようだった。トロヴァトーレがダービー卿チャレンジトロフィーを、アドマイヤテラが目黒記念を、エキサイトバイオがラジオNIKKEI賞を制し、年が明けるとトロヴァトーレが東京新聞杯とエプソムカップ、アドマイヤテラが阪神大賞典、カラマティアノスが中山金杯、マイユニバースが日経賞、ムルソーがアンタレスステークスを勝った。大器晩成を絵に描いたようだと祖母を評した言葉が、そのまま孫の産駒たちに返ってきたことになる。 藤沢和雄は2022年2月28日付で定年を迎え、厩舎を閉じた。JRA通算1570勝、重賞126勝。同年6月、顕彰者に選ばれている。美浦には、1500勝を記念して「一勝より一生」と刻まれた碑が建つ。2歳の暮れに中2週で使い、その反動が出たとみるやクラシックの直前には一切の無理をさせなかったあの采配も、その一行の内側にあった。 苫小牧のノーザンホースパークには、一頭の老いた牝馬がいる。ウインドインハーヘア。1991年生まれ、ディープインパクトとブラックタイドの母であり、レイデオロの曾祖母である。2026年6月2日、この牝馬は国内のサラブレッド長寿記録だったシンザンの35歳102日に並んだ。 その曾孫は、安平の社台スタリオンステーションで種牡馬としての日々を送っている。アイルランドから借りてきた一頭の牝馬が、返却されずに済んだ。そこから始まった血は四つの世代を跨いで、いまも同じ北海道にある。一勝より一生――その一行が正しかったことを、黄金の名を継ぐ馬たちが少しずつ証明しはじめている。
産駒 — 旅を継ぐ馬
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