名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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クイーンズリングのイメージビジュアル
クイーンズリングQueens Ring
Queens Ring

クイーンズリング

通算成績19戦6勝

獲得賞金45,102万円

生年月日 2012.05.25(平成24年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
クイーンズリングの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
2 GI有馬記念 中山 芝2500 8人気 C.ルメール 2:33.8 上り35.1映像
7 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 8人気 C.デムーロ 2:14.6 上り33.9映像
4 GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 3人気 M.デムーロ 1:48.4 上り33.3映像
6 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 5人気 M.デムーロ 1:34.3 上り34.1映像
15 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1600 2人気 M.デムーロ 1:36.5 上り36.8映像
9 GI香港カップ シャティン 芝2000 4人気 M.デムーロ 2:02.0 映像
1 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 3人気 M.デムーロ 2:12.9 上り33.2映像
1 GII府中牝馬S 東京 芝1800 3人気 M.デムーロ 1:46.6 上り33.5
2 OP米子S 阪神 芝1600 1人気 M.デムーロ 1:35.2 上り35.7
8 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 5人気 M.デムーロ 1:32.5 上り34.2映像
1 GIII京都牝馬S 京都 芝1400 1人気 M.デムーロ 1:22.9 上り35.6映像
8 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 5人気 A.シュタルケ 2:15.2 上り34.7映像
2 GI秋華賞 京都 芝2000 5人気 M.デムーロ 1:56.9 上り34.1映像
5 GII関西TVローズS 阪神 芝1800 5人気 M.デムーロ 1:46.1 上り35.4
9 GI優駿牝馬 東京 芝2400 5人気 M.デムーロ 2:26.0 上り34.5映像
4 GI桜花賞 阪神 芝1600 3人気 M.デムーロ 1:36.8 上り33.7映像
1 GIIフィリーズレビュー 阪神 芝1400 1人気 M.デムーロ 1:22.5 上り34.9映像
1 菜の花賞 中山 芝1600 2人気 G.ブノワ 1:34.9 上り34.6
1 2歳新馬 中山 芝1800 3人気 G.ブノワ 1:53.5 上り34.6

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
クイーンズリングの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
マンハッタンカフェManhattan CafeサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
サトルチェンジSubtle ChangeLaw Society
Santa Luciana
アクアリングAnabaaDanzig
Balbonella
シーリングSea RingBering
Blue River
STORY

旅程 — この馬の物語

2012年生まれの黒鹿毛の牝馬。父マンハッタンカフェ、母アクアリング。主な勝ち鞍はエリザベス女王杯・フィリーズレビュー・京都牝馬S。

マンハッタンの隣 ― 名前と血

2012年5月25日、北海道千歳市の社台ファームに、黒鹿毛の牝馬が生まれた。父マンハッタンカフェ、母アクアリング、母の父はアナバー。 JRAに登録されたこの馬の馬名意味は、そっけないほど正直だ――「マンハッタンの隣にある地名+母系より」。父の名を負ったあの島の、川ひとつ隔てた隣、ニューヨーク市クイーンズ。そこへ、母アクアリング、その母シーリングと受け継がれてきた「リング」を継ぎ足した。女王の名ではない。地図の名と、母たちの名の合成である。そのくせこの馬は、四年後に女王の名を冠したレースを勝つことになる。 母アクアリングは9戦して1勝だった。ただ一度の勝利は2008年2月、京都のダート1200mの新馬戦。その日、鞍上にいたのはクリストフ・ルメールである。この名は、九年後にもう一度出てくる。 彼女自身は、共有馬主システム「LEX PRO」から60万円の10口、総額600万円で募集に出された。のちに四億五千万円を超える賞金を稼ぐ馬に、最初に付いた値がそれだった。

騎手になれなかった男 ― 栗東・吉村圭司

熊本県、荒尾。父は荒尾競馬の調教師だった。吉村圭司は中学を出るとき競馬学校の騎手課程に受かっている。ところが体重調整に失敗して、入学を辞退した。騎手になる道は、入口で閉じた。 それでも馬から離れなかった。地方競馬の厩務員として父の厩舎で持ち乗りをしながら、荒尾市内の定時制高校に四年通う。卒業後は北海道の坂東牧場へ約一年半。1996年、JRA競馬学校の厩務員課程に入り、栗東・飯田明弘厩舎の厩務員、やがて調教助手になった。2004年からは池江泰寿厩舎に移り、ドリームジャーニーオルフェーヴルの兄弟に手をかけている。2010年に調教師試験へ受かってからも一年は技術調教師として厩舎に残り、オルフェーヴルの三冠を内側から見た。自分の看板を掲げたのは2012年3月、三十九歳の春である。 その開業三年目の厩舎に、社台ファームから黒鹿毛の牝馬が入った。2014年12月21日、中山の芝1800m。フランスから短期免許で来ていたグレゴリー・ブノワを背に、3番人気の新馬は0秒4差をつけて勝ち上がる。明けて1月の菜の花賞も同じ鞍上で連勝した。2着に置いたのはマキシマムドパリ。この牝馬とは、この先も同じゲートに何度も並ぶことになる。

一番人気の春 ― フィリーズレビューと桜

2015年3月15日、阪神の芝1400m、フィリーズレビュー。鞍上はここからミルコ・デムーロに替わる。前走から20キロ絞れた444キロで単勝1番人気に推され、ゲートで後手を踏みながら直線で鋭く伸びて、ペルフィカを0秒1差で捉えた。 吉村圭司にとって、開業から丸三年での重賞初勝利だった。騎手になれなかった男が、自分の名で獲った最初のタイトルである。 桜花賞は3番人気。しかし阪神の直線で待っていたのは、先手を取ったレッツゴードンキの独走だった。1分36秒0、四馬身。クイーンズリングは上がり3ハロン33秒7で追い込んだが、届いたのは4着まで――3着コンテッサトゥーレとはハナ差だった。続くオークスの2400mは9着。府中の長い直線で、距離は正直に答えを返した。

クビ差の秋

秋はローズステークスの5着から始まった。 10月18日、京都の秋華賞。ノットフォーマルが1000m通過57秒4で飛ばし、隊列は縦長になる。5番人気のクイーンズリングは、直線で外から伸びた。上がり3ハロン34秒1――勝ったミッキークイーンより半秒速い脚である。それでも、クビ差だけ足りなかった。3着に入ったのは、菜の花賞で2着に置いたマキシマムドパリだった。 一か月後のエリザベス女王杯が、初めての古馬相手だった。主戦のミルコ・デムーロが騎乗停止で乗れず、手綱はドイツのアンドレアシュ・シュタルケへ渡る。直線で馬群を捌けないまま8着。勝ったのはマリアライトだった。 三歳の一年は、あと一歩と、届かなかった一戦とで暮れていく。淀の直線に、忘れ物がひとつ残された。

二強を降す ― 二〇一六年十一月十三日

明け4歳。重馬場の京都牝馬ステークスを1番人気で押し切って重賞2勝目、ヴィクトリアマイルは8着、夏の米子ステークスは1番人気で2着。秋初戦の府中牝馬ステークスは、鮮やかな先行抜け出しでまた勝った。京都牝馬Sも府中牝馬Sも、2着に置いたのは同じマジックタイムである。 そして11月13日、エリザベス女王杯。人気は二強に集まっていた。単勝3.1倍の1番人気は前年の覇者マリアライト。その年の宝塚記念で牡馬の一線級をねじ伏せた牝馬だ。3.6倍の2番人気が、オークスと秋華賞を勝ったミッキークイーン。クイーンズリングは3番人気だった。ここまでGIに五度挑み、常に5番人気以内の支持を受けながら、マリアライトにもミッキークイーンにも一度も先着していない。 ゲートで、また後手を踏んだ。前走で使えた先行策は、この日は使えない。それでも鞍上は慌てなかった。「2200mなら、まだ時間はある」[^1]。内ラチ沿いにすっと導かれた馬体は向正面でじわりと押し上げ、外に並ぶ二強の様子をうかがう位置に収まる。 4コーナーから直線。前のパールコード、外のミッキークイーンに挟まれて、一瞬だけ行き場を失った。デムーロはのちに、追い出すタイミングを間違えたと自らを責めている。だが失われたのは本当に一瞬だった。開いた隙間を割って抜け出すと、粘るシングウィズジョイをゴール前でクビ差捉える。上がり3ハロン33秒2はメンバー最速。ミッキークイーンは3着、マリアライトは6着に沈んでいた。 クビ差で退けたシングウィズジョイもまた、父はマンハッタンカフェだった。そしてその鞍上は、クリストフ・ルメールである。 栗東・吉村圭司、GI初制覇。開業から四年八か月。騎手になれなかった男が、自分の厩舎の牝馬で、淀の表彰台に立った。

出典:日本中央競馬会「第41回エリザベス女王杯 二強を降したクイーンズリングが悲願のGI初制覇を果たす!」(文・谷川善久)2016年11月13日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/eliza/result/eliza2016.html、閲覧日:2026年7月26日。

勝てない一年

一か月後、初めて海を渡った。12月11日、シャティンの香港カップ。日本からはモーリスエイシンヒカリ、ステファノス、ラブリーデイ、そしてクイーンズリングの五頭が乗り込んでいる。外めの枠から外を回って9着。勝ったのはモーリスだった。 帰国後の一年は長かった。4月、重馬場の阪神牝馬ステークスは2番人気で15着。5月のヴィクトリアマイルは6着。秋初戦の府中牝馬ステークスは上がり3ハロン33秒3を使いながら、クロコスミアの4着に終わる。 そして連覇のかかったエリザベス女王杯。この日、クイーンズリングの背にミルコ・デムーロはいなかった。彼はモズカッチャンに乗り、そのモズカッチャンが勝った。デムーロにとってこのレース2勝目――1勝目は、前年のクイーンズリングである。クイーンズリングの手綱は弟のクリスチャン・デムーロに託され、上がり3ハロン33秒9で追い上げたものの0秒3差の7着。18頭立ての8番人気。前年の女王は、もう人気の中心ではなかった。 この年、勝ち鞍はひとつもない。残されたレースは、あと一つだった。

一馬身半、うしろ ― 二〇一七年十二月二十四日

引退レースは中山の有馬記念。父マンハッタンカフェが2001年に勝った、同じ舞台の同じ芝2500mだった。 16頭立ての8番人気。馬体重474キロは、19戦のなかで最も重い数字である。鞍上に戻ってきたのはクリストフ・ルメール――九年前、母アクアリングにただ一度の勝ち鞍をもたらし、前年のエリザベス女王杯ではクビ差で先を越された男だ。 レースは、キタサンブラックの独り舞台になった。武豊が迷いなくハナを切り、淡々とラップを刻み、直線入口で一気に突き放す。クイーンズリングは4、5番手の好位につけ、4コーナーで3番手まで押し上げると、馬群の中から伸びた。外から迫るシュヴァルグランスワーヴリチャードを、ゴール前でしのぎ切る。スワーヴリチャードの鞍上は、ミルコ・デムーロだった。 2分33秒8。3着シュヴァルグランとはハナ、4着スワーヴリチャードとはさらにクビ。上がり3ハロン35秒1は、勝ったキタサンブラックの35秒2より0秒1速い。それでも、1馬身半だけ前にキタサンブラックがいた。 通算19戦6勝、獲得賞金4億5102万6000円。2018年1月5日、競走馬登録は抹消された。負けて終わったラストランである。だがその日、キタサンブラックの背中にいちばん近いところでゴールしたのは、8番人気の五歳牝馬だった。

リングは続く ― 千歳の繁殖牝馬

繁殖牝馬として戻ったのは、生まれ育った社台ファームだった。 2019年、初仔が生まれる。父はキタサンブラック――あの日、1馬身半だけ前にいた馬である。ただしこの仔は血統登録に至らず、ターフに立つことはなかった。 2番仔のシャザーンはロードカナロア産駒。3歳の春にすみれステークスを勝ち、皐月賞6着、日本ダービー9着、秋のセントライト記念で3着に入った。母が9着に敗れたのと同じ府中の芝2400mを、息子は牡馬として走っている。4番仔のウールワースを預かったのは、栗東の吉村圭司。母と同じ厩舎だった。 母の側にも、同じ厩舎の名が並ぶ。四つ下の半妹アクアミラビリスもまた吉村圭司の管理馬で、エルフィンステークスを勝ち、姉と同じ桜花賞とオークスのゲートに立った。母アクアリングはその後もう一頭、レインボーリングという牝馬を産んでいる。母から娘へ、シーリング、アクアリング、クイーンズリング――「リング」は、まだ切れていない。 そして2026年、彼女はふたたびキタサンブラックの牝駒を産んだ。有馬記念で1馬身半だけ離れていた二頭の血が、千歳の牧場でもう一度重なっている。 初めてのGIを獲った直後、ミルコ・デムーロはこの馬をこう評していた。「真面目な馬。最後までいい脚を使ってくれた」[^1]。出遅れても、挟まれても、最後の一完歩まで脚を使う。19戦6勝という数字の下にあったのは、たぶんそれだけのことだ。

出典:日本中央競馬会「第41回エリザベス女王杯 二強を降したクイーンズリングが悲願のGI初制覇を果たす!」(文・谷川善久)2016年11月13日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/eliza/result/eliza2016.html、閲覧日:2026年7月26日。

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