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ピンクカメオ
通算成績21戦4勝
獲得賞金1億8,019万円
生年月日 2004.04.24(平成16年)毛色 鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4 | GIII福島牝馬S | 福島 芝1800 | 2人気 | 後藤浩輝 | 1:54.2 | 上り37.5 | — | |
| 2 | GIII中山牝馬S | 中山 芝1800 | 15人気 | 後藤浩輝 | 1:49.3 | 上り36.3 | — | |
| 15 | GIII阪急杯 | 阪神 芝1400 | 13人気 | 和田竜二 | 1:23.4 | 上り36.1 | — | |
| 16 | GIIIキーンランドカップ | 札幌 芝1200 | 9人気 | 三浦皇成 | 1:09.6 | 上り35.1 | — | |
| 15 | GI安田記念 | 東京 芝1600 | 16人気 | 蛯名正義 | 1:34.9 | 上り35.2 | 映像 | |
| 6 | GIヴィクトリアマイル | 東京 芝1600 | 9人気 | 内田博幸 | 1:34.5 | 上り34.5 | 映像 | |
| 14 | GIIサンスポ杯阪神牝馬S | 阪神 芝1400 | 7人気 | 池添謙一 | 1:22.8 | 上り35.1 | — | |
| 14 | GIIIダービー卿チャレンジトロフィー | 中山 芝1600 | 8人気 | 内田博幸 | 1:34.9 | 上り34.3 | — | |
| 14 | GIII東京新聞杯 | 東京 芝1600 | 11人気 | 蛯名正義 | 1:33.8 | 上り34.3 | — | |
| 5 | クイーン賞 | 船橋 ダ1800 | 3人気 | 内田博幸 | 1:53.9 | 上り40.1 | — | |
| 9 | GIマイルチャンピオンS | 京都 芝1600 | 11人気 | 四位洋文 | 1:33.5 | 上り34.3 | 映像 | |
| 14 | GI秋華賞 | 京都 芝2000 | 5人気 | 後藤浩輝 | 2:00.1 | 上り33.9 | 映像 | |
| 4 | GII関西TVローズS | 阪神 芝1800 | 4人気 | 四位洋文 | 1:46.6 | 上り33.5 | 映像 | |
| 5 | GI優駿牝馬 | 東京 芝2400 | 7人気 | 四位洋文 | 2:25.7 | 上り35.4 | 映像 | |
| 1 | GINHKマイルカップ | 東京 芝1600 | 17人気 | 内田博幸 | 1:34.3 | 上り34.9 | 映像 | |
| 14 | GI桜花賞 | 阪神 芝1600 | 8人気 | 蛯名正義 | 1:35.8 | 上り35.2 | 映像 | |
| 1 | OP菜の花賞 | 中山 芝1600 | 3人気 | 蛯名正義 | 1:35.5 | 上り34.9 | — | |
| 8 | GI阪神ジュベナイルフィリーズ | 阪神 芝1600 | 8人気 | 蛯名正義 | 1:34.1 | 上り34.7 | 映像 | |
| 1 | くるみ賞 | 東京 芝1400 | 1人気 | 蛯名正義 | 1:22.5 | 上り34.5 | — | |
| 2 | OPマリーゴールド賞 | 新潟 芝1400 | 3人気 | 蛯名正義 | 1:22.5 | 上り35.9 | — | |
| 1 | 2歳新馬 | 福島 芝1200 | 1人気 | 後藤浩輝 | 1:10.8 | 上り35.8 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父フレンチデピュティFrench Deputy | Deputy Minister | Vice Regent |
| Mint Copy | ||
| Mitterand | Hold Your Peace | |
| Laredo Lass | ||
| 母シルバーレーンSilver Lane | Silver Hawk | Roberto |
| Gris Vitesse | ||
| Strait Lane | Chieftain | |
| Level Sands |
旅程 — この馬の物語
2004年生まれの鹿毛の牝馬。父フレンチデピュティ、母シルバーレーン。主な勝ち鞍はNHKマイルC。
シャクヤクの名 ― 二〇〇四年四月二十四日、新冠
2004年4月24日、北海道新冠町のパカパカファームで鹿毛の牝が生まれた。父はフレンチデピュティ、母はシルバーレーン。 シルバーレーンは1985年、ケンタッキーの生まれである。フランスとアメリカで十七回走って三勝し、1988年にプリドラグロットを勝ち、アイリッシュオークスでは三着に走った。1993年、この牝馬を七十五万ドルで買ったのは『キャッツ』や『オペラ座の怪人』を書いた作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーだった。舞台の男の手から、やがて日本の牧場へ。2002年にパカパカファームが輸入し、以後この土地で仔を産んだ。 その腹からは、すでに一頭のGI馬が出ていた。十歳年上の半兄ブラックホーク。父はNureyev、1999年のスプリンターズステークスと2001年の安田記念を勝っている。馬主は金子真人、預けられたのは美浦の国枝栄厩舎だった。1990年に厩舎を開いた国枝が初めてGIを勝ったのが、この馬である。 妹は市場に出て、金子真人ホールディングスが買った。そして兄と同じ、国枝の厩舎に入る。以後、登録を抹消される日まで、この牝馬は一度も別の厩舎へ移らなかった。 名は花から採られている。シャクヤクの品種、ピンクカメオ。
福島の千二から ― 二〇〇六年
デビューは2006年7月1日、福島の芝1200m、二歳新馬。稍重の馬場を後藤浩輝が導いて一番人気に応え、いきなり勝った。 三週間後の新潟、マリーゴールド賞から鞍上は蛯名正義に替わる。ここは三番人気で二着。秋、東京の芝1400mのくるみ賞を一番人気で勝って二勝目を挙げた。 12月3日、阪神ジュベナイルフィリーズ。八番人気で八着、勝ち馬から一秒の差だった。その日、阪神の1600mを制していたのはウオッカである。同じ年に生まれた牝馬の頂点には、この時点ですでにウオッカがいた。ピンクカメオはその一秒下にいた。
桜のあとで ― 二〇〇七年春
年が明けて1月20日、中山の菜の花賞。三番人気で抜け出し、オープンを勝って三勝目とした。次はクラシックである。 4月8日、阪神。八番人気の桜花賞は十四着に終わる。勝ったのはダイワスカーレットで、二着にウオッカ。勝ち馬からは二秒一離れていた。牝馬の頂点を争う場所に、この馬の居場所は無いように見えた。 陣営が次に選んだのはオークスではなかった。距離を延ばして牝馬同士でもう一度やるのではなく、東京のマイルへ、牡馬の中へ入っていく。相手は皐月賞から来たローレルゲレイロやアサクサキングス、朝日杯フューチュリティステークス三着のオースミダイドウ、ニュージーランドトロフィーの上位組。地力のある牡馬が揃っていた。 鞍上も替わった。ここまで五戦を導いた蛯名正義は、この日ワールドハンターに騎乗している。国枝厩舎はもう一頭マイネルシーガルを送り込み、その背には後藤浩輝がいた。人気は、六番人気のそちらのほうが上だった。 ピンクカメオに乗ったのは、大井の内田博幸である。1970年、福岡の生まれ。南関東のリーディングを二年続けて獲った地方競馬の第一人者だが、中央のGIはまだ一つも勝っていなかった。
雨の府中、後方から
五月六日の東京競馬場は、雨だった。 芝は稍重に沈み、できあがったばかりの新しいスタンドが、濡れた馬場を見下ろしている。十八頭がゲートに入る。十七番人気の牝馬は、外めの枠から出た。 スタートは良かった。だが内田は促さない。流れは速く、隊列は緩まない。手綱を持ったまま、馬群のうしろへ、うしろへと落ちていく。三コーナー、後方。四コーナー、さらに下がって、いちばん後ろのかたまりの中に沈んだ。 その位置から、外へ持ち出す。 直線で先に抜け出したのは、一番人気のローレルゲレイロだった。追う側の脚は、まだ誰の目にも見えていない。 府中の直線には坂がある。雨を含んだ芝は重く、上り坂は脚を削る。そこで、いちばん後ろにいた一頭が、坂を駆け上がりながら伸び始めた。大外、誰の進路も塞がない場所を、一直線に。 差は縮み、並び、前に出る。半馬身。 ゴールに飛び込むとき、内田は頭上で鞭を振っていた。中央のGIを初めて勝った男の、腕の上げ方だった。
九百七十三万九千八百七十円
単勝は七千六百円。三着に十八番人気のムラマサノヨートーが飛び込んだため、三連単の払戻は九百七十三万九千八百七十円になった。当時のJRA重賞史上最高配当である。 「勝てるとは思わなかった」[^1]。内田博幸はそう振り返っている。 この日、彼はまだ大井の所属だった。翌年3月にJRAへ移り、以後は菊花賞も東京優駿も勝つことになるが、その最初の一つを、地方の籍のまま雨の府中で獲ったことになる。 蛯名正義はワールドハンターで十三着。後藤浩輝のマイネルシーガルは八着。国枝厩舎の二頭のうち、勝ったのは人気の無いほうだった。 そして国枝栄にとって、これが三つ目のGIだった。前の二つは、どちらもブラックホーク。同じ母から出た兄と妹が、六年の間を空けて、美浦の同じ厩舎に三つのタイトルを運んできたことになる。 牝馬がこのレースを勝ったのは、1997年のシーキングザパール、2005年のラインクラフトに続く三度目だった。
出典:日本中央競馬会「第12回 NHKマイルC」レース結果、2007年5月6日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/nmc/result/nmc2007.html 、閲覧日:2026年8月1日。
逃げる ― 二〇〇七年夏から二〇〇九年夏まで
二週間後、四位洋文を背にオークスへ向かった。七番人気で五着、勝ち馬からは〇秒四。2400mでも走れることは示したが、レコードで駆け抜けたローブデコルテには届かない。 秋はローズステークス四着、秋華賞は五番人気で十四着。京都の直線で三十三秒九の脚を使いながら、着順は後ろから数えるほうが早かった。マイルチャンピオンシップは九着。12月には船橋のダート1800m、クイーン賞にも遠征して五着に走っている。 四歳になると、勝てないどころか掲示板からも遠ざかった。東京新聞杯十四着、ダービー卿チャレンジトロフィー十四着、阪神牝馬ステークス十四着。 変化が起きたのは2008年5月18日、ヴィクトリアマイルだった。鞍上はNHKマイルカップと同じ内田博幸。この日、ピンクカメオは自分でハナを切った。一年前、後方の底から差してきた馬が、今度はいちばん前で東京の1600mを引っ張ったのである。捕まったのは直線で、六着。それでも上がりは三十四秒五だった。 以後、この馬は逃げる馬になった。安田記念十五着、キーンランドカップ十六着、明けて阪急杯十五着と負けが込んだあと、2009年3月15日の中山牝馬ステークス。十五番人気。ハナを切って四つの角をすべて先頭で回り、直線で内から差してきた一頭に、ゴール前で前に出られた。勝ったのは桜花賞馬キストゥヘヴン。GIを勝ったことのある二頭が、中山の直線で並んだ。着差は〇秒二。 二番人気に支持された4月25日の福島牝馬ステークスは、不良馬場を三番手で運んで四着。これが最後の一戦になった。8月20日、左第三中手骨の剥離骨折と球節の不安のため、競走馬登録は抹消される。二十一戦四勝。四つの勝ち星のうち三つは新馬・条件戦とオープン特別で、残る一つがGIだった。
花の名前
2011年から、ピンクカメオは千歳の社台ファームで繁殖牝馬になった。一歳の三月に育成へ来て以来ずっと同じ牧場にいた馬で、産んだ仔は九頭。ディープインパクトとの間にブルーロータスとフライングレディ、キングカメハメハとの間にピノクル。母のようにGIを勝つ仔は出なかった。 4月14日に仔を産んだあと体調を崩し、2022年4月28日に死んだ。十八歳だった。場長の東礼治郎は「素直で丈夫で扱いに全く苦労することはありませんでした」[^1] と、突然の別れを惜しんでいる。 競馬場に残ったのは、途方もない配当の記憶だ。ピンクカメオの名は今も、あの三連単の数字と一緒に呼ばれる。だがあの金額は、彼女がどれだけ弱かったかの証明ではない。私たちがどれだけ見えていなかったかに付いた、値札である。雨の府中でいちばん速い上がりを使ったのは、十七番人気のこの馬だった。数字は、その脚を見誤った側から出ている。 国枝栄はその後も名牝を預かり続けた。三年後にはアパパネで牝馬三冠を獲る。その背にいたのは蛯名正義――五月六日の府中を、別の馬の鞍上から、十三着の位置で見ていた男である。届かなかった手綱の先で、この厩舎の長い時代はまだ始まったばかりだった。 二十一回ゲートに入って、開いたのは四度。そのうちの一度が、雨の東京だった。シャクヤクには咲く年と咲かない年がある。後方の底から、いちばん速い脚で坂を上がってきた鹿毛の牝馬がいた。配当の記録はいつか誰かに抜かれる。抜かれないのは、あの直線の大外を通ってきた影のほうだ。
出典:テレビ東京「NHKマイルカップ優勝のピンクカメオが死亡」テレ東スポーツ、2022年4月28日配信、https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/articles/2022/04/023591.html 、閲覧日:2026年8月1日。
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