名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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オレハマッテルゼのイメージビジュアル
オレハマッテルゼOrewa Matteruze
Orewa Matteruze

オレハマッテルゼ

通算成績38戦9勝

獲得賞金38,457万円

生年月日 2000.01.16(平成12年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
オレハマッテルゼの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
9 GIII富士S 東京 芝1600 14人気 松岡正海 1:33.9 上り35.7
14 GIスプリンターズS 中山 芝1200 12人気 蛯名正義 1:11.7 上り38.3映像
11 GIIセントウルS 阪神 芝1200 5人気 武豊 1:08.5 上り34.3
18 GI安田記念 東京 芝1600 13人気 後藤浩輝 1:34.4 上り35.9映像
3 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 3人気 後藤浩輝 1:20.1 上り34.6
5 GI高松宮記念 中京 芝1200 6人気 後藤浩輝 1:09.5 上り35.5映像
16 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 10人気 後藤浩輝 1:36.8 上り37.6映像
14 GII阪神カップ 阪神 芝1400 3人気 柴田善臣 1:21.5 上り36.2
5 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 1人気 柴田善臣 1:20.6 上り34.5
9 GIスプリンターズS 中山 芝1200 5人気 柴田善臣 1:08.7 上り35.2映像
10 GI安田記念 東京 芝1600 1人気 柴田善臣 1:33.8 上り35.5映像
1 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 3人気 柴田善臣 1:21.8 上り34.6
1 GI高松宮記念 中京 芝1200 4人気 柴田善臣 1:08.0 上り33.9映像
3 GIII阪急杯 阪神 芝1400 1人気 柴田善臣 1:22.7 上り36.1
2 GIII東京新聞杯 東京 芝1600 2人気 柴田善臣 1:33.7 上り34.5
9 GIII京都金杯 京都 芝1600 1人気 福永祐一 1:34.7 上り35.2
1 OPキャピタルS 東京 芝1600 2人気 武豊 1:32.9 上り34.2
11 GI安田記念 東京 芝1600 13人気 蛯名正義 1:33.0 上り35.4映像
2 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 5人気 柴田善臣 1:20.7 上り34.9
1 晩春S 東京 芝1600 1人気 柴田善臣 1:32.8 上り35.1
2 アクアマリンS 中山 芝1600 2人気 後藤浩輝 1:33.6 上り34.6
1 甲斐駒特別 東京 芝1400 1人気 後藤浩輝 1:23.2 上り35.3
2 ゴールデンサドルT 阪神 芝1400 1人気 藤田伸二 1:21.4 上り35.9
2 オグリキャップM 京都 芝1600 1人気 武豊 1:35.1 上り34.6
1 保津峡特別 京都 芝1600 2人気 後藤浩輝 1:34.8 上り35.9
3 湘南S 東京 芝1600 6人気 柴田善臣 1:33.5 上り35.0
1 富嶽賞 東京 芝1600 2人気 武豊 1:34.8 上り34.3
2 メジロラモーヌM 阪神 芝1600 2人気 武豊 1:34.0 上り34.4
5 メイズイM 中山 芝1800 4人気 後藤浩輝 1:48.6 上り34.9
2 タケシバオーM 東京 芝1800 4人気 中舘英二 1:47.4 上り35.1
1 4歳以上500万下 小倉 芝1800 2人気 中舘英二 1:48.9 上り37.7
5 背振山特別 小倉 芝2000 4人気 中舘英二 2:01.0 上り37.4
8 3歳以上500万下 京都 芝1600 2人気 武豊 1:34.6 上り34.5
2 3歳以上500万下 東京 芝1800 1人気 武豊 1:48.5 上り34.9
1 3歳未勝利 小倉 芝2000 1人気 武豊 2:01.5 上り35.8
3 3歳未勝利 阪神 芝2000 2人気 武豊 2:03.9 上り37.5
3 3歳未勝利 東京 芝2000 7人気 柴田善臣 2:02.0 上り35.4
11 3歳未勝利 中京 芝2000 2人気 岩田康誠 2:05.2 上り36.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
オレハマッテルゼの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
サンデーサイレンスSunday SilenceHaloHail to Reason
Cosmah
Wishing WellUnderstanding
Mountain Flower
カーリーエンジェルジャッジアンジェルーチJudge AngelucciHonest Pleasure
Victorian Queen
ダイナカールノーザンテーストNorthern Taste
シャダイフェザー
STORY

旅程 — この馬の物語

2000年生まれの栗毛の牡馬。父サンデーサイレンス、母カーリーエンジェル。主な勝ち鞍は高松宮記念・京王杯スプリングC。

二十六日

2000年1月16日、北海道早来町のノーザンファームで栗毛の牡馬が生まれた。父はサンデーサイレンス、母はカーリーエンジェル。その母、つまり祖母は優駿牝馬(オークス)を勝ったダイナカールである。ダイナカールの娘には天皇賞・秋とオークスを制したエアグルーヴがいて、この牡馬から見れば叔母にあたる。エアグルーヴの娘アドマイヤグルーヴは同じ2000年の生まれで、のちにエリザベス女王杯を二度勝つ。いとこである。血の並びだけを見れば、申し分がない。 生まれて二十六日後、2000年2月11日の未明に、宮城県山元町の山元トレーニングセンターで厩舎が一棟燃えた。中にいた三十頭のうち助け出せたのは八頭で、二十二頭が焼け死んでいる。原因は漏電とみられた。放牧に出されたばかりの一頭に、エガオヲミセテがいた。父サンデーサイレンス、母カーリーエンジェル。この牡馬の全姉である。阪神牝馬特別とマイラーズカップを勝った牝馬だった。 姉の馬主は小田切有一、厩舎は栗東の音無秀孝。弟も、同じ馬主の同じ厩舎に入る。 小田切は冠名を使わない。代わりに、口語をそのまま馬名にする人である。この弟につけた名は、オレハマッテルゼといった。石原裕次郎の歌と、その歌から作られた1957年の日活映画『俺は待ってるぜ』が由来になっている。監督は蔵原惟繕で、これが彼のデビュー作。脚本は裕次郎の兄・石原慎太郎が書いた。小田切自身は、「俺、はまってるぜ」とも読めることを認めている。 待つ、という動詞が名前に入っていた。そしてこの馬のまわりには、すでにずいぶん長く待っている人たちがいた。

二十一年前の五月

1985年5月19日、東京競馬場。二十八頭立ての優駿牝馬を、二十一番人気の牝馬が勝った。ノアノハコブネという。単勝の払戻しは6270円で、これはいまもオークスの最高配当として残っている。 馬主は小田切有一。鞍上は音無秀孝だった。 その春、ノアノハコブネは芝で四戦して勝てずにいた。オークスに出るには、もう一勝が要る。どこを使うかを陣営が話し合ったとき、ダートの平場なら勝てると言ったのは音無である。京都のダート1800メートルを勝って、出走枠をこじ開けた。 小田切は、その日の東京競馬場にいない。監督を務めていた少年ソフトボールチームの試合に出かけていた。GIは馬主を続けていればまた見られるかもしれないが、子どもの日々は二度と帰ってこない。それが理由だったという。 その年の12月、ノアノハコブネは阪神大賞典の一周目で寛骨を折り、安楽死の処置がとられた。オークスから半年あまりしか経っていなかった。 音無は騎手として1212戦84勝を挙げ、GIはこの一勝きりだった。1993年に鞭を置き、1995年に厩舎を開いている。初出走から一か月後の北九州記念をイナズマタカオーで勝ち、調教師としての初勝利がそのまま重賞初制覇になった。重賞は勝てる厩舎になった。GIだけが、来なかった。 また見られるかもしれない、と言った男の「また」が来るまでには、二十一年かかる。

遅れてきた馬

デビューは2003年5月25日、中京の芝2000メートル。三歳未勝利戦である。新馬戦は一度も使えていない。岩田康誠が乗り、二番人気に支持されて、十三頭中十一着だった。 四戦目、7月19日の小倉の芝2000メートルを、武豊とともに勝つ。三歳の夏である。 そこから先が長かった。マイル(1600メートル)と1800メートルの条件戦を回り続け、勝ったり、わずかに足りなかったりした。目を引くのは二着の中身である。勝ち馬とタイム差0秒0——同じ時計で、それでも勝てない二着が、三度あった。 2005年5月1日、東京の晩春ステークスを柴田善臣で勝ち、中一週で京王杯スプリングカップに向かう。重賞は初挑戦だったが、アサクサデンエンの二着に粘った。翌月の安田記念がGI初出走になる。十三番人気で十一着。勝ったのは、京王杯で先着を許したアサクサデンエンだった。 夏を休んで、11月27日のキャピタルステークス。武豊が乗って、オープン特別を初めて勝った。五歳の秋である。この馬はようやく、オープンの入口に立っていた。

距離を切る

六歳になった2006年、最初の三戦はいずれも勝てていない。京都金杯は一番人気で九着。東京新聞杯は柴田善臣とのコンビが戻って二着、またしてもタイム差0秒0。不良馬場の阪急杯も一番人気で三着だった。 強いのに、勝てない。柴田は、この馬には距離が短いほうがいいと考えていた。そして1200メートルの高松宮記念を使うことを進言する。馬主の考えも同じ方向を向いていたので、出走が決まった。 1200メートルは走ったことがない。それまでの最短は1400メートルで、キャリアの大半はマイルと1800メートルにあった。2000メートルの未勝利戦でデビューした馬が、六歳の春になって初めて、六ハロンの競走に出る。 二十一年前、ダートなら勝てると言った鞍上が、オークスの扉を開けた。今度は、距離を切れと言う鞍上がいた。

三月二十六日、中京

晴れ。芝は良。 ゲートが開くと、ギャラントアローが押して先頭に立った。コパノフウジンとプリサイスマシーンがその直後につく。人気を集めたラインクラフトとシーイズトウショウは、逃げ馬を見る位置に構えた。オレハマッテルゼは、その二頭のさらに後ろにいる。 逃げ馬を見ている馬を、また見ている。短距離の競走で取る位置ではない。マイルを走るときと同じ運びだった。 ペースは平均どおりに流れた。柴田は動かさない。四コーナーを回っても、外へは持ち出さなかった。外へ出せば、コースの分だけ余計に走ることになる。この馬には、その余分を吸収するほどの余裕がない。だから馬群の中にいた。 直線を向く。内でプリサイスマシーンとコパノフウジンが逃げ馬に並びかけ、外へシーイズトウショウが張り出し、そのさらに外からラインクラフトが上がってきた。前が塞がり、外も埋まる。残っていたのは、内の集団と外の集団のあいだにできた、一頭ぶんの隙だけだった。 柴田はそこへ入れた。 抜け出す。ここから先が、この馬のいちばん危ないところである。ゴール前で抜け出すと遊ぶ癖があり、惜しい負け方を繰り返してきた馬である。外からは、桜花賞とNHKマイルカップを勝った四歳牝馬が伸びてくる。 今度は、譲らなかった。クビ差。 最後の600メートル——上がり三ハロンという——を、この馬は33秒9で走っていた。その日いちばん速い脚を使ったのは、もっと後ろにいた一番人気のシンボリグランで、33秒6。その馬は六着だった。速い脚が、必ずしも一着の場所に届くわけではない。届いたのは、隙間を選んで進んだほうだった。

待っていた者たち

音無秀孝にとって、調教師としての初めてのGIだった。1995年の開業から十一年である。騎手時代の一勝を数え合わせるなら、二十一年ぶりになる。しかもその一勝も、小田切有一の馬だった。 小田切にとっても、二十一年ぶりのGIである。ノアノハコブネの日、彼は競馬場にいなかった。 柴田善臣にとっては、六年ぶりの中央GIだった。前の一勝は2000年の高松宮記念、キングヘイローである。同じレース、同じ中京で、六年が経っていた。美浦の騎手が、栗東の厩舎の馬で。 八年前、同じ馬主の同じ厩舎の牝馬エガオヲミセテがオークスを走ったとき、乗っていたのも柴田だった。彼女は十五着に敗れ、その後も走り続け、2000年2月に放牧先の厩舎で焼け死んだ。重賞は二つ勝ったが、GIには手が届かなかった。弟が、それを持ってきた。 二着のラインクラフトに乗っていたのは福永祐一である。小田切が個人馬主として最初に所有し、最初の勝利をもたらしてくれた馬はマリージョーイといった。福永洋一が最後に跨がった馬である。祐一が騎手になったとき、その縁を知らない調教師から騎乗依頼の話が来た。小田切は事情を説明し、自分の勝負服を息子さんに着せてよいか家族の思いを確かめてほしい、と頼んだ。返ってきたのは、ぜひ乗せてやってくださいという言葉だったという。その騎乗馬は勝っている。 その勝負服を着た馬が、中京の直線で、彼の追い上げをクビ差だけ凌いだ。

五十九キロと、その先

二か月後の5月13日、東京の京王杯スプリングカップ。GIを勝った馬には斤量が乗る。五十九キロだった。 この日の運びは、高松宮記念とは逆になる。ゲートを出て先頭に立ち、そのまま逃げ切った。二着インセンティブガイに0秒3差。待つ名前の馬が、待たない競馬で重賞を連勝した。 安田記念は一番人気に推されて十着。道中の三コーナーで他馬と接触している。秋は休み明けでスプリンターズステークスに向かい、馬体重は安田記念から十二キロ減っていた。九着。スワンステークスは一番人気で五着、暮れの阪神カップは十四着だった。 2007年は初めてのダート、フェブラリーステークスから始めて十六着。連覇のかかった高松宮記念は重馬場で五着。京王杯スプリングカップ三着、安田記念十八着。秋はセントウルステークス十一着、スプリンターズステークス十四着と続いた。 最後の一戦は10月20日、東京の富士ステークスである。松岡正海を乗せてゲートから先頭に立ち、直線で捉えられて九着。11月12日に引退が発表され、14日付で競走馬登録が抹消された。七歳、三十八戦目だった。

四月、最後方から

2008年から、北海道浦河町のイーストスタッドで種牡馬になった。 初年度の産駒にハナズゴールがいる。栗毛の牝馬で、2012年のチューリップ賞を勝ち、翌年には京都牝馬ステークスも勝った。産駒がようやく走り出したところだった。 2013年10月30日、重い腰萎症のため、オレハマッテルゼは死んだ。十三歳である。 その半年後、2014年4月26日。ハナズゴールはオーストラリアにいた。オールエイジドステークス。スタートで行き脚がつかず最後方に置かれ、直線で外から前をまとめて抜き去って、GIを勝つ。オーストラリアに渡って三戦目だった。父は、その報せの届く場所にもういなかった。 『俺は待ってるぜ』という名前だったが、この馬が誰かを待った記憶は、実のところあまり残っていない。待っていたのはいつも人のほうである。二十一年待った馬主がいて、騎手として一度きりのGIを勝ったあと二十一年待った調教師がいて、六年待った騎手がいた。待つことを火事に取り上げられた姉がいた。 そして最後に一度だけ、順番が入れ替わる。父が待てなかった半年を、娘が越えていった。四月の南半球で、最後方から一頭が伸びてくる。その血統表の父の欄には、待っている、という名が書かれたままだった。

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