名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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ワンアンドオンリーのイメージビジュアル
ワンアンドオンリーOne and Only
One and Only

ワンアンドオンリー

通算成績33戦4勝

獲得賞金(海外含む・概算)約45,854万円

生年月日 2011.02.23(平成23年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ワンアンドオンリーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
16 GIジャパンカップ 東京 芝2400 15人気 横山典弘 2:25.7 上り36.7映像
17 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 16人気 横山典弘 2:16.3 上り45.0映像
7 GII毎日王冠 東京 芝1800 10人気 横山典弘 1:46.0 上り33.0映像
10 GIIIトヨタ賞中京記念 中京 芝1600 7人気 横山典弘 1:34.3 上り34.3映像
10 GII目黒記念 東京 芝2500 7人気 横山典弘 2:31.8 上り34.0映像
11 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 11人気 和田竜二 3:14.1 上り36.6映像
7 GII阪神大賞典 阪神 芝3000 3人気 武豊 3:05.0 上り37.7映像
5 GIIアメリカジョッキークラブカップ 中山 芝2200 6人気 田辺裕信 2:12.5 上り36.0映像
8 GIジャパンカップ 東京 芝2400 14人気 田辺裕信 2:26.6 上り35.3映像
8 GIIアルゼンチン共和国杯 東京 芝2500 7人気 柴山雄一 2:34.0 上り34.2
7 GII産経賞オールカマー 中山 芝2200 5人気 内田博幸 2:12.3 上り34.4
14 GI宝塚記念 阪神 芝2200 13人気 田辺裕信 2:14.8 上り38.6映像
5 GIドバイシーマクラシック アラブ首長国連邦 芝2410 8人気 武豊 映像
6 GII京都記念 京都 芝2200 5人気 内田博幸 2:19.1 上り37.9映像
9 GI有馬記念 中山 芝2500 10人気 浜中俊 2:33.5 上り34.8映像
7 GIジャパンカップ 東京 芝2400 13人気 内田博幸 2:25.0 上り34.6映像
16 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 11人気 内田博幸 1:59.5 上り34.7映像
6 GII京都大賞典 京都 芝2400 4人気 C.ルメール 2:24.3 上り32.9
11 GI宝塚記念 阪神 芝2200 4人気 M.デムーロ 2:15.1 上り35.0映像
3 GIドバイシーマクラシック アラブ首長国連邦 芝2410 6人気 C.デムーロ 映像
13 GI有馬記念 中山 芝2500 5人気 横山典弘 2:36.0 上り34.4映像
7 GIジャパンカップ 東京 芝2400 8人気 横山典弘 2:24.2 上り35.4映像
9 GI菊花賞 京都 芝3000 1人気 横山典弘 3:02.2 上り35.6映像
1 GII神戸新聞杯 阪神 芝2400 1人気 横山典弘 2:24.4 上り35.1
1 GI東京優駿 東京 芝2400 3人気 横山典弘 2:24.6 上り34.0映像
4 GI皐月賞 中山 芝2000 4人気 横山典弘 1:59.9 上り34.3映像
2 GII報知杯弥生賞 中山 芝2000 4人気 横山典弘 2:01.4 上り35.5
1 GIIIラジオNIKKEI杯 阪神 芝2000 7人気 C.ルメール 2:04.3 上り34.8
6 GIII東京スポーツ杯2歳S 東京 芝1800 8人気 横山典弘 1:46.3 上り33.7映像
2 OP萩S 京都 芝1800 6人気 国分優作 1:48.4 上り35.2
1 2歳未勝利 阪神 芝1600 2人気 国分優作 1:36.5 上り33.4
2 2歳未勝利 阪神 芝1600 13人気 国分優作 1:34.7 上り34.5
12 2歳新馬 小倉 芝1800 10人気 国分優作 1:53.5 上り35.3

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ワンアンドオンリーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ハーツクライHeart's CryサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
アイリッシュダンストニービンTony Bin
ビューパーダンスBuper Dance
ヴァーチュタイキシャトルTaiki ShuttleDevil's Bag
ウェルシュマフィンWelsh Muffin
サンタムールDanzig
アンブロジンAmbrosine

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2011年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ハーツクライ、母ヴァーチュ。主な勝ち鞍は東京優駿・ラジオNIKKEI杯・神戸新聞杯。

唯一無二という名

2011年2月23日、北海道新冠町のノースヒルズに黒鹿毛の牡馬が生まれた。父はハーツクライ、母はヴァーチュ。母は中央で27戦3勝、条件戦を走り続けた牝馬で、その父はマイル王タイキシャトルである。長い距離への適性は、早くから不安視される配合だった。ちょうど一年前の同じ2月23日には、同じ母から半兄サンセットスカイが生まれている。 血をさかのぼると、三代母のアンブロジンに行き着く。1988年にアメリカで生まれたミスタープロスペクターの娘で、シェイク・モハメドの手を離れて日本へ渡ってきた牝馬である。その産駒には、2002年の皐月賞をレコードで制したノーリーズンがいた。華やかな牝系ではないが、クラシックの一冠を出した血ではある。父ハーツクライの父サンデーサイレンスと、母の父タイキシャトルの父デヴィルズバッグは、ともにHaloの産駒だった。Halo 3×4、18.75パーセント。いわゆる奇跡の血量を持って生まれた仔でもある。 名付けたのは馬主の前田幸治だった。唯一無二――One and Only。それくらいの馬になってほしいという願いを込めたのだと、後に本人が語っている。もっとも、最初のうちは名前負けしていると思っていた、とも。 1歳の夏、同期の生産馬のなかでいちばん早く、系列の育成場である鳥取県伯耆町の大山ヒルズへ送られた。体は細く、走法も効率がいいとは言えない。この時点で確かな手応えまでは持てなかったと、育成の担当者は振り返っている。

新馬戦、十二着

2013年6月1日、栗東の橋口弘次郎厩舎に入る。橋口は67歳。調教師の定年である70歳まで、あと3年だった。牧場側はこの馬を奥手と見ていたが、こういう馬は早くに競馬を覚えさせたほうがいいという橋口の申し出で、入厩は前倒しになった。担当になったのは甲斐純也調教助手。とにかく走るのが好きな馬だった、調教を重ねるうちに走るのを嫌がるようになる馬は多いけれど、この馬はそれが引退まで変わらなかった――のちに、そう語っている。 デビューは8月4日、小倉の芝1800メートル。10番人気で12着だった。 9月7日、阪神の未勝利戦。単勝260倍の13番人気まで評価は落ちていたが、1馬身4分の1差の2着に粘る。3週間後、同じ条件で直線を抜け出し、半馬身差で初勝利を挙げた。 10月26日、京都の萩ステークス。後方から外へ持ち出して追い上げ、内で先に抜け出したデリッツァリモーネにハナ差だけ届かず2着。 11月16日、東京スポーツ杯2歳ステークス。ここで初めて横山典弘が手綱を取り、6着。勝ったのはイスラボニータだった。 12月21日、阪神のラジオNIKKEI杯2歳ステークス。ルメールに乗り替わっての参戦で、単勝13.7倍の7番人気。1枠1番から中団の内を進み、直線で外へ持ち出すと、前を行く馬をすべて差し切って1馬身4分の1差をつけた。夏に二桁着順でデビューした馬が、その年の暮れには重賞のタイトルを持っていた。

四度の、二着

橋口弘次郎が初めてダービーに管理馬を送り出したのは1990年である。ツルマルミマタオーで4着。以来、東京の2400メートルへ19頭を送り、勝てなかった。しかも2着が4回あった。1996年のダンスインザダーク、2004年のハーツクライ、2009年のリーチザクラウン、2010年のローズキングダム。ダービーへの挑戦回数は、当時の現役調教師で最も多かった。 なかでも2004年は、この物語に直につながっている。5番人気のハーツクライは横山典弘を背に、キングカメハメハがレコードで駆け抜けた東京の直線を追い、1馬身半差の2着に終わった。その10年後、ハーツクライの仔が同じ厩舎の馬房にいて、同じ男が乗ろうとしている。 2014年3月9日、弥生賞。トゥザワールドと並んでゴールへ飛び込み、写真判定でハナ差の2着。皐月賞の優先出走権は手にした。 4月20日の皐月賞は、最後方でじっと待った。直線で大外に持ち出し、上がり3ハロン34秒3。それでも先に抜け出したイスラボニータには届かず4着。東京スポーツ杯に続いて、ここでもイスラボニータが彼の前にいた。 橋口は68歳になっていた。定年まで、ダービーに挑めるのはあと2回だった。

好位、五、六番手

2014年6月1日。晴、芝は良。13万人を超える人が東京競馬場に詰めかけた。スタンドには「先生の夢を叶えてや ワンアンドオンリー」という横断幕が掲げられていた。 この日は皇太子徳仁親王が行啓し、ウオッカが勝った2007年以来、7年ぶりの台覧競馬となった。そして――馬と、鞍上の横山典弘と、馬主の前田幸治と、この日行啓した皇太子。四者の誕生日が、そろって2月23日だった。 橋口は青いネクタイを締めていた。2005年の有馬記念、ハーツクライディープインパクトを負かしたときと同じネクタイである。こんな緊張は初めてだ、と本人は漏らしていた。その日、担当の甲斐純也はベストターンドアウト賞を受けている。最も美しく手入れされた馬の担当者に贈られる賞だった。甲斐の父・正文は、1990年に橋口が初めてダービーへ送り出したツルマルミマタオーの担当厩務員で、この日はもうこの世にいなかった。 発走。エキマエが逃げ、トーセンスターダムが2番手につく。1番人気のイスラボニータはその2馬身ほど後ろ。1枠2番から出た横山は、それまでの後方待機をあっさり捨て、イスラボニータを前に見る好位5、6番手の内へ入れた。「脚を余して負けるのだけは嫌だったんです」[^1] 行きたがる馬を、道中はずっと抑えていた。エキマエが故障で競走を中止し、先頭で直線に入ったのはトーセンスターダム。外からイスラボニータが並びかけ、そのすぐ後ろで横山は進路の開くのを待つ。 残り400メートル、前が開いた。内のイスラボニータとの叩き合いが始まり、残り100メートルで二頭が抜け出す。そこから一完歩ごとにワンアンドオンリーが前に出た。2分24秒6、4分の3馬身。上がりは34秒0。3着には12番人気のマイネルフロストが入った。

出典:Number Web(文藝春秋)「橋口調教師、ダービー初制覇の『涙』。ワンアンドオンリーと追う新たな夢。」島田明宏、2014年6月2日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/820942 、閲覧日:2026年7月28日。

検量室前の、1番

検量室の前には、勝ち馬のためだけの枠場がある。1と刻印されたその場所で、橋口弘次郎はつぶやいた。「こういうときは泣いてもいいのかな」[^1] 馬主の前田幸治は、その涙を拭くつもりでタオルを手に降りてきていた。橋口は泣いていなかった。 厩舎開業33年目、68歳。1990年から数えて20頭目の出走馬で、ようやくダービートレーナーになった。父が届かなかったレースを、その仔が、同じ厩舎の、同じ鞍上で獲った。横山にとっては2009年のロジユニヴァース以来2度目の東京優駿である。生産者のノースヒルズにとっては、前年のキズナに続く連覇だった。キズナの馬主は前田幸治の弟・晋二で、一族としては二年続けてのダービーということになる。 夏を大山ヒルズで過ごし、秋は神戸新聞杯から始動する。単勝1.6倍。16頭の14番手から大外を回して進出し、直線で先に抜け出していたサトノアラジンを捉える。サウンズオブアースにアタマ差だけ先着して、ダービー馬は連勝で秋を迎えた。 だが菊花賞は、1番人気で9着。京都の3000メートルを3分1秒0で駆けたトーホウジャッカルのレコード決着に、まるで歯が立たなかった。ジャパンカップ7着、有馬記念13着。JRA賞最優秀3歳牡馬の投票では、イスラボニータの170票に対して109票の次点。世代の頂点に立った証は、東京の2400メートルに刻まれたあの一つだった。

出典:Number Web(文藝春秋)「橋口調教師、ダービー初制覇の『涙』。ワンアンドオンリーと追う新たな夢。」島田明宏、2014年6月2日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/820942 、閲覧日:2026年7月28日。

父の厩舎から、息子の厩舎へ

2015年3月28日、メイダン。ドバイシーマクラシックにC.デムーロを乗せて出走し、ドルニヤ、フリントシャーに続く3着に入った。砂漠の競馬場で見せたこの3着が、彼が3着以内に入った最後のレースになる。 夏はイギリスのキングジョージへ向かう構想もあったが、宝塚記念に転じて11着。凱旋門賞の計画も、そこで消えた。京都大賞典6着、天皇賞(秋)16着、ジャパンカップ7着、有馬記念9着。 2016年2月14日の京都記念、6着。これが橋口弘次郎の管理馬としての最後の一戦になった。2月29日、定年。翌3月1日、長男の橋口慎介が栗東に厩舎を開き、ワンアンドオンリーは父の厩舎から息子の厩舎へ移る。担当の甲斐純也も一緒に移った。新しい厩舎は調教のコースを変え、ブリンカーを着け、できることを試している。3月26日のドバイシーマクラシックはポストポンドの5着。それでも走る気は戻らなかった。2015年と2016年、国内で走った10戦は、すべて6着以下だった。

最後まで

2017年、6歳。1月のアメリカジョッキークラブカップで5着。これが彼の最後の掲示板になった。阪神大賞典7着、天皇賞(春)11着。 5月28日の目黒記念、鞍上に横山典弘の名が戻る。2014年の有馬記念以来、2年5か月ぶりだった。以後、引退までの5戦はすべて横山が乗っている。 7月の中京記念は10着。10月8日の毎日王冠も7着に終わったが、上がり3ハロンは33秒0だった。東京の直線でイスラボニータに並びかけたときの脚は、まだ体のどこかに残っていた。 10月29日、台風の雨で不良になった東京。天皇賞(秋)は17着。11月26日のジャパンカップが最後の一戦になり、16着。勝ったのは、同じハーツクライの仔であるシュヴァルグランだった。12月1日付で競走馬登録が抹消される。通算33戦4勝。 新ひだか町のアロースタッドで種牡馬となり、初年度は20頭の繁殖牝馬を集めた。2021年9月、中山の2歳未勝利でアトラクティーボが勝ち、産駒の中央初勝利が記録されている。2023年からは熊本県のストームファームで暮らしている。 橋口弘次郎は調教師を引退するとき、いちばん嬉しかったのはワンアンドオンリーのダービーで、いちばん悔しかったのはダンスインザダークのダービーだったと語り、最高の調教師人生でした、と結んだ。 神戸新聞杯のあと、この馬は23戦して一度も勝てなかった。それでも一戦ごとにゲートへ向かい、最後の一完歩まで走った。走るのが好きな馬だった、と担当者は言う。二十三度の敗戦を走り抜いた理由は、たぶんそれで足りる。あの日、東京の直線で4分の3馬身だけ前に出た黒鹿毛は、その名のとおり、一頭しかいない。

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