名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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オジュウチョウサンのイメージビジュアル
オジュウチョウサンOju Chosan
Oju Chosan

オジュウチョウサン

通算成績40戦20勝

獲得賞金94,137万円

生年月日 2011.04.03(平成23年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
オジュウチョウサンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
6 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 1人気 石神深一 4:48.2 上り14.1映像
9 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 2人気 石神深一 3:33.4 上り13.7
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 1人気 石神深一 4:52.3 上り13.8映像
3 阪神スプリングJ 阪神 障3900 1人気 石神深一 4:21.5 上り13.4
1 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 2人気 石神深一 4:46.6 上り14.0映像
3 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 1人気 石神深一 3:29.1 上り13.4
5 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 2人気 石神深一 4:52.6 上り13.8映像
3 京都ジャンプS 阪神 障3140 1人気 石神深一 3:29.8 上り13.4
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 1人気 石神深一 5:02.9 上り14.3映像
1 阪神スプリングJ 阪神 障3900 1人気 石神深一 4:19.1 上り13.3
6 GIIステイヤーズS 中山 芝3600 4人気 M.デムーロ 3:46.5 上り36.7映像
12 GIIアルゼンチン共和国杯 東京 芝2500 7人気 松岡正海 2:32.8 上り35.4映像
10 六社S 東京 芝2400 1人気 石神深一 2:26.6 上り34.6
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 1人気 石神深一 4:47.6 上り13.5映像
1 阪神スプリングJ 阪神 障3900 1人気 石神深一 4:23.6 上り13.5
9 GI有馬記念 中山 芝2500 5人気 武豊 2:33.0 上り36.9映像
1 南武特別 東京 芝2400 3人気 武豊 2:25.0 上り34.5
1 開成山特別 福島 芝2600 1人気 武豊 2:42.3 上り37.1
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 1人気 石神深一 4:43.0 上り13.3映像
1 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 1人気 石神深一 4:36.1 上り13.5映像
1 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 1人気 石神深一 3:32.5 上り13.7映像
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 1人気 石神深一 4:50.8 上り13.7映像
1 阪神スプリングJ 阪神 障3900 1人気 石神深一 4:28.1 上り13.7
1 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 1人気 石神深一 4:45.6 上り13.9映像
1 JGⅡ東京ハイジャンプ 東京 障3110 1人気 石神深一 3:27.6 上り13.4映像
1 東京ジャンプS 東京 障3110 1人気 石神深一 3:26.2 上り13.3映像
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 2人気 石神深一 4:49.4 上り13.6映像
2 障害4歳以上OP 中山 障3200 2人気 石神深一 3:32.5 上り13.3
6 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 6人気 石神深一 4:42.2 上り13.8映像
4 OPイルミネーションJS 中山 障3570 4人気 石神深一 3:59.9 上り13.4
1 障害3歳以上OP 福島 障3380 2人気 石神深一 3:44.0 上り13.3
4 東京ジャンプS 東京 障3110 9人気 石神深一 3:28.3 上り13.4
9 障害3歳以上OP 東京 障3100 4人気 山本康志 3:34.6 上り13.8
1 障害4歳以上OP 中京 障3300 3人気 山本康志 3:39.9 上り13.3
1 障害4歳以上未勝利 東京 障3000 4人気 山本康志 3:25.0 上り13.7
3 障害4歳以上未勝利 中京 障3000 2人気 山本康志 3:24.3 上り13.6
2 障害4歳以上未勝利 中山 障2880 11人気 山本康志 3:15.0 上り13.5
14 障害3歳以上未勝利 福島 障2800 14人気 大江原圭 3:19.6 上り14.3
8 2歳未勝利 東京 芝2000 11人気 三浦皇成 2:02.9 上り35.1
11 2歳新馬 東京 芝1800 12人気 松岡正海 1:54.3 上り34.5

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
オジュウチョウサンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ステイゴールドStay GoldサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ゴールデンサッシュディクタスDictus
ダイナサッシュ
シャドウシルエットシンボリクリスエスSymboli Kris SKris S.
Tee Kay
ユーワジョイナーミルジョージ
サシマサンダー
STORY

旅程 — この馬の物語

2011年生まれの鹿毛の牡馬。父ステイゴールド、母シャドウシルエット。

「オジュウ」という名

2011年4月3日、北海道平取町の坂東牧場に鹿毛の牡馬が生まれた。父ステイゴールド、母シャドウシルエット、母の父シンボリクリスエス。母は一度も競馬場を走らないまま繁殖に上がった牝馬である。 血の器がまったくの空だったわけではない。一つ上の全兄に、2013年のラジオNIKKEI賞を勝ち、その秋の菊花賞ではエピファネイアの5着に食い込んだケイアイチョウサンがいる。母の半兄には、2002年にブリーダーズゴールドカップとオグリキャップ記念を制したアルアランがいた。弟は、兄の背中を追う立場から始まった。 馬名は変わっている。馬主・株式会社チョウサンの代表、長山尚義の次男が幼い頃、「俺」と言えずに「オジュウ、オジュウ」と発音していた。それがそのまま名になった。JRAの登録上の意味は「家族名より+冠名」。兄のケイアイも、妻の名のイニシャルと「愛してる」の頭文字だという。家族の口ぐせを、そのまま馬に着せる馬主だった。 2013年10月19日、東京の芝1800m、2歳新馬。鞍上は松岡正海、12番人気で11着。翌月の未勝利戦も8着。そこから一年、この馬は競馬場から消える。

福島、最下位

戻ってきたのは2014年11月15日、福島の障害3歳上未勝利。障害馬への転向だった。14頭立ての14番人気で14着。13着の馬とは大差がついた。この日の走りに、のちの面影は何ひとつない。 このレースを最後に、馬は小笠倫弘厩舎から和田正一郎厩舎へ移った。美浦から美浦への転厩だが、預かる人が替わるということは、馬の一日が丸ごと組み替わるということである。 年が明けて山本康志が手綱を取ると、中山で2着、中京で3着と着順が上がり、2015年2月21日、東京の障害4歳以上未勝利でついに勝った。障害4戦目、デビューから数えて6戦目の初勝利である。翌3月には中京のオープンも勝って連勝した。 6月27日、東京ジャンプステークスで初めて重賞に出た。9番人気の4着。この日、山本の乗り馬が重なったために鞍上に据えられたのが、石神深一だった。以後、この馬が障害を走るとき、鞍の上にいるのはいつもこの男になる。

耳あてを外した日

石神深一は茨城の生まれで、父の石神富士雄も元JRA騎手だった。1974年にデビューし、1979年の京王杯スプリングハンデキャップをゴールデンボートで制して、生涯ただ一つの重賞を手にしている。その背中を見て育った息子は2001年に免許を取り、初年度から4年続けて二桁勝利を挙げた。だがその後、落馬による負傷や所属厩舎の解散が重なって騎乗数は細っていく。2007年、騎乗機会を求めて障害競走に乗り始めた。障害重賞の初勝利は2013年、デビュー13年目のことである。 オジュウチョウサンに初めて跨ったとき、石神が受けた印象は芳しいものではなかった。気性に難がある。攻め馬に乗せてもらったが体は緩く、完成には遠かった。 「最初に乗った頃は、走るのも嫌、飛ぶのも嫌、全てが嫌々という感じでしたね」[^1] 石神はまず、体を目一杯使えるようにする調教から始めた。しばらくすると馬は体をうまく使って動けるようになり、走ることに前向きさが出てきた。2015年12月26日、暮れの中山大障害。6番人気で6着、勝ったのはアップトゥデイトである。順位だけ見れば凡走だが、石神はこの一戦でトモに力がついたのを感じ取っていた。そして考えた——全力で走って6着なら諦めもつく。まだ余力があるのなら、レースで全力を出させなければならない。 翌2016年の初戦、石神の進言でメンコの耳あてを外した。気の悪さを抑えるために着けていたものを、イチかバチかで取り払う賭けだった。3月6日、中山の障害4歳以上オープン。結果はニホンピロバロンの2着。だが馬は自ら口を割って前へ出て、直線では前を追った。手応えはつかんだ、この馬なら大きいところを取れる——石神は担当厩務員の長沼昭利にそう伝えたという。この措置を境に、スタートの出遅れ癖も目に見えて改善していく。

出典:競馬ラボ「【石神深一騎手】昨年の雪辱晴らし障害G1連覇へ オジュウチョウサン」2016年12月22日配信、https://www.keibalab.jp/column/interview/1613/、閲覧日:2026年7月28日。

二〇一六年、王座

1か月後の4月16日、中山グランドジャンプ。1番人気は単勝1.3倍のサナシオンで、オジュウチョウサンは6.5倍の2番人気だった。前年の覇者アップトゥデイトは不参戦。好スタートから3番手で進み、最終障害の手前から進出を開始すると、直線で鋭く伸びて、逃げ込みを図るサナシオンを3馬身半突き放した。4分49秒4。重賞初制覇が、いきなりJ・GIだった。 この一戦は三つの初物でもある。馬にとって初のタイトル。和田正一郎にとって初の重賞制覇。そして石神深一にとって、デビュー16年目で掴んだ初のJ・GIだった。 そこからは坂を転がるように駆け上がる。6月の東京ジャンプステークスを1番人気で完勝。10月の東京ハイジャンプでは、最終コーナー手前で先頭に立ったところへ内から空馬が逸走してきて、煽りを受けて外へ大きく押し出された。それを短い距離で立て直して最終障害を跳び、狭い馬群の真ん中へ潜り込んで1馬身半抜け出している。12月23日の中山大障害は単勝1.4倍。前年の最優秀障害馬アップトゥデイトとの2度目の対決は、最終障害の手前から2頭の一騎打ちとなり、直線で突き放して9馬身差の圧勝で終わった。 5戦4勝、重賞4連勝、J・GI春秋完全制覇。JRA賞最優秀障害馬に満票で選ばれた。二年前に福島で大差の最下位に沈んだ馬が、二年で障害界の頂に立っていた。石神も年間15勝を挙げ、JRA賞最多勝利障害騎手を初めて手にしている。

二〇一七年十二月二十三日

2017年は初めて西へ運ばれ、阪神スプリングジャンプから始まった。アップトゥデイトとの3度目の対決を2馬身半で退ける。4月15日の中山グランドジャンプは、前年サナシオンが背負っていたのと同じ単勝1.3倍の1番人気だった。最終コーナーで先頭に立つと、追ってきたサンレイデュークを最終障害の後で突き放し、鞭を入れないまま3馬身半差で連覇した。 だがレース直後、右第1指骨の剥離骨折が判明する。全治6か月と報じられ、復帰は秋以降と見られたが、術後の経過は良く8月末には厩舎に戻った。復帰戦は10月15日、降りしきる雨の東京ハイジャンプ。6番人気のタマモプラネットが大逃げを打つ展開を三番手で淡々と追い、最終コーナー手前から一気に加速して、飛越後に並ぶ間もなくかわし去った。2着以下は大差である。 そして12月23日、中山大障害。アップトゥデイトとは通算5度目の顔合わせで、中山競馬場には前年の約1.5倍にあたる4万1千人あまりが詰めかけた。単勝オッズが1桁台だったのは、この2頭だけだった。 レースは、アップトゥデイトの大逃げで始まる。後続を15馬身以上離す独走。オジュウチョウサンは単騎の2番手で追ったが、逃げる馬の脚色は終盤に至っても鈍らず、差は開いたままだった。それが縮み始めたのは最終障害手前の坂路付近から。飛越を終えて平地の脚比べに入ると、2頭は後続を置き去りにしたまま直線へ突入し、ゴール板の直前でようやく前後が入れ替わった。半馬身。4分36秒1は、26年間破られていなかったレースレコードを1秒以上塗り替える時計だった。 この一戦は、後年JRAが実施した投票企画「競馬名勝負列伝」で、数々の平地の名レースを抑えて2位に入る。年度代表馬の選考でも障害馬としては異例の3票を集め、雑誌『優駿』の読者投票ではキタサンブラックに次ぐ2位に置かれた。その年、競馬の話題の中心に障害競走があった。

平地への遠回り

2018年は体調が整わず前哨戦を使えないまま、前年暮れの中山大障害から直接、4月14日の中山グランドジャンプに向かった。今度はアップトゥデイトを離さない。逃げる相手を2番手でぴたりとマークし、最終コーナー手前で早くも先頭に立つと、最終障害を跳んでから一気に突き放した。着差は大差、2着とは2.4秒。4分43秒0は従来のレコードを3秒以上縮める時計で、カラジ以来2頭目の中山グランドジャンプ3連覇、そして重賞9連勝となった。テイエムオペラオーが持っていたJRAの重賞連勝記録を、障害馬が書き換えたのである。 ここで陣営は思い切った舵を切る。馬主の意向で、下半期の目標を有馬記念に据えたのだ。平地の獲得賞金がゼロでは出走の資格に届かない。だから7月7日、福島競馬場の第9レース、開成山特別——芝2600mの500万下条件戦から始めることになった。鞍上は武豊。この下級条件戦に全国の視線が集まり、福島競馬場には1万4千人あまりが入って、場内のグッズ売り場は開門から昼過ぎまで行列が絶えなかった。レースは4コーナー手前から早めに先頭へ立って押し切り、2着に3馬身。障害時代から数えて10連勝である。JRA主催のレースのみでの10連勝は、1954年の日本中央競馬会発足以来、初めてのことだった。 11月の南武特別も武豊とのコンビで勝って11連勝。ファン投票ではレイデオロアーモンドアイに次ぐ10万382票を集めて3位に名を連ね、12月23日、稍重の中山に立った。枠は抽せん会で武豊自らが引き当てた最内1番。単勝9.2倍の5番人気。 好発から前へ行く構えを見せ、折り合って好位に控えると、3コーナーからいち早く動き出し、残り200mでは2番手を争って場内を沸かせた。最後は失速して9着。それでもクリンチャーや2016年のダービー馬マカヒキら、平地の重賞勝ち馬たちには先着していた。引き揚げてきた人馬を迎えたのは、勝ち馬に劣らない拍手だった。 「ナイストライです。思い出に残る有馬記念になりました」[^1] 武豊はそう語り、頑張って走る鞍下の姿勢に感動すら覚えたと続けた。石神が障害で仕込んでくれていたおかげで乗りやすかった、とも言った。三年半かけて一人の騎手が教えたことが、平地の名手の手のひらに、そのまま伝わっていた。

出典:Number Web「武豊「思い出に残る有馬記念です」オジュウチョウサンが見せた奮闘。」平松さとし、2018年12月28日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/833038、閲覧日:2026年7月28日。

四連覇、五連覇、そして翳り

有馬記念のあとはダイヤモンドステークスを目指したが仕上がりが遅れて回避し、平地に手頃な条件がないことから、2019年3月の阪神スプリングジャンプで障害に戻った。11か月ぶりの実戦で単勝1.1倍。それでも勝った。 4月13日の中山グランドジャンプは、史上初となるJRA同一重賞4連覇の懸かる一戦だった。ここで他馬が仕掛けてくる。前半はミヤジタイガがハナを主張し、後半は前年の中山大障害を勝ったニホンピロバロン、タイセイドリームらが次々に競りかけた。石神がのちに、それまでで最も厳しいレースだったと振り返る消耗戦である。それを跳ね返し、最後に食らいついてきたシンキングダンサーも飛越後の脚比べで突き放して2馬身半。前人未到の4連覇に、J・GI6勝目、障害重賞11勝目、障害競走11連勝が重なった。いずれもJRA史上の最上位に並ぶ数字だった。 秋は再び平地へ出た。六社ステークスは石神が自ら跨って2番手から運んだが、上がりの勝負になって10着。アルゼンチン共和国杯は新馬戦以来となる松岡正海とのコンビでハナを切ったものの直線で後退して12着。ステイヤーズステークスはミルコ・デムーロを背に好位から運んで6着。障害で築いた強さは、平地の一線級の前ではそのままの形で通りはしなかった。 2020年は阪神スプリングジャンプを直線だけで9馬身突き放し、稍重でレコードを出して復帰を飾る。4月18日の中山グランドジャンプは8年ぶりの不良馬場となり、勝ち時計が5分を超える消耗戦になった。4頭が競走を中止し、そのなかの一頭、前年の中山大障害を勝ってJRA賞最優秀障害馬に選ばれたシングンマイケルは還らなかった。その泥の中を好位から抜け出して、自らの記録を更新する同一重賞5連覇。9歳の春だった。 翳りが差したのは同じ年の秋である。11月、阪神で代替開催された京都ジャンプステークスで、単勝1.1倍・複勝は上限の1.0倍という支持を受けながら、6頭立ての3着に敗れた。2016年3月以来、4年8か月ぶりの黒星である。障害競走13連勝も、そこで止まった。 翌2021年、脚部不安で前哨戦を使えずに向かった中山グランドジャンプは、最終周回の向正面で後退してメイショウダッサイの5着。6連覇の夢は消え、レース後には左前第1指骨の剥離骨折が判明した。秋の東京ハイジャンプも3着。年齢を口にする声が増えた。それでも短期放牧を挟んで臨んだ12月25日の中山大障害で、10歳のオジュウチョウサンは2着に3馬身差をつけて勝ち、J・GIの勝利を8に伸ばす。長山は現役続行を明言した。

十一歳の春と、最後の暮れ

2022年、初戦の阪神スプリングジャンプは、ただ一頭62kgを背負っての出走だった。単勝1.7倍。逃げ込みを図るエイシンクリックを捉えきれず、後ろから来たレオビヨンドにもかわされて3着。石神は勝った馬を褒めるべきだと前置きしたうえで、最後の飛越でスタミナが切れたと語り、年齢と斤量を敗因に挙げた。 1か月後の4月16日、自身7度目の中山グランドジャンプ。1番人気。序盤から2〜3番手を進み、残り150m付近で先頭に立つと、粘るブラゾンダムールを1馬身1/4差で振り切った。4分52秒3。11歳でのJRA重賞制覇は日本調教馬として初めてで、J・GIの勝利数は9に伸びた。追われる側ではなく、追う側になってから掴んだ一つだった。 秋の東京ハイジャンプは9着。このあと長山は、暮れの中山大障害を引退レースとすることを決める。きっかけは、レースの帰りに乗った電車の中だったという。小学生ほどの子どもが、オジュウはなんで負けたんだ、負けるわけがないのに、と泣いていた。子どももファンなのだから、ファンの言うことも聞かなければならない。長山はのちに、そう決断の理由を明かしている。 12月24日、中山大障害。1番人気で出走したが、最後のバンケットのあたりで手応えを失い、ニシノデイジーの6着でゴールした。入線した人馬を迎えたのは、着順とは何の関係もない拍手だった。同じ日に行われた引退式には約1万5千人が集まっている。障害競走馬の引退式は、バローネターフ以来42年ぶり、史上4頭目だった。27日付で競走馬登録は抹消された。 40戦20勝。うち障害は32戦18勝。J・GI9勝、障害重賞15勝、獲得賞金9億4137万7000円。現役で走った距離の総和は135,680mにのぼる。同じ時代に芝のGIを席巻したキタサンブラックのおよそ3倍を、この馬は跳びながら走った。

殿堂へ

2023年1月12日、生まれ故郷の坂東牧場に帰った。ひと月と経たないうちにYogiboヴェルサイユリゾートファームへ移り、種牡馬となる。初年度に集まった繁殖牝馬は4頭。障害で九つのJ・GIを勝った馬に向けられた需要は、走った実績ほど熱くはなかった。 相棒のほうが、先に鞍を降りた。石神深一は2026年4月30日をもって騎手を引退し、翌日から柄崎将寿厩舎の調教助手になった。四半世紀の騎手生活で、重賞26勝、J・GI級11勝。そのうち9勝がオジュウチョウサンとのものである。残る2勝——2018年の中山大障害をニホンピロバロンで、2023年の同じレースをマイネルグロンで勝った——は、王者のいない暮れの中山で、この男が自分の手で獲ったものだ。乗る馬を求めて障害へ移った騎手が、障害競走の記録そのものになって降りていった。 その石神の長男・深道は、2024年3月に美浦の和田正一郎厩舎から騎手デビューしている。祖父の富士雄から数えて三代目が、オジュウチョウサンを預かった厩舎から走り出した。 2026年6月15日、JRAは2026年度の顕彰馬にオジュウチョウサンを選出した。記者投票136票、得票率86.6%。障害競走馬の顕彰馬は、1985年に選ばれたグランドマーチスに次ぐ2頭目、41年ぶりのことである。 「オジュウチョウサンが繋いだ夢が次の世代へ受け継がれ新たな歴史を刻んでくれることを楽しみにしています」[^1] 長山尚義はそうコメントを寄せた。その言葉のとおり、この夏、初めての産駒が競馬場に立っている。母シアワセデスとの間に生まれた牡馬タクミオジュウが、福島の2歳新馬に出て14着。父がかつて大差の最下位に沈んだのと、同じ競馬場だった。 福島の障害戦で13着に大差をつけられた馬が、殿堂に名を刻むまでに八年かかった。その八年のほとんどで、鞍の上には同じ男がいた。走るのも飛ぶのも嫌がっていた鹿毛は、跳ぶことでしか行けない高さまで昇っていった。

出典:日本中央競馬会「2026年度顕彰馬の選定」2026年6月15日、https://www.jra.go.jp/news/202606/061502.html、閲覧日:2026年7月28日。

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