名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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ノームコアのイメージビジュアル
ノームコアNormcore
Normcore

ノームコア

通算成績17戦7勝

獲得賞金(海外含む・概算)約6488万円

生年月日 2015.02.25(平成27年)毛色 芦毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ノームコアの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
1 GI香港カップ シャティン 芝2000 4人気 Z.パートン 2:00.5 映像
16 GIエリザベス女王杯 阪神 芝2200 2人気 横山典弘 2:11.6 上り36.1映像
1 GII札幌記念 札幌 芝2000 2人気 横山典弘 1:59.4 上り34.5映像
4 GI安田記念 東京 芝1600 7人気 横山典弘 1:32.1 上り33.8映像
3 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 5人気 横山典弘 1:31.3 上り33.2映像
15 GI高松宮記念 中京 芝1200 8人気 横山典弘 1:10.6 上り35.0映像
4 GI香港マイル シャティン 芝1600 4人気 C.ルメール 映像
1 GIII富士S 東京 芝1600 2人気 C.ルメール 1:33.0 上り33.2映像
1 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 5人気 D.レーン 1:30.5 上り33.2映像
7 GIII中山牝馬S 中山 芝1800 1人気 田辺裕信 1:47.9 上り34.9映像
2 GIII愛知杯 中京 芝2000 1人気 C.ルメール 2:00.1 上り33.5映像
5 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 2人気 C.ルメール 2:13.7 上り34.9映像
1 GIII紫苑S 中山 芝2000 2人気 C.ルメール 1:58.0 上り33.6
3 GIIサンスポ賞フローラS 東京 芝2000 5人気 戸崎圭太 1:59.6 上り34.6映像
3 GIIIフラワーカップ 中山 芝1800 4人気 北村宏司 1:49.5 上り35.7映像
1 アスター賞 中山 芝1600 1人気 北村宏司 1:35.1 上り33.7
1 2歳新馬 福島 芝1800 3人気 石川裕紀人 1:49.1 上り37.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ノームコアの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ハービンジャーHarbingerDansiliデインヒルDanehill
Hasili
Penang PearlBering
Guapa
クロノロジストクロフネKurofuneフレンチデピュティFrench Deputy
ブルーアヴェニューBlue Avenue
インディスユニゾンサンデーサイレンスSunday Silence
ラスティックベルRustic Belle
STORY

旅程 — この馬の物語

2015年生まれの芦毛の牝馬。父ハービンジャー、母クロノロジスト。主な勝ち鞍はヴィクトリアマイル・香港C・紫苑S。

究極の普通 ― 名と血

2015年2月25日、北海道安平町のノーザンファームで芦毛の牝馬が生まれた。父ハービンジャー、母クロノロジスト、母の父はクロフネ。母は中央で2戦1勝、その一勝は3歳の秋に中京のダート1700メートルで挙げた未勝利戦である。繁殖牝馬としての看板は、まだ何もなかった。 翌2016年のセレクトセール1歳市場に上場され、2200万円(税抜)で池谷誠一に落札される。テレビ番組の制作会社を営むこの馬主は、所有馬に冠名を付けない。名前に自分の印を刻まず、2012年からは関東の馬を応援するという考えのもと、預託先を美浦に寄せていた。 名は、落札した本人の見立てからそのまま来ている。値段も高くなかったし、普通の馬だと思っていた――のちに池谷はそう説明している。ノームコアとは、ノーマルとハードコアを繋いだ服飾の言葉で、意味は「究極の普通」。競走馬の名の多くは願いか祈りでできているが、この馬の名は、そのどちらでもなかった。 育成はノーザンファーム早来の野崎孝仁厩舎。強めの運動をかけるとスクミが出るなど体質に弱いところがあり、当初は2歳の夏を過ぎてからの入厩と見込まれていたが、2歳の4月ごろから状態が上向き、予定は前倒しになった。 預けられたのは美浦の萩原清厩舎である。1959年、神奈川の生まれ。1982年に競馬学校の厩務員課程へ入り、翌年から調教助手を務め、1996年に調教師試験に合格して同年12月に厩舎を開いた。開業14年目の2009年、ロジユニヴァースで東京優駿を勝ち、初めてGIの頂に立っている。主に手綱を託していたのは横山典弘で、その息子である武史・和生、あるいは戸崎圭太や三浦皇成にも乗せる一方、ルメールやデムーロといった外国人騎手も積極的に呼ぶ人だった。 なお、クロノロジストは翌2016年3月にもう一頭、芦毛の牝馬を産んでいる。名をクロノジェネシスという。

二連勝と、折れた脚 ― 二〇一七〜二〇一八年

2017年7月16日、福島の芝1800メートル、2歳新馬。鞍上は石川裕紀人。3番人気に推され、積極的に先行して2着に3馬身半の差をつけた。9月9日の中山、アスター賞では北村宏司に乗り替わって1番人気に応え、先行から抜け出してデビュー2連勝。だがレースのあと、骨折が判明する。2歳の秋から3歳の春までが、そのまま消えた。 戦線に戻ったのは翌2018年3月のフラワーカップで、北村宏司を背に3着。4月のフローラステークスは16頭立ての大外16番枠から運び、直線で最後までしぶとく伸びたものの、2着のパイオニアバイオにクビ差届かず3着に終わる。勝ったのはサトノワルキューレ。優駿牝馬の優先出走権には手が届かなかった。 秋、9月8日の紫苑ステークス。クリストフ・ルメールとの初コンビだった。直線で鋭く伸びて2着マウレアに3馬身差をつけ、時計は1分58秒0。このレースが2000メートルで行われるようになった2007年以降のレースレコードである。重賞初制覇だった。だがレース後に疲れが出て、せっかく得た優先出走権を使うはずの秋華賞は回避となる。 代わりに向かったのが11月の京都、エリザベス女王杯。古馬との初対戦ながら2番人気に支持され、3番手を進んだが直線で伸びを欠いて5着。勝ったのはリスグラシューだった。 3歳を終えて6戦3勝、重賞をひとつ。ここまでは、名前どおりの馬に見えた。

一分三十秒五 ― 二〇一九年五月十二日

4歳の始動は1月26日の中京、愛知杯。ルメールで1番人気に推されたが、スタート直後に躓いて位置取りを悪くし、ワンブレスアウェイの2着。3月の中山牝馬ステークスも1番人気で、田辺裕信を背に7着に終わった。勝ったのはフロンテアクイーンである。二度続けて1番人気を裏切った形で、ヴィクトリアマイルの単勝は9.4倍、5番人気まで下がっていた。 そのうえ、鞍上が空いた。ルメールが騎乗停止となり、代わって手綱を取ったのはオーストラリアのダミアン・レーンである。この年に初めて短期免許で日本に来た25歳で、4月末の新潟大賞典をメールドグラースで勝ち、JRAの重賞をひとつ手にしたばかりだった。 レースは、横山典弘のアエロリットが引っ張った。前半1000メートル56秒1。18頭立ての東京マイルとしては、明らかに速い。ノームコアは7番手で流れに乗り、直線は馬場の真ん中へ持ち出される。前をまとめて捉え、外から迫るプリモシーンをクビ差だけ抑えて先頭でゴール板を過ぎた。上がり3ハロン33秒2。 時計は1分30秒5。2012年の京成杯オータムハンデキャップでレオアクティブが記録した1分30秒7を0秒2縮める、当時の芝1600メートルの日本レコードだった。 レーンにとってJRAのGI初勝利。ヴィクトリアマイルは萩原清にとっても初めて勝つ舞台であり、池谷誠一にとっては馬主として初めてのGI制覇だった。2200万円で「普通の馬」と見立てられた芦毛が、日本のマイルの時計を書き換えていた。 そしてレースの3日後、骨折が判明する。二度目だった。

秋の府中、暮れの沙田 ― 二〇一九年秋

復帰戦は10月19日、東京の富士ステークス。稍重の芝1600メートルで、マイルGIを二つ持つ3歳馬アドマイヤマーズが1番人気に推され、ノームコアは2番人気だった。鞍上にはルメールが戻っている。18頭立ての13番手から、直線で外へ持ち出されると豪快に伸び、レイエンダを半馬身抑えて快勝した。牡馬との混合戦は8戦ぶり。牝馬がこのレースを勝つのは20年ぶりで、ルメールはこのレースを連覇したことになる。 12月8日、香港のシャティン競馬場、香港マイル。ルメールで4着だった。勝ったのはアドマイヤマーズ。府中で先着した相手に、海の向こうでは先を譲っている。勝ち馬との差は0秒31だった。

一二〇〇と二〇〇〇 ― 二〇二〇年の春と夏

5歳の初戦は3月29日の高松宮記念。ルメールがグランアレグリアに騎乗するため、鞍上は横山典弘に替わった。萩原が長く手綱を託してきた騎手である。だが重馬場の中京1200メートルは、この馬が生涯で初めて走るスプリントだった。後方から伸びを欠いて15着。勝ったのはモズスーパーフレアである。 連覇の懸かるヴィクトリアマイルは3着。1分31秒3、上がり33秒2で追い込んだが、前ではアーモンドアイが1分30秒6、4馬身差で他を圧していた。6月の安田記念も上がり33秒8で伸びて4着。勝ったのはグランアレグリアで、2着がアーモンドアイだった。前年に頂を極めたマイルで、この年は少しずつ届かなかった。 夏、陣営はマイルを離れた。8月23日の札幌記念、芝2000メートル。この距離を走るのは2019年1月の愛知杯以来である。GI3勝のラッキーライラックに次ぐ2番人気に推された。逃げたのはトーラスジェミニ、それを2番手で見るのがラッキーライラック。ノームコアは6、7番手で我慢し、直線で外から先頭のラッキーライラックを捉えると、後方から追い込むペルシアンナイトを1馬身抑えて先頭でゴールした。1分59秒4、重賞4勝目である。

与えられたところで ― 二〇二〇年秋

秋は2年ぶりのエリザベス女王杯。この年は京都ではなく阪神の芝2200メートルで行われ、枠順は3枠6番。前年の覇者ラッキーライラックに次ぐ2番人気だった。 枠順が決まった日、萩原はこう言っている。「枠順に関してはこちらで決められるものではないので、与えられたところで対応するだけです」[^1]。札幌記念を勝たせてもらってからここを使おうと思っていた、あのパフォーマンスをもう一度という思いでやってきた――そうも語った。 レースで横山典弘が選んだのは、逃げだった。前半1000メートル59秒3の大逃げ。だが直線に入って後続に呑まれ、16着に沈んだ。勝ったのは、またもラッキーライラックだった。 十七回のゲートのうち、これがいちばん大きな着順である。ひと月後、この馬は海を渡る。

出典:中日スポーツ「ノームコア 札幌記念から好調持続で2度目G1制覇へ 3枠6番に萩原師「与えられたところで対応」」2020年11月13日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/153813 、閲覧日:2026年7月25日。

代役の手綱 ― 二〇二〇年十二月十三日

12月13日、シャティン競馬場。香港カップ。ウインブライトダノンプレミアムとともに、日本から三頭が遠征した。 新型コロナウイルスの流行下で行われたこの年の香港国際競走では、騎手の手配からして例年どおりにいかなかった。ノームコアに騎乗する予定だったクリストフ・スミヨンは、検疫の過程で再検査を求められて騎乗できなくなる。代わりに手綱を取ったのは、香港のリーディングジョッキー、ザック・パートンだった。この馬の背に跨るのは初めてである。 8頭立て。パートンはウインブライトの後ろに位置を取った。前を行くダノンプレミアムウインブライトが捉えにかかる。そこへ、ノームコアが伸びてきた。連覇を狙うウインブライトを4分の3馬身差で交わして先頭。3着はアイルランドのマジカル、4着がダノンプレミアムで、日本馬のワンツーだった。 2分00秒50。前年にウインブライト自身が刻んだレースレコードを、0秒02だけ縮める時計である。海外GIは初めて、GIは2勝目だった。萩原は、オーナーや牧場の人々をはじめ皆の力で勝たせてもらったと感謝を並べ、パートンは、道中でウインブライトの後ろに良い位置を取れたこと、直線で馬が奮起してよく伸びてくれたことを勝因に挙げている。 その二週間後、中山では有馬記念が行われた。勝ったのはクロノジェネシス。同じクロノロジストの仔で、一つ違いの半妹である。姉妹は暮れの二週間で、シャティンと中山を分け合った。 2021年1月5日、競走馬登録を抹消。17戦7勝、うち中央15戦6勝、海外2戦1勝だった。

娘が走った春 ― 二〇二六年

引退後はノーザンファームで繁殖牝馬になった。 初仔は2022年生まれの牡馬シルバーレイン。父エピファネイア、馬主は池谷誠一で、預けられたのは母と同じ萩原清厩舎だった。2番仔は2023年2月5日生まれの鹿毛の牝馬で、父はキズナ、馬主は吉田勝己。名をドリームコアという。 ドリームコアは2025年6月14日、東京の芝1600メートルでダミアン・レーンを背にデビューし、1番人気に応えて勝った。母にGIをもたらした騎手である。2026年2月14日のクイーンカップはルメールで差し切って重賞初制覇。4月の桜花賞は9着に終わったが、5月24日の優駿牝馬では3番人気に推され、ゴール前でジュウリョクピエロに交わされて2着に入った。 そのオークスの四日前、2026年5月20日に萩原清が病気のため世を去っている。67歳だった。預かっていた44頭は、翌21日付で大竹正博厩舎へ移された。かつて萩原厩舎で調教助手を務めていた人である。ドリームコアはその後、田中博康厩舎に移っている。 ノームコアの下には、2024年生まれの牡馬ソブリオ(父キタサンブラック)、2025年生まれの牝馬(父イクイノックス)が続く。 究極の普通、という名だった。付けた人は、それを値踏みのつもりで口にしている。だが十七回のゲートで、この馬は日本のマイルの時計を書き換え、その日が初騎乗だったレーンにJRA初のGIをもたらし、急な代役だったパートンと海の向こうのGIを勝った。二度、脚を折った。二度、戻ってきた。与えられた枠から、与えられた流れのなかで走り、そのたびに時計を残した。府中に刻まれた1分30秒5は、「究極の普通」という名とともに記録に残っている。

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