名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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ナリタブライアンのイメージビジュアル
ナリタブライアンNarita Brian
Narita Brian

ナリタブライアン

通算成績21戦12勝

獲得賞金102,691万円

生年 1991(平成3年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ナリタブライアンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム映像
4 GI高松宮杯 中京 芝1200 武豊 1:08.2 映像
2 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 1人気 南井克巳 3:18.2 映像
1 GII阪神大賞典 阪神 芝3000 2人気 武豊 3:04.9 映像
4 GI有馬記念 中山 芝2500 2人気 武豊 2:34.1 映像
6 GIジャパンカップ 東京 芝2400 1人気 武豊 2:25.3 映像
12 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 1人気 的場均 1:59.4 映像
1 GII阪神大賞典 京都 芝3000 1人気 南井克巳 3:08.2 映像
1 GI有馬記念 中山 芝2500 1人気 南井克巳 2:32.2 映像
1 GI菊花賞 京都 芝3000 1人気 南井克巳 3:04.6 映像
2 GII京都新聞杯 阪神 芝2200 1人気 南井克巳
1 GI東京優駿(日本ダービー) 東京 芝2400 1人気 南井克巳 2:25.7 映像
1 GI皐月賞 中山 芝2000 1人気 南井克巳 1:59.0 映像
1 GIIスプリングステークス 中山 芝1800 1人気 南井克巳 映像
1 GIII共同通信杯4歳ステークス 東京 芝1800 1人気 南井克巳 映像
1 GI朝日杯3歳ステークス 中山 芝1600 1人気 南井克巳 1:34.4 映像
1 OP京都3歳ステークス 京都 芝1800 1人気 南井克巳 1:47.8
3 GIIデイリー杯3歳ステークス 京都 芝1400 南井克巳
1 きんもくせい特別 福島 芝1700 1人気 清水英次 1:43.1
6 GIII函館3歳ステークス 函館 芝1200 南井克巳 1:14.9
1 新馬 函館 芝1200 南井克巳 1:12.8
2 新馬 函館 芝1200 1人気 南井克巳 1:13.7

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ナリタブライアンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ブライアンズタイムBrian's TimeロベルトRobertoヘイルトゥリーズンHail to Reason
ブラマレアBramalea
ケリーズデイKelley's DayグロースタークGraustark
ゴールデントレイルGolden Trail
パシフィカスPacificusノーザンダンサーNorthern DancerニアークティックNearctic
ナタルマNatalma
パシフィックプリンセスPacific PrincessダマスカスDamascus
フィジーFiji
STORY

旅程 — この馬の物語

『シャドーロールの怪物』。1994年の三冠はいずれも圧勝。強さの記憶だけを残して早世した。

影を怖がる仔 ― 名前と血

1991年5月3日、北海道生まれの黒鹿毛。父はロベルトの血を引く米国産種牡馬ブライアンズタイム、母パシフィカスはノーザンダンサーを父に持つ良血で、その腹からは先に全兄ビワハヤヒデが出ていた。 馬名は、馬主・山路秀則が大久保正陽厩舎の預託馬に使ってきた冠名「ナリタ」に、父ブライアンズタイムの名の一部「ブライアン」を重ねたもの。 だがこの黒鹿毛には、血統表に書かれない弱さがあった。生来ひどく臆病で、疾走中に自分の影を怖がり、走りに集中できなかったのだ。スズメが飛び立つだけで気を散らすほどの繊細さ。やがてこの馬を「怪物」と呼ばせることになる装具は、その臆病さを覆い隠すための道具だった。

シャドーロールの怪物 ― 二歳の覚醒

デビューは1993年夏の函館。新馬戦を2着・1着とし、騎手は南井克巳に定まった。苦労人と呼ばれた南井にとっても、この馬は特別な一頭になっていく。 秋、京都3歳ステークスから鼻先に白いシャドーロールを着けた。下方の視界を遮られた馬は、もう影に怯えなかった。集中力を取り戻したナリタブライアンは一変し、暮れの朝日杯3歳ステークスを1分34秒4で快勝。二歳王者となる。 鼻面の白い帯から、人は彼を「シャドーロールの怪物」と呼んだ。臆病を克服した一頭が、怪物になった。

圧巻の三冠 ― 一九九四年

明けて1994年、共同通信杯、スプリングステークスと連勝してクラシックへ。皐月賞は3馬身半差でコースレコード。日本ダービーは2分25秒7、5馬身差の完勝。そして菊花賞、京都の3000mを全兄ビワハヤヒデが持っていたレースレコードを更新する走りで7馬身突き放した。 勝つたびに着差が広がっていく――皐月賞、ダービー、菊花賞。シンボリルドルフ以来9年ぶり、史上5頭目のクラシック三冠。1990年代でただ一頭の三冠馬が、ここに誕生した。 兄ビワハヤヒデとの兄弟対決を誰もが待ち望んだが、その兄が天皇賞(秋)で故障引退し、夢の対戦は実現しないまま消えた。

古馬を一蹴 ― 中山のグランプリ

三冠の勢いそのままに、四歳のナリタブライアンは古馬の頂点・有馬記念へ向かった。1994年12月25日、中山の2500m。圧倒的1番人気に推された怪物は、4コーナーで早くも先頭に立つと、そのまま後続を突き放してゴール。 タイムは2分32秒2。三冠馬が古馬の一線級をも力でねじ伏せ、この年のJRA賞年度代表馬と最優秀4歳牡馬に選ばれた。1994年は7戦6勝、うちGI4勝。誰もが、この馬の時代がしばらく続くと信じていた。 だが、頂はここまでだった。

故障、そして影 ― 一九九五年の暗転

1995年は阪神大賞典の連覇から始まったが、ここで歯車が狂う。春、右股関節炎を発症。全治2か月の故障で、栄光の春の盾に挑むことすら叶わなかった。 長い休養を経て秋に復帰したものの、戻ってきたのは別の馬のようだった。天皇賞(秋)は1番人気を裏切る12着の大敗。鞍上を武豊に替えたジャパンカップも6着、暮れの有馬記念も4着。三冠馬がGIで掲示板の外、二桁着順に沈む姿に、ファンは言葉を失った。 故障明けの一年。怪物の名は、いつしか過去のものとして語られはじめていた。

最後の輝き ― 阪神大賞典の死闘

1996年3月9日、阪神大賞典。相手は前年度代表馬マヤノトップガン。3000mのレースは、二頭が早々に抜け出し、残り1000mを並走したまま進む異様な展開になった。互いに譲らず、まるで歩くような牽制と、火の出るような叩き合い。 最後はナリタブライアンがマヤノトップガンを差し返し、ハナ差で押し切った。大久保正陽調教師が、手に汗を握るほど興奮したと漏らした、語り草の死闘。三冠馬が、最後にもう一度だけ怪物の片鱗を見せた一戦だった。 だがその後の天皇賞(春)はサクラローレルに半馬身及ばず2着。これが、生涯最後の好走となった。

千二百の挑戦と引退

陣営は次走に、距離適性とはおよそ無縁の高松宮杯(1200m)を選んだ。三冠馬がスプリント戦に出走するという異例の挑戦。1996年5月19日、中京の短い直線で末脚は届かず、4着に終わる。 そしてレース後、右前脚に屈腱炎を発症。競走馬にとって致命的なこの故障が、現役生活に幕を引いた。10月10日、正式に引退が発表される。通算21戦12勝。GI5勝を挙げた怪物の、静かな幕切れだった。

早すぎた別れ ― 一九九八年九月

種牡馬となったナリタブライアンに、長い余生は許されなかった。1998年9月26日午後、疝痛を発症。胃破裂と診断され、翌27日、安楽死の処置が取られた。7歳。三冠を制したあの黒鹿毛が、後継となる産駒を世に送り出すより早く、この世を去った。 影に怯える臆病な仔が、白いシャドーロールひとつで怪物になった。皐月賞3馬身半、ダービー5馬身、菊花賞7馬身――勝つほどに差を広げた1994年の圧巻と、故障に削られた晩年と、阪神での最後の死闘。その全部が、たった七年の生のなかにあった。 苦労人・南井克巳が手綱を取り、影を断って駆け抜けた一頭。短く、しかし強烈に光った怪物の記憶は、いまも色褪せない。

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