名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

名馬録
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モーニンのイメージビジュアル
モーニンMoanin
Moanin

モーニン

通算成績28戦8勝

獲得賞金(海外含む・概算)約31,788万円

生年月日 2012.04.14(平成24年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
モーニンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
18 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 15人気 和田竜二 1:23.2 上り35.0映像
9 GII産経賞セントウルS 阪神 芝1200 11人気 岩田康誠 1:08.1 上り33.8映像
5 JpnⅡさきたま杯 浦和 ダ1400 5人気 藤井勘一郎 1:27.4 上り38.5
7 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 3人気 和田竜二 1:42.0 上り39.2
4 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 9人気 和田竜二 1:36.5 上り35.9映像
4 GIII根岸S 東京 ダ1400 6人気 和田竜二 1:24.2 上り35.5映像
4 GIJBCスプリント 京都 ダ1200 3人気 C.デムーロ 1:10.9 上り35.9
1 GIコリアスプリント 韓国 ダ1200 1人気 藤井勘一郎 1:11.5
6 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 4人気 和田竜二 1:40.4 上り38.5
1 OPコーラルS 阪神 ダ1400 3人気 和田竜二 1:23.4 上り36.5
16 GIII阪急杯 阪神 芝1400 6人気 浜中俊 1:20.8 上り34.1映像
6 GII阪神カップ 阪神 芝1400 13人気 岩田康誠 1:20.1 上り33.7映像
9 GIII東京中日S杯武蔵野S 東京 ダ1600 4人気 横山典弘 1:36.3 上り35.8映像
4 JpnⅡ日本テレビ盃 船橋 ダ1800 2人気 戸崎圭太 1:53.1 上り37.6
2 JpnⅡさきたま杯 浦和 ダ1400 2人気 C.ルメール 1:26.5 上り36.7
3 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 3人気 C.ルメール 1:40.4 上り38.9
12 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 3人気 R.ムーア 1:36.1 上り36.6映像
7 GIチャンピオンズカップ 中京 ダ1800 5人気 戸崎圭太 1:50.6 上り37.3映像
7 GIII東京中日S杯武蔵野S 東京 ダ1600 1人気 戸崎圭太 1:34.8 上り35.9
2 JpnⅡ日本テレビ盃 船橋 ダ1800 3人気 戸崎圭太 1:52.0 上り37.1
8 JpnⅠかしわ記念 船橋 ダ1600 1人気 M.デムーロ 1:41.2 上り38.7
1 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 2人気 M.デムーロ 1:34.0 上り35.2映像
1 GIII根岸S 東京 ダ1400 1人気 戸崎圭太 1:22.0 上り35.4映像
3 GIII東京中日S杯武蔵野S 東京 ダ1600 1人気 川田将雅 1:35.0 上り36.5映像
1 秋嶺S 東京 ダ1600 1人気 C.ルメール 1:35.7 上り36.9
1 新涼特別 阪神 ダ1400 1人気 松山弘平 1:23.7 上り36.8
1 3歳500万下 東京 ダ1600 1人気 川田将雅 1:37.9 上り36.8
1 3歳未勝利 京都 ダ1400 1人気 松山弘平 1:23.4 上り35.7

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
モーニンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ヘニーヒューズHenny HughesヘネシーHennessyStorm Cat
Island Kitty
Meadow FlyerMeadowlake
Shortley
GigglyDistorted HumorフォーティナイナーForty Niner
Danzig's Beauty
ChasteCozzene
Purity

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2012年生まれの栗毛の牡馬。父ヘニーヒューズ、母Giggly。主な勝ち鞍はフェブラリーS・コリアスプリント・根岸S。

呻きが歌になる ― 名前の由来

1958年10月30日。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズが吹き込んだアルバムの一曲目に、ピアニストのボビー・ティモンズが書いた曲が置かれた。題は『Moanin'』——呻き。牧師の息子だったティモンズが、幼い頃から身に染みていたゴスペルのコール・アンド・レスポンス、呼びかけと応答の形から着想した旋律で、ファンキー・ジャズを代表する一曲になる。日本での流行りようは凄まじく、評論家の油井正一は、メッセンジャーズの来日が近づいた1960年の秋には蕎麦屋の出前持ちまでが〈モーニン〉を口笛で吹いていた、と書き残している。 その曲名が、半世紀を越えて一頭の栗毛に与えられた。馬名の意味は、ジャズの曲名から。2012年4月14日、アメリカ生まれの牡馬である。父ヘニーヒューズは2006年にキングズビショップステークスとヴォスバーグステークスを制した米国のダート短距離王。母Gigglyの父はDistorted Humor。母系は22号族で、4代母Dame Mysterieuseは米ブラックアイドスーザンステークス、5代母Belle de Nuitは米テストステークスの勝ち馬——砂に根を張った一族だった。 海を渡ったこの馬を迎えたのは馬主の馬場幸夫。すでに同じヘニーヒューズ産駒のアジアエクスプレスで、2013年の朝日杯フューチュリティステークスを勝っていた人である。預けられたのは栗東の石坂正厩舎。2008年にヴァーミリアンでフェブラリーステークスを、2012年にはジェンティルドンナで牝馬三冠を成し遂げた調教師のもとで、呻きの名を持つ馬は出走の日を待った。

未出走馬の一番人気 ― 四連勝

デビューは2015年5月16日、京都のダート1400m。3歳未勝利戦である。一度も走ったことのない馬が、単勝2.5倍の1番人気に推された。鞍上は松山弘平。不良の砂を4番手から進み、そのまま押し切って勝ち上がる。 半月後の東京、ダート1600m。川田将雅で単勝1.5倍。5番手から押し切って2勝目。夏を挟んだ9月の阪神・新涼特別は再び松山で、逃げ馬のすぐ後ろにつけて完勝。10月の東京・秋嶺ステークスはルメールに乗り替わり、四連勝でオープン入りを果たした。四戦とも1番人気に応えている。 形はいつも同じだった。前で受けて、自分から動いて、後ろに何もさせない。呼びかける側の競馬である。 五戦目、東京の武蔵野ステークス。初めての重賞で1番人気に推されたが、前を行くタガノトネールを捕まえきれず、外から伸びたノンコノユメの決め手にも屈して3着。初めての敗戦だった。このとき覚えさせられた二頭の名は、三か月後にもう一度出てくる。

府中に刻んだ一分三十四秒〇

2016年1月31日、東京の根岸ステークス。戸崎圭太を背に1番人気に応え、早めに先頭へ立って押し切った。重賞初制覇であり、フェブラリーステークスへの優先出走権でもあった。 三週間後の2月21日。雨は上がっていたが東京のダートは重いままだった。鞍上はM.デムーロ、2番人気。コーリンベリーが引っ張って前半800m通過は46秒1、淀みない流れである。モーニンは先行勢を見ながら好位で運び、四角で差を詰めて直線へ向く。前でわずかに先頭に立ったのは、三か月前に捕まえきれなかったタガノトネールだった。今度は残り200mでその前に出る。さらに外からアスカノロマンとノンコノユメが並んで鋭く伸びてきたが、突き放しにかかった脚は緩まない。1馬身1/4差で押し切った。 勝ち時計は1分34秒0。2009年サクセスブロッケンの1分34秒6を0秒6も縮めるレースレコードで、この時計は2022年にカフェファラオが1分33秒8を出すまで、六年のあいだ誰にも破られなかった。 三か月前の武蔵野で自分を差した馬に、今度は差させなかった。デビューから9か月あまり、キャリア七戦目でのGI制覇である。四着には、同じ桃色の勝負服をまとい、同じ石坂厩舎から出走したベストウォーリアがいた。石坂正はヴァーミリアン以来このレース2勝目、デムーロはフェブラリーステークス初勝利だった。

勝てない二年

同じ年の5月5日、船橋のかしわ記念。単勝2.4倍の1番人気に推されたが、遅い流れのまま伸びを欠いて8着。勝ったのはコパノリッキーだった。ここから、名のとおりに呻くような時間が続く。 秋の日本テレビ盃はアウォーディーにわずかに及ばず2着。武蔵野ステークスは1番人気で7着、チャンピオンズカップは7着。翌2017年のフェブラリーステークスはR.ムーアを迎えて12着。かしわ記念3着、さきたま杯2着、日本テレビ盃4着、武蔵野ステークス9着——好走はする。勝ち切れない。 年末には芝も試した。阪神カップは13番人気で6着、このとき記録した上がり3ハロン33秒7は、生涯でいちばん速い末脚である。年が明けての阪急杯は16着だった。 鞍上は替わり続け、生涯で12人の騎手がこの背にまたがることになる。船橋や浦和にも通った。地方への遠征は八度を数え、そのすべてで勝ち星は遠かった。それでも、走るのをやめる馬ではなかった。

二年ぶりの春と、ソウルの九月

2018年3月31日、阪神のコーラルステークス。58.5kgを背負って3番人気。この日はじめて手綱を取ったのが和田竜二だった。テーオーヘリオスを0秒1抑えて先頭でゴールを通過する。フェブラリーステークスから二年一か月、十一戦ぶりの白星だった。 和田はあの日の府中にいた。2016年のフェブラリーステークス、スーサンジョイに騎乗して12着。レコードで抜け出していく栗毛を後ろから見ていた騎手が、二年後にその背にいた。 9月9日、ソウル競馬場。2016年に創設された国際招待競走のコリアスプリントは、当時、韓国のG1に位置づけられていた。鞍上は藤井勘一郎、1番人気。道中は後方を追走し、直線で外へ持ち出すと一気に伸びて先頭に立ち、Fight Heroをきわどく凌ぎ切った。前年に武豊のグレイスフルリープが勝っており、日本馬の連覇である。同じ日のコリアカップは岩田康誠のロンドンタウンが制し、二つの国際競走をどちらも日本の馬が持ち帰った。 藤井は、15歳で単身オーストラリアへ渡った男である。現地の競馬学校で二年学び、2001年に17歳で見習騎手としてデビューした。韓国、シンガポール、南関東と乗り継ぎながら、JRAの騎手免許試験には五度落ちていた。モーニンでソウルの大レースを勝った一か月後、六度目の一次試験を突破する。翌2019年2月、免許取得が決まった日、彼はまず「長かったな」と口にした[^1]。横山賀一以来27年ぶり、二人目の“逆輸入”ジョッキーの誕生である。 モーニンが日本を離れて走ったのは、この一度きりだった。海外一戦一勝。

出典:デイリースポーツ「藤井勘一郎「感謝」史上2人目のJRA“逆輸入”ジョッキー誕生」2019年2月13日配信、https://www.daily.co.jp/horse/2019/02/13/0012060198.shtml 、閲覧日:2026年7月27日。

最後の一年

2019年1月27日、根岸ステークス6番人気4着。2月17日、フェブラリーステークス。三年前に自分がレコードを刻んだ舞台へ、9番人気で戻ってきた。勝ったのはインティ。モーニンは勝ち馬から0秒9差の4着に押し上げている。どちらも和田竜二が乗っていた。 5月のかしわ記念は7着、月末のさきたま杯は藤井勘一郎で5着。地方の砂は、結局八戦して一度も味方をしなかった。 秋は芝を選んだ。9月のセントウルステークス9着、そして10月26日、京都のスワンステークス18着。最後の手綱もまた、和田竜二だった。 11月7日、競走馬登録抹消。28戦8勝。中央19戦7勝、地方8戦0勝、海外1戦1勝。デビューから引退の日まで、預けられていた厩舎は石坂正のまま変わらなかった。

新冠へ ― 応答

2019年11月、北海道新冠町の優駿スタリオンステーション。そこは、父ヘニーヒューズが2013年秋に日本へ輸入されて以来立っている場所だった。父がまだアメリカとオーストラリアを往復していた頃に生まれ、海を渡って走った仔が、めぐって父と同じ厩に並んだことになる。 供用開始は2020年。初年度の種付は190頭を数えた。父が日本で迎えた最初の年は191頭で、優駿スタリオンステーションの歴代最多だったという。数字は、ほとんど父に並んでいた。 2023年5月、門別でパレスレガシーが産駒初勝利を挙げる。その年、初年度産駒の成績を競う地方競馬のファーストシーズンサイアーランキングで、モーニンは首位に立った。中央を含めた総合でも三位である。2024年にはブルーサンが大井の雲取賞を制し、今年、2026年6月には2024年産のダブルゲームが門別の栄冠賞を勝った。産駒たちの主戦場は、地方競馬の砂である。 現役時代、この馬は地方に八度行って、一度も勝てなかった。その馬が、地方の砂を走る仔たちを送り出し、新種牡馬として地方の首位に立った。呼びかけには、応答がある——ゴスペルから生まれたあの曲が、そういう形で出来ていたように。府中に刻んだ一分三十四秒〇はもう記録の表から降りたが、新冠から砂の上へ、名前は返され続けている。

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