名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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ミッキーアイルのイメージビジュアル
ミッキーアイルMikki Isle
Mikki Isle

ミッキーアイル

通算成績20戦8勝

獲得賞金52,948万円

生年月日 2011.03.12(平成23年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ミッキーアイルの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
6 GII阪神カップ 阪神 芝1400 1人気 浜中俊 1:22.2 上り35.7
1 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 3人気 浜中俊 1:33.1 上り35.6映像
2 GIスプリンターズS 中山 芝1200 2人気 松山弘平 1:07.6 上り34.2映像
2 GI高松宮記念 中京 芝1200 2人気 松山弘平 1:06.8 上り33.8映像
1 GIII阪急杯 阪神 芝1400 1人気 松山弘平 1:19.9 上り34.7映像
7 GI香港スプリント 香港 芝1200 5人気 浜中俊 1:09.6 映像
4 GIスプリンターズS 中山 芝1200 4人気 浜中俊 1:08.3 上り33.8映像
15 GI安田記念 東京 芝1600 4人気 浜中俊 1:33.0 上り35.1映像
3 GI高松宮記念 中京 芝1200 3人気 浜中俊 1:08.6 上り34.2映像
2 GIII阪急杯 阪神 芝1400 4人気 浜中俊 1:23.8 上り36.5映像
7 GII阪神カップ 阪神 芝1400 1人気 浜中俊 1:21.1 上り35.5
13 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 1人気 浜中俊 1:32.8 上り36.1映像
1 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 1人気 浜中俊 1:20.3 上り33.9
16 GI安田記念 東京 芝1600 2人気 浜中俊 1:38.8 上り39.7映像
1 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 1人気 浜中俊 1:33.2 上り34.8映像
1 GIIIアーリントンC 阪神 芝1600 1人気 浜中俊 1:34.0 上り35.2
1 GIII日刊スポシンザン記念 京都 芝1600 1人気 浜中俊 1:33.8 上り34.1
1 ひいらぎ賞 中山 芝1600 1人気 R.ムーア 1:34.2 上り34.7
1 2歳未勝利 京都 芝1600 1人気 浜中俊 1:32.3 上り34.6
2 2歳新馬 阪神 芝1600 2人気 浜中俊 1:37.6 上り34.7

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ミッキーアイルの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
スターアイルロックオブジブラルタルデインヒルDanehill
Offshore Boom
アイルドフランスIsle de FranceNureyev
ステラマドリッドStella Madrid
STORY

旅程 — この馬の物語

2011年生まれの鹿毛の牡馬。父ディープインパクト、母スターアイル。主な勝ち鞍はNHKマイルC・マイルチャンピオンS・日刊スポシンザン記念。

アイル、という音

2011年3月12日、北海道安平町のノーザンファームに、鹿毛の牡馬が生まれた。父はディープインパクト。母スターアイルはアイルランドで生まれて日本に渡り、栗東の音無秀孝厩舎でダートの短距離を走って2勝を挙げた牝馬である。翌年のセレクトセールで7980万円の値がつき、野田みづきの所有馬となった。管理を任されたのは、母を預かったのと同じ音無だった。 名は、冠名のミッキーに母の名の一部を継ぎ足してつくられている。スターアイルの、アイル。その音はさらに一代さかのぼり、母の母アイルドフランス——パリを囲むフランスの地方の名——に行き着く。 牝系は豊かだった。三代母ステラマドリッドを共有する近親に、2017年のNHKマイルカップを勝つアエロリット(母どうしが半姉妹の、いとこにあたる)と、阪神ジュベナイルフィリーズやエリザベス女王杯を勝つラッキーライラックがいる。母の母アイルドフランスの半きょうだいには、2002年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬ダイヤモンドビコー。五代母マイビューパーズまで戻れば、その子孫にハーツクライの名まで現れる。 2013年9月7日、阪神の芝1600メートル。2番人気で迎えたデビュー戦は、アトムという馬に0秒1だけ先着を許して2着だった。鞍上は浜中俊。前年にJRAで131勝を挙げ、24歳でリーディングに立った若い騎手である。この二人の関わりは、ここから三年あまり続くことになる。

レコードと、幻の朝日杯

二戦目は11月2日の京都、2歳未勝利。ハナを切って、そのまま誰にも並ばせなかった。1分32秒3。2歳の芝1600メートルでウオッカが持っていた中央競馬のレコードを0秒8も削り取り、2着には5馬身をつけていた。 登録した朝日杯フューチュリティステークスは、賞金が足りずに除外された。代わりに向かったのが、その前日に同じ中山の芝1600メートルで行われるひいらぎ賞である。鞍上はライアン・ムーア。またハナを切って3馬身半差。勝ち時計1分34秒2は、翌日の朝日杯の勝ち時計を0秒5上回っていた。GIに出られなかった馬が、GIより速く走ってしまった。 年が明けて、担当の平井裕介調教助手はこの馬の気性をこう説明している。厩舎でやかましく騒ぐわけでも、入れ込むわけでもない。「ただ寂しがりなだけで」[^1]。遠征先で馬房が離れていても、隣に馬のいる馬房へ入れてもらえば落ち着いた。逃げているのも前へ行きたいからではなく、他の馬とスピードが違うから前になってしまうだけで、速い馬がいれば控える競馬もできるはずだと、助手は見ていた。 先頭を走り続ける馬が、独りを嫌っていた。

出典:競馬ラボ「【平井裕介調教助手】幻の最優秀2歳牡馬ミッキーアイルがシンザン記念へ」2014年1月12日配信、https://www.keibalab.jp/column/interview/1038/、閲覧日:2026年7月28日。

五連勝

2014年1月12日、京都のシンザン記念。浜中に手綱が戻った。好スタートからハナへ立ち、レースレコードの1分33秒8。2着ウインフルブルームに半馬身。重賞初制覇である。 3月1日、阪神のアーリントンカップも逃げて、今度は3馬身半差をつけた。 距離適性を理由に東京優駿を回避し、向かったのは5月11日、東京の芝1600メートル——NHKマイルカップだった。単勝190円。ゲートを出るなり先頭に立ち、四コーナーでも先頭のまま直線へ入る。追ってきたのは17番人気タガノブルグと12番人気キングズオブザサンで、三頭の時計はいずれも1分33秒2。クビ差だけ、この馬が先にいた。デビューから五連勝でのGI制覇であり、音無にとっても浜中にとっても、このレースは初勝利だった。 新馬戦で先着を許したアトムも、同じレースを走って8着だった。ここまで6戦5勝。負けたのは、最初の一度だけである。

不良の東京と、支持だけが残った秋

6月8日、安田記念。前走と同じ東京のマイルで、斤量は54キロ。重賞3連勝中のジャスタウェイに次ぐ2番人気に推された。だが、その日の馬場は不良だった。行き脚がつかないまま直線で失速し、16着。上がり3ハロン39秒7という数字が、その一戦の重さを残している。レース後、放牧に出された。 秋。11月1日のスワンステークスは、3歳で57キロを背負って1番人気に応え、道中で先頭に立つとそのまま押し切った。重賞4勝目である。 そこからが長かった。マイルチャンピオンシップは1番人気で13着、暮れの阪神カップも1番人気で7着。三歳の秋にこの馬が残したのは、支持と結果の落差だけだった。

距離を削る一年

2015年、ミッキーアイルは一度も勝てなかった。 3月の阪急杯は不良馬場で、いったん先頭に立ちながらダイワマッジョーレにかわされて2着。3月29日の高松宮記念で初めて1200メートルを走り、好位の外から3着。6月の安田記念は見せ場なく15着。10月のスプリンターズステークスは先行して4着。12月には初めて海を渡り、香港スプリントで2番手につけたが、直線で後続に捕まって7着だった。 マイルの王として世に出た馬が、1400へ、1200へと間合いを削っていった一年である。掲示板には載る。だが、届かない。前で粘っては、最後の数完歩で外から来た脚に飲まれた。 勝てないまま、5歳になった。

二度の、あと一完歩

2016年の始動戦、浜中は負傷で乗れなかった。阪急杯の鞍上は松山弘平。初めてこの馬に跨る騎手は迷わず先手を取り、差を詰めてきたオメガヴェンデッタに3/4馬身。1年4か月ぶりの勝利だった。 3月27日、中京の高松宮記念。3番手を追走し、直線でいったん先頭に立った。だが外からビッグアーサーが1分6秒7のレコードで抜き去り、3/4馬身差の2着。 半年の休養を挟んで10月2日、中山のスプリンターズステークス。今度はハナを奪い、前半600メートルを33秒4で運んだ。単独先頭のまま残り200メートルを通過し、坂を上がってもまだ前にいた。それでも外からレッドファルクスが伸びてきて、ゴール前でアタマだけ出た。 GIで二度、直線で先頭に立ちながら、二度とも最後に譲った。

京都のマイルへ帰る

11月20日、京都のマイルチャンピオンシップ。手綱に浜中が戻った。 8枠16番から先手を取り、前半3ハロンを34秒4。直線、中団から追い上げてきたイスラボニータの脚は鋭かったが、アタマだけ先にゴール板を過ぎたのはミッキーアイルだった。1分33秒1。NHKマイルカップから2年6か月ぶりのGIであり、音無にとってはカンパニー以来7年ぶり、二度目のマイルチャンピオンシップだった。 この勝利は、静かには終わらなかった。直線で外に斜行し、後続の複数の馬の進路が狭くなったとして審議の対象になる。着順は動かなかったが、鞍上には騎乗停止の裁定が下った。浜中は自らの責任だと述べている。 1か月後、12月24日の阪神カップ。1番人気で、鞍上はやはり浜中だった。逃げて、直線で失速して6着。それが最後の一戦になった。 年が明けた1月、2016年のJRA賞最優秀短距離馬に選ばれる。GIをひとつ勝ち、GIで二度2着に敗れた一年が、そう評価された。1月29日、競走馬登録は抹消された。当初は阪急杯から高松宮記念へ向かう青写真もあったが、関係者と協議のうえ、種付けのシーズンに間に合わせるための引退だという。馬に何かがあったわけではない、と音無は説明し、ディープインパクト産駒でマイルからスプリントまでを走った馬は少ない、と続けた。「産駒にも似たような子どもが出ることを期待しています」[^1]

出典:デイリースポーツ「ミッキーアイル電撃引退 種牡馬入り 昨年の最優秀短距離馬」2017年1月29日配信、https://www.daily.co.jp/horse/2017/01/29/0009869682.shtml、閲覧日:2026年7月28日。

速さの行方

2017年、社台スタリオンステーションで種牡馬になった。同年のシーズンオフからは、シャトル種牡馬としてオーストラリアのアローフィールドスタッドへも渡った。 初年度産駒がデビューしたのは2020年。7月4日、阪神の新馬戦をデュアリストが勝って産駒の初勝利となり、9月6日の小倉2歳ステークスをメイケイエールが勝って重賞初勝利となった。メイケイエールはのちにチューリップ賞、シルクロードステークス、京王杯スプリングカップ、セントウルステークスを勝つ。 翌2021年、同じ小倉2歳ステークスを勝ったのがナムラクレアである。その前のフェニックス賞で手綱を取っていたのは松山弘平、小倉2歳ステークスからの手綱は浜中俊だった。父に乗った二人が、娘の最初の二勝を分け合っていたことになる。 浜中はナムラクレアで函館スプリントステークス、シルクロードステークス、キーンランドカップを勝つ。そして2023年と2024年の高松宮記念、父が2着に敗れたのと同じ中京の1200メートルで、娘もまた2着に終わった。2024年12月、ルメールに替わったナムラクレアは阪神カップを勝っている。父が最後に走って敗れた、あのレースだった。 2024年から、ミッキーアイルは新冠町の優駿スタリオンステーションで繋養されている。 逃げるという走り方は、孤独の別名ではなかった。隣に馬がいないと落ち着かない仔が、レースではたいてい、一頭だけ前にいた。二十戦して八勝。その速さが、いまは産駒の脚に分かれて、日本の短距離を走っている。

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