名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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メルシーモンサンのイメージビジュアル
メルシーモンサンMerci Mont Saint
Merci Mont Saint

メルシーモンサン

通算成績25戦2勝

獲得賞金9,811万円

生年月日 2005.02.06(平成17年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
メルシーモンサンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 15人気 黒岩悠 映像
13 4歳以上500万下 中京 ダ1900 13人気 黒岩悠 2:04.5 上り40.5
13 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 9人気 黒岩悠 5:12.5 上り14.7映像
13 4歳以上500万下 中京 ダ1900 13人気 水口優也 2:03.3 上り38.7
1 JGⅠ中山グランドジャンプ 中山 障4250 8人気 高野容輔 5:03.5 上り14.3映像
6 OPペガサスジャンプS 中山 障3350 7人気 高野容輔 3:46.4 上り13.5
5 JGⅠ中山大障害 中山 障4100 13人気 高野容輔 4:43.3 上り13.8映像
4 OP秋陽ジャンプS 東京 障3300 14人気 高野容輔 3:41.2 上り13.4
11 障害3歳以上OP 中山 障3210 9人気 高野容輔 3:36.1 上り13.5
1 障害3歳以上未勝利 小倉 障2900 3人気 高野容輔 3:12.5 上り13.3
9(降) 障害3歳以上未勝利 阪神 障2970 5人気 高野容輔 3:21.6 上り13.6
10 障害3歳以上未勝利 東京 障3000 5人気 高野容輔 3:31.2 上り14.1
9 障害4歳以上未勝利 京都 障2930 6人気 高野容輔 3:19.6 上り13.6
2 障害4歳以上未勝利 京都 障2930 12人気 高野容輔 3:18.8 上り13.6
9 障害3歳以上未勝利 阪神 障2970 10人気 小坂忠士 3:29.3 上り14.1
6 3歳未勝利 小倉 芝2600 7人気 小牧太 2:43.8 上り36.7
13 3歳未勝利 小倉 芝2000 11人気 小坂忠士 2:04.2 上り38.1
5 3歳未勝利 小倉 芝2600 10人気 小坂忠士 2:40.2 上り37.8
6 3歳未勝利 京都 芝2400 8人気 小坂忠士 2:33.2 上り36.7
5 3歳未勝利 福島 芝2600 8人気 中舘英二 2:43.3 上り36.3
10 3歳未勝利 阪神 芝2200 16人気 小坂忠士 2:18.1 上り36.9
12 3歳未勝利 中京 芝2000 17人気 中村将之 2:03.5 上り36.8
13 3歳未勝利 京都 ダ1800 15人気 大下智 1:59.9 上り41.7
16 3歳未勝利 京都 ダ1800 16人気 小牧太 1:57.3 上り40.3
13 2歳新馬 阪神 ダ1800 7人気 M.デムーロ 2:00.7 上り42.1

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
メルシーモンサンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
アドマイヤベガAdmire VegaサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ベガトニービンTony Bin
アンティックヴァリューAntique Value
カネショウダイヤダイヤモンドショールDiamond ShoalMill Reef
Crown Treasure
ウィスパーモアマルゼンスキーMaruzensky
メルシーブルー
STORY

旅程 — この馬の物語

2005年生まれの鹿毛の牡馬。父アドマイヤベガ、母カネショウダイヤ。

三石の、メルシー ― 名と、叔父

2005年2月6日、北海道三石町の三石ファームで、鹿毛の牡馬が生まれた。父はアドマイヤベガ、母はカネショウダイヤ。馬主・永井康郎の冠名「メルシー」に、フランス語の「山」と「人」を重ねた名がついた。海に浮かぶ修道院、モン・サン=ミシェルに由来する。 三代母の名はメルシーブルー。1976年生まれのその牝馬から、この一族は同じ名を分け合ってきた。そして母カネショウダイヤの半弟に、メルシータカオーがいる。三石ファームの生産、永井康郎の所有、栗東・武宏平厩舎の管理——血も人も、そっくり同じ道筋をたどった馬である。タカオーは2004年の中山グランドジャンプで逃げ、ブランディスの2着に粘った。その年の暮れには中山大障害を6馬身差で圧勝する。開業26年目の武宏平にとって、初めてのGI勝ちだった。 だがタカオーは屈腱炎に二度倒れ、2007年9月25日に放牧先で骨折、翌26日に安楽死処分となった。その二か月あまり後の12月8日、阪神のダート1800m。M.デムーロを背に、メルシーモンサンがデビューした。7番人気、13着。血の続きは、まだ何ひとつ始まっていない。

平地では、ついに

2008年の一月から夏の終わりまで、この馬は未勝利戦を九回走った。京都のダート1800mで16番人気16着。次も13着、その次も12着。ダートから芝へ移し、2000mから2600mまで距離を動かし、鞍上も大下智・中村将之・小坂忠士・中舘英二・小牧太と替えた。届いたのは福島と小倉の芝2600m、二度の5着までだった。 9月27日、阪神。障害3歳以上未勝利。生まれて初めて障害を跳んで、9着。陣営はそれでもこの道を選んだ。 のちに二度、平地へ戻る日が来る。結局この馬は生涯で平地を十二回走り、ついに一度も勝てなかった。

高野容輔という乗り役

2009年2月8日、京都の障害4歳以上未勝利。鞍上が高野容輔に替わった。12番人気、単勝106.8倍。ヤマカツジェットの2着に飛び込んだ。 高野は1983年、兵庫・たつの市の生まれ。競馬とは縁のない家に育ち、中学生のときテレビで見たシルクジャスティスの有馬記念で騎手を志した。両親には反対され、一度きりという約束で受けた競馬学校に受かってしまう。第18期生。同期に五十嵐雄祐と黒岩悠がいた。2002年にデビューし、三年で平地・障害あわせて40勝。だが減量特典の切れた2005年から、騎乗数も勝ち星も減っていく。減量が取れたことで、それまで乗せてくれていた厩舎からの依頼が細ることもあった。2007年11月には落馬で右鎖骨を折り、二か月休んだ。翌2008年、マーメイドステークスに乗る予定だった川島信二が48kgでは乗れないと知って自ら騎乗を申し出、3.8kgを絞ってトーホウシャインで重賞初制覇——それが、その一年の唯一の勝ち鞍だった。 2009年、メルシーモンサンは八度ゲートに入り、そのすべてに高野が乗った。8月15日の小倉、障害3歳以上未勝利。3番人気に応えて、通算16戦目でようやく初勝利を挙げる。6月の阪神で5位入線から9着に降着となった一戦も、その途中にある。秋にオープンで11着、秋陽ジャンプステークスは14番人気で4着。そして暮れの中山大障害、13番人気の5着。高野にとってJ・GI初騎乗だった。勝ったキングジョイの背中は遠かったが、63kgを積んで4分43秒3をまとめたこの馬は、もう未勝利馬の脚ではなかった。

四千二百五十メートル、不良

2010年3月27日、ペガサスジャンプステークスで6着。中山グランドジャンプは、その三週間後だった。 4月17日の中山は晴れていた。ただ障害コースの馬場だけが、不良のままだった。14頭。1番人気は同じ武宏平厩舎のメルシーエイタイム——2007年に中山大障害と東京ハイジャンプを勝ち、その年のJRA賞最優秀障害馬に選ばれた、厩舎の看板である。メルシーモンサンは8番人気、単勝38.4倍。背に63.5kg。 テイエムトッパズレが先手を取った。メルシーモンサンは3番手、3番手、そして2番手、2番手と、逃げ馬の影を踏むように進む。エイタイムは9番手、10番手と流れに乗りかけたところで競走を中止した。3コーナー、後方から押し上げてきたオープンガーデンが並びかける。二頭は横並びのまま4コーナーを回り、直線で逃げ馬を捉え、そこからゴールまで並んだままだった。5分03秒5。クビ差、しのぎ切ったのはメルシーモンサンだった。 4着は同期・黒岩悠のドールリヴィエール、7着は同期・五十嵐雄祐のメジロスパイダー。高野容輔にとって、障害の重賞初勝利であり、J・GI初勝利であり、そしてその年の初勝利でもあった。二年前のマーメイドステークスは48kg、この日は63.5kg。15.5kgを隔てた二つの重賞は、平地と障害の双方に乗る者にしか作れない記録である。減量に苦しんだあのときとは逆に、今度は一日三度食べて体重を増やそうとしたが一キロしか増えなかったと、彼はレース後に振り返っている。二日前の4月15日、第二子が生まれていた。 武宏平にとっては、メルシータカオーメルシーエイタイムスリーロールスに続く四つ目のGI。そして六年前にタカオーが逃げて2着に粘ったのと同じ4250mを、その半姉の仔が勝った。

同期に渡された手綱

2010年12月31日、高野容輔は騎手をやめた。翌年度からの厩舎制度の変更、落馬で残った古傷、そして体調のこと。二児の父として、その先の人生を考えた末だった。生涯成績1456戦50勝。重賞は平地と障害でひとつずつの計2勝で、そのどちらも不良馬場だった。転じた先は吉岡八郎厩舎の調教助手——あの日、4着まで追ってきたドールリヴィエールを預かっていた厩舎である。 メルシーモンサンのほうは、J・GIを勝ったあとに故障し、長い休養に入った。復帰は二年後、2012年3月の中京・ダート1900m。13番人気13着。翌月の中山グランドジャンプは13着で、勝ったのはマジェスティバイオだった。そこからまた一年近く止まり、2013年3月の中京で13着。 そして4月13日、三度目の中山グランドジャンプ。15番人気。前年の同レースから手綱を引き継いでいたのは黒岩悠——競馬学校第18期の高野の同期であり、三年前のあの日、ドールリヴィエールで4着まで押し上げてきた男だった。レースは競走中止に終わる。ブラックステアマウンテンが勝ったその日が、メルシーモンサンの最後の一日になった。まもなく競走馬登録は抹消された。25戦2勝、獲得賞金9811万1000円。

湧水町の草

競走馬をやめたメルシーモンサンは乗馬になり、いまは鹿児島県姶良郡湧水町にあるNPO法人ホーストラストにいる。引退した競走馬や繁殖馬を功労馬として繋養する養老牧場で、2018年からは引退名馬繋養展示事業の助成対象馬にもなった。2021年に助成の枠からは外れたが、馬はそのまま、そこにいる。2005年2月6日生まれ、いま21歳。 高野容輔は調教助手を続けている。吉岡八郎厩舎の解散後は日吉正和厩舎、大久保龍志厩舎を経て、2017年から角田晃一厩舎。2019年にはマスターフェンサーのアメリカ三冠遠征に帯同した。騎手として一度だけ届いた障害の頂きは、この馬の背の上にあった。 平地では十二回走って勝てず、障害に移って十三回走り、二度勝った。その二度目が、中山の4250mだった。竹柵も生垣も、もうこの馬の前にはない。九州の南の、跳ぶ必要のない草の上に、あの五分三秒五を走った脚が置かれている。

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