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マルシュロレーヌ
通算成績22戦9勝
獲得賞金3億6,944万円
生年月日 2016.02.04(平成28年)毛色 鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 6 | GIサウジカップ | キングアブドゥル ダ1800 | 11人気 | C.スミヨン | — | — | ||
| 1 | GIBCディスタフ | デルマー ダ1800 | 9人気 | O.マーフィー | 1:47.6 | — | 映像 | |
| 1 | JpnⅢブリーダーズゴールドカップ | 門別 ダ2000 | 1人気 | 川田将雅 | 2:06.6 | 上り36.5 | — | |
| 8 | JpnⅠ帝王賞 | 大井 ダ2000 | 9人気 | 森泰斗 | 2:04.8 | 上り38.7 | 映像 | |
| 3 | GIII平安S | 中京 ダ1900 | 3人気 | 川田将雅 | 1:55.9 | 上り37.1 | 映像 | |
| 1 | JpnⅡエンプレス杯 | 川崎 ダ2100 | 1人気 | 川田将雅 | 2:14.1 | 上り38.9 | — | |
| 1 | JpnⅢTCK女王盃 | 大井 ダ1800 | 1人気 | 川田将雅 | 1:53.7 | 上り37.0 | — | |
| 3 | JpnⅠJBCレディスクラシック | 大井 ダ1800 | 1人気 | 川田将雅 | 1:51.7 | 上り37.8 | 映像 | |
| 1 | JpnⅡレディスプレリュード | 大井 ダ1800 | 1人気 | 川田将雅 | 1:52.1 | 上り36.8 | — | |
| 1 | 桜島S | 小倉 ダ1700 | 2人気 | 川田将雅 | 1:43.7 | 上り35.0 | — | |
| 2 | 博多S | 小倉 芝2000 | 3人気 | 武豊 | 1:57.9 | 上り35.5 | — | |
| 6 | GIIIマーメイドS | 阪神 芝2000 | 13人気 | 高倉稜 | 2:01.7 | 上り37.0 | — | |
| 12 | パールS | 新潟 芝1800 | 4人気 | 中谷雄太 | 1:48.7 | 上り34.4 | — | |
| 9 | GIII福島牝馬S | 福島 芝1800 | 8人気 | 坂井瑠星 | 1:47.8 | 上り35.2 | 映像 | |
| 1 | 四国新聞杯 | 阪神 芝2000 | 5人気 | 坂井瑠星 | 2:01.4 | 上り35.3 | — | |
| 1 | 3歳以上1勝クラス | 福島 芝2000 | 4人気 | 石川裕紀人 | 1:59.8 | 上り35.1 | — | |
| 6 | 3歳以上1勝クラス | 新潟 芝1600 | 2人気 | 田中勝春 | 1:36.4 | 上り35.4 | — | |
| 1 | 3歳未勝利 | 小倉 芝1800 | 4人気 | 福永祐一 | 1:47.0 | 上り35.4 | — | |
| 5 | 3歳未勝利 | 中京 芝1600 | 3人気 | 福永祐一 | 1:36.3 | 上り35.9 | — | |
| 9 | 3歳未勝利 | 京都 芝1600 | 4人気 | 池添謙一 | 1:34.3 | 上り35.1 | — | |
| 5 | 3歳未勝利 | 阪神 芝1800 | 5人気 | 坂井瑠星 | 1:48.6 | 上り35.1 | — | |
| 2 | 3歳新馬 | 京都 芝1600 | 4人気 | 池添謙一 | 1:37.0 | 上り35.8 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父オルフェーヴルOrfevre | ステイゴールドStay Gold | サンデーサイレンスSunday Silence |
| ゴールデンサッシュ | ||
| オリエンタルアート | メジロマックイーンMejiro McQueen | |
| エレクトロアート | ||
| 母ヴィートマルシェ | フレンチデピュティFrench Deputy | Deputy Minister |
| Mitterand | ||
| キョウエイマーチ | ダンシングブレーヴDancing Brave | |
| インターシャルマン |
旅程 — この馬の物語
2016年生まれの鹿毛の牝馬。父オルフェーヴル、母ヴィートマルシェ。主な勝ち鞍はBCディスタフ。
行進曲の一族 ― 名前と血
マルシュロレーヌ。フランスの愛国歌『ロレーヌ行進曲』から採られた名である。 母はヴィートマルシェ、9戦1勝。その母がキョウエイマーチだった。1997年の桜花賞を、不良馬場の大外18番枠から逃げ切り、2着メジロドーベルに4馬身の差をつけた快速牝馬。重賞5勝を挙げたその馬は、2007年5月、最後の産駒を産み落とすさなかに大腸変位を起こし、13歳で死んでいる。遺した産駒は4頭。うち牝馬は、ヴィートマルシェただ一頭だけだった。 牝系をさらに遡れば、1953年の天皇賞(秋)をレコードで制したクインナルビーに行き着く。オグリキャップも、オグリローマンも、この一族から出た。細く、しかし切れずに繋がってきた牝の血である。 2016年2月4日、北海道安平町のノーザンファームで、その細い糸の先に一頭の鹿毛の牝馬が生まれた。父はオルフェーヴル。一口馬主法人キャロットファームが、総額3000万円で会員を募った。母の名にも、その母の名にも、そしてこの仔に与えられた名にも――一族には、行進曲が流れていた。
三歳の二月から
デビューは遅い部類だった。2019年2月3日、京都の芝1600m。池添謙一を背に4番人気で2着。勝ったのは、のちにリステッド競走の淀短距離ステークスを勝つアイラブテーラーである。 そこから勝ち上がるまでが長かった。2月の阪神で5着、5月の京都で9着、7月の中京で5着。5戦目、8月10日の小倉・芝1800mで、福永祐一を鞍上にようやく初勝利を挙げる。秋は新潟で6着に敗れたあと、11月3日の福島で2勝目を拾った。三歳を7戦2勝で終える。 この時点で、この牝馬が二年後にどこへ行き着くかを言い当てられる材料は乏しい。勝ち上がるまでに四戦を要した馬が、京都から阪神へ、中京から小倉へ、新潟へ福島へと運ばれ、それでも走り続けていた。それだけが事実だった。
芝の行き止まり
四歳の初戦、3月29日の四国新聞杯を坂井瑠星とともに勝って3勝目。だが、そこから芝の壁が立った。福島牝馬ステークスは9着、新潟のパールステークスは4番人気で12着、阪神のマーメイドステークスは13番人気の6着。夏の小倉で、武豊を鞍上に迎えた博多ステークスの2着が、芝での最後の走りになった。 矢作芳人厩舎が次に試したのは砂だった。9月5日、小倉の桜島ステークス、ダート1700m。鞍上は川田将雅。初めてのダートで、彼女はいきなり2番人気に応えて勝ち、上がり35秒0を使っている。芝で行き止まっていた馬は、砂の上では別の脚を持っていた。
川田将雅と、砂の一年
桜島ステークスからの七戦、この馬の手綱はすべて川田将雅が取った。 10月、大井のレディスプレリュード。地方初参戦を2着マドラスチェックに3馬身差で完勝し、重賞初制覇。続くJBCレディスクラシックでは単勝1.3倍という圧倒的な支持を集めながら、ファッショニスタの3着に敗れる。ダートに移ってからの、初めての黒星だった。 年が明けると取りこぼしは止まった。1月の大井・TCK女王盃、3月の川崎・エンプレス杯を連勝。エンプレス杯は後方から差し切ってのもので、ダート重賞は三つになる。春は牡馬混合へ向かい、中京の平安ステークスで3着。6月の大井・帝王賞は森泰斗が手綱を取り、8着だった。牡馬の一線級との距離は、まだ埋まっていない。 牝馬路線に戻った8月、門別のブリーダーズゴールドカップを1番人気で快勝。ダート重賞4勝目である。国内の牝馬同士では、もう相手が足りなくなっていた。
デルマー、十一月六日
現地時間2021年11月6日、カリフォルニアのデルマー競馬場。ブリーダーズカップ・ディスタフ、ダート9ハロン。アメリカのダート牝馬路線が一年をかけて辿り着く、最高峰の一戦である。 11頭立ての9番人気。単勝はおよそ50倍。日本の交流重賞しか勝っていない五歳牝馬に、本場が与えた評価はその程度だった。 プライベートミッションが飛ばし、1番人気レトゥルースカが競りかける。最初の2ハロンが21秒84、半マイルが44秒97。息の入らない流れだった。マルシュロレーヌはそこに乗らず、後方九番手、砂をかぶらない位置を選ぶ。オイシン・マーフィーは、動かない。 三コーナーから四コーナーにかけて、前が苦しくなる。マーフィーが持ち出したのは大外、五頭ぶんも外だった。捲るように上がり、コーナーの出口ではもう先頭に立っている。矢作芳人は、のちにこう振り返った。「3コーナーで手綱を持ったままだったので、もしかしたら勝てるかも、と思いました」[^1] 直線、内から食い下がるダンバーロードとの叩き合いになった。写真判定。ハナ差。1分47秒67。3着には、その年のケンタッキーオークスを勝ったマラサートがいた。 日本で調教された馬が日本国外のダート国際GIを勝ったのは、これが史上初である。
出典:テレビ東京スポーツ「矢作調教師『半信半疑な部分もあった。勝ててよかった』日本馬米国ダートGI初制覇の快挙」2021年11月8日配信、https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/articles/2021/11/021190.html 、閲覧日:2026年7月25日。
同じ日、もう一頭 ― 六十三年
その数時間前、同じ開催のフィリー&メアターフを、同じ矢作厩舎のラヴズオンリーユーが勝っていた。日本で調教された馬による、初めてのブリーダーズカップ制覇である。鞍上は川田将雅。海外GIは、この騎手にとっても初めてだった。 砂の上で一年近くをかけてマルシュロレーヌを重賞四勝まで押し上げた男は、その日、別の牝馬でアメリカの芝を勝った。そしてマルシュロレーヌの手綱はマーフィーに委ねられ、こちらは砂を勝った。同じ厩舎の牝馬二頭が、一日のうちにブリーダーズカップを二つ。日本の競馬にとって、前例のない一日だった。 マーフィーは、人気のなさは承知のうえで、この馬に力を出し切らせることだけを考えていたのだと語っている。「レース展開に恵まれた部分もありますが、彼女自身が素晴らしい走りをしてくれました」[^1] 1958年、ハクチカラが太平洋を渡った。翌年にはアメリカで重賞を勝ち、日本調教馬として初めて国外の重賞を制している。それから六十三年。芝では幾度も海を越えてきた日本の馬が、アメリカの砂の最高峰にだけは、どうしても届かずにいた。その扉を、11頭立ての9番人気がこじ開けた。
出典:テレビ東京スポーツ「O.マーフィー 騎手『素晴らしい走りをしてくれた』マルシュロレーヌ日本馬初の米国ダートGI勝利」2021年11月8日配信、https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/articles/2021/11/021191.html 、閲覧日:2026年7月25日。
一票
快挙の評価は、しかし一様ではなかった。 2022年1月のJRA賞。8人の選考委員による特別賞の審議で、マルシュロレーヌは規定の四分の三――6票に届かず、受賞は見送られる。年度代表馬の投票では、296票のうち277票をエフフォーリアが、18票をラヴズオンリーユーが集め、マルシュロレーヌに投じられたのは、ただ1票だった。その一票の主はラジオNIKKEIの実況アナウンサーで、のちに日本経済新聞のコラムで、北米ダートGIの制覇は日本競馬史に残る快挙だと考えたのだと理由を明かしている。 アメリカでも、エクリプス賞の古馬牝馬部門にファイナリストとして残りながら、受賞は逃した。選ばれたのはレトゥルースカ――ディスタフでは10着に沈んだ、あの1番人気である。 表彰したのは、地方競馬だった。2021年のNARグランプリ特別表彰馬。そしてアメリカでは、ラヴズオンリーユーとともにNTRAのモーメント・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。年間の最優秀馬という物差しでは掬いきれないものが、デルマーの一分四十七秒には残っていた。
安平へ ― 次の行進曲
2022年2月26日、サウジアラビア。引退レースと定めて臨んだサウジカップに、クリストフ・スミヨンを背に出走して6着。3月9日付で競走馬登録は抹消された。22戦9勝。 安平のノーザンファームで繁殖牝馬となり、初年度の相手にはドレフォンが選ばれた。2023年4月5日、初仔となる牝馬が生まれる。マルシュボヌール――母と同じ「マルシュ」に、フランス語で幸福を意味する語が続く名だった。その牝馬はキャロットファームの所有馬として、母を送り出したのと同じ栗東・矢作芳人厩舎から競走馬になっている。二番仔はキタサンブラックとの間の牡馬スタニスラス、三番仔はキズナとの間の牡馬。 一族には、いまも行進曲が流れている。半姉サンブルエミューズの娘ナミュールは2023年のマイルチャンピオンシップを勝ち、その妹ラヴェルはアルテミスステークスとチャレンジカップを制した。半弟バーデンヴァイラー――名の意味はドイツの行進曲、母名からの連想だという――はマーキュリーカップと佐賀記念を勝ち、引退して石川県珠洲市の珠洲ホースパークへ移ったが、2024年9月、急性腸炎で世を去っている。 キョウエイマーチが遺した、たった一頭の牝馬。その娘が、日本の馬に六十三年開かなかった扉を押し開けた。細い糸のような牝系は切れず、いま安平の放牧地で、次の行進曲を産んでいる。
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