名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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ラヴズオンリーユーのイメージビジュアル
ラヴズオンリーユーLoves Only You
Loves Only You

ラヴズオンリーユー

通算成績16戦8勝

獲得賞金91,394万円

生年月日 2016.03.26(平成28年)毛色 鹿毛

2021最優秀4歳以上牝馬Eclipse Award2021最優秀芝牝馬

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ラヴズオンリーユーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
1 GI香港カップ シャティン 芝2000 1人気 川田将雅 2:00.6 映像
1 GIBCF&Mターフ デルマー 芝2200 1人気 川田将雅 2:13.8 映像
2 GII札幌記念 札幌 芝2000 1人気 川田将雅 1:59.6 上り35.1映像
1 GIクイーンエリザベス2世カップ シャティン 芝2000 3人気 C.ホー 2:01.2 映像
3 GIドバイシーマクラシック メイダン 芝2410 3人気 O.マーフィー 映像
1 GII京都記念 阪神 芝2200 1人気 川田将雅 2:10.4 上り34.7映像
10 GI有馬記念 中山 芝2500 6人気 M.デムーロ 2:35.9 上り36.6映像
3 GIエリザベス女王杯 阪神 芝2200 3人気 M.デムーロ 2:10.4 上り33.8映像
5 GII府中牝馬ステークス 東京 芝1800 1人気 M.デムーロ 1:49.3 上り36.5映像
2 GIII鳴尾記念 阪神 芝2000 1人気 M.デムーロ 2:00.1 上り35.7映像
7 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 3人気 M.デムーロ 1:31.8 上り33.5映像
3 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 1人気 M.デムーロ 2:14.3 上り33.8映像
1 GI優駿牝馬 東京 芝2400 1人気 M.デムーロ 2:22.8 上り34.5映像
1 L忘れな草賞 阪神 芝2000 1人気 M.デムーロ 2:00.6 上り34.6
1 白菊賞 京都 芝1600 1人気 岩田康誠 1:33.6 上り35.8
1 2歳新馬 京都 芝1800 2人気 C.ルメール 1:50.9 上り33.9

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ラヴズオンリーユーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
ラヴズオンリーミーLoves Only MeStorm CatStorm Bird
Terlingua
MonevassiaMr. Prospector
Miesque
STORY

旅程 — この馬の物語

2016年生まれの鹿毛の牝馬。父ディープインパクト、母ラヴズオンリーミー。主な勝ち鞍は優駿牝馬・QE2世C・BCF&Mターフ。

兄が世界を獲った日に ― 名前と血

2016年3月26日、北海道安平町のノーザンファームで鹿毛の牝馬が生まれた。その同じ日、ドバイのメイダンでは全兄リアルスティールがドバイターフを勝っている。矢作芳人厩舎にとって、初めての海外GIタイトルだった。海の外でずっと苦杯をなめてきた厩舎の潮目が変わったその日に、妹はこの世へ出てきたことになる。 血は、はじめから世界のものだった。曾祖母ミエスクは欧州とアメリカでGIを10勝し、1987年と1988年にアメリカのエクリプス賞最優秀芝牝馬へ連続で選ばれた名牝。祖母モネヴィッシアはミエスクとミスタープロスペクターの娘で、大種牡馬キングマンボの全妹にあたる。自身は重賞を勝てなかったが、全欧2歳牝馬王者ランプルスティルツキンを産んだ。母ラヴズオンリーミーは一度も競走に使われないまま、血の良さだけで90万ドルの値をつけられて日本へ渡ってきた。母の従兄弟にあたるスタディオブマンは、2018年にフランスダービーを勝つことになる。 2017年7月のセレクトセール。「ラヴズオンリーミーの2016」は税抜1億6000万円で落札された。その年のセールで取引された1歳牝馬の最高価格である。買い手は、この年から競走馬事業に踏み出したDMM。馬主名義はDMMドリームクラブとなった。1頭を1万口に割って募る「超小口」の共同馬主という新しい形の一号世代で、彼女には一口32,000円の出資が9,927口集まっている。翌春に与えられた名は母の名からの連想で、意味は「みんなへの愛を込めて」。およそ一万に分かたれた出資の上に立つ牝馬に、これ以上ふさわしい名もなかった。

遅れてきた二歳 ― 兄が教えた待ち方

2018年の初夏、彼女は早めにデビューさせることもできる状態にあった。だが矢作は待たせた。全兄リアルスティールを管理した経験から、この血統は成長が遅いと踏んでいたからである。デビューを遅らせたいと自ら馬主へ進言し、了承を得た。兄で覚えたことを、そのまま妹に使ったわけだ。 初戦は11月3日、京都の芝1800m。鞍上はクリストフ・ルメール。1馬身ほど出遅れて8頭立ての4番手を進み、直線でインへ潜ると、残り200mを切ったあたりで先頭のアーデンフォレストを一気に抜き去った。ステッキは一度も入らず、着差は1馬身1/4。3週後の白菊賞では岩田康誠に乗り替わり、また出遅れて9頭の8番手。それを最終コーナーで大外まで持ち出す大胆な進路取りで差し切った。戻ってきた岩田は、この馬は他とはものが違うと評したという。パドックから気負い、走りながらよそ見をし、気性はまだ幼い。それでも2戦2勝。矢作は阪神ジュベナイルフィリーズを見送り、この馬を休ませることを選んだ。

桜を跳んで、樫へ

年が明けてすぐ、アクシデントが来る。後ろ脚の骨の関節に菌が入るという、皮膚の下で済む一般的なフレグモーネとは違う厄介な細菌性の疾患だった。治療のあとに要る調教期間を逆算すると3月の出走も無理で、桜花賞は消えた。残された仕事は、優駿牝馬の出走資格をどこかで取ることだけ。フローラステークスは関東への連戦になるとして外し、選んだのは桜花賞と同じ4月7日、阪神の忘れな草賞だった。仕上がりを矢作は7割、ミルコ・デムーロは6割、調教に跨っていた坂井瑠星は5割と見ていたという。またも出遅れ、隣の馬と接触してなお、直線では3馬身突き放して勝った。 5月19日、東京。桜花賞馬グランアレグリアが不在のオークスで、3戦3勝のこの馬は単勝4.0倍の1番人気に推される。18頭立ても、関東への輸送も、強い相手との対戦も、すべて初めてだった。向正面で外からかぶせられ、位置取りは10番手まで下がる。前半1000m59秒1、先行した馬がそのまま残る日の東京で、そこは最も置かれたくない場所だった。直線、内でカレンブーケドールが完全に抜け出す。誰の目にも決まった形から、大外の一頭が一完歩ずつ詰めた。残り100mで並びかけ、いったん半馬身前に出て、差し返されかけ、ゴール板ではクビだけ前にいた。2分22秒8。ジェンティルドンナの持っていたレースレコードを0.8秒縮める時計である。無敗でのオークス制覇は2006年のカワカミプリンセス以来、史上5頭目。デムーロも矢作もこのレースは初勝利で、クラブにとっては初めての重賞が、いきなりGIだった。なお5着には、川田将雅の乗るダノンファンタジーがいる。

二年ぶんの冬

無敗のまま秋華賞へ、とはならなかった。9月、右後脚の蹄の炎症で回避。半年ぶりの実戦となったエリザベス女王杯は1番人気に支持されたが、ラッキーライラックの3着に終わる。5戦目にして、初めて他馬に先着を許した。 明けて2020年はドバイシーマクラシックから始めるはずだった。招待を受け、現地入りまで済ませたところで、新型コロナウイルスがすべてを止める。ドバイ国際競走は中止となり、一度も走らないまま帰国した。仕切り直しのヴィクトリアマイルは最内枠で馬群に包まれて7着、鳴尾記念は際どい2着、重馬場の府中牝馬ステークスは5着、エリザベス女王杯はまたラッキーライラックの3着、暮れの有馬記念は10着。前年の初黒星から数えて6戦、勝ち鞍がなかった。同期のクロノジェネシスグランアレグリアが世代の顔になっていく傍らで、オークス馬の名は少しずつ薄れていく。 その冬に受けた唯一の賞は、阪神のエリザベス女王杯で吉田一成調教助手とともに贈られたベストターンドアウト賞だった。最もよく手入れされた馬に贈られる賞である。勝てない季節のあいだも、彼女は誰よりも美しく仕上げられて、そこに立っていた。

一年九か月ぶりの白星、そしてシャティン

2021年2月14日、改装中の京都に代わって阪神で行われた京都記念。鞍上は川田将雅。オークスでダノンファンタジーに乗り、彼女の後ろでゴールした男が、初めてその背に跨った。4コーナー4番手から長く脚を使い、2番手から抜け出していた僚馬ステイフーリッシュを捉える。オークス以来、1年9か月ぶりの勝利だった。 3月、前年に叶わなかったドバイシーマクラシックへ。オイシン・マーフィーを背にクロノジェネシスをマークして後方に控え、3コーナーから進出して直線でいったん先頭に立つ。そこへ外からミシュリフとクロノジェネシスが来て、わずかに及ばない3着。負けはしたが、戻っていることは誰の目にも明らかだった。 陣営は帰国させず、そのまま香港へ渡した。4月25日、シャティンのクイーンエリザベス2世カップ。鞍上には地元の何澤堯(チャクイウ・ホー)を迎えた。道中は4番手。直線で早々にエグザルタントを競り落とし、内で粘るデアリングタクトを捕らえ、最後は大外から追い込んできたグローリーヴェイズを4分の3馬身抑えた。1着から4着までを日本馬が占めたレースの、いちばん上にいた。同じ日にチャンピオンズマイルも勝ったホーは、「私の騎手人生のハイライトとなりました」[^1]と言った。五年前、兄が海の外で初めてGIを勝った。その妹が、同じ厩舎の旗を持って海の外に立った。

出典:テレビ東京スポーツ「【香港QE2C】C.ホー騎手 ラヴズオンリーユーでV『しっかり反応してくれました。私の騎手人生のハイライトとなりました』」2021年4月26日配信、https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/articles/2021/04/018046.html 、閲覧日:2026年7月25日。

デルマー、狭い隙間

8月の札幌記念は1番人気。メンバー最速の脚を使いながら、ソダシの2着に敗れた。3、4コーナーで5頭分外を回されたと矢作は振り返り、そのままアメリカへ向けて準備すると言った。 11月6日、デルマー。ブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ、芝11ハロン。日本調教馬は、この祭典をまだ一度も勝っていなかった。好スタートから3、4番手。直線を向くと前が壁になり、川田は狭い隙間を選んで押し込んだ。内から抜け出すマイシスターナットと、大外から伸びるウォーライクゴッデス――その真ん中を割って、半馬身出た。2分13秒87。日本の馬が初めてブリーダーズカップを獲った瞬間であり、川田にとっても初めての海外GIだった。同じ日、矢作厩舎のマルシュロレーヌがブリーダーズカップ・ディスタフを勝つ。ひとりの調教師が、一日に二つ獲った。 勝ったあと、厩舎で記念写真を撮ろうという話になる。川田は近寄りたくなかった。この牝馬は、レース以外の場所では彼をまったく寄せつけなかったからだ。少しでも近づけば耳を伏せ、全身で拒む。それでもスタッフに促されて近づいた結果を、川田はこう語っている。「『お前は近寄るな!』とめちゃくちゃ怒ってました」[^1]。左目の白目がやけに大きい、馬とは思えない目つきの牝馬だった。その強すぎる気性が、走るほうへ真っ直ぐ向いていた。

出典:JRA-VAN「関係者インタビュー Vol.04 川田将雅騎手『求められるジョッキーであり続けたい』」(取材・文 不破由妃子、取材日2022年4月6日)、https://jra-van.jp/fun/interview/0401.html 、閲覧日:2026年7月25日。

三頭の、真ん中から

12月12日、シャティン。香港カップが引退レースだと、あらかじめ発表されていた。1番人気。4、5番手を手応えよく追走し、直線では内で粘るロシアンエンペラーを残り150mあたりで捕らえる。そこへ外からヒシイグアスが並びかけた。三頭が横に並ぶとき、いちばん苦しいのは真ん中である。彼女はその真ん中から、短頭差だけ前に出た。 これで海外GI年間3勝。ひとつの年に海外のGIを三つ勝った日本の馬は彼女が初めてで、日本・香港・アメリカと三つの国のGIを勝った日本調教馬も、彼女が初めてだった。16戦8勝、獲得賞金9億1394万8700円。翌1月のJRA賞では296票中251票を集めて最優秀4歳以上牝馬に選ばれ、1月30日には東京競馬場のパドックで引退式が行われた。そして2月、北米のエクリプス賞最優秀芝牝馬に選出される。日本調教馬として初めての受賞であり――それは1987年と1988年に曾祖母ミエスクが連続で受けたのと、同じ部門だった。三十数年を隔てて、同じ賞が同じ牝系のもとへ戻ってきたことになる。

安平の春

北海道安平町のノーザンファームで繁殖牝馬になった。初仔は2023年生まれ、エピファネイア産駒の牡馬ラヴズプレミアム。2024年にレイデオロ産駒のオディオペルデレ、2025年にモーリス産駒のラヴィールルクールと牡馬が続き、2026年の春、4番仔にして初めての牝馬が生まれた。 兄の側でも、旅は続いていた。全兄リアルスティールの仔フォーエバーヤングが、2025年に日本調教馬として初めてブリーダーズカップ・クラシックを勝つ。舞台はデルマー、管理するのはやはり矢作芳人だった。兄がドバイで扉を開けた日に生まれた妹がデルマーの芝を獲り、四年後、その兄の仔が同じ競馬場のダートを獲る。ひとつの一族が十年足らずのあいだに、アメリカの祭典を両側からこじ開けたことになる。 一口三万二千円で一万近い口数が集まった出資者たちは、この牝馬に連れられて東京へ、香港へ、ドバイへ、カリフォルニアへ行った。「みんなへの愛を込めて」という名は、結局のところ約束どおりに使われたのだと思う。安平の放牧地で仔に寄り添っている鹿毛は、いまも近づく者を選ぶだろうか。あの強すぎる気性が、次の代のどこかで、また走るほうへ向く日を待てばいい。

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