名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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リトルアマポーラのイメージビジュアル
リトルアマポーラLittle Amapola
Little Amapola

リトルアマポーラ

通算成績22戦5勝

獲得賞金23,298万円

生年月日 2005.01.24(平成17年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
リトルアマポーラの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
11 GIII鳴尾記念 阪神 芝1800 8人気 幸英明 1:45.9 上り35.0映像
4 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 7人気 福永祐一 2:13.5 上り35.5映像
7 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 7人気 勝浦正樹 1:46.8 上り33.0
11 GIIIマーメイドS 阪神 芝2000 6人気 福永祐一 2:00.7 上り35.9
6 GII金鯱賞 京都 芝2000 9人気 福永祐一 2:00.3 上り34.4
18 GII読売マイラーズカップ 阪神 芝1600 11人気 中舘英二 1:35.0 上り35.7
5 GIIIトヨタ賞中京記念 中京 芝2000 7人気 中舘英二 2:02.3 上り35.4
13 GIII小倉大賞典 中京 芝1800 1人気 中舘英二 1:48.8 上り38.3
1 GIII愛知杯 中京 芝2000 4人気 中舘英二 1:59.7 上り34.6
7 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 4人気 C.スミヨン 2:14.9 上り34.0映像
5 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 2人気 内田博幸 1:45.4 上り35.3
3 GIIIマーメイドS 阪神 芝2000 2人気 福永祐一 2:00.6 上り34.8
6 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 3人気 福永祐一 1:33.9 上り34.6映像
7 GII読売マイラーズカップ 阪神 芝1600 4人気 福永祐一 1:34.3 上り33.6
1 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 4人気 C.ルメール 2:12.1 上り34.4映像
6 GI秋華賞 京都 芝2000 6人気 武幸四郎 1:58.7 上り34.3映像
7 GI優駿牝馬 東京 芝2400 1人気 武幸四郎 2:29.3 上り35.4映像
5 GI桜花賞 阪神 芝1600 2人気 武幸四郎 1:34.6 上り34.3映像
1 GIIIデイリー杯クイーンカップ 東京 芝1600 1人気 武幸四郎 1:35.5 上り34.4
4 GIII京成杯 中山 芝2000 2人気 武幸四郎 2:03.1 上り36.4
1 2歳500万下 阪神 芝1600 9人気 武幸四郎 1:35.7 上り34.3
1 2歳新馬 阪神 芝1600 3人気 M.デムーロ 1:39.2 上り34.6

血統

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リトルアマポーラの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
アグネスタキオンAgnes TachyonサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
アグネスフローラロイヤルスキー
アグネスレディー
リトルハーモニーコマンダーインチーフCommander in ChiefダンシングブレーヴDancing Brave
Slightly Dangerous
ルイジアナピットヴァリィフォージュValley Forge
ミユキカマダ
STORY

旅程 — この馬の物語

2005年生まれの黒鹿毛の牝馬。父アグネスタキオン、母リトルハーモニー。主な勝ち鞍はエリザベス女王杯・デイリー杯クイーンC・愛知杯。

小さなひなげし

2005年1月24日、北海道白老郡白老町の社台コーポレーション白老ファームで、黒鹿毛の牝馬が生まれた。父アグネスタキオン、母リトルハーモニー、母の父コマンダーインチーフ。馬主は社台レースホース。 名は、英語とスペイン語を継ぎ合わせて作られている。「リトル」は母リトルハーモニーと同じ。「アマポーラ」はスペイン語でひなげしを指す。合わせて、小さなひなげしの花。 母は三勝を挙げた牝馬で、祖母ルイジアナピットは牝馬東京タイムズ杯と阪神牝馬特別を勝っている。さらに遡れば曾祖母ミユキカマダ、その母ヤヨイカマダ。血統表の底のほうに、カマダの名が二代重なっている牝系である。この一族からは、のちに2023年の高松宮記念を勝つファストフォースも出た。 その六日後、同じ一月に、もう一頭のひなげしが生まれていた。名をトールポピー。高いひなげしの花、という意味である。二頭は三歳の春から秋にかけて、同じ芝の上で幾度も並ぶことになる。

三代を預かった厩舎

入ったのは栗東・長浜博之の厩舎だった。 長浜博之は1946年生まれ。騎手歴はない。中京大学でラグビーばかりやって就職先が無く、父・長浜彦三郎の厩舎で厩務員になり、その年のうちに調教助手になった。父が肝臓がんに倒れたのを機に本気で後を継ぐことを考え、1988年に自分の厩舎を開業している。 父から受け継いだものの中に、ひとつの牝系があった。1979年のオークス馬アグネスレディーの血である。レディーの娘アグネスフローラは1990年の桜花賞を勝ち、これが長浜にとって初めてのGIになった。フローラの息子たちのうち、アグネスフライトは2000年の日本ダービーを、アグネスタキオンは2001年の皐月賞を勝つ。三代続けてのクラシック制覇であり、兄弟でのクラシック制覇でもあった。 タキオンは四戦四勝のまま左前浅屈腱炎を発症してダービーに立てず、その年のうちに引退して種牡馬になった。それから六年、種牡馬になった彼の娘が、同じ厩舎の馬房に立った。 デビューは2007年12月8日、阪神の芝1600m。鞍上はM.デムーロ。三番人気で、ディープインパクトの半妹ヴェルザンディらを抑えて勝ち上がった。十五日後の500万下では武幸四郎に乗り替わり、十七頭立ての九番人気。それでも直線で外から差し切って、二戦二勝とした。

最も速く上がった馬

2008年、三歳。年明けの京成杯は二番人気で、道中を馬群に揉まれてマイネルチャールズの四着。次のデイリー杯クイーンカップは、前走から十二キロ減った馬体で一番人気に推され、その支持どおりに勝った。重賞初制覇である。 桜花賞。十七頭。トールポピーに次ぐ二番人気。前半1000m通過58秒5は前年より一秒以上速く、人気上位の各馬は先行集団から三、四馬身離れたところで脚を溜めた。直線、大外を通ってレジネッタ、ソーマジック、リトルアマポーラ、トールポピーが一斉に追い込み態勢に入る。リトルアマポーラの上がり三ハロン34秒3は、出走馬中の最速だった。だが残り100mでコンマ5秒の中に九頭がひしめく叩き合いになり、五着まで。勝ち馬から0秒2、四着とはハナ差だった。 勝ったのは十二番人気のレジネッタ。黄に黒の縦縞、袖に青の一本輪——リトルアマポーラとまったく同じ勝負服だった。同じ馬主の二頭が同じ大外から追い込んで、片方だけが突き抜けた。三連単は700万2920円。桜の日は、そういう日になった。

大外十八番

優駿牝馬。前走の末脚が買われて単勝3.9倍の一番人気に押し出されたが、引いた枠は十八頭立ての大外十八番だった。前日からの雨で東京の芝は稍重。 直線、坂を上って先に抜け出したのは桜花賞二着のエフティマイア。そこへ内から弾けたのがトールポピーで、ゴール前でアタマだけ交わした。三着はレジネッタ。リトルアマポーラは七着だった。一着から0秒5、上位七頭がその中に収まる決着である。高いひなげしが樫の女王になり、小さなひなげしは半馬身ずつの差を積み残した。 レース後はリフレッシュ放牧に出されたが、放牧先で体調を崩し、調整が大幅に遅れた。秋はトライアルを使わず、秋華賞へ直行するしかなかった。 京都の芝2000m。人気上位七頭がことごとく敗れる波乱の中で、六着。このとき記録した上がり34秒3は、またしても十八頭の最速だった。三冠のうち二つで最も速い脚を使い、二度とも先頭には届かなかった。差す馬の宿命というには、あまりに正確に同じ負け方だった。

前に置く

2008年11月16日、京都、晴、良馬場。第33回エリザベス女王杯。鞍上はクリストフ・ルメール、この馬に乗るのは初めてだった。 一番人気は単勝1.8倍のカワカミプリンセス。二年前のこのレースで一位入線しながら十二着に降着し、以後は骨折もあって勝ち星から遠ざかっていた五歳牝馬である。三番人気ポルトフィーノは発走直後に鞍上の武豊を落として競走を中止し、レースは波乱の幕開けになった。 ルメールは、この馬をいつもより前に置いた。道中四〜五番手。「いいポジションにつけられた」[^1]。三年前の有馬記念で、それまで追い込み一辺倒だったハーツクライを先行させて一番人気のディープインパクトを封じた男が、後方から大外を回るのが形になっていた牝馬に、同じことをした。 直線半ばで先頭。外から懸命に伸びる大本命を一馬身半抑えてゴールを果たす。2分12秒1、上がり34秒4。三歳の秋に、古馬の一線級を負かしてのGI初制覇だった。 着順表の五着に、レインダンスに騎乗した武幸四郎の名がある。桜花賞、優駿牝馬、秋華賞をこの馬と一緒に走った男は、同じゲートの別の馬から、0秒7後ろでその決着を見ていた。十二着はレジネッタ。春に自分の前でゴールした同じ勝負服が、この日は後ろにいた。

出典:日本中央競馬会「第33回エリザベス女王杯」レース成績データ、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/eliza/result/eliza2008.html、閲覧日:2026年8月1日。

三百票のうちの二百一

この年の三歳牝馬三冠は、三頭に分かれた。桜花賞はレジネッタ、優駿牝馬はトールポピー、秋華賞はブラックエンブレム。そしてJRA賞の最優秀三歳牝馬に選ばれたのは、そのどれも勝っていないリトルアマポーラだった。三百票のうち二百一票。冠を持つ三頭より、古馬を負かした一頭が重く見られたということである。 長浜博之がエリザベス女王杯を勝ったのは、このときが初めてだった。ルメールにとっても同じだった。 翌2009年6月22日、社台スタリオンステーションでアグネスタキオンが急性心不全のため死んだ。十一歳。前年、彼は中央のリーディングサイアーに立っている。娘の戴冠は、父が種牡馬の頂点にいた年の秋の出来事だったことになる。その前日、リトルアマポーラは阪神のマーメイドステークスを三着で走り終えていた。

一年ぶりの一勝、二人ぶんの復活

四歳の一年は、勝てなかった。福永祐一を新たに迎えた読売マイラーズカップは七着。ヴィクトリアマイルは好位から伸び切れず六着で、勝ったのはウオッカだった。マーメイドステークスは逃げるコスモプラチナを捕まえられずに三着。秋は内田博幸で府中牝馬ステークス五着、連覇を狙ったエリザベス女王杯はC.スミヨンに手綱を託し、好位で脚を溜めた。だがクィーンスプマンテテイエムプリキュアの二頭が後続を大きく引き離したまま前で決着し、追い出したときにはもう届く距離になかった。七着。 12月19日、中京の愛知杯。鞍上は中舘英二。好位から運び、直線で逃げ粘るブラボーデイジーをゴール前で交わした。一年ぶりの勝利であり、三つ目の重賞だった。 この一戦には続きがある。四か月後の福島の芝1800m、同じ黄と黒の縦縞をまとったレジネッタが、同じ中舘英二を鞍上に、同じブラボーデイジーを差し切って二年ぶりの勝利を挙げた。桜花賞で分かれた二頭の復活は、同じ相手と同じ鞍上によって、四か月ずれて作られたことになる。

冠のない花 ― 白老に還る

五歳の一年は、重賞の壁が高くなった。一番人気に推された小倉大賞典の十三着に始まり、春は掲示板が遠い。それでも秋の府中牝馬ステークスで七着に沈みながら、上がり33秒0は十七頭の最速だった。届く脚は、まだ残っていた。11月14日、三度目のエリザベス女王杯。七番人気。英愛のオークス馬スノーフェアリーが四馬身千切ったその後ろで、三冠牝馬アパパネとハナ差の三着争いを演じ、譲って四着。十一着にレジネッタがいた。八度目の、そして最後の同走である。三週間後の鳴尾記念を最後に、12月10日付で競走馬登録が抹消された。二十二戦五勝。すべてを長浜博之の厩舎で走り切った。 生まれた白老ファームに戻って母になり、産駒は十一頭を数える。初仔エバーハーモニーは栗東から園田へ渡り、また中央へ戻って、最後は長浜博之の厩舎に籍を置いた。アグネスフローラから四代目が、同じ厩舎の馬房に立ったことになる。長浜は2017年2月28日、定年で調教師を退いた。同じ日付で、クラシック三戦をともに走った武幸四郎も鞍を降りている。その武幸四郎は2013年、メイショウマンボで樫と秋の冠と女王杯を勝った。この馬で届かなかったものを、別の牝馬でまとめて取り返した形である。リトルアマポーラは2021年に小泉牧場へ移り、2022年6月3日に死んだ。十七歳。優駿メモリアルパークに墓標がある。 桜はレジネッタに、樫はトールポピーに、秋の一冠はブラックエンブレムに。世代の冠は三頭に分かれ、彼女はどれも取れなかった。それでも年の暮れ、三百の投票のうち二百一が、その年いちばんの三歳牝馬として冠のない馬の名を書いた。冠は一日で決まり、評価は一年で決まる。京都の秋にただ一度、古馬の一線級をねじ伏せた小さなひなげしは、花冠を持たないまま、世代の花になった。

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