名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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リオンディーズのイメージビジュアル
リオンディーズLeontes
Leontes

リオンディーズ

通算成績5戦2勝

獲得賞金13,040万円

生年月日 2013.01.29(平成25年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
リオンディーズの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
5 GI東京優駿 東京 芝2400 4人気 M.デムーロ 2:24.5 上り33.2映像
5(降) GI皐月賞 中山 芝2000 2人気 M.デムーロ 1:58.4 上り36.1映像
2 GII報知杯弥生賞 中山 芝2000 1人気 M.デムーロ 1:59.9 上り34.4映像
1 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 2人気 M.デムーロ 1:34.4 上り33.3映像
1 2歳新馬 京都 芝2000 1人気 岩田康誠 2:02.2 上り33.4

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
リオンディーズの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
キングカメハメハKing KamehamehaKingmamboMr. Prospector
Miesque
マンファスManfathラストタイクーンLast Tycoon
Pilot Bird
シーザリオCesarioスペシャルウィークSpecial WeekサンデーサイレンスSunday Silence
キャンペンガール
キロフプリミエールKirov PremiereSadler's Wells
Querida

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2013年生まれの黒鹿毛の牡馬。父キングカメハメハ、母シーザリオ。主な勝ち鞍は朝日フューチュリティ。

シチリア王の名

2013年1月29日、北海道安平町のノーザンファームに黒鹿毛の牡馬が生まれた。父キングカメハメハ、母シーザリオ。母の6番仔である。 母は、2005年の優駿牝馬とアメリカンオークスを勝ち、日本で調教された馬として初めてアメリカのGIを制した牝馬だった。手綱を任せていたのは福永祐一、管理したのは栗東の角居勝彦。そして息子たちもまた、角居の厩舎に入った。3歳上の半兄エピファネイアは、2013年の菊花賞と2014年のジャパンカップを勝った。 名は母から来ている。シーザリオとは、シェイクスピアの喜劇『十二夜』でヒロインのヴァイオラが男装するときに名乗る名前である。そして父はキングカメハメハ――王。父と母、それぞれの名から連想して与えられたのが、同じシェイクスピアの『冬物語』に出てくるシチリア王の名、レオンティーズだった。 『冬物語』の王は、根も葉もない疑いから妃を獄に落とし、幼い王子を失い、生まれたばかりの娘を捨てさせる。誰に奪われたのでもない、自分の過ちで、取り返しのつかないものを失う王である。失ったものが戻ってくるまでに、劇中では16年かかる。

十一月の京都

2015年11月22日、京都の芝2000メートル、2歳新馬。鞍上は岩田康誠。単勝2.2倍の1番人気に推された。 道中は終始かかり気味だった。それでも4コーナーから抜群の伸びを見せ、2分2秒2、上がり3ハロン33秒4で押し切ってしまう。折り合いを欠いたまま勝ち切れるだけの器量が、最初の一戦で見えていた。 岩田はこの馬の非凡さを、次に手綱を取ることになるミルコ・デムーロに伝えている。

最後方から ― 朝日杯フューチュリティステークス

12月20日、阪神の芝1600メートル。新馬戦の2000メートルから、いきなり400メートル短い距離へ矛先を変えた。1番人気は前走のGIIを圧勝してきたエアスピネル。鞍上は武豊で、彼の平地GI完全制覇がかかる一戦としても注目が集まっていた。リオンディーズは2番人気だった。 4コーナーで、リオンディーズは最後方にいた。直線、大外に持ち出されると脚の色が変わる。先に抜け出していたエアスピネルを、ゴール前で4分の3馬身、飲み込んだ。1分34秒4、上がり33秒3。 奇妙な符合があった。10年前の優駿牝馬でも、先に抜け出したエアメサイアをゴール前で差し切ったのは、リオンディーズの母シーザリオだった。エアスピネルはそのエアメサイアの息子で、しかもリオンディーズと同じキングカメハメハ産駒である。母と子が、10年をへだてて、同じ一族に、同じ勝ち方をした。 キャリア2戦目でのこのレース制覇は、グレード制が導入された1984年以降で初めてだった。デビューから29日目のGI勝ちは、1998年の阪神3歳牝馬ステークスを勝ったスティンガーに並ぶ最短タイ記録。角居にとっても、朝日杯は初勝利だった。 勝った直後、イタリア人の鞍上は敗れた名手の名を呼んだ。「ユタカさん、ゴメンナサイ……でも、これは勝負だから」[^1]。武豊がこのレースを手にするのは、6年後、22度目の挑戦でドウデュースを送り出す2021年まで待たねばならない。 その年のJRA賞最優秀2歳牡馬に選ばれた。走ったレースは、まだ2つだった。

出典:スポーツナビ「武豊の悲願砕く!リオンディーズ驚愕の脚 ミルコ『ユタカさん、ゴメンナサイ』」2015年12月20日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201512200004-spnavi、閲覧日:2026年7月26日。

三強 ― 弥生賞

2016年3月6日、中山の芝2000メートル。朝日杯2着のエアスピネル、2戦2勝で重賞初挑戦のマカヒキとともに三強と呼ばれ、単勝1.9倍の1番人気に支持された。 4コーナーで先頭に立ち、押し切りを狙う。だが上がり3ハロン33秒6の脚を繰り出したマカヒキに、ゴール前で並ばれ、抜かれた。時計は同じ1分59秒9。自身の上がりは34秒4だった。久々の実戦で掛かってしまった、とデムーロは振り返っている。 負けはしたが、この時点で2000メートルを走ったのは2度だけである。宿題は能力ではなく、折り合いのほうにあった。 その2週間後、3月21日に、母シーザリオロードカナロアとの間に牡馬を産んだ。のちのサートゥルナーリアである。

四月十七日 ― 自らの手で

皐月賞。8枠16番から好スタートを切って先行し、逃げるリスペクトアースのすぐ後ろにつけた。向正面は強い向かい風で、それでも1000メートル通過は58秒4。速い。抑えきれず、リオンディーズは先頭に立ってしまう。 直線、粘った。粘りきれなかった。外から差し切ったのは8番人気のディーマジェスティで、勝ち時計1分57秒9は当時の皐月賞レコードだった。マカヒキが2着、1番人気のサトノダイヤモンドが3着。リオンディーズは4位で入線した。 だが着順は動く。最後の直線で馬体を併せに行った際にエアスピネルの走行を妨げたとして、5着に降着。12月に4分の3馬身だけ前に出たあの相手が、今度は自分の前に置かれた。デムーロには開催日4日間の騎乗停止が科された。 裁決が奪ったのではない。自分の走りで手放した。名の由来となった王がそうであったように、失った理由は、他の誰のせいでもなかった。

府中の直線 ― メンバー最速

5月29日、東京優駿。ディーマジェスティサトノダイヤモンドマカヒキとともに四強を形成し、4番人気に支持された。 今度は控えた。スタートから位置を下げ、それでも道中はやや折り合いを欠いている。直線、後方から追い出されると、メンバー最速の上がり3ハロン33秒2で伸びた。届かない。2分24秒5、勝ったマカヒキとは0秒5差の5着。前にはエアスピネルもいた。 春は無冠で終わった。だが3歳の5月で、キャリアはまだ5戦である。掛かる癖さえ収まれば、と誰もが思っていた。秋がある、はずだった。

秋を待たずに

神戸新聞杯へ向けて調整が進められていた9月、左前脚に浅屈腱炎を発症した。その後の検査で、左前の浅屈腱繋部に不全断裂が確認される。復帰は極めて困難と判断され、10月13日付で競走馬登録が抹消された。 5戦2勝。獲得賞金1億3040万6000円。デビューから最後の一戦までが、6か月と7日。3歳の秋を、この馬は一度も走っていない。 角居はのちの連載で、この馬を手の内に入れる前に引退させてしまったことへの後悔を書いている。掛かる馬だった。その癖を矯めた先にあったはずの姿は、ついに走られないままになった。 行き先は北海道沙流郡日高町、ブリーダーズ・スタリオン・ステーション。初年度の種付料は100万円、集まった繁殖牝馬は191頭だった。

日高の父 ― 九年後の中山

2020年7月5日、福島の2歳新馬戦をマルスが勝ち、産駒の初勝利となった。 2024年4月28日、天皇賞(春)。菱田裕二とともに未勝利戦から積み上げてきたテーオーロイヤルが京都の3200メートルを制し、リオンディーズ産駒に初めてのGIをもたらした。 そして2022年、ミュージアムマイルが生まれる。母ミュージアムヒル、母の父ハーツクライ、栗東の高柳大輔厩舎。2024年12月、この馬は父が勝ったのと同じ朝日杯フューチュリティステークスで2着に入った。鞍上はクリスチャン・デムーロ――父の背にいたミルコの弟である。 2025年4月20日、中山の芝2000メートル。3番人気のミュージアムマイルは、J.モレイラを背に中団で脚をため、直線で外へ持ち出されると、1番人気のクロワデュノールを1馬身半差で差し切った。皐月賞。父が4位で入線し、5着へ降ろされた、あの舞台である。9年が経っていた。同じ年の12月28日、有馬記念。ふたたびクリスチャン・デムーロを背に、息子は暮れのグランプリを勝ち切った。 中山の2000メートルには、この一族が何度も戻ってきている。半兄エピファネイアは2013年の皐月賞で2着、半弟サートゥルナーリアは2019年に勝った。シンボリクリスエスキングカメハメハロードカナロア――異なる3頭の種牡馬との間に、シーザリオは3頭のGI馬を産んでいる。その真ん中の1頭が、自分では届かなかったものを、息子の代で受け取った。 2026年、13歳。日高町の放牧地に、その黒鹿毛は今日もいる。種付料は受胎確認後500万円。走った時間はわずか半年、5つのレースだけだった。それでも、あの4月の中山で手放したものは、9年をかけて戻ってきた。16年は、かからなかった。

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