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コイウタ
通算成績21戦5勝
獲得賞金2億3,629万円
生年月日 2003.02.24(平成15年)毛色 栃栗毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 10 | GIII東京新聞杯 | 東京 芝1600 | 9人気 | 松岡正海 | 1:33.3 | 上り34.6 | — | |
| 14 | GIマイルチャンピオンS | 京都 芝1600 | 13人気 | 吉田隼人 | 1:33.8 | 上り35.1 | 映像 | |
| 8 | GIII富士S | 東京 芝1600 | 6人気 | 吉田隼人 | 1:33.6 | 上り34.4 | — | |
| 11 | GIスプリンターズS | 中山 芝1200 | 8人気 | 吉田隼人 | 1:10.1 | 上り36.5 | 映像 | |
| 9 | GIIキャッシュコールマイ | アメリカ 芝1600 | 内田博幸 | — | — | |||
| 1 | GIヴィクトリアマイル | 東京 芝1600 | 12人気 | 松岡正海 | 1:32.5 | 上り33.4 | 映像 | |
| 2 | GIIIダービー卿チャレンジトロフィー | 中山 芝1600 | 9人気 | 松岡正海 | 1:33.4 | 上り34.7 | — | |
| 13 | OP東風S | 中山 芝1600 | 5人気 | 松岡正海 | 1:34.2 | 上り36.8 | — | |
| 9 | GIII京都牝馬S | 京都 芝1600 | 2人気 | C.ルメール | 1:33.9 | 上り35.1 | — | |
| 13 | クイーン賞 | 船橋 ダ1800 | 5人気 | 横山典弘 | 1:55.5 | 上り41.0 | — | |
| 2 | OPオーロカップ | 東京 芝1400 | 4人気 | 内田博幸 | 1:22.1 | 上り34.5 | — | |
| 17 | GI秋華賞 | 京都 芝2000 | 12人気 | 吉田隼人 | 2:00.7 | 上り38.0 | 映像 | |
| 中 | GI優駿牝馬 | 東京 芝2400 | 4人気 | 横山典弘 | — | 映像 | ||
| 3 | GI桜花賞 | 阪神 芝1600 | 5人気 | 横山典弘 | 1:34.7 | 上り35.5 | 映像 | |
| 1 | GIIIデイリー杯クイーンカップ | 東京 芝1600 | 1人気 | C.ルメール | 1:35.6 | 上り34.4 | — | |
| 1 | OP菜の花賞 | 中山 芝1600 | 5人気 | 藤田伸二 | 1:35.3 | 上り35.5 | — | |
| 6 | GI阪神ジュベナイルフィリーズ | 阪神 芝1600 | 3人気 | 横山典弘 | 1:37.9 | 上り36.6 | 映像 | |
| 3 | GII京王杯2歳S | 東京 芝1400 | 5人気 | 横山典弘 | 1:23.3 | 上り34.1 | — | |
| 1 | OPカンナS | 中山 芝1200 | 3人気 | 横山典弘 | 1:08.9 | 上り35.0 | — | |
| 1 | 2歳未勝利 | 福島 芝1200 | 5人気 | 後藤浩輝 | 1:10.6 | 上り36.0 | — | |
| 7 | 2歳新馬 | 福島 芝1200 | 3人気 | 後藤浩輝 | 1:12.0 | 上り37.3 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父フジキセキFuji Kiseki | サンデーサイレンスSunday Silence | Halo |
| Wishing Well | ||
| ミルレーサーMillracer | Le Fabuleux | |
| Marston's Mill | ||
| 母ヴァイオレットラブ | ドクターデヴィアスDr Devious | Ahonoora |
| Rose of Jericho | ||
| ヴアインゴールドVain Gold | Mr. Prospector | |
| Chancy Dance |
旅程 — この馬の物語
2003年生まれの栗毛の牝馬。父フジキセキ、母ヴァイオレットラブ。主な勝ち鞍はヴィクトリアマイル・デイリー杯クイーンC。
福島の千二百
2005年6月26日、福島競馬場の第四レース、芝千二百メートルの新馬戦。栃栗毛の牝馬が三番人気に推され、後藤浩輝を背に七着に敗れている。二週間後、同じ福島の同じ千二百で、この馬は初めて勝った。 九月、中山のカンナステークスを横山典弘で制して連勝。十一月の京王杯二歳ステークスでは、勝ったデンシャミチとハナ差の三着まで詰めた。十二月の阪神ジュベナイルフィリーズは三番人気で六着。二歳の暮れの時点で五戦二勝、重賞で三着と六着。悪くない場所に立っていた。 2003年2月24日、北海道千歳市の社台ファーム生まれ。父フジキセキ、母ヴァイオレットラブ、母の父ドクターデヴィアス。管理するのは美浦の奥平雅士で、その年の一月に開業したばかりの厩舎だった。馬主は有限会社前川企画と、生産者側の吉田照哉の共同名義である。前川企画の代表者は、歌手の前川清だった。 名前は二つの場所から来ている。母ヴァイオレットラブの名と、前川がうたっていた内山田洋とクール・ファイブのヒット曲『恋唄』。1972年の夏に出て、オリコンの十四位まで上がった一枚である。母系の名と、名付け親の持ち歌。コイウタという四文字は、その二つを重ねて出来ている。
桜と、三コーナー
三歳になって、一月の菜の花賞を藤田伸二で勝ち、二月のデイリー杯クイーンカップへ向かった。東京の芝千六百、一番人気。鞍上はクリストフ・ルメール。二着に置いたのはアサヒライジングだった。重賞初制覇であり、奥平厩舎にとっての重賞初勝利でもある。 桜花賞は五番人気。勝ったキストゥヘヴンから〇秒一差の三着に踏みとどまった。 五月二十一日、優駿牝馬。四番人気の支持を受けて十八頭のゲートに入った。だがこの日は、直線を待たずに終わる。三コーナーで右肩に跛行が出て、横山典弘を背にしたまま競走中止となった。勝ったのはカワカミプリンセスで、この馬は秋の秋華賞も勝ち、二冠牝馬になる。 桜花賞から六週間。三歳牝馬の五月は、ふつう何かが始まる季節である。この馬の場合は、そこで止まった。
十六キロ
夏は休養に充てられ、復帰戦がいきなり秋華賞になった。前哨戦を使わないぶっつけである。馬体重は四百七十キロ。オークスのときより十六キロ重かった。十七着、勝ち馬から二秒五。 十一月十二日、東京のオーロカップで二着に巻き返す。その九日前、名前の元になった歌をうたっていたグループのリーダー、内山田洋が肺がんで亡くなっていた。十二月には船橋のダート千八百、クイーン賞にも使われて十三着。年が明けても京都牝馬ステークス九着、中山の東風ステークス十三着と、走るたびに掲示板から遠ざかった。 名付け親のほうは、もともとこの名前を気に入っていない。『恋唄』は歌詞が暗い、というのが前川の言い分である。自分で付けておいて、いい名前だとは思えない。そう名付け親が隠さずに話してきた馬が、いま一年以上勝てずにいる。 2006年の大晦日、内山田を欠いたクール・ファイブのオリジナルメンバーが、前川とともに一夜だけ紅白の舞台へ揃った。本人いわく、一夜限りの再結成である。
引っ越した厩舎と、二十二歳
東風ステークスから、手綱は松岡正海に渡った。1984年生まれ、デビュー五年目の二十二歳である。初騎乗は十三着に終わったが、奥平は次のダービー卿チャレンジトロフィーでも松岡を乗せた。四月一日、中山の芝千六百。九番人気で、勝ったピカレスクコートから〇秒三差の二着。重賞の掲示板に戻ってきたのは、前年の桜花賞以来だった。 その二週間後、松岡は皐月賞に乗っている。十五番人気のサンツェッペリンで直線いったん先頭に立ち、ヴィクトリーに差し返されてハナ差の二着。GIは、あと一完歩のところで手からこぼれた。 奥平雅士のほうにも、この春は落ち着かない出来事が続いていた。義父の奥平真治が、二月二十八日付で定年を迎えて調教師をやめている。1986年にメジロラモーヌで中央競馬史上初の牝馬三冠を達成した人であり、雅士自身が七年間、調教助手として仕えた人でもある。開業の四日前に斎藤の姓を捨てて奥平を名乗り、義父の家名を継いでもいる。そして四月、雅士は厩舎を引っ越す。移った先は、真治が使っていたあの厩舎だった。 奥平厩舎の「初めて」は、ほとんどこの馬が運んできている。初めてのGI出走も、初めての重賞勝ちも、コイウタだった。残っているものは、あと一つしかなかった。
境目
2007年5月13日、東京競馬場。天候は晴、芝は良。第二回ヴィクトリアマイル。コイウタは十二番人気だった。 ゲートが開くと、アサヒライジングが前へ出た。柴田善臣が絶妙な流れをつくる。二番手にキストゥヘヴン。松岡は流れが思ったより遅いと感じ、予定していたより前に馬を置いた。三コーナー、コイウタは好位の六番手あたりにいる。すぐ外にデアリングハート。一番人気のカワカミプリンセスも、二番人気のスイープトウショウも、そこよりずっと後ろで脚を溜めていた。 四コーナーを回る。この日の東京は、内側の芝が傷んでいた。直線を向いた各馬は、傷んだところを避けていっせいに外へ持ち出していく。馬場の広いほうへ、流れが一本できる。 松岡は逆へ行った。 「外は開かない。GIでは迷っているヒマなんかない」[^1] 荒れている芝と、まだ荒れていない芝。その境目を松岡は選び、そこへ馬を入れた。前ではアサヒライジングがまだ止まらず、二番手のキストゥヘヴンも懸命に粘っている。外へ回った差し馬たちは伸びあぐねていた。 境目の上で、コイウタの脚色だけが変わらない。キストゥヘヴンを抜き、アサヒライジングに並びかけ、前へ出た。外から追ってきたデアリングハートは、届かない。 半馬身差。二着アサヒライジングと三着デアリングハートの間は、さらにハナ差だった。一年三か月ぶりの勝利が、GIになった。
出典:日本中央競馬会「第2回 ヴィクトリアマイル(JpnI)レース結果」2007年5月13日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/victoria/result/victoria2007.html 、閲覧日:2026年8月2日。
机を叩いた男
その時刻、前川清は東京競馬場にいなかった。 自分が馬主席で見ていると持ち馬は勝たない——そういうジンクスを本気にしていて、この日はゲンを担いで北海道の知人の牧場を訪ねている。共同馬主の吉田照哉には仕事があると嘘までついて出てきた。生中継は牧場のテレビで見た。優勝の瞬間、興奮のあまり手で机を叩き、突き指した。 東京競馬場の表彰台には、馬主代理として長女が立っている。前川はそれから慌てて帰京し、その夜の祝勝会に顔を出して、嬉しさで立ちくらみがした、こんな経験は初めてだと語った。名付けた馬の一番の日に、名付けた本人は東京にいなかった。 三連単は二百二十八万三千九百六十円。松岡正海はこれがJRAのGI初勝利、開業三年目の奥平雅士も初めてのGIだった。前川にとっても初めてで、グレード制が始まってから芸能人の持ち馬がGI級を勝ったのは、これが最初になる。制度の前まで遡れば、1952年に女優・高峰三枝子のスウヰイスーが桜花賞と優駿牝馬を勝っていた。五十五年ぶりの、二人目である。 父にとっても節目だった。フジキセキの産駒はすでにカネヒキリがダートの頂点に立っていたが、日本の芝のJpnIを勝った産駒は、この牝馬が最初だった。
斤量、そして二月八日
七月六日、アメリカ。ハリウッドパークのキャッシュコールマイルに、内田博幸を乗せて出走した。日本からはキストゥヘヴンとディアデラノビアも遠征している。 この競走は別定戦で、過去にどの格を勝ったかによって斤量が決まる。基準は百二十三ポンド。GIを勝っていない馬は二ポンド、GIIを勝っていない馬は四ポンド、GIIIを勝っていない馬は六ポンド軽くなる。ヴィクトリアマイルは前年に創設されたばかりで国際セリ名簿基準委員会の格付けをまだ持たず、国内でのみJpnIを名乗っていた。国際的にはリステッド扱いである。したがってコイウタの重賞勝ちはクイーンカップだけと数えられ、四ポンド減の百十九ポンドで走るはずだった。 ところが当日の朝、アメリカの複数の調教師から主催者へ苦情が入る。前年のこのレースにはヴィクトリアマイル勝ち馬のダンスインザムードが出走し、そのときはGI扱いだった、今年も同じにすべきだ、と。主催者はこれを容れ、当日の朝になってコイウタの斤量を百二十三ポンドへ書き換えた。ヴィクトリアマイルで四着に下した桜花賞馬より軽く走れるはずだった斤量は、こうして基準どおりに戻された。結果は九頭立ての九着。日本馬三頭のうちキストゥヘヴンが四着、ディアデラノビアが五着だった。JRAは後日、ハリウッドパーク競馬場へ書面で抗議している。 帰国後は放牧に出て、秋に三戦した。千二百に短縮したスプリンターズステークスは十一着、富士ステークス八着、マイルチャンピオンシップ十四着。どれも見せ場をつくれないまま年を越し、明けて2008年2月2日の東京新聞杯で、ヴィクトリアマイル以来ふたたび松岡を背に十着。その五日後、JRAが競走馬登録の抹消を発表する。二月八日付、二十一戦五勝だった。 生まれた社台ファームへ戻って繁殖牝馬になった。産駒は九頭。重賞を勝った仔は出なかったが、三番仔ミッキーラブソングが安土城ステークスとタンザナイトステークスを、五番仔ユラノトがマリーンステークスを勝ち、根岸ステークスで二着に入っている。牝系のほうも止まらなかった。母ヴァイオレットラブの一つ上の半姉、つまりコイウタの伯母にあたるビハインドザマスクは、セントウルステークス・スワンステークス・京都牝馬ステークスと重賞を三つ勝った牝馬である。その孫の代でマスクトディーヴァがローズステークスを勝ち、その半弟マスカレードボールが2025年の天皇賞(秋)を勝った。鞍上は、十九年前に東京でコイウタのクイーンカップを勝ったクリストフ・ルメールだった。
百十三票
2008年1月、JRA賞の記者投票が集計された。最優秀4歳以上牝馬の欄で、有効票二百八十九のうちコイウタに入ったのは百十三票。同じ欄の「該当馬なし」には百一票が投じられていた。三人に一人以上が、その年の古馬牝馬には賞を出さなくてよいと書いたことになる。無理もない。コイウタはその年、八戦して一勝しかしていない。 投票用紙が問うていたのは一年ぶんの総和で、この馬が持っていたのは一日だった。五月十三日の東京、傷んだ芝とまだ傷んでいない芝の継ぎ目に、一頭ぶんだけ残っていた道。一年を通して強かったかと問われれば、そうではない。あの午後にいちばん速かったかと問われれば、そうだとしか答えようがない。百十三人は後者に票を入れた。 その七か月前、賞の話が出るよりずっと前の七月一日に、一枚のシングルが出ている。『恋唄-2007-』。大晦日に一夜だけ集まったはずのクール・ファイブは、あの一夜が好評だったことでそのまま活動を続けることになり、再開の一作目に三十五年前のあの曲を選んだ。理由は馬である。馬だけでなく歌のほうも知ってほしい、と前川は言った。歌詞が暗い、いい名前だとは思えないと語っていた曲を、五十八歳の歌い手はもう一度スタジオで吹き込み直している。名前をもらった栃栗毛の牝馬が、東京の千六百メートルで、それを返しにきたのだった。
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