名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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キタサンブラックのイメージビジュアル
キタサンブラックKitasan Black
Kitasan Black

キタサンブラック

通算成績20戦12勝

獲得賞金187,684万円

生年月日 2012.03.10(平成24年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
キタサンブラックの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
1 GI有馬記念(ラストラン) 中山 芝2500 1人気 武豊 2:33.6 上り33.6映像
3 GIジャパンカップ 東京 芝2400 1人気 武豊 2:23.8 映像
1 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 1人気 武豊 2:08.3 上り33.6映像
9 GI宝塚記念 阪神 芝2200 1人気 武豊 2:12.7 映像
1 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 1人気 武豊 3:12.5 上り33.7映像
1 GI大阪杯 阪神 芝2000 1人気 武豊 1:58.9 上り33.4映像
2 GI有馬記念 中山 芝2500 1人気 武豊 2:32.7 映像
1 GIジャパンカップ 東京 芝2400 1人気 武豊 2:25.8 上り33.8映像
1 GII京都大賞典 京都 芝2400 1人気 武豊 2:25.5 映像
3 GI宝塚記念 阪神 芝2200 2人気 武豊 2:12.8 映像
1 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 2人気 武豊 3:15.3 上り33.9映像
2 GII産経大阪杯 阪神 芝2000 5人気 武豊 1:59.3
3 GI有馬記念 中山 芝2500 4人気 横山典弘 2:33.0 映像
1 GI菊花賞 京都 芝3000 5人気 北村宏司 3:03.9 上り33.3映像
1 GIIセントライト記念 中山 芝2200 6人気 北村宏司 2:13.8 上り34.9映像
14 GI東京優駿(日本ダービー) 東京 芝2400 6人気 北村宏司 映像
3 GI皐月賞 中山 芝2000 4人気 浜中俊 1:58.8 映像
1 GIIスプリングステークス 中山 芝1800 5人気 北村宏司 1:49.1 映像
1 3歳500万下(黒竹賞) 東京 芝2000 9人気 北村宏司 2:01.4
1 新馬 東京 芝1800 3人気 後藤浩輝 1:50.4

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
キタサンブラックの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ブラックタイドBlack TideサンデーサイレンスSunday SilenceヘイローHalo
ウィッシングウェルWishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairアルザオAlzao
バークレアBurghclere
シュガーハートSugar HeartサクラバクシンオーSakura Bakushin OサクラユタカオーSakura Yutaka O
サクラハゴロモSakura Hagoromo
オトメゴコロジャッジアンジェルーチJudge Angelucci
テイズリーTeasley

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間

いまは 社台スタリオンステーション(安平町)── 地図で見る

STORY

旅程 — この馬の物語

大歌手の愛馬としてターフを沸かせ、有馬記念勝利で有終の美。父として世界一の名馬も送り出した。

三百五十万円の鹿毛 ― 名前の由来

良血とは、お世辞にも言えなかった。 父ブラックタイドはディープインパクトの全兄でありながら、種牡馬としては地味な存在。母シュガーハートの父はスプリンターのサクラバクシンオーで、長丁場を走る配合とは誰も見なかった。北海道日高町のヤナガワ牧場で2012年3月10日に生まれたこの鹿毛は、活躍馬に乏しい牝系ゆえに買い手がつかず、生産者の梁川正晋でさえ「活躍を保証する自信がなく、たやすく薦められなかった」と振り返る。 その馬を350万円で引き受けたのが、演歌界の大御所・北島三郎だった。「顔が二枚目。僕とよく似ている」。冠名の「キタサン」に、父ブラックタイドの「ブラック」を重ねて名が決まる。キタサンブラック。地味な血と、ひとりの歌い手の惚れ込み。物語は、ほとんど何の期待もされないところから始まった。

後藤浩輝の置き土産、ドゥラメンテの世代

2015年1月31日、東京の新馬戦。鞍上は後藤浩輝。3番人気に応えて勝ち上がったが、後藤がこの馬の手綱を取ったのは、これが最初で最後だった。勝利から一か月足らずの2月27日、トップジョッキーは自ら命を絶つ。デビュー勝ちは、図らずも一人の名手が遺した最後の贈り物のひとつになった。 北村宏司に乗り替わると、500万下、スプリングステークスと連勝。だが春のクラシックには、同世代の怪物ドゥラメンテが立ちはだかった。皐月賞は3着、続く日本ダービーは14着の大敗。この春のキタサンブラックは、まだ一頭の有力馬にすぎなかった。

菊の大輪 ― 初めてのGI

本格化は秋に訪れた。セントライト記念を制して臨んだ菊花賞、京都の3000m。5番人気と評価は高くなかったが、北村宏司を背に上がり3ハロン33秒3の鋭い脚で抜け出し、クビ差をしのいでGI初制覇。長丁場は走らないはずの血が、淀の長距離で花開いた皮肉だった。 勢いのまま暮れの有馬記念へ。横山典弘に手綱を託して3着に好走し、世代の枠を越えて古馬と渡り合えることを示す。地味な血の馬は、もう誰も無視できない存在になっていた。

武豊と歩み出す ― 古馬の頂へ

2016年、産経大阪杯から鞍上が武豊に替わる。北村宏司の落馬負傷による交代だったが、この一戦の2着を境に、レジェンドがキタサンブラックの新たな主戦となった。 天皇賞(春)は、稀に見る大接戦をハナ差で制してGI2勝目。宝塚記念は3着に退いたが、秋は京都大賞典を完勝し、ジャパンカップでは上がり最速33秒8、2分25秒8で府中を制する。暮れの有馬記念こそサトノダイヤモンドにクビ差で屈したが、現役最強が誰であるかは、もう誰の目にも明らかだった。 そしてこの頃から、東京競馬場に名物が生まれる。愛馬が勝つたび、馬主の北島三郎がスタンド前で『まつり』を歌い上げ、何万もの観衆が手拍子で和した。競馬場が、そのまま歌謡ショーに変わった。

絶頂の春 ― 連覇とレコード

2017年、GIに昇格したばかりの大阪杯。その初代王者に輝いたのは、やはりこの馬だった。1番人気に応え、上がり最速で完勝する。続く天皇賞(春)は、自身の連覇がかかる一戦。3分12秒5――ディープインパクトが持っていた京都3200mのレコードを、コンマ9秒も塗り替える走りで春の盾を連取した。 充実は、極まっていた。だが完璧な馬などいない。1番人気で迎えた宝塚記念は、まさかの9着。絶頂のただ中に、ふと足元の崩れる瞬間が差し挟まれる。秋、その答え合わせが待っていた。

天が割れた秋 ― 不良馬場の盾

2017年10月29日、天皇賞(秋)。台風22号が東京を覆い、馬場は不良。泥の海と化した府中で、キタサンブラックはまさかの出遅れを喫する。絶望的な位置から、しかし武豊は慌てなかった。最内をすくうように一頭ずつ押し上げ、直線で先頭へ。追いすがるサトノクラウンをクビ差で抑え、勝ち時計2分08秒3。出遅れと道悪をねじ伏せたその騎乗は、武豊の代表的な名騎乗のひとつに数えられる。 史上5頭目の天皇賞・春秋連覇、そしてGI6勝目。続くジャパンカップは3着に終わったが、ターフに残された宿題は、もう一つだけになっていた。引退の花道である。

有終の美 ― 二〇一七年十二月二十四日

引退レースに選んだのは、中山の有馬記念。1番人気。好スタートから先頭に立つと、得意の逃げでそのまま押し切った。勝ち時計2分33秒6、上がりも最速。中央競馬史上最多に並ぶGI7勝目を、有終の美で飾る。この勝利で総獲得賞金は18億7684万円に達し、テイエムオペラオーを抜いてJRA歴代単独1位に立った。 口取りのあと、北島三郎がマイクを握る。歌うのは、いつもの『まつり』。そして引退セレモニーでは、新曲『ありがとう キタサンブラック』を初めて披露した。地味な血と350万円から始まった旅は、満員の中山競馬場の大合唱のなかで幕を閉じる。 2016・2017年の年度代表馬を連覇。2020年には得票率80.6%で、史上34頭目の顕彰馬に選出された。雑草と呼ばれた馬は、歴史の殿堂に名を刻んだ。

血は世界へ ― 父キタサンブラックの章

社台スタリオンステーションへ。種牡馬となったキタサンブラックは、やがて自身を超える怪物を送り出す。 イクイノックス。2022・2023年とレーティング世界一に立ち、親仔での年度代表馬という史上5例目の偉業を父子で成した。さらにソールオリエンスは2023年の皐月賞を制し、産駒のクラシック制覇を果たす。 そして何より――父キタサンブラックは、現役時代にダービーを14着で敗れ、天皇賞(春)はハナ差でしか勝てなかった。その雪辱を、仔のクロワデュノールが晴らす。ダービーの栄冠を獲り、天皇賞(春)を父と同じハナ差で制したのだ。届かなかった盾と、勝てなかった府中を、血が引き継いで取り返した。 地味な牝系から生まれ、誰にも期待されなかった鹿毛は、いまや世界の頂を産み落とす父となった。社台SSで草を食むその姿は、旅がまだ終わっていないことを、静かに告げている。

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