名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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キセキのイメージビジュアル
キセキKiseki
Kiseki

キセキ

通算成績33戦4勝

獲得賞金(海外含む・概算)約71,996万円

生年月日 2014.05.13(平成26年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
キセキの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
10 GI有馬記念 中山 芝2500 7人気 松山弘平 2:33.6 上り37.6映像
10 GIジャパンカップ 東京 芝2400 7人気 和田竜二 2:26.0 上り36.6映像
3 GII京都大賞典 阪神 芝2400 4人気 和田竜二 2:24.6 上り36.4映像
5 GI宝塚記念 阪神 芝2200 5人気 福永祐一 2:12.1 上り35.7映像
4 GIクイーンエリザベス2世カップ シャティン 芝2000 5人気 C.スコフィールド 2:01.6 映像
5 GII金鯱賞 中京 芝2000 3人気 M.デムーロ 2:02.0 上り35.9映像
12 GI有馬記念 中山 芝2500 8人気 浜中俊 2:36.5 上り37.6映像
8 GIジャパンカップ 東京 芝2400 6人気 浜中俊 2:24.1 上り38.9映像
5 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 4人気 武豊 1:58.6 上り34.1映像
2 GII京都大賞典 京都 芝2400 1人気 浜中俊 2:25.7 上り34.3映像
2 GI宝塚記念 阪神 芝2200 6人気 武豊 2:14.5 上り37.2映像
6 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 3人気 武豊 3:17.3 上り36.8映像
7 GII阪神大賞典 阪神 芝3000 1人気 川田将雅 3:03.6 上り36.7映像
5 GI有馬記念 中山 芝2500 7人気 R.ムーア 2:31.6 上り35.8映像
7 GI凱旋門賞 パリロンシャン 芝2400 7人気 C.スミヨン 映像
3 GIIフォワ賞 パリロンシャン 芝2400 2人気 C.スミヨン 映像
2 GI宝塚記念 阪神 芝2200 1人気 川田将雅 2:11.3 上り35.8映像
2 GI大阪杯 阪神 芝2000 2人気 川田将雅 2:01.0 上り35.4映像
5 GI有馬記念 中山 芝2500 2人気 川田将雅 2:32.8 上り37.5映像
2 GIジャパンカップ 東京 芝2400 4人気 川田将雅 2:20.9 上り34.7映像
3 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 6人気 川田将雅 1:57.0 上り34.7映像
3 GII毎日王冠 東京 芝1800 6人気 川田将雅 1:44.7 上り33.9映像
8 GI宝塚記念 阪神 芝2200 2人気 M.デムーロ 2:12.5 上り35.9映像
9 GII日経賞 中山 芝2500 1人気 C.ルメール 2:34.6 上り36.7映像
9 GI香港ヴァーズ シャティン 芝2400 2人気 M.デムーロ 映像
1 GI菊花賞 京都 芝3000 1人気 M.デムーロ 3:18.9 上り39.6映像
2 GII神戸新聞杯 阪神 芝2400 2人気 M.デムーロ 2:24.9 上り33.9映像
1 信濃川特別 新潟 芝2000 1人気 M.デムーロ 1:56.9 上り32.9
1 3歳以上500万下 中京 芝2000 1人気 福永祐一 1:59.1 上り33.2
3 GIII毎日杯 阪神 芝1800 7人気 A.シュタルケ 1:46.7 上り33.4映像
3 OPすみれS 阪神 芝2200 1人気 川田将雅 2:15.0 上り36.3
5 セントポーリア賞 東京 芝1800 1人気 蛯名正義 1:48.1 上り33.4
1 2歳新馬 阪神 芝1800 2人気 C.ルメール 1:49.5 上り34.5

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
キセキの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ルーラーシップRulershipキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
エアグルーヴAir GrooveトニービンTony Bin
ダイナカール
ブリッツフィナーレディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday Silence
ウインドインハーヘアWind in Her Hair
ロンドンブリッジドクターデヴィアスDr Devious
オールフォーロンドンAll for London

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2014年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ルーラーシップ、母ブリッツフィナーレ。主な勝ち鞍は菊花賞。

「奇跡」という名 ― 下河辺の黒鹿毛

2014年5月13日、北海道日高町の下河辺牧場に黒鹿毛の牡馬が生まれた。父はルーラーシップ、母はブリッツフィナーレ、母の父はディープインパクト。 母系には重賞級が並ぶ。祖母ロンドンブリッジは1997年のファンタジーステークスを勝ち、翌年の桜花賞で2着に入った牝馬。その娘のひとりで母の半姉にあたるダイワエルシエーロは、2004年の優駿牝馬を勝ってオークス馬になっている。母の半兄にはアーリントンカップと京都金杯を勝ったビッグプラネット、全弟には中京記念を勝ったグレーターロンドンがいた。 馬主は石川達絵。与えられた名は、キセキ。意味は「奇跡」である。 預けられたのは栗東の角居勝彦厩舎。父ルーラーシップを管理していたのも、この人だった。 2016年12月11日、阪神の芝1800m。鞍上はルメール、2番人気。3番手の外を進んで直線で抜け出し、3馬身半差をつけて勝った。角居にとっては、自分が育てた馬の産駒で挙げた初めての勝利でもある。「柔らかくてバネがある。跳びが大きいのがいい」[^1] この厩舎には、2006年の秋から調教だけを受け持つ「攻め専」の助手がいた。辻野泰之という。ダービー馬ウオッカの調教にも携わった男である。

出典:スポーツニッポン「【阪神新馬戦】2番人気キセキ快勝!角居師「柔らかくてバネある」」2016年12月12日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2016/12/12/kiji/K20161212013891290.html、閲覧日:2026年7月26日。

クラシックのない春

3歳の初戦、1月29日のセントポーリア賞は1番人気。鞍上は蛯名正義。上がり33秒4の脚を使ったが直線で伸び切れず5着だった。2月26日のすみれステークスは単勝1.9倍の1番人気で、川田将雅を背に3着。先に抜け出したクリンチャーを捉えきれなかった。3月25日の毎日杯はシュタルケ、7番人気。ここでも上がり33秒4で先団に取りついたが、0秒2届かず3着。勝ったのは、のちの皐月賞馬アルアインである。 賞金が足りなかった。クラシックへの道は、紙の上で閉じた。 戻ってきたのは7月15日、中京の3歳以上500万下である。福永祐一が乗り、後方から先行勢を一気に差し切って2馬身差。福永にとってはJRA通算2000勝目という日でもあった。8月5日の信濃川特別はデムーロ。後方で脚を溜め、直線で楽に抜け出して連勝した。 9月24日、神戸新聞杯。ダービー馬レイデオロに次ぐ2番人気。中団から直線で内の隙間を割り、残り200mからメンバー最速の上がり33秒9で追ったが、先に抜け出したレイデオロには2馬身届かず2着。それでも、菊花賞への優先出走権は手に入れた。

淀の泥 ― 二〇一七年十月二十二日

台風21号が本州へ近づき、京都競馬場の芝は不良になっていた。稀に見るほど重い馬場だった。 この年のダービーで1着から3着までを占めた3頭が、揃って不在だった。レイデオロはジャパンカップを最大目標に掲げて回避し、スワーヴリチャードは休養からの回復が間に合わず、アドミラブルは8月に脚部不安を発症していた。18頭立ての7枠13番。キセキは1番人気に推されたが、単勝は4.5倍。菊花賞で1番人気が4倍を超えたのは1995年以来、22年ぶりのことだった。 道中は中団のやや後ろ。3コーナーから4コーナーの坂にかかるあたりで、徐々に位置を上げていく。泥をかぶりながら押し上げ、直線を向いた。3000mを走ってきた馬たちの脚は、もうほとんど残っていない。上がり3ハロン39秒6――平時なら平凡なその数字が、この日は決め手だった。逃げ粘るクリンチャーを残り100mで捉え、追ってくるポポカテペトルらを振り切って、2馬身差。勝ち時計は3分18秒9。 2着のクリンチャーは10番人気、3着のポポカテペトルは13番人気で、3連単の配当は55万9700円。菊花賞の史上最高配当だった。2月のすみれステークスで先に抜け出していた相手は、この日は逃げる側にいて、残り100mで交わされる側になった。 鞍上のデムーロは、2003年のネオユニヴァースと2015年のドゥラメンテで皐月賞とダービーを勝っている。これで牡馬クラシックの三冠すべてを制したことになった。そして父ルーラーシップにとっては、産駒が初めて手にした重賞が、いきなりGIだった。

隔離と、留守

12月10日、シャティンの香港ヴァーズへ向かった。ところが12月4日、左前肢に皮膚病が見つかり、検疫厩舎の中で他馬と隔離される。症状自体は軽く、調教は通常どおり消化できたが、本番はスタートで出遅れて最後方。向正面から進出したものの直線で伸びず、9着に終わった。 明けて2018年3月24日の日経賞は、ルメールを背に1番人気。前半1000mが1分2秒8まで緩んだため2コーナーで一気に先頭へ上がっていったが、直線で伸びきれず9着。6月24日の宝塚記念は2番人気に推されながら、大外16番枠から最後方を追走し、メンバー3位の脚で追い込んだものの前が開かず8着だった。 その十日あまり後、7月6日。角居勝彦が滋賀県草津市で道路交通法違反(酒気帯び運転)の現行犯により逮捕された。JRAは同日から翌2019年1月6日までの半年間、角居に調教停止の処分を科す。角居は10月3日、大津簡易裁判所から罰金の略式命令を受けた。 管理馬78頭は、臨時貸付という形で栗東の中竹和也厩舎へ移された。キセキもその1頭である。同じ7月、攻め専の助手・辻野泰之もまた中竹厩舎へ籍を移している。厩舎ひとつが、まるごと隣へ引っ越したような半年が始まった。

前へ ― 逃げるという答え

移ってから最初の一戦は、10月7日の毎日王冠だった。鞍上に川田将雅を迎える。メンバー中ただ一頭の58kgを背負って6番人気。逃げるアエロリットを2番手から追い、直線でも粘ったが、ステルヴィオに交わされて3着。差す馬だったはずの菊花賞馬が、前で我慢する競馬をしていた。 10月28日、天皇賞(秋)。12頭立ての10番枠、6番人気。ゲートを出るなり加速して2コーナーで先頭に立ち、そこからさらにペースを上げ、後続に2馬身の差をつけたまま直線へ入った。ゴール前でレイデオロとサングレーザーに差されて3着。だが、この日ひとつはっきりした。この馬は、前で走らせたほうが強い。 11月25日、ジャパンカップ。三冠牝馬アーモンドアイが単勝1.4倍の圧倒的支持を集め、キセキは4番人気。好スタートからハナを奪い、前半1000mを59秒9、2000mの通過は1分57秒2――ウオッカが2008年に記録した旧コースレコードと同じ数字で府中を引っ張った。直線に入っても脚色は衰えず、後続を突き放しにかかる。しかし2番手で息を潜めていたアーモンドアイに、残り150mで交わされた。1馬身3/4差。 それでもキセキの走破時計2分20秒9は、それまでの日本レコードを1秒以上も上回っていた。3着のスワーヴリチャードには3馬身半の差がついている。前にあの一頭がいなければ、レコードとして残るはずの時計だった。川田は、普通なら当たり前に押し切れるレースだった、今日は素晴らしい馬が前にいた、と振り返っている。アーモンドアイに乗ったルメールも、キセキは強い馬で止まらない、と述べた。 12月23日の有馬記念は2番人気。外の14番枠から、内で先手を窺うオジュウチョウサンミッキーロケットをまとめて交わして先頭に立ち、稍重の前半1000mを60秒8で通過。3馬身のリードを保って直線へ向いたが、坂の途中で飲み込まれて5着だった。この年、天皇賞(秋)・ジャパンカップ・有馬記念の三つすべてに出走したのは、この馬だけである。

二着の年

2019年1月7日、処分期間の満了とともに、管理馬は角居厩舎へ戻った。辻野も同じ月に戻っている。 始動は3月31日の大阪杯。GI馬8頭が顔を揃えた一戦で2番人気。スローで逃げるエポカドーロを2番手から追い、直線は馬場の中央から伸びた。だが内を突いて追い込んできたアルアインに、クビ差だけ足りない。2年前の毎日杯で0秒2届かなかった相手に、今度はクビ差だった。 6月23日、宝塚記念。GI馬6頭が集まるなか、レイデオロと僅差の1番人気に推される。スタート直後の位置取りには苦しんだが、最内の1番枠を生かしてハナへ。ところがリスグラシューが予想外の先行策を取って2番手につけ、直線で交わされた。追ってきたスワーヴリチャードらは抑えたものの、3馬身差の2着。川田は、勝った馬が強かった、期待に応えられず申し訳ない、と語っている。 夏、凱旋門賞へ向かった。8月22日にフランス入りし、ギャヴァン・エルノン厩舎で調整。前哨戦のフォワ賞は4頭立てで、鞍上は凱旋門賞を2度勝っているスミヨン。ここでもハナを主張したが直線で伸びを欠き、3着に終わった。勝ったのは地元のヴァルトガイストである。 10月6日、パリロンシャンの2400m、重馬場。スタートで後手を踏み、いつものように先頭へ立てないまま中団を追走して7着。日本から参戦した3頭のうちでは最先着だったが、それだけだった。勝ったのは、フォワ賞で先着を許したヴァルトガイストである。 暮れの有馬記念はムーアを背に、ファン投票3位で出走。またも出遅れて先行できなかったが、アエロリットが大逃げを打ってペースが流れ、直線でよく追い込んで5着に入った。

暴れる春、大外の夏

前走で乗ったムーアが、この馬は距離が長いほうがいいと陣営に伝えていた。それもあって2020年は3000mの阪神大賞典から始動する。単勝1.6倍。ところがゲートで大きく立ち遅れ、出たあとも折り合いを欠いたまま走り続けて7着に沈んだ。川田は、ゲートが開いても出る気がなく、出たあともひたすら暴走してしまった、と渋い顔をした。角居は「全部ダメでした」[^1]とだけ言い、今後については白紙だと話すにとどめた。発走調教再審査が課された。 一度は天皇賞(春)の回避が決まり、それが翻ってやはり向かうことになる。4月15日、当日に乗る予定の武豊を背にゲート再審査へ臨み、合格した。 5月3日、京都。新型コロナウイルスの流行で、観客のいない競馬場だった。3番人気。発馬は決めて3番手につけたが、1周目の直線で掛かってしまい、そのまま先頭に立つ。行くしかなくなった3200mは直線半ばで力尽き、6着。勝ったのは連覇を果たしたフィエールマンである。 6月28日、宝塚記念。6番人気。武豊はスタートで無理をせず、道中を大外へ持ち出した。他馬の影響を受けやすい馬である。勝負所でクロノジェネシスを見ながら進出し、直線はじりじりと伸び続けた。勝ち馬には6馬身離されたが、3着のモズベッロには5馬身の差をつけての2着。角居は、豊さんが折り合いを付けてくださって外々で力むことなく上手に走ってくれた、と賛辞を惜しまなかった。 秋、武豊がフランスからの帰国後に隔離期間へ入って乗れず、京都大賞典は浜中俊との初コンビになった。1番人気。最後方から3コーナーで動き出し、直線で猛然と追い込んだが、グローリーヴェイズに4分の3馬身届かず2着。 11月1日、武豊が戻った天皇賞(秋)は5着。レース後、名手は、4コーナーで一瞬「奇跡」が起きるかと思ったが瞬発力勝負ではきつかった、と振り返っている。この日キセキは、清山宏明調教助手とのペアでベストターンドアウト賞に選ばれた。最も手入れの行き届いた出走馬の担当者に贈られる賞である。 11月29日のジャパンカップは浜中を背に、1000m通過57秒9という大逃げを打って8着。12月27日の有馬記念は出遅れが響いて12着に終わった。生涯33戦で、これが最も後ろの着順になる。

出典:スポーツニッポン「【阪神大賞典】出遅れ&暴走…キセキ7着に「全部ダメ」と角居師」2020年3月22日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2020/03/22/kiji/20200322s00004048270000c.html、閲覧日:2026年7月26日。

父の海、そして受け継いだ男

2021年2月末、角居勝彦は厩舎を解散した。定年まで十年以上を残した勇退で、理由は実母から家業を継ぐこと――角居自身も信者である天理教の仕事だった。二十年の調教師生活でウオッカシーザリオカネヒキリヴィクトワールピサエピファネイアデルタブルース、そしてルーラーシップを送り出した男が、栗東を去った。 キセキを引き継いだのは、3月に新規開業した辻野泰之である。2006年10月から角居厩舎で調教だけを受け持つ「攻め専」を務め、ウオッカロジャーバローズサートゥルナーリアに携わってきた。2018年7月に中竹厩舎へ移り、2019年1月に角居厩舎へ戻っている――キセキが辿ったのと、まったく同じ道順だった。調教師免許は八回目の挑戦でようやく手にしたものである。その新しい厩舎の重賞初出走が3月14日の金鯱賞で、馬はキセキだった。久々にデムーロが戻り、最後方から上がり最速の脚を使って5着。 4月25日、シャティン。クイーンエリザベス2世カップ。九年前の2012年、この同じ2000mを勝ったのが父ルーラーシップで、管理していたのは角居だった。7頭のうち4頭が日本馬という一戦は、その4頭が上位を独占して終わる。ラヴズオンリーユー、グローリーヴェイズ、デアリングタクト、そして4着がキセキ。鞍上はスコフィールド。父が立った表彰台の、ひとつ外側だった。 帰国後の宝塚記念は、3歳夏以来となる福永祐一とのコンビ。好位でリズムよく運んだが、コーナーでの加速が今ひとつで5着。秋は和田竜二と初めて組んだ京都大賞典で、勝ったマカヒキから0秒1差の3着。11月28日のジャパンカップは出遅れたあと向正面から強引にまくって先頭へ立ち、直線で失速して10着。その2日後、暮れの有馬記念を最後に引退することが発表された。 12月26日、中山。7歳。松山弘平を背に中団から進み、直線で伸びを欠いて10着。33戦目だった。 2022年1月7日付で競走馬登録を抹消され、日高のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬になった。2025年10月12日、産駒のサインが京都の2歳未勝利を勝ち、キセキ産駒として初めてJRAで勝つ。サインの馬主は、キセキと同じ石川達絵である。全妹のビッグリボンは、2023年のマーメイドステークスを勝った。 角居勝彦は2023年8月1日、石川県珠洲市の蛸島に珠洲ホースパークを開いた。競走を終えた馬たちが草を食む場所である。 33戦して、勝ったのは4回。そのうちの一つが、泥の淀の3000mだった。2着は六度あり、うち四度はGIで、前を行ったのはアーモンドアイであり、アルアインであり、リスグラシューであり、クロノジェネシスだった。時代の頂点にいた馬たちの背中を、この馬はいつもいちばん近いところで見ていた。春に賞金の足りなかった条件馬が、その秋に淀の3000mを獲り、それから四年、頂の隣を走り続けたのである。奇跡という名は、あの一日のためだけに付いていたのではない。

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