名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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ジョワドヴィーヴルのイメージビジュアル
ジョワドヴィーヴルJoie de Vivre
Joie de Vivre

ジョワドヴィーヴル

通算成績7戦2勝

獲得賞金9,594万円

生年月日 2009.05.13(平成21年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ジョワドヴィーヴルの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
4 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 4人気 川田将雅 1:32.6 上り33.3映像
6 GIII中日新聞杯 中京 芝2000 6人気 戸崎圭太 2:00.0 上り34.9
7 GII京都記念 京都 芝2200 7人気 福永祐一 2:13.9 上り35.2
6 GI桜花賞 阪神 芝1600 1人気 福永祐一 1:35.2 上り34.6映像
3 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 1人気 福永祐一 1:36.0 上り34.8
1 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 4人気 福永祐一 1:34.9 上り34.1映像
1 2歳新馬 京都 芝1600 1人気 福永祐一 1:36.7 上り34.1

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ジョワドヴィーヴルの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
ビワハイジCaerleonNijinsky
Foreseer
アグサンAghsanLord Gayle
Santa Luciana
STORY

旅程 — この馬の物語

2009年生まれの鹿毛の牝馬。父ディープインパクト、母ビワハイジ。主な勝ち鞍は阪神ジュベナイルF。

生きる喜び ― 安平の九番仔

2009年5月13日、北海道安平町のノーザンファームで鹿毛の牝馬が生まれた。父ディープインパクト、母ビワハイジ。母の九番仔である。 それから二週間ほど後、六番仔の半姉ブエナビスタが優駿牝馬(オークス)を勝ち、牝馬二冠を果たした。九番仔には、はじめから大きな期待がかかった。 母ビワハイジは、1995年12月3日の阪神3歳牝馬ステークス――暮れに阪神で行われる2歳牝馬の頂上決戦を勝った馬である。11頭立ての4番人気で逃げ、直線では2番手のエアグルーヴを半馬身抑えた。繁殖に上がったあと、生まれ育った早田牧場の破産と馬主の急死があり、遺された馬たちは松田博資の仲介でノーザンファームへ移された。そこから重賞勝ち馬が次々に出る。半兄アドマイヤジャパンは京成杯を勝って皐月賞3着・菊花賞2着、半兄アドマイヤオーラはシンザン記念・弥生賞・京都記念、半姉ブエナビスタはGI6勝。全兄トーセンレーヴ、半妹サングレアル――JRAの重賞を勝った産駒は、六頭に達している。 ただ、3月生まれの姉に対して、この牝馬は5月生まれで、身体が小さかった。松田は姉妹の比較を求められると、生まれ月の違いを挙げて、比べようがないと答えている。 名は「ジョワドヴィーヴル」。フランス語で「生きる喜び」を意味する。姉ブエナビスタで天皇賞(秋)を勝ったクリストフ・スミヨンが、東日本大震災のあとの日本への思いを込めて付けた名だった。 馬主はサンデーレーシング、預けられたのは栗東の松田博資厩舎。厩務員は山口慶次――牝馬二冠のベガを、そして姉ブエナビスタを担当した男である。姉と妹は、しばらく隣り合った馬房にいた。 鞍上には福永祐一が決まる。松田と福永とサンデーレーシングという組み合わせは、前の年に3戦3勝で阪神ジュベナイルフィリーズを勝ち、満票で最優秀2歳牝馬に選ばれたレーヴディソールと、まったく同じだった。

二戦目 ― 二〇一一年十二月十一日

11月12日、京都の芝1600メートル、18頭立ての2歳新馬。単勝1.3倍の1番人気だった。この日、福永は東京にも騎乗を頼まれていたが、すべて断って京都に来ている。登録が多く、抽選に外れれば走れない一戦だった。 抽選を通ったこの馬は、スローペースを中団の外で追走し、直線で先行勢をまとめて差し切った。1馬身半差。馬体重は420キロである。 次は自己条件を使わず、12月11日の阪神ジュベナイルフィリーズに登録した。1勝馬に与えられた出走枠は六つ、登録したのは十五頭。姉のときには同じ日の別のレースにも登録して除外に備えていた松田が、このときはその備えを置かなかった。福永も、この馬に決めていた。抽選に、また通る。 18頭立ての7枠13番。三年前、姉ブエナビスタが同じレースを勝ったときとまったく同じ枠番だった。晴れ、芝は良。1番人気は武豊のサウンドオブハート。1995年の暮れ、母ビワハイジがこのレースを勝った日、それまで母に乗っていた武は2連勝中の別の牝馬を選び、母の手綱は角田晃一が取っていた。 ジョワドヴィーヴルは単勝6.8倍の4番人気。母のときも、4番人気だった。 ファインチョイスが引っ張って1000メートル通過60秒2。落ち着いた流れの中団の外にいたこの馬は、直線で馬場の中央へ持ち出されると、そこから弾けた。残り100メートルで内の先行勢を捉え、あとは独走になる。終いは福永が追う手を緩めるほどだった。1分34秒9、2着アイムユアーズに2馬身半、3着は1番人気のサウンドオブハート。上がり3ハロン34秒1はメンバー最速で、馬体重は418キロ。姉が2008年に同じレースを勝ったときの着差も、2馬身半だった。 通算2戦目でのJRA・GI制覇は史上初である。母ビワハイジ、半姉ブエナビスタと合わせて、暮れの阪神の2歳女王決定戦における史上初の母仔制覇、そして姉妹制覇。福永は2002年ピースオブワールド、2010年レーヴディソールに続く3勝目、松田は2008年ブエナビスタ、2010年レーヴディソールに続く3勝目だった。 レースを終えた福永は「能力があるのはわかっていたが、これほどとは……」[^1]と言った。 年末のJRA賞は、285票のうち283票がこの馬の名を書いた最優秀2歳牝馬である。残る2票は、2着のアイムユアーズだった。

出典:日本中央競馬会「第63回 阪神ジュベナイルフィリーズ(GI)レース結果」(レース回顧・谷川善久)2011年12月11日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/hjf/result/hjf2011.html 、閲覧日:2026年7月30日。

桜 ― 一番人気で負けるということ

年が明けて2012年、陣営は牝馬クラシックへ向かった。桜花賞と優駿牝馬の結果次第では、秋のフランス――凱旋門賞への参戦も視野に入れていた。松田は、この馬がどれだけ走るのか見当がつかない、とにかく楽しみだと語っている。 1月18日に帰厩し、3月3日のチューリップ賞で始動する。単勝1.3倍の1番人気。4枠5番から中団を取ったが、外へ持ち出せず、初めて馬群の中で揉まれた。直線で追い上げはしたものの伸びを欠き、外から来たハナズゴールに突き放されて3着。0秒5差だった。 4月8日、桜花賞。単勝2.3倍の1番人気。返し馬の感触は良かったという。しかしスタートで後れて最後方になり、進路も開かないまま大外を回すことになる。末脚は不発。ジェンティルドンナヴィルシーナ、アイムユアーズが競り合った先頭争いには加われず、0秒6差の6着。姉に続く桜花賞の姉妹制覇はならなかった。 そしてレースの直後、右第1趾骨近位の骨折が判明する。全治六か月以上。クラシックの春は、そこで終わった。 前の年、同じ厩舎の同じ鞍上で2歳女王になったレーヴディソールは、桜花賞の1週前の追い切りで骨折し、桜を走れなかった。ジョワドヴィーヴルは走って、そのあとで折れた。 休養に入った6月10日、東京のエプソムカップを全兄トーセンレーヴが勝ち、ビワハイジの仔は五頭が重賞勝ち馬になった。12月9日には、阪神の同じ1600メートルで次の2歳女王が決まっている。1枠1番から抜け出したローブティサージュだった。

府中のマイルと、十七日後の朝

2013年1月13日に帰厩し、2月10日の京都記念(GII)で復帰した。芝2200メートル、十か月ぶりの実戦で7番人気。後方のまま盛り返せず、勝ったトーセンラーから1秒4差の7着だった。福永がこの馬に乗ったのは、これが最後になった。 3月9日の中日新聞杯は、福永が騎乗停止で乗れず、戸崎圭太が手綱を取る。スタートで出遅れて後方から追い上げ、0秒4差の6着。 5月12日、東京のヴィクトリアマイル。鞍上は川田将雅に替わった。二年前の暮れ、あの阪神で彼女を追いかけて5着に終わったアンチュラスに乗っていた男である。4番人気。後方から大外へ持ち出して伸び、上がり3ハロンは33秒3。先行したヴィルシーナ、マイネイサベル、先に動いたホエールキャプチャには届かず、0秒2差の4着。1600メートルに戻ったこの馬は、GIの舞台で四番目にゴール板を過ぎた。 次は6月1日、阪神の鳴尾記念だった。 5月29日の朝、栗東のウッドチップコースで追い切りが行われた。4コーナーを回って直線を向いたところで、左の後肢に故障が起きる。異変を察した助手が馬を止めた。馬は自力で立っていたが、左後肢を地面に着けることができなかった。駆けつけた獣医師の診断は、左下腿骨の開放骨折。診療所へ運ばれ、安楽死の処置が取られた。4歳だった。 松田は午前中は取材に応じられず、午後になって言葉を絞り出した。「もうひと花もふた花も咲かせてやりたかった」[^1] 7戦2勝、獲得賞金9594万8000円。二歳の12月に立った頂から、四歳の5月に走った府中のマイルまで、一年五か月だった。

出典:スポーツニッポン「11年阪神JF制覇 ジョワドヴィーヴル安楽死…調教中に骨折」2013年5月30日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2013/05/30/kiji/K20130530005905370.html 、閲覧日:2026年7月30日。

生きる喜び ― 一族のその後

母ビワハイジは2022年2月25日、29歳で老衰により死んだ。その名は国際保護馬名に指定され、世界のどのサラブレッドにも二度と与えられない。 全弟エルプシャフトは中央から地方へ渡り、佐賀や高知、盛岡のゲートまで含めて66戦を走り、8勝している。半妹サングレアルは2014年のフローラステークスを勝った。その馬もまた、松田厩舎で山口慶次が担当していた。そして半姉アーデルハイト――生涯1戦だけ走って繁殖に上がった黒鹿毛の牝馬の孫が、エンブロイダリーである。2025年の桜花賞と秋華賞、2026年のヴィクトリアマイル。ジョワドヴィーヴルが1番人気で敗れた桜と、最後に走った府中のマイルを、同じ一族の娘が勝った。 福永祐一は2018年、19回目の挑戦でワグネリアンの日本ダービーを勝ち、2023年に騎手を引退して調教師になった。松田博資は2016年2月28日、定年で厩舎をたたんでいる。中央で通算800勝を挙げた調教師で、手にしたGIは29。その一つが、この馬の阪神ジュベナイルフィリーズである。 七回のゲート。そのうちのいちばん高い一日、阪神の直線の中央で、418キロの鹿毛は、追う手を緩めた鞍上を乗せて先頭でゴール板を過ぎた。生きる喜び、という名前だった。名づけた人の願いを、この馬は二歳の12月にいちど、余りあるかたちで叶えている。

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