名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

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ジュエラーのイメージビジュアル
ジュエラーJeweler
Jeweler

ジュエラー

通算成績6戦2勝

獲得賞金16,910万円

生年月日 2013.01.17(平成25年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ジュエラーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
4 GI秋華賞 京都 芝2000 2人気 M.デムーロ 1:58.8 上り33.5映像
11 GII関西TVローズS 阪神 芝1800 2人気 M.デムーロ 1:48.3 上り35.8
1 GI桜花賞 阪神 芝1600 3人気 M.デムーロ 1:33.4 上り33.0映像
2 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 1人気 M.デムーロ 1:32.8 上り33.0映像
2 GIII日刊スポシンザン記念 京都 芝1600 2人気 M.デムーロ 1:34.1 上り34.5映像
1 2歳新馬 京都 芝1800 2人気 秋山真一郎 1:48.8 上り34.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ジュエラーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ヴィクトワールピサVictoire PisaネオユニヴァースNeo UniverseサンデーサイレンスSunday Silence
ポインテッドパスPointed Path
ホワイトウォーターアフェアWhitewater AffairMachiavellian
Much Too Risky
バルドウィナBaldwinaPistolet BleuTop Ville
Pampa Bella
BaliokaTourangeau
Bangalore
STORY

旅程 — この馬の物語

2013年生まれの鹿毛の牝馬。父ヴィクトワールピサ、母バルドウィナ。主な勝ち鞍は桜花賞。

石を彫る者の名 ― 千歳の一月

2013年1月17日、北海道千歳市の社台ファームに、鹿毛の牝馬が生まれた。父はヴィクトワールピサ。種牡馬としての供用初年度に授かった仔で、この時点の父はまだ、一頭の重賞馬も送り出していない。母はバルドウィナ——1998年にフランスで生まれ、2001年にペネロープ賞(G3)を勝った16戦3勝の牝馬である。引退後はイギリスで初仔を産み、日本から出張していたファルブラヴを配されたのち、海を渡って千歳へやってきた。 七年前、同じ腹から生まれた牝馬に、馬主の青山洋一は「ワンカラット」と名づけ、栗東・藤岡健一厩舎に預けている。26戦5勝。2009年のフィリーズレビューを制し、函館スプリントステークスをレコードで勝ち、キーンランドカップ、オーシャンステークスと重賞を四つ積み上げた。その年の桜花賞にも出走して、ブエナビスタの4着まで迫っている。だが繁殖に上がった姉は長くは生きなかった。2014年3月19日、二番仔を産んだその日に世を去っている。妹がまだ一歳の春だった。 その妹は、姉と同じ白に青ダイヤの勝負服を着て、同じ厩舎の馬房に入った。与えられた名はジュエラー。宝石職人、という意味である。姉が一カラットの石そのものなら、妹には石を彫る者の名が回ってきたことになる。もっとも、勝負服の持ち主はまだ最も硬い石を手にしていなかった。青山洋一はGIを勝つために馬主になった男で、その所有馬シーキングザダイヤはGIの2着を九度――JRA所属馬として最も多く――記録している。頂の一つ手前だけを、九回見てきた勝負服だった。

ハナだけ足りない ― 冬から春へ

2015年11月29日、京都の芝1800mの新馬戦。秋山真一郎を背に2番人気で発走し、中団で脚を溜めると、直線は外へ持ち出して前を残らず差し切った。後続に2馬身半。危なげのないデビュー勝ちだった。 明けて2016年、初戦のシンザン記念で鞍上が替わる。ミルコ・デムーロ。父ヴィクトワールピサを有馬記念とドバイワールドカップへ導いた男が、その娘の手綱を取った。ところがゲートを出た直後に不利を受けて位置を下げ、18頭の最後方から進むことになる。直線は大外を一頭だけ違う脚色で伸びてきたが、先に抜け出していた8番人気のロジクライを捉えるには、クビだけ足りなかった。 3月5日のチューリップ賞は単勝2.0倍の1番人気。中団後方から直線で外に持ち出し、2番人気シンハライトと馬体を併せて、前にいた馬たちを二頭で残らず飲み込んだ。あとはこの二頭だけの競り合いだった。写真判定。ゴール板を先に過ぎていたのは、シンハライトのほうだった。ハナ差。桜花賞への優先出走権は手に入れたが、この日はっきりしたのは、手のひらから零れたもののほうの大きさだった。

二センチ ― 二〇一六年四月十日、阪神

桜花賞の主役は別にいた。阪神ジュベナイルフィリーズを勝ち、始動戦のクイーンカップも制してきたメジャーエンブレムが単勝1.5倍の1番人気。無傷のシンハライトが4.9倍で続き、ジュエラーはそれに次ぐ5.0倍の3番人気だった。二週間前、藤岡健一はビッグアーサーの高松宮記念で開業以来はじめてのGIを勝っていたが、桜の一戦だけはまだ手が届いていなかった。 ゲートを出たジュエラーは、18頭のほとんど最後尾——後方2番手にいた。最終コーナーもその位置のまま回り、直線で大外へ持ち出す。前ではメジャーエンブレムシンハライトの二頭だけが抜け出し、シンハライトが制しかけていた。 上がり33秒0。外の一頭が、内の争いごと外から呑み込みにかかる。残り50メートルで、ようやく首が並んだ。並んだまま、二頭は入線した。またしても写真判定である。 一か月前と同じ二頭が、今度は逆の順番で掲示板に出た。ジュエラー、ハナ差。距離にして約2センチ。時計は1分33秒4。3着のアットザシーサイドは1馬身3/4後ろで、1.5倍の1番人気は4着に終わっていた。桜花賞がハナ差で決着したのは、1994年のオグリローマンとツィンクルブライド以来、四例目のことだった。

三代の家族 ― ミルコ・デムーロ

2003年、皐月賞と東京優駿。ネオユニヴァース。2010年の有馬記念と2011年のドバイワールドカップ。ヴィクトワールピサ。そして2016年の桜花賞、ジュエラー。祖父、父、その娘。三代の背に跨って三代でGIを勝った騎手は、日本の競馬でもほとんど例がない。勝ったあと、デムーロはその三頭をまとめて「ぼくの家族です」[^1]と言って笑った。 桜花賞は、この男が1999年にはじめて日本へ来たときから、最も勝ちたいと言い続けてきたレースでもあった。17年かかっている。2013年には弟のクリスチャンがアユサンで桜を手にし、自分はレッドオーヴァルでクビ差の2着に置かれた。兄弟でワンツーを分け合ったあの日の痛みを、彼は勝った直後にも隠さず口にしている。 ヴィクトワールピサにとっては、これが産駒の初めての重賞であり、初めてのGIだった。そして青山洋一にとっては、馬主として初めてのGIだった。頂の一つ手前で九度足を止めた勝負服が、ようやく頂の石を掴んだことになる。発走を前に、彼は住吉大社へ願を掛けに行き、そこで幸運を呼ぶという蛇に二匹まで出会っていたという。

出典:Number Web(島田明宏)「桜花賞馬ジュエラーは『ぼくの家族』。デムーロが果たした3世代GI制覇。」2016年4月11日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/825467、閲覧日:2026年7月26日。

五月五日 ― 樫は消えた

桜の次は樫だった。オークスへ向けて調整が進んでいた5月5日、左前第1指骨の剥離骨折が判明する。二冠の春は、その一報で終わった。宮城県の山元トレーニングセンターへ放牧に出され、骨片を取り除く手術を受けている。 戦線に戻ったのは9月18日のローズステークス。重馬場の阪神で2番人気に推されたが11着に沈んだ。勝ったのは、春に二度、ハナ差を分け合ったシンハライトだった。 10月16日の秋華賞では2番人気。中団の内で脚を溜めたが、勝負どころで前が壁になり、進路を確保するのに手間取った。空いたときにはヴィブロスが抜け出したあとで、上がり33秒5の脚は4着までしか運ばなかった。着差は0秒2。桜花賞で拾い上げた二センチと、ほとんど同じ薄さだった。 エリザベス女王杯へ向かうはずが左後肢の筋肉痛で回避し、そのまま年を越す。2017年はヴィクトリアマイルを目標に置いたが、3月2日、放牧先で左後第2指骨の骨折が判明した。3月6日付で競走馬登録は抹消された。6戦2勝。デビュー戦から最後の一戦まで、一年に満たない。

石は残る ― 千歳へ戻る

引退後は、生まれた社台ファームで繁殖牝馬になった。2021年10月、中京の新馬戦で、二番仔のヴェールランス(父キタサンブラック)が産駒初出走・初勝利を挙げる。鞍上は藤岡佑介。半姉ワンカラットの手綱を長く預かって重賞を勝たせた騎手であり、ジュエラーを管理した藤岡健一の長男でもあった。一族の始まりの馬を知る男が、次の世代の最初の一勝を届けたことになる。 母バルドウィナの血は、ほかの枝からも伸びている。半姉サンシャイン(父ハーツクライ)の産駒アラタは2024年の福島記念を勝った。イギリスで生まれた半姉Baldovina(父Tale of the Cat)の孫にあたるシャンパンカラーは、2023年のNHKマイルカップを9番人気で制している。この馬もまた社台ファームの生産で、青山洋一の白に青ダイヤの勝負服だった。名の意味は、最上級のダイヤモンド。 ワンカラット、ジュエラー、シャンパンカラー。フランスから連れてこられた一頭の牝馬の腹から、宝石の名が三つ並んだ。 6戦2勝。勝ったのは新馬戦と桜花賞の二つだけで、GIのゲートに入ったのは二度きりだ。それでも阪神の直線、最後の50メートルで起きたことは、いま映像を止めても、どちらの首が前かを容易には決められない。約2センチ。石を彫る者の名を持つ牝馬が削り出したのは、その厚みだった。桜の下でだけ光る、薄くて硬い一枚である。

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