名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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ジャガーメイルのイメージビジュアル
ジャガーメイルJaguar Mail
Jaguar Mail

ジャガーメイル

通算成績34戦6勝

獲得賞金46,054万円

生年月日 2004.05.08(平成16年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ジャガーメイルの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
16 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 17人気 石橋脩 3:17.0 上り35.7映像
9 GII日経賞 中山 芝2500 14人気 石橋脩 2:35.2 上り34.4
6 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 8人気 戸崎圭太 3:15.2 上り37.0映像
2 GIIIダイヤモンドS 東京 芝3400 4人気 F.ベリー 3:32.3 上り35.6
2 GI香港ヴァーズ 香港 芝2400 10人気 D.ホワイト 2:28.7 映像
10 GIジャパンカップ 東京 芝2400 11人気 W.ビュイック 2:24.3 上り33.3映像
7 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 16人気 石橋脩 1:57.9 上り33.6映像
4 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 9人気 四位洋文 3:14.9 上り33.6映像
5 GII阪神大賞典 阪神 芝3000 4人気 四位洋文 3:12.9 上り38.2
11 GI有馬記念 中山 芝2500 12人気 四位洋文 2:36.8 上り34.2映像
3 GIジャパンカップ 東京 芝2400 14人気 四位洋文 2:24.5 上り34.0映像
9 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 9人気 四位洋文 1:57.4 上り34.8映像
4 GII京都大賞典 京都 芝2400 2人気 四位洋文 2:24.3 上り33.0
4 GI香港ヴァーズ 香港 芝2400 C.ウィリアムズ 2:28.3 映像
4 GIジャパンカップ 東京 芝2400 7人気 R.ムーア 2:25.3 上り33.7映像
18(降) GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 5人気 D.ホワイト 2:00.3 上り36.0映像
8 GI宝塚記念 阪神 芝2200 2人気 C.ウィリアムズ 2:13.7 上り36.5映像
1 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 2人気 C.ウィリアムズ 3:15.7 上り33.7映像
2 GII京都記念 京都 芝2200 3人気 C.ルメール 2:14.5 上り33.3映像
GIIIダイヤモンドS 東京 芝3400 ルメール
4 GI香港ヴァーズ 香港 芝2400 C.スミヨン 2:27.6 映像
5 GIIアルゼンチン共和国杯 東京 芝2500 1人気 C.スミヨン 2:31.4 上り33.7
4 GII京都大賞典 京都 芝2400 1人気 石橋脩 2:24.7 上り34.8
2 GII目黒記念 東京 芝2500 1人気 石橋脩 2:39.8 上り38.8
5 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 6人気 安藤勝己 3:14.8 上り34.5映像
3 GI香港ヴァーズ 香港 芝2400 2人気 M.キネーン 2:29.1 映像
2 GIIアルゼンチン共和国杯 東京 芝2500 2人気 石橋脩 2:31.0 上り33.4
1 オクトーバーS 東京 芝2400 1人気 石橋脩 2:26.2 上り33.2
1 ジューンS 東京 芝2400 3人気 石橋脩 2:25.9 上り35.1
1 陣馬特別 東京 芝2400 3人気 藤岡佑介 2:25.8 上り34.4
4 4歳以上1000万下 中山 芝2200 1人気 石橋脩 2:14.6 上り35.8
8 グッドラックH 中山 芝2500 1人気 M.キネーン 2:39.4 上り35.8
1 3歳以上500万下 福島 芝2000 1人気 石橋脩 2:03.8 上り36.8
2 3歳以上500万下 中山 芝2200 1人気 石橋脩 2:18.1 上り36.2
1 3歳未勝利 中山 芝2000 6人気 石橋脩 2:00.6 上り35.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ジャガーメイルの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ジャングルポケットJungle PocketトニービンTony BinカンパラKampala
Severn Bridge
ダンスチャーマーDance CharmerNureyev
Skillful Joy
ハヤベニコマチサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ターンツーダイナノーザンテーストNorthern Taste
ナイスランディングNice Landing
STORY

旅程 — この馬の物語

2004年生まれの鹿毛の牡馬。父ジャングルポケット、母ハヤベニコマチ。主な勝ち鞍は天皇賞。

ヒョウの鎧

2004年5月8日、北海道浦河町のアイオイファームに鹿毛の牡馬が生まれた。父は2001年の日本ダービーとジャパンカップを勝ったジャングルポケット。母ハヤベニコマチはサンデーサイレンス産駒で、5戦2勝を挙げて繁殖に上がった牝馬である。馬主は吉田和美。馬名の由来は「ヒョウの鎧」だという。獣の名に、身を守る鎖帷子の名を継ぎ足した造語だった。 母の一族は地味ではない。甥にあたるハタノヴァンクールはのちにジャパンダートダービーと川崎記念を勝ち、母の従姉には京阪杯・金鯱賞・小倉記念・オールカマーを勝ったイクノディクタスがいる。 競走馬としての登録は2006年7月。だが最初のゲートが開くまで、そこからさらに一年以上かかった。美浦の堀宣行に預けられたこの馬は体質が弱く、強い調教に耐えられなかったからである。デビューは3歳の9月。初陣は新馬戦ではなく、未勝利戦だった。 2007年9月8日、中山の芝2000メートル、6番人気。鞍上は石橋脩、23歳、デビュー5年目の若手だった。上がり35秒2で差し切り、タイム差0秒1で勝ち上がる。この日から7年後の最後の一戦まで、この騎手はこの馬の傍らに居続けることになる。

東京二千四百、三連勝

その年の残りは2着、1着、8着。年を越した中山の1000万下も1番人気で4着に終わった。勝ちきれない冬を越えて、4歳の春から矛先を東京の芝2400メートル一点に絞る。5月の陣馬特別は藤岡佑介で、6月のジューンステークスと10月のオクトーバーステークスは石橋脩で。同じ距離、同じ競馬場で三つ続けて勝った。 オクトーバーステークスで2着に退けた相手の名は、スクリーンヒーローという。翌月、初めての重賞となったアルゼンチン共和国杯では、今度はその同じ相手に1馬身半差の2着に敗れた。そしてスクリーンヒーローは、その3週間後のジャパンカップを勝った。届かなかった1馬身半の先に、世界の一番強い場所があった。 12月、初めて日本を出る。香港ヴァーズにキネーンを背に2番人気で臨み、後方から追い込んでドクターディーノの3着。タイム差はなかった。

一番人気の重さ

2009年、この馬は重賞を5つ走り、5回とも勝てなかった。 5月の天皇賞(春)は安藤勝己で6番人気5着。勝ったのはマイネルキッツだった。月末の目黒記念は1番人気に推され、不良馬場でミヤビランベリの2着。秋の京都大賞典もまた1番人気で4着、勝ったのは前年の菊花賞馬オウケンブルースリ——ジャガーメイルと同じジャングルポケットの仔である。11月のアルゼンチン共和国杯も1番人気で5着、年末の香港ヴァーズは4着。 掲示板を外さない。しかし勝てない。 その重賞で人気を背負い続けた石橋脩もまた、当時は重賞を勝てずにいた騎手だった。2003年にデビューし、3年目から重賞に二桁の騎乗機会を得ながら、勝利にだけ手が届かない。ジャガーメイルは、その届かない年月を分け合った一頭だった。

一週間の回り道

2010年の始動は2月14日、東京のダイヤモンドステークスのはずだった。クリストフ・ルメールを迎えたその一戦は、出走取消に終わる。 回ったのは翌週の京都記念だった。同じルメールで3番人気。直線で前に出たのは、前年の桜花賞と優駿牝馬を勝ったブエナビスタ。ジャガーメイルはこれを半馬身差まで追い詰めて、また2着に敗れた。 重賞に名を連ねたのは、取り消した一戦を含めてこれで9回。2着が3回、3着が1回、4着と5着が2回ずつ。一度も掲示板を外していないという堅実さは、そのまま「勝てない」という評価の別名でもあった。鎧は堅い。ただ、中の獣がまだ出てこない。 その1月11日、フェアリーステークス。石橋脩はコスモネモシンで、重賞騎乗112戦目にして初めて重賞を勝っている。ジャガーメイルとではなかった。

淀の坂を下って

2010年5月2日、京都、晴、良馬場。第141回天皇賞(春)。1番人気は菊花賞2着にステイヤーズステークスとダイヤモンドステークスの勝ち鞍を加えたフォゲッタブル。重賞未勝利のジャガーメイルが2番人気に推された理由は、勝てなかった9走の中身そのものだった。 鞍上はこの日が初コンビのクレイグ・ウィリアムズ。オーストラリアの名手はこの一鞍のためにジャガーメイルの全レースを何度もビデオで見返し、金曜には京都のコースを自分の足で歩いていた。「この馬を信じていたから不安はなかった」[^1] 逃げたのはミッキーペトラ、2番手にマイネルキッツ。ジャガーメイルは中団を取った。1周目の1コーナーからペースが落ちても折り合いは崩れず、3コーナーの坂の下りで隊列が詰まっても動かない。4コーナー、マイネルキッツが一気に先頭へ躍り出る。前年、この馬に届かなかった相手である。中団から後方の各馬が伸びあぐねるなか、ただ一頭、ジワリと好位へ押し上げていったのがジャガーメイルだった。 独走に入った前年の覇者との差を、一完歩ずつ詰める。かわしたのは残り100メートルを切ってから。3分15秒7、着差3/4馬身、上がり33秒7。 6歳の春、重賞10度目の挑戦で初めて手にしたタイトルが、3200メートルの盾だった。ウィリアムズはこれがJRAのGI初制覇で、外国人騎手が天皇賞(春)を勝ったのは史上初。堀宣行にとっては3月の高松宮記念に続く、この年2つ目のGIになった。 ウィリアムズはスタンドに向かって、拍手を求める仕草をした。自分にではなく、馬に。「すべてはジャガーメイルのおかげ」[^2]

出典:日本中央競馬会「第141回 天皇賞(春)競走成績・レース回顧」2010年5月2日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/haruten/result/haruten2010.html、閲覧日:2026年8月1日。/スポーツナビ「豪州No.1が導いた! ジャガーメイル悲願の盾=天皇賞・春」2010年5月3日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201005030001-spnavi、閲覧日:2026年8月1日。

盾を持ったまま

「できればこの馬とメルボルンCに挑戦したい」[^1]。レース後、豪州の名手が口にしたその行き先に、ジャガーメイルが立つことはついになかった。 6月の宝塚記念は2番人気で8着。10月の天皇賞(秋)には春秋連覇を狙う立場で臨み5番人気に支持されたが、15着で入線したあと走行を妨げたと判断され、最下位の18着に降着した。11月のジャパンカップはライアン・ムーアで4着、12月の香港ヴァーズは再びウィリアムズと組んで4着。盾を持ったまま、勝ち星からは遠ざかっていった。 2011年は秋だけを走った。四位洋文とのコンビで京都大賞典4着、天皇賞(秋)9着——この秋の盾を勝ったトーセンジョーダンも、また同じジャングルポケットの仔である。そして11月のジャパンカップ、14番人気で3着に突っ込んだ。勝ったのはブエナビスタ。京都記念で半馬身に泣いた相手が、今度は0秒3先にいた。同じ舞台にいた菊花賞馬オウケンブルースリは10着。年末の有馬記念は、この年の三冠馬オルフェーヴルが勝ち、ジャガーメイルは11着だった。

出典:日本中央競馬会「第141回 天皇賞(春)競走成績・レース回顧」2010年5月2日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/haruten/result/haruten2010.html、閲覧日:2026年8月1日。

同じ淀を、別の馬で

2012年4月29日、天皇賞(春)。四位洋文で9番人気4着。自分の勝ったレースに戻って、掲示板だけは確保した。 その日、4馬身の差をつけて京都の3200メートルを制したのはビートブラックで、鞍上は石橋脩である。デビュー戦を含む条件戦の多くで手綱を取り、重賞では人気を背負いながら勝てなかった男が、初めてのGIを、かつての相棒が勝ったのと同じ舞台で獲った。半年後の天皇賞(秋)、石橋脩がジャガーメイルの背に戻ってくる。16番人気7着。 12月、4度目の香港ヴァーズ。8歳、12番人気。ダグラス・ホワイトを背に、レッドカドーとタイム差のない2着。海外4戦のうち、これが最も高い着順になった。 2013年2月、9歳でダイヤモンドステークスへ。3年前に取り消して走れなかった東京の3400メートルに戻り、アドマイヤラクティの2着。4月の天皇賞(春)は戸崎圭太で6着だった。

蒜山へ

2014年、10歳。3月の日経賞は14番人気9着。そして5月4日、京都の芝3200メートル。5度目の天皇賞(春)は17番人気16着で、勝ったのはフェノーメノの連覇だった。鞍上は石橋脩。7年前の秋、中山の未勝利戦でこの馬の背に最初にまたがった男が、最後のゴールも見届けた。 5月9日付で競走馬登録を抹消。34戦6勝。重賞の勝ちは一つで、それが3200メートルの盾だった。北海道のノーザンホースパークで乗馬になり、走るためではなく人を乗せるための日々が始まる。 2022年4月、岡山県真庭市の蒜山へ移った。オールド・フレンズ・ジャパン。リオデジャネイロ五輪の馬場馬術に出た原田喜市が2020年に立ち上げた、引退した競走馬を繋養して人に見せる施設で、名はアメリカの同名の功労馬牧場から許可を得て譲り受けたものだという。ジャガーメイルはそこで功労馬として余生を送っている。 淀の坂を下ってマイネルキッツを捉えたあの33秒7は、もう二度と計られない。それでも高原の風の中には、その脚で3200メートルを走り切った馬が立っている。鎧は、とうに脱いだあとだ。

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