名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

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ハープスターのイメージビジュアル
ハープスターHarp Star
Harp Star

ハープスター

通算成績11戦5勝

獲得賞金36,024万円

生年月日 2011.04.24(平成23年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ハープスターの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
8 GIドバイシーマクラシック アラブ首長国連邦 芝2410 1人気 R.ムーア 映像
5 GII京都記念 京都 芝2200 1人気 川田将雅 2:11.9 上り34.0映像
5 GIジャパンカップ 東京 芝2400 2人気 川田将雅 2:24.0 上り35.0映像
6 GI凱旋門賞 フランス 芝2400 4人気 川田将雅 映像
1 GII札幌記念 札幌 芝2000 2人気 川田将雅 1:59.1 上り35.5映像
2 GI優駿牝馬 東京 芝2400 1人気 川田将雅 2:25.8 上り33.6映像
1 GI桜花賞 阪神 芝1600 1人気 川田将雅 1:33.3 上り32.9映像
1 GIIIチューリップ賞 阪神 芝1600 1人気 川田将雅 1:34.3 上り33.7映像
2 GI阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神 芝1600 1人気 川田将雅 1:33.9 上り33.6映像
1 GIII新潟2歳S 新潟 芝1600 1人気 川田将雅 1:34.5 上り32.5映像
1 2歳新馬 中京 芝1400 1人気 川田将雅 1:24.5 上り34.5

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ハープスターの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディープインパクトDeep ImpactサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ウインドインハーヘアWind in Her HairAlzao
Burghclere
ヒストリックスターファルブラヴFalbravFairy King
Gift of the Night
ベガトニービンTony Bin
アンティックヴァリューAntique Value
STORY

旅程 — この馬の物語

2011年生まれの鹿毛の牝馬。父ディープインパクト、母ヒストリックスター。主な勝ち鞍は桜花賞・新潟2歳S・チューリップ賞。

琴座の一等星 ― 名と血

2011年4月24日、北海道安平町のノーザンファームに一頭の鹿毛の牝馬が生まれた。父はディープインパクト、母はヒストリックスター、母の父は2002年のジャパンカップを勝ったファルブラヴ。馬主はキャロットファーム、預けられたのは栗東の松田博資厩舎だった。 名は、ハープスター。こと座の一等星ベガの別名である。琴の星――その名は祖母から採られた。ベガ。1993年の桜花賞と優駿牝馬を勝った二冠牝馬であり、管理していたのは、やはり松田博資だった。 ベガは牡馬を次々に送り出している。東京優駿を勝ったアドマイヤベガセントライト記念のアドマイヤボス、朝日杯フューチュリティステークスとJBCクラシック三連覇でGI級7勝を挙げたアドマイヤドン。その並びのなかで、母ヒストリックスターはベガが産んだただ一頭の牝馬だった。細く絞られた一本の牝系から出た娘が、祖母の星の名を背負うことになる。 手綱を任されたのは川田将雅。デビューから引退まで、この馬が走った11戦のうち10戦で、鞍上にはこの男がいた。

最後方の作法 ― 二〇一三年の夏

デビューは2013年7月14日、中京の芝1400m。単勝1.8倍の1番人気に応え、後方から進んで直線で抜け出した。勝ち時計1分24秒5、上がり34秒5。 輪郭がはっきりしたのは、真夏の新潟2歳ステークスだった。4コーナーを回っても位置は最後方のまま。ところが直線を向くと、外めから一頭ずつ、まとめて全馬を抜き去ってしまう。上がり3ハロン32秒5。2着に3馬身の差をつけたが、その2着馬こそ翌春の皐月賞を勝つイスラボニータである。 12月8日、阪神ジュベナイルフィリーズ。単勝1.7倍。やはり後方から馬群を割って伸びたものの、前で粘るレッドリヴェールをハナ差だけ捉えきれなかった。2歳女王の座は無敗のレッドリヴェールに渡り、ハープスターは初めての黒星を抱いて年を越す。 最後方から差す。それは戦法というより、この馬の呼吸だった。

三十二秒九 ― 二〇一四年四月十三日

明けて3歳、始動戦のチューリップ賞は単勝1.1倍。後方2番手でじっくり構え、直線で2着ヌーヴォレコルトに2馬身半をつけて突き放した。桜花賞の1番人気は、この時点でほぼ決まっていた。 4月13日、阪神。引いた枠は大外18番。ゲートを出るとすぐに控え、道中は最後方。4コーナーを回ってもまだ最後方で、前とはずいぶん開いていた。 そこから直線だけで、17頭すべてを抜いた。推定の上がり3ハロンは32秒9。メンバー最速というだけでなく、阪神のマイル新コースになって以降の桜花賞では最も速い数字だった。ゴール前で馬体を併せてきたのは、暮れに敗れたレッドリヴェール。今度はひるまず、クビ差だけ前に出て桜の一冠を手にした。 鞍上が見ていたのは、位置ではなくリズムだったという。「直線で追い出せば必ず届いてくれると、強い思いで信じていました」[^1]。 松田博資にとっては桜花賞4勝目。そして1993年のベガから数えて21年、同じ厩舎が、祖母と孫娘で同じ一冠を勝ったことになる。

出典:スポーツナビ「桜女王ハープスター『32秒9』の衝撃 川田の自信と信頼、負けるイメージなし」2014年4月13日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201404130004-spnavi 、閲覧日:2026年7月28日。

クビ差の府中 ― 優駿牝馬

5月25日、東京の芝2400m。単勝1.3倍。桜花賞と同じように後方で脚を溜め、直線で外へ持ち出した。ひと足先に抜け出していたのはヌーヴォレコルト――チューリップ賞では2馬身半をつけた相手である。 上がり33秒6で猛然と迫ったが、詰め切れたのはクビ差の手前までだった。二冠は、ここで途切れた。 レースのあとになって、蹄鉄が外れかけていたことが分かった。理由が分かっても着順は動かない。それでも陣営はこの一敗を引きずらず、目標を国外に置いた。札幌記念を叩き台にして、凱旋門賞へ向かう――3歳牝馬にとって前例のない夏の計画だった。

先頭で直線を迎える ― 札幌記念

8月24日、札幌の芝2000m。初めての古馬との対戦で、相手にはGIを五つ勝っていたゴールドシップがいた。人気はそのゴールドシップに次ぐ2番人気。 トウケイヘイローらが引っ張って流れは速くなった。ハープスターは後方2番手で折り合うと、3コーナーから自分で動き出し、直線の入り口ではもう先頭に立っている。追ってきたのは、最後方から差を詰めるゴールドシップ。詰め寄られながら、3/4馬身だけ前で凌ぎ切った。 最後方から一気に、という一手しか持たないと思われていた馬が、自分から前に出て、粘って勝った。札幌記念を牝馬が制したのは史上11頭目、3歳牝馬に限れば1992年のサンエイサンキュー以来22年ぶり2頭目である。 3歳牝馬の52キロという恵まれた斤量ではあった。それでもこの日の走りが示したのは、末脚の破壊力ではなく、引き出しの数だった。

ロンシャンの秋 ― 凱旋門賞、そして府中

10月5日、ロンシャン。20頭立ての凱旋門賞に、日本の牝馬として初めてハープスターが立った。2025年までに、日本の3歳牝馬がこのレースに出走した例は、この一頭しかない。 道中は後方2番手。直線で外に出して伸びたが、連覇を果たしたトレヴとの差までは詰め切れなかった。6着。同じレースに出た日本馬ではジャスタウェイが8着、ゴールドシップが14着で、最先着はハープスターだった。この6着という数字は、2023年にスルーセブンシーズが4着に入るまで、日本の牝馬による凱旋門賞の最高着順であり続けた。 レースのあと、鞍上は肩を落とした。「これだけ期待してもらって結果を出せずに申し訳ない」[^1]。 帰国後の11月30日、ジャパンカップ。2番人気に支持されたが、レース中に故障したトレーディングレザーと接触する不利があり、直線で伸びを欠いて5着に終わった。勝ったのはエピファネイアである。 それでもこの年のJRA賞最優秀3歳牝馬には、ハープスターが選ばれた。桜花賞、札幌記念、そしてロンシャン。2014年という一年は、この馬のものだった。

出典:デイリースポーツ「【凱旋門賞】ハープスターの6着が最高」2014年10月6日配信、https://www.daily.co.jp/newsflash/horse/2014/10/06/0007395097.shtml 、閲覧日:2026年7月28日。

弦が切れる ― 二〇一五年の春

4歳初戦は2月15日の京都記念。1番人気に推され、ダービー馬キズナとの初対決が注目された。しかし直線で内へ寄れてトウシンモンステラの進路を妨げてしまい、鞍上には開催4日間の騎乗停止が科される。勝ったのはラブリーデイで、ハープスターは見せ場なく5着だった。 次に選ばれたのは、再びの海外遠征。ドバイシーマクラシックの手綱はライアン・ムーアに託され、英国のブックメーカーでは1番人気に推された。だが9頭立ての一戦で、直線半ばにはもう余力が尽きていた。8着。勝ったのはフランスの牝馬ドルニヤ。これがハープスターの最後の一戦になる。 帰国後に予定されていたヴィクトリアマイルは、遠征の疲れが抜けないという理由で回避された。その後の検査で種子骨靭帯炎が判明し、関係者の協議を経て現役引退が決まる。2015年5月7日、登録抹消。通算11戦5勝、獲得賞金3億6024万8000円。 琴の弦は、4歳の春に静かに切れた。

牧場の時間 ― 星を継ぐ

生まれた安平町のノーザンファームに戻り、ハープスターは繁殖牝馬になった。初年度の相手はキングカメハメハ。2016年に初仔アストライアが生まれる。 そこから先は順風ではなかった。2016年から2025年までの十年で、無事に仔を得たのは四度だけ。不受胎の年があり、死産の年があった。走ることに向いていた体が、産むことにも同じだけ応えてくれるとは限らない。 それでも血はつながっている。2019年生まれのロードカナロア産駒ライラスター、2022年生まれのサートゥルナーリア産駒ヴァルチャースターが競馬場に出て、2025年にはエピファネイアとの牡駒が生まれた。初仔アストライアはすでに自ら母となり、2021年にレッドセラスを産んでいる。ベガ、ヒストリックスター、ハープスター――星の名を継いできた牝系は、いま四代目が仔を産む番を迎えた。 松田博資は2016年2月28日、定年で調教師の職を退いている。1993年にベガで桜花賞を勝ち、21年後にその孫娘で同じ一冠を勝ち、ハープスターの引退から9か月後に厩舎の門を閉じたことになる。 最後方から17頭を抜いたあの4月の直線は、いまも語り草である。だがこの馬の時間は、もう勝負服の色とは別のところで流れている。夏の朝、生まれた牧場の放牧地に霧が残るころ、琴座の星の名を持つ牝馬が草を食んでいる。琴は鳴らない。それでも弦は、まだ張られたままだ。

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