名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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グランプリボスのイメージビジュアル
グランプリボスGrand Prix Boss
Grand Prix Boss

グランプリボス

通算成績28戦6勝

獲得賞金54,430万円

生年月日 2008.03.28(平成20年)毛色 鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
グランプリボスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
3 GI香港マイル 香港 芝1600 6人気 岩田康誠 1:34.2 映像
6 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 7人気 三浦皇成 1:31.9 上り34.3映像
4 GIスプリンターズS 新潟 芝1200 4人気 三浦皇成 1:08.9 上り34.6映像
2 GI安田記念 東京 芝1600 16人気 三浦皇成 1:36.8 上り37.2映像
9 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 7人気 C.ルメール 1:33.1 上り34.3映像
7 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 2人気 内田博幸 1:21.4 上り34.0
7 GIスプリンターズS 中山 芝1200 3人気 内田博幸 1:07.5 上り33.8映像
10 GI安田記念 東京 芝1600 2人気 内田博幸 1:32.2 上り34.0映像
1 GII読売マイラーズカップ 京都 芝1600 5人気 浜中俊 1:32.6 上り34.8
12 GI香港マイル 香港 芝1600 7人気 内田博幸 1:35.3 映像
2 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 1人気 内田博幸 1:32.9 上り34.0映像
1 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 3人気 内田博幸 1:20.5 上り33.2
6 GII毎日王冠 東京 芝1800 14人気 松岡正海 1:45.5 上り35.6
2 GI安田記念 東京 芝1600 13人気 内田博幸 1:31.3 上り33.9映像
7 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 5人気 内田博幸 1:20.6 上り33.2
13 GII読売マイラーズカップ 京都 芝1600 11人気 内田博幸 1:34.3 上り35.9
12 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 6人気 内田博幸 1:37.1 上り38.1映像
2 GII阪神カップ 阪神 芝1400 5人気 M.デムーロ 1:20.5 上り34.5
13 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 6人気 M.デムーロ 1:34.9 上り35.0映像
8 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 2人気 I.メンディザバル 1:20.4 上り34.0
8 GIセントジェームズパレ イギリス 芝1590 M.デムーロ
1 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 1人気 C.ウィリアムズ 1:32.2 上り34.0映像
3 GIIニュージーランドトロフィー 阪神 芝1600 1人気 藤岡佑介 1:34.7 上り33.8
4 GIIスプリングS 阪神 芝1800 5人気 岩田康誠 1:46.6 上り35.0映像
1 GI朝日杯フューチュリティステークス 中山 芝1600 5人気 M.デムーロ 1:33.9 上り34.5映像
1 GII京王杯2歳S 東京 芝1400 7人気 M.デムーロ 1:21.8 上り33.7
7 GIIデイリー杯2歳S 京都 芝1600 3人気 四位洋文 1:34.9 上り35.7
1 2歳新馬 札幌 芝1500 6人気 岩田康誠 1:29.5 上り35.1

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
グランプリボスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
サクラバクシンオーSakura Bakushin OサクラユタカオーテスコボーイTesco Boy
アンジェリカ
サクラハゴロモノーザンテーストNorthern Taste
クリアアンバーClear Amber
ロージーミストサンデーサイレンスSunday SilenceHalo
Wishing Well
ビューティフルベーシックBeautiful BasicSecretariat
Nervous Pillow

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2008年生まれの鹿毛の牡馬。父サクラバクシンオー、母ロージーミスト。主な勝ち鞍は朝日フューチュリティ・NHKマイルC・京王杯2歳S。

二七〇〇万円の、ボス

2008年3月28日、北海道安平町のノーザンファームに鹿毛の牡馬が生まれた。父はサクラバクシンオー、母はロージーミスト。 父は、短距離に振り切った馬だった。1993年と1994年のスプリンターズステークスを連覇し、通算21戦11勝。うち1400メートル以下では12戦11勝、1400メートルを超える距離では9戦して一度も勝てなかった。速さを一点に集めた血だった。 母ロージーミストは1997年生まれの黒鹿毛。6戦して勝ったのは一度きり、2000年3月の阪神、ダート1200メートルの新馬戦だけである。その母ビューティフルベーシックは1989年にアメリカで生まれた栗毛で、父はセクレタリアト。米国で4戦し、勝ち星はない。血統表の隅に三冠馬の名がひとつあるだけで、この牝系からはまだ、大きなタイトルを持つ馬が出ていなかった。 2008年のセレクトセールに「ロージーミストの2008」として上場され、2700万円で落札される。買ったのは株式会社グランプリ。冠名がそのまま名の頭に来て、そこへ「ボス」が重ねられた。グランプリボス。ノーザンファーム空港牧場で育成され、栗東の矢作芳人厩舎に入る。デビューから引退まで、この馬の管理者は最後まで変わらない。 2010年8月14日、札幌の芝1500メートル、2歳新馬。鞍上は岩田康誠。12頭立ての6番人気で、1分29秒5、上がり3ハロン35秒1。5着に敗れたのはメーヴェという英国産の牝馬で、この馬と同じ2008年の生まれだった。のちにタイトルホルダーとメロディーレーンを産むことになる。

五年後の、同じ中山のマイル

10月16日、京都のデイリー杯2歳ステークスで重賞に挑み、3番人気で7着。勝ったレーヴディソールとは1秒3の差がついた。 その月の終わり、母ロージーミストはノーザンファームの手を離れている。繁殖牝馬のセールに出され、メイショウサムソンを宿したまま売られた。翌年、その仔は浦河で生まれることになる。息子が二か月後の中山でどうなるかを、このときは誰も知らない。 11月13日、東京、京王杯2歳ステークス。鞍上はミルコ・デムーロに替わった。7番人気。芝1400メートルを1分21秒8、上がり33秒7で駆け、リアルインパクトを4分の3馬身抑えて重賞をひとつ手に入れる。 12月19日、中山、朝日杯フューチュリティステークス。16頭立ての5番人気、単勝14.6倍。1番人気は単勝1.8倍のサダムパテックだった。中団で運び、直線で外へ持ち出すと、内の馬をまとめてかわして先頭でゴール板を過ぎる。上がり34秒5、1分33秒9。直線で外へ張ったことが審議の対象になったが、着順はそのまま確定した。 2着は最内から伸びたリアルインパクト、3着リベルタス、4着に1番人気のサダムパテック。2着との差は4分の3馬身で、勝ち馬から4着までは0.2秒しかない。 矢作芳人にとって、これが初めてのGI制覇だった。この調教師のGI初出走もまた朝日杯フューチュリティステークスで、2005年、スーパーホーネットで2着に敗れている。五年かけて、同じ中山のマイルに戻ってきた。 年が明け、グランプリボスは2010年度のJRA賞最優秀2歳牡馬に選ばれる。

八日後の府中

3歳の春は、距離との相談から始まった。3月26日、阪神のスプリングステークス。芝1800メートルを4番手で追走し、4コーナーで先頭に立って直線を向いたが、そこから伸びずに4着。勝ったのはオルフェーヴルである。陣営は皐月賞を回避し、NHKマイルカップに目標を定めた。 4月9日のニュージーランドトロフィーは1番人気で3着。エイシンオスマンから0.2秒差だった。 4月30日、社台スタリオンステーションで、父サクラバクシンオーが心不全により死んだ。22歳だった。 その8日後、5月8日。東京、NHKマイルカップ。鞍上はオーストラリアのクレイグ・ウィリアムズ。18頭立ての1番人気、単勝4.6倍。中団やや前の7番手で折り合い、直線で馬群の外へ出すと、残り100メートルで一気に抜け出した。1分32秒2、上がり34秒0。2着コティリオンに0.2秒。 1400メートルより長い距離で9戦して一度も勝てなかった父の仔が、1600メートルのGIを勝った。しかも二つ目である。JRA賞最優秀2歳牡馬に選ばれた馬がNHKマイルカップを制したのは、これが初めてだった。 生産したノーザンファームの吉田勝己は、レースのあと、体つきが素晴らしいと褒めたうえでこう続けている。「サクラバクシンオーの後継種牡馬になれる」[^1]

出典:スポーツニッポン「【NHKマイルC】ボス絶賛「後継種牡馬になれる」」2011年5月9日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2011/05/09/kiji/K20110509000782450.html 、閲覧日:2026年7月30日。

アスコットの九頭

6月5日、東京。安田記念に、3歳のリアルインパクトが出ていた。京王杯2歳ステークスで4分の3馬身、朝日杯フューチュリティステークスでゴール前、NHKマイルカップで3着──三度続けてグランプリボスの後ろにいた馬である。9番人気だったその馬は直線で抜け出し、同じ厩舎のストロングリターンをクビ差抑えて勝った。グレード制が敷かれて以降、3歳馬が安田記念を勝ったのは初めてだった。 その9日後、6月14日。イギリス、アスコット競馬場。セントジェームズパレスステークス。グランプリボスは海を渡っていた。鞍上はミルコ・デムーロ。 9頭立てだった。勝ったのはフランケル。2008年2月11日生まれ、この馬より一か月半ほど早く生まれた同期である。生涯14戦14勝、GI10勝でターフを去ることになる馬だった。2着ゾフニー、3着エクセレブレーション、5着ドリームアヘッド。九頭しかいないゲートに、その年の欧州マイル戦線が詰まっていた。 グランプリボスは8着だった。日本の2歳王者と3歳マイル王の称号を持って海を渡り、この馬は世界のマイルの厚みを、馬群のうしろから見た。

マイルの底

秋、10月29日の京都、スワンステークス。イオリッツ・メンディザバルを背に2番人気で8着。11月20日のマイルチャンピオンシップはデムーロで6番人気の13着、勝ち馬から1.0秒差。12月17日の阪神カップは5番人気で、直線から抜け出してサンカルロと並び、ハナ差の2着だった。 年が明けた2012年、陣営は初めてダートを試す。2月19日、東京、フェブラリーステークス。先団を進んだが直線で失速して12着。4月のマイラーズカップは58キロを背負って13着、5月の京王杯スプリングカップは7着。このとき勝ったのはサダムパテックである。中山の暮れに4着へ退けた相手が、東京の1400メートルで先に戻ってきていた。 朝日杯からNHKマイルカップまで、この馬はおよそ五か月で二つのGIを取った。そのあとの一年は、掲示板の外にいる時間のほうが長い。

二度の、クビ差

2012年6月3日、東京、安田記念。18頭立ての13番人気、単勝25.3倍。鞍上は内田博幸。手応えは抜群だった。残り300メートルでラッキーナインの外へ持ち出してゴーサインを出すと、そこへ外からストロングリターンが来る。クビ差の2着。1分31秒3、上がり33秒9。 秋は毎日王冠を14番人気の6着で始め、10月27日のスワンステークスを勝った。上がり33秒2、2着テイエムオオタカに1馬身4分の1。重賞4勝目である。 11月18日、京都、マイルチャンピオンシップ。1番人気、単勝4.0倍。サダムパテックを内に見ながら中団で折り合った。直線を向いて追い出そうとしたところで前の数頭が外へ張り出し、進路が塞がる。立て直してから使った上がり3ハロン34秒0はメンバー最速だったが、内で粘ったサダムパテックとの間には、クビ差だけが残った。 レース映像を何度も見直した内田は「致命的な不利だった」と言い、馬には頭が下がる、と続けた[^1]。矢作にとっては、スーパーホーネットで挑んだ2007年、2008年に続く、このレース三度目の2着である。 12月9日、沙田。香港マイル。12頭立ての7番人気で、12着。勝ったのはアンビシャスドラゴンだった。

出典:スポーツニッポン「【マイルCS】ボス上がり最速も首差2着 内田「致命的な不利」」2012年11月19日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2012/11/19/kiji/K20121119004584100.html 、閲覧日:2026年7月30日。

もう一度、京都のマイルを

2013年4月21日、京都、マイラーズカップ。鞍上は浜中俊で、この馬に乗るのは初めてだった。18頭立ての5番人気。好位で折り合い、外を回らされないよう気をつけて運び、直線で差し切る。1分32秒6、2着サンレイレーザーに0.1秒。重賞5勝目であり、そのまま、この馬の最後の勝利になった。 矢作は、去年は肝心なところを取りこぼした、今年はすべて勝つつもりでいく、と言った。狙いは安田記念だった。 6月2日、東京、安田記念。2番人気に推されて10着。勝ったのはロードカナロアである。9月のスプリンターズステークスは3番人気の7着で、ここでもロードカナロアが連覇した。10月のスワンステークスは7着。11月17日のマイルチャンピオンシップはクリストフ・ルメールを背に9着に終わり、勝ったのはトーセンラー──同じ2008年に生まれた一頭だった。 5歳の一年は5戦1勝。春の京都で一つ勝った以外、掲示板に載ることはなかった。

一四八・四倍

2014年、この馬は6歳になっていた。初戦は6月8日、東京、安田記念。雨で馬場は不良に渋り、17頭立ての16番人気、単勝は148.4倍だった。 鞍上は三浦皇成。2008年にデビューし、その年に91勝を挙げて新人の年間最多勝記録を塗り替えた男である。記録から6年が過ぎて、まだJRAのGIを勝っていなかった。 泥の府中で、この馬は残り100メートルのところで馬群を割り、いったん完全に先頭へ出た。内から迫ってきたのは1番人気のジャスタウェイ──3か月前のドバイデューティフリーを2着以下に6馬身以上ちぎって勝ち、この年のワールドベストレースホースに選ばれる馬である。三浦が手綱を押す。押し切れなかった。1分36秒8、上がり37秒2。2着。 単勝148.4倍の馬が、世界一と呼ばれた馬より前にいた時間が、ゴール板の手前に100メートルだけあった。着順の数字には、それは残らない。

沙田の三着 ── 四年四か月

10月5日、スプリンターズステークス。この年は中山競馬場の改修工事のため、新潟競馬場で行われた。三浦を背に4番人気、好位から伸びて4着。勝ったスノードラゴンとの差は0.1秒だった。 11月23日、京都、マイルチャンピオンシップ。7番人気の6着。勝ったのはダノンシャークである。 12月14日、沙田。香港マイル。10頭立ての8番人気。鞍上は岩田康誠──2010年8月14日、札幌の新馬戦でこの馬に初めて跨った男だった。1分34秒2で3着に入る。1着エイブルフレンド、2着ゴールドファン。海外3戦で掲示板に載ったのは、これが唯一である。 これが最後の一戦になった。12月28日、競走馬登録抹消。28戦6勝、獲得賞金5億4430万4800円。重賞5勝、うち二つがGIだった。デビュー戦と引退戦で手綱を取ったのは、同じ男である。

日高の草、そして十一年後の中山

2015年、北海道新ひだか町のアロースタッドで種牡馬になった。初年度は123頭の繁殖牝馬と交配され、75頭が血統登録される。朝日杯とNHKマイルカップを勝った馬だから、2歳から動く産駒が出ると見られていた。 だが2018年、最初の世代の2歳戦は長かった。JRAでは勝てないまま94敗を数える。初勝利は地方が先で、7月20日のナインシュヴァハ。JRAでは年を越して、2019年1月20日、京都のアスカノダイチだった。 そこから少しずつ、名前が出るようになる。2019年6月4日、ロンギングルックが金沢の石川ダービーを勝つ。岩手ではリュウノシンゲンが東北優駿を含む重賞を重ね、佐賀へ移ってからも走り続けた。そして2021年8月、モズナガレボシが小倉記念を勝ち、産駒によるJRA重賞初制覇が成る。産駒には、芝よりダートで走る馬が多かった。 後継種牡馬になれると言われた血は、父ほどの規模にはならなかった。それでも、その名は各地の勝ち馬表に散らばって残っている。2021年10月に浦河町の谷川牧場へ移り、2022年からの種付けは同じ浦河のイーストスタッドで行われた。2024年12月7日、用途変更。種牡馬としての務めを終え、日高町のYogiboヴェルサイユリゾートファームへ送られる。2025年からは功労馬繋養支援事業の助成対象となり、いまも同じ場所にいる。 そして2025年9月28日、中山、スプリンターズステークス。11番人気のウインカーネリアンに騎乗した三浦皇成が、直線の叩き合いで武豊のジューンブレアをアタマ差抑えた。デビュー18年目、127回目のGI騎乗である。GI初騎乗もまた、スプリンターズステークスだった。 「本当に長かったですね」[^1] 不良の府中で、あと一完歩だけ足りなかった馬と男がいる。馬はいま日高で草を食んでいる。男は十一年かけて、自分が初めてGIに乗ったのと同じレースへ戻り、今度は先にゴール板を過ぎた。

出典:日刊スポーツ「【スプリンターズS】「本当に長かったですね」三浦皇成騎手が127回目の挑戦でG1初制覇!」2025年9月28日配信、https://www.nikkansports.com/keiba/news/202509280000948.html 、閲覧日:2026年7月30日。

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