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グレイスティアラ
通算成績12戦4勝
獲得賞金1億3,221万円
生年月日 2003.05.11(平成15年)毛色 鹿毛性 牝
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 3 | GIIIクイーン賞 | 船橋 ダ1800 | 1人気 | 田中勝春 | 1:53.4 | 上り38.7 | — | |
| 6 | GIJBCマイル | 川崎 ダ1600 | 6人気 | 田中勝春 | 1:41.5 | 上り40.0 | — | |
| 2 | GIIIスパーキングレディー | 川崎 ダ1600 | 2人気 | 田中勝春 | 1:41.8 | 上り39.5 | — | |
| 2 | GII関東オークス | 川崎 ダ2100 | 1人気 | 田中勝春 | 2:18.5 | 上り39.8 | — | |
| 1 | GII兵庫チャンピオンシップ | 園田 ダ1870 | 2人気 | 田中勝春 | 2:01.2 | — | — | |
| 15 | GI桜花賞 | 阪神 芝1600 | 13人気 | 田中勝春 | 1:36.5 | 上り37.2 | 映像 | |
| 2 | OPアネモネS | 中山 芝1600 | 6人気 | 田中勝春 | 1:35.4 | 上り34.9 | — | |
| 1 | GI全日本2歳優駿 | 川崎 ダ1600 | 4人気 | 田中勝春 | 1:42.3 | 上り39.2 | — | |
| 16 | GI阪神ジュベナイルフィリーズ | 阪神 芝1600 | 12人気 | 田中勝春 | 1:39.8 | 上り38.2 | 映像 | |
| 1 | GIIIエーデルワイス賞 | 門別 ダ1200 | 2人気 | 田中勝春 | 1:13.7 | 上り38.0 | — | |
| 4 | GIII新潟2歳S | 新潟 芝1600 | 15人気 | 伊藤直人 | 1:36.4 | 上り35.7 | — | |
| 1 | 2歳新馬 | 新潟 ダ1200 | 1人気 | 田中勝春 | 1:14.1 | 上り38.4 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父フジキセキFuji Kiseki | サンデーサイレンスSunday Silence | Halo |
| Wishing Well | ||
| ミルレーサーMillracer | Le Fabuleux | |
| Marston's Mill | ||
| 母ロイヤルティアラ | ノーザンテーストNorthern Taste | Northern Dancer |
| Lady Victoria | ||
| ロイヤルコスマー | ロイヤルスキー | |
| マツチレスネイティヴMatchless Native |
旅程 — この馬の物語
2003年生まれの鹿毛の牝馬。父フジキセキ、母ロイヤルティアラ。
母の名から、冠だけを
2003年5月11日、北海道門別の下河辺牧場に鹿毛の牝馬が生まれた。父フジキセキ、母ロイヤルティアラ。母は中央で5勝を挙げながら準オープンで頭打ちになり、その母ロイヤルコスマーは1985年の桜花賞で2着に敗れている。ロイヤル、ティアラと、名前だけは王室めいた牝系である。それでいて母も祖母も、その冠には手が届かなかった。 生産した牧場がそのまま馬主となり、美浦の手塚貴久に預けられた。名前は、母から冠の部分だけを受け取ったように見える。ロイヤルが落ちて、ティアラが残った。 デビューは2005年8月13日、新潟のダート1200m。単勝1.5倍の1番人気に応え、2着に0.4秒差をつけて勝ち上がる。鞍上は田中勝春。この日から最後の一戦まで、彼女の背にはほとんどいつもこの男がいた。 例外は一度だけである。9月4日の新潟2歳ステークス、芝1600m。田中勝春はこの日ショウナンタキオンに騎乗し、そのまま勝った。グレイスティアラの手綱を取ったのは伊藤直人で、単勝は98.2倍。それでも上がり3ハロン35秒7の脚で4着まで押し上げている。芝がまるで走れないわけではない、と分かった一戦だった。 10月20日、門別のエーデルワイス賞。ダート1200mに戻すと、1番人気アイアムエンジェルを1馬身半突き放して重賞初制覇。鞍上は田中勝春に戻っていた。
十三年
田中勝春がGIを勝ったのは、1992年の安田記念、ヤマニンゼファーの一度きりだった。大外枠を苦にせず勝ち、ゴール前で派手なガッツポーズを見せた。翌1993年の天皇賞(秋)では師である藤原敏文の管理馬セキテイリュウオーに乗り、ハナ差の2着に敗れる。先着したのは、前年に自分をGIへ運んだヤマニンゼファーだった。後年、その夜を彼はこう振り返っている。「情けないやら悔しいやらでその晩は涙が止まりませんでした」[^1] そこから、勝てない時間が始まった。2004年のオークスで連敗は100に達し、2005年の朝日杯フューチュリティステークスを終えた時点では125を数えていた。リーディング上位を毎年うかがう関東の中心どころが、大レースにだけ手が届かない。愛称はカッチー。名前は誰もが知っていた。それでも1992年を最後に、その名がGIの勝者欄に載ることはなかった。 12月4日、阪神ジュベナイルフィリーズ。芝1600mの彼女は12番人気で、勝ったテイエムプリキュアから2秒5離された16着に沈む。二歳牝馬の頂点は、遠いというより、見えなかった。 次の一戦まで、17日しかなかった。
出典:Number Web「『涙が止まらなかった』天皇賞秋、デビュー直後のバセドウ病、恩師の死…今月50歳、田中勝春の波瀾の半生」2021年2月5日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/846908?page=2 、閲覧日:2026年8月1日。
十二月二十一日、川崎
川崎のダートは良、空は晴れていた。師走の平日、砂のマイル。ゲートに収まった顔ぶれはすべて牡馬で、そのなかに牝馬は彼女ひとりだった。枠は大外。牡馬より軽いものを背負っている、それだけが有利といえば有利だった。 前走の記憶はまだ新しい。芝の大舞台で、見せ場なく敗れたばかりだった。同じ馬が、同じ人を乗せて、砂の上に立っている。 決着したとき、先頭にいたのは彼女だった。追ってきたのは岩手のアテスト、そのすぐ後ろに一番人気のモエレソーブラッズ。三頭は一馬身あまりのなかでゴール板を過ぎている。彼女とアテストのあいだに残ったのは、四分の三馬身。それだけだった。 武豊も、福永祐一も、四位洋文も、その後ろにいた。関西の一線級をまとめて背中に置いて、川崎の砂を最初に抜けたのは、牡馬に囲まれた一頭の牝馬である。 この競走を牝馬が勝ったのは、十九年ぶりのことだった。そして、鞍上の長い連敗はこの日で終わった。
桜には届かなかった
明けて3歳。陣営はクラシックを目指し、3月11日のアネモネステークス(中山・芝1600m)から始動した。6番人気の低い評価をよそに、上がり3ハロン34秒9という自身最速の脚を使って2着に食い込み、桜花賞の優先出走権をつかむ。祖母が2着に敗れた舞台に、孫が立つことになった。 4月9日、阪神。13番人気の彼女は、勝ったキストゥヘヴンから1秒9離された15着だった。芝1600mのGIで、二度とも同じ壁に当たったことになる。 祖母が届かなかった桜に、孫も届かなかった。陣営はダート路線へ戻す決断をする。砂の上でだけ、この馬はまだ一度も負けていなかった。
園田のクビ差
5月4日、園田競馬場のダート1870m、兵庫チャンピオンシップ。1番人気は角居勝彦厩舎のフレンドシップ、鞍上は四位洋文。全日本2歳優駿で彼女の後ろにいた男が、今度は最大の敵として同じゲートに入っていた。 牡馬の55キロに対し、牝馬の彼女は53キロ。二頭は3着のジョイーレを4馬身突き放し、最後にはクビの差だけが残った。前にいたのはグレイスティアラだった。 これでダートは4戦4勝。芝では4戦して一度も勝てず、砂では一度も負けていないという、奇妙に対称な戦績が出来上がった。 二か月後、フレンドシップはジャパンダートダービーを勝つ。彼女がクビ差だけ先に走った相手は、その年の三歳ダート王者になった。
クビ、半馬身、アタマ
6月14日、川崎の関東オークス。単勝2.1倍の1番人気に推されながら、チャームアスリープにクビ差だけ届かず2着。ダートでの初めての敗戦だった。 7月5日、雨の川崎。不良馬場のスパーキングレディーカップでは、6歳のレマーズガールに半馬身及ばず2着。3歳の彼女は勝った相手より3キロ軽い斤量だったから、この半馬身は素直に力の差だった。 11月2日のJBCマイルは古馬の一線級が揃う舞台で、不利もあって6着。それでも5着とはアタマ差である。12月6日、船橋のクイーン賞は1番人気で3着に終わり、勝ったのはまたレマーズガールだった。 クビ、半馬身、アタマ。3歳の後半、彼女はいつも何かの半分だけ足りなかった。 そしてクイーン賞が最後の一戦になった。脚部不安で戦列を離れたまま4歳の一年が過ぎ、2007年10月14日、JRAの競走馬登録が抹消される。二歳の暮れに川崎で立った場所が、結局いちばん高いところだった。
扉
引退後は生まれ故郷の下河辺牧場で繁殖牝馬になった。2009年の初仔マーメイドティアラから2019年のハロースクロールまで七頭を産み、六番仔のダノンロイヤルは高知に移って53戦11勝を挙げている。2019年12月11日、その牧場で息を引き取った。16歳だった。最後に産んだハロースクロールは、母を預かったのと同じ手塚貴久の厩舎へ送られていった。 師の馬でハナ差に敗れた夜のことを、田中勝春は後年になって語っている。彼のGIの時計は、1992年の安田記念からおよそ十三年止まったままだった。針を動かしたのは、名血の大物でも、大金で競り落とされた素質馬でもない。芝では二度大敗し、砂の上でだけ強かった、牧場が自分で持った二歳の牝馬である。扉が開いてからは速かった。2007年の皐月賞でヴィクトリーに乗って中央のGIを十五年ぶりに勝ち、同じ年に国外のGIも手にした。2010年にはビッグロマンスで全日本2歳優駿をもう一度勝っている。2023年の暮れに鞍を降り、いまは調教師として自分の馬を送り出す側にいる。手塚貴久にとってもグレイスティアラがGI初勝利で、そこから朝日杯フューチュリティステークスを勝ち、2013年には桜花賞を勝った。祖母が届かず、彼女も届かなかったあの桜に、厩舎はのちに届いたことになる。 カッチーは勝てない、という話は、あの十二月の一日を境にして少しずつ過去になっていった。その日、川崎の砂を最初に抜けたのは、牡馬にぐるりと囲まれた、たった一頭の牝馬だった。
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