名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

名馬録
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ファストフォースのイメージビジュアル
ファストフォースFirst Force
First Force

ファストフォース

通算成績29戦7勝

獲得賞金31,384万円

生年月日 2016.05.09(平成28年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ファストフォースの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
1 GI高松宮記念 中京 芝1200 12人気 団野大成 1:11.5 上り35.5映像
2 GIIIシルクロードS 中京 芝1200 10人気 団野大成 1:07.3 上り33.1映像
4 OPタンザナイトS 阪神 芝1200 5人気 鮫島克駿 1:08.6 上り33.9
7 GIII京阪杯 阪神 芝1200 9人気 団野大成 1:08.1 上り33.7映像
10 GIスプリンターズS 中山 芝1200 12人気 団野大成 1:08.3 上り35.5映像
2 GII産経賞セントウルS 中京 芝1200 6人気 団野大成 1:06.6 上り34.0映像
10 GIIITV西日本北九州記念 小倉 芝1200 8人気 松山弘平 1:07.5 上り34.3映像
12 GIIICBC賞 小倉 芝1200 4人気 松山弘平 1:07.4 上り35.3映像
9 GI高松宮記念 中京 芝1200 16人気 柴山雄一 1:08.6 上り34.7映像
9 GIII夕刊フジオーシャンS 中山 芝1200 3人気 鮫島克駿 1:08.5 上り34.7映像
7 GII阪神カップ 阪神 芝1400 11人気 小崎綾也 1:21.0 上り35.7映像
3 GIII京阪杯 阪神 芝1200 6人気 小崎綾也 1:09.0 上り34.7映像
15 GIスプリンターズS 中山 芝1200 8人気 鮫島克駿 1:08.6 上り34.4映像
2 GIIITV西日本北九州記念 小倉 芝1200 4人気 鮫島克駿 1:08.4 上り34.7映像
1 GIIICBC賞 小倉 芝1200 8人気 鮫島克駿 1:06.0 上り33.7映像
8 桂川S 京都 芝1200 1人気 松山弘平 1:10.7 上り35.8
6 長篠S 中京 芝1200 2人気 松山弘平 1:08.8 上り34.4
1 西部スポニチ賞 小倉 芝1200 1人気 松山弘平 1:08.3 上り34.8
1 3歳以上1勝クラス 阪神 芝1200 4人気 松山弘平 1:10.8 上り36.2
1 ヒメシャクナゲ特別 門別 ダ1200 1人気 阪野学 1:14.5 上り37.7
1 キンレンカ特別 門別 ダ1200 3人気 阪野学 1:13.4 上り38.3
4 クレマチス特別 門別 ダ1800 1人気 阪野学 1:58.6 上り42.5
1 二輪草特別 門別 ダ1700 1人気 阪野学 1:52.4 上り40.0
15 3歳未勝利 小倉 ダ1700 3人気 松若風馬 1:52.5 上り43.5
2 3歳未勝利 小倉 芝1800 3人気 松山弘平 1:48.3 上り37.2
4 3歳未勝利 小倉 芝1800 3人気 松若風馬 1:47.3 上り37.2
2 3歳未勝利 中京 芝1600 3人気 松若風馬 1:36.9 上り36.0
4 3歳未勝利 中京 ダ1800 5人気 小崎綾也 1:52.8 上り38.7
12 3歳未勝利 阪神 芝2400 3人気 M.デムーロ 2:33.8 上り41.4

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
ファストフォースの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ロードカナロアLord KanaloaキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
レディブラッサムStorm Cat
サラトガデューSaratoga Dew
ラッシュライフサクラバクシンオーSakura Bakushin Oサクラユタカオー
サクラハゴロモ
フレンドレイデインヒルDanehill
マーチンミユキ

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2016年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ロードカナロア、母ラッシュライフ。主な勝ち鞍は高松宮記念・CBC賞。

第一の力 ― 浦河、三嶋牧場

父はロードカナロア、母の父はサクラバクシンオー。日本の短距離を代表する二頭の血をこれ以上ないほど濃く受けて、その黒鹿毛は2016年5月9日、北海道浦河町の三嶋牧場に生まれた。母ラッシュライフも中央で2勝を挙げ、2005年の函館2歳ステークスとファンタジーステークスでいずれも2着に食い込んだスピードの牝馬である。馬主の安原浩司が与えた名はファストフォース。由来は「第一の力」だという。 2歳のうちは走らせなかった。デビューは2019年6月15日、阪神競馬場の3歳未勝利戦。距離は芝2400メートルだった。ミルコ・デムーロを鞍上に3番人気の支持を受けたが、勝ったメロディーレーンから5秒0も離された12着に終わる。短距離の血を持つ馬の第一歩は、その血がもっとも似合わない距離で刻まれた。 その後は中京と小倉で5戦。芝1600メートルで2着、芝1800メートルでは0秒1差の2着まで迫りながら、どうしても一つが勝てない。母の仔には5歳上の半兄アデイインザライフ(父ディープインパクト)がいて、こちらは2016年の新潟記念を勝っていた。同じ母から出たその弟は、6戦して未勝利のまま夏を終える。2019年8月28日、JRAの競走馬登録は抹消された。

門別の四戦 ― ダートで見つけた答え

移った先は、ホッカイドウ競馬の田中淳司厩舎だった。中央を追われた馬が、生まれ育った北海道に戻り、門別競馬場のダートに立つ。 再出走まで七か月あまりを要した。2020年4月16日、二輪草特別(ダート1700メートル)に阪野学を背に1番人気で出走し、初めての勝利を挙げる。5月5日のクレマチス特別(ダート1800メートル)は4着に沈んだが、距離を1200メートルに詰めた5月21日のキンレンカ特別では、のちに重賞を勝つアザワクを4馬身突き放した。6月3日のヒメシャクナゲ特別も、2着に1秒1差をつけて完勝している。 門別で4戦3勝。走るたびに距離は短くなり、短くなるほど強くなった。6月9日に地方競馬の登録を抹消し、その2日後にはJRAへ再転入している。北海道で得たものは3つの勝ち星だけではない。自分の距離がどこにあるのかという、中央では見つからなかった答えだった。

同じ厩舎へ帰る ― 西村真幸

帰り着いた先は、送り出したのと同じ栗東・西村真幸厩舎だった。 西村は1976年、北海道様似町の競馬とは縁のない家に生まれている。同級生の牧場を手伝ううちに馬に惹かれ、2002年にJRA競馬学校へ入り、調教助手を経て2013年に調教師試験に合格、2015年3月に自分の厩舎を開いた。ラッシュライフの仔とは縁が深く、ファストフォースの一つ下の弟ブルージーン(父キングカメハメハ)も同じ厩舎の管理馬である。一度は手放した馬をもう一度預かるとは、その馬の何を信じるかを決めることでもある。 2020年7月11日、阪神の3歳以上1勝クラス。芝1200メートル、重馬場。松山弘平を背にした4番人気の黒鹿毛は、2着に0秒4差をつけて押し切った。8月23日には小倉の西部スポニチ賞を1番人気で、グランマリアージュとのクビ差の競り合いを制して連勝する。芝の短距離という答えは、中央でも通用した。 もっとも、3勝クラスの壁は薄くなかった。9月の長篠ステークスは2番人気で6着、10月の桂川ステークスは1番人気に推されながら8着。4歳の一年は、そこで終わっている。

一分六秒〇 ― 二〇二一年CBC賞

2021年は前半を休養に充て、始動戦にいきなり重賞を選んだ。7月4日、小倉のCBC賞。3勝クラスの身での格上挑戦、ハンデは52キロ、8番人気だった。 この日の小倉の芝は、異様に時計が出ていた。前日には芝1200メートルの日本レコードが塗り替えられたばかりで、1999年にアグネスワールドが刻んだ1分6秒5という記録は、すでに1分6秒4になっていた。 鮫島克駿は迷わずハナを切った。直線に入っても先頭を譲らず、追い上げてきたピクシーナイトを振り切ってゴールする。時計は1分6秒0。前日に生まれたばかりの日本レコードを、さらに0秒4削り取っていた。キャリア15戦目、5歳での重賞初制覇である。 夏はそのまま続いた。8月の北九州記念で2着に粘り、サマースプリントシリーズの王者となる。だが初めてのGI、10月のスプリンターズステークスは15着。11月の京阪杯はまたハナを切って直線でも先頭にいたが、ゴール直前でエイティーンガールとタイセイビジョンに交わされて3着。暮れの阪神カップも粘ったところを後続に飲み込まれ7着だった。頂の風は、まだ冷たかった。

勝てない一年と、新しい鞍上

2022年は、8戦して勝ち星がなかった。 3月のオーシャンステークスは3番人気で9着。3月27日の高松宮記念は16番人気の9着で、勝ったナランフレグとの差は0秒3。7月、自らレコードを刻んだはずのCBC賞では12着に大敗し、8月の北九州記念も10着に終わる。6歳馬に向けられる目は、年の後半になるほど冷えていった。 流れが変わったのは9月11日、中京のセントウルステークスである。手綱を取ったのは団野大成。2000年生まれの滋賀県出身で、この馬が阪神の芝2400メートルで12着に沈んだ2019年に、同じ年デビューを迎えた騎手である。6番人気の伏兵は、メイケイエールから0秒4差の2着に食い込む。 その後もスプリンターズステークス10着、京阪杯7着。暮れのタンザナイトステークスは鮫島克駿に手綱が戻って4着だった。勝ち鞍のないまま、6歳の年は暮れる。それでも年が明けると、団野がふたたび鞍上にいた。

泥の中の一分十一秒五

2023年1月29日、中京のシルクロードステークス。10番人気の7歳馬は好位でしぶとく粘り、勝ったナムラクレアからアタマ差の2着に走った。この一戦が、二か月後の伏線になる。 3月26日、同じ中京の芝1200メートル、高松宮記念。前日から降り続いた雨で、馬場は不良まで悪化していた。単勝32倍あまりの12番人気、18頭立ての13番。1番人気は重賞6勝のメイケイエールだった。 キルロードが引っ張る隊列の、中団の外。団野は思った以上に進みが良く、どこかで一息入れたいと感じながら追走したという。直線、泥を跳ね上げる馬群のなかから力強く伸びて前を捉え、最後まで追いすがるナムラクレアを1馬身抑えた。1分11秒5。一昨年に自ら刻んだ日本レコードとは対極の、重く遅い時計だった。3着には13番人気のトゥラヴェスーラが入り、1番人気メイケイエールは12着に沈んだ。 7歳での初GIである。22歳の団野にとっても、開業9年目の西村にとっても、初めてのGIだった。だがレース後の鞍上の言葉は、喜びだけではなかった。直線での自分の誘導が、隣を走るアグリの進路を狭める形になっていたのである。「最後の直線で12番のアグリをちょっと挟んでしまったので、手放しで喜べないというか反省の多いレースになりました」[^1]。勝った直後に自分の非から数え始めるその声に、この人馬がここまで来た道のりの質が滲んでいた。

出典:中日スポーツ「G1初制覇の団野大成騎手「自分の誘導ミスにより邪魔をしてしまったので…本当に反省」【高松宮記念】」2023年3月26日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/660713、閲覧日:2026年7月24日。

浦河から、新ひだかへ

これが、最後の一戦になった。 2023年6月8日付でJRAの競走馬登録は抹消される。通算29戦7勝、うち門別での4戦3勝。獲得賞金は3億1384万7000円。3歳の夏に一度は登録を消された馬が、7歳の春に春のスプリント王となって現役を終えた。 引退後は北海道新ひだか町のアロースタッドで種牡馬となっている。初年度の種付け料は80万円。2026年には受胎確認後100万円と発表された。生まれ故郷の浦河から日高の海沿いを西へ数十キロ、この馬はいま血を渡す側に立っている。 芝2400メートルで5秒離された馬が、たどり着いたのは1200メートルだった。中央を追われた馬には、帰る場所があった。12番人気の伏兵が、雨の中京で最後に先頭にいた。「第一の力」という名は、生まれた日に託された願いにすぎない。その願いを事実に変えるのに、この黒鹿毛はデビューから三年九か月と、中央と地方の両方を必要とした。

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