名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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フィンガーFinger
Finger

フィンガー

通算成績9戦4勝

獲得賞金2億780万円

生年月日 2023.02.18(令和5年)毛色 鹿毛性 牡

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
フィンガーの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
11 GIパシフィックCS デルマー ダ2000 3人気 戸崎圭太 —
1 JpnⅠ東京ダービー 大井 ダ2000 2人気 戸崎圭太 2:04.4 上り39.1
1 JpnⅠ羽田盃 大井 ダ1800 3人気 戸崎圭太 1:52.7 上り38.8
2 JpnⅡ京浜盃 大井 ダ1700 1人気 戸崎圭太 1:46.8 上り37.4
1 JpnⅢブルーバードC 船橋 ダ1800 1人気 戸崎圭太 1:55.4 上り37.6
1 3歳未勝利 中山 ダ1800 1人気 戸崎圭太 1:54.5 上り37.9
2 2歳未勝利 東京 ダ1600 1人気 戸崎圭太 1:37.6 上り36.8
2 2歳未勝利 東京 ダ1600 3人気 戸崎圭太 1:37.6 上り36.9
2 2歳新馬 中山 ダ1800 3人気 戸崎圭太 1:56.0 上り38.4

血統

金色の名は掲載馬 — その馬のページへ/点線の名は押すと一言解説
フィンガーの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
Candy Girl
Quiet Dance
Forest Music
Bazinga Baby
Elizaveta
STORY

旅程 — この馬の物語

2023年生まれの鹿毛の牡馬。父Gun Runner、母エスティロタレントーソ。主な勝ち鞍は羽田盃・東京ダービー・ブルーバードC。

「指」という名 ― 六十万ドルの母

2023年2月18日、北海道新ひだか町の高橋ファームで、鹿毛の牡馬が生まれた。母は前の年まで、ケンタッキーにいた。 母エスティロタレントーソは、アメリカで走った鹿毛の牝馬である。2歳のセールで1万5000ドルで買われ、勝ち上がるまでに6戦を要した。それでも走るたびに良くなり、4歳になった2021年にはベッドオーロージズステークス(GⅢ)を勝ち、マディソンステークス(GⅠ)で2着に入る。17戦して3勝、2着が9回。勝ちきれない日を重ねながら、一線級にたどり着いた牝馬だった。 その年の11月、ファシグ・ティプトンのセールで日本の買い手が60万ドルで落札する。翌年、ケンタッキーでガンランナーを受胎したまま海を渡り、新ひだかで初めての仔を産んだ。父ガンランナーは2017年のブリーダーズカップ・クラシックを勝ち、その年のアメリカ年度代表馬に選ばれた種牡馬。父も母もアメリカの砂で名を上げた血を、日本で産ませた「持ち込み馬」である。母はその後、キズナ、キタサンブラックとの間に弟と妹を産んでいる。 名はフィンガー。英語で、人の指。馬主のエムズレーシングは、ラウンドワン社長・杉野公彦のオーナー名義で、冠名を使わない。凝った由来を持たない、短い名だった。母系を遡ると4代母カレッツァに行き着く。フランスとアメリカで走った牝馬で、その半弟が2003年のジャパンカップを逃げ切ったタップダンスシチーである。 預けられたのは美浦の田中博康厩舎。手綱を取るのは戸崎圭太。この二人が、デビューから一度も替わることなく、この馬の背に乗り、脇に立ち続ける。

三つの二着 ― 二〇二五年、秋

2025年9月27日、中山のダート1800メートルで新馬戦を迎えた。3番人気。直線で差されて2着。11月の東京では未勝利戦を二度走り、どちらも2着だった。一度はクビ差、次は単勝1.5倍に支持されながら半秒届かなかった。 勝てない。けれど負け方は悪くない。デビューから初勝利までのこの時期を、厩舎の山﨑啓行調教助手はのちに、良い馬だが本当に良くなるのは先だろうと見ていた、と振り返っている。馬体は540キロを超える。大きな体を、まだ持て余していた。 母も勝ち上がるまでに6戦を要した。2着を九つ重ねた牝馬の初仔は、同じ場所から始めていた。

一秒九 ― 中山、船橋、京浜盃

年が明けた2026年1月4日、中山のダート1800メートル。ゲートを出て先頭に立ち、そのまま一度も譲らなかった。2着に1秒9。着差は大差と記録された。三つの2着のあとに来たのは、勝ち方を覚えたというより、走り方を見つけた一戦だった。 中17日で船橋へ向かう。1月21日のブルーバードカップは、2024年に整備されたダート三冠路線の入口にあたる重賞である。単勝1.8倍。3番手で運び、後半のコーナーで動いて1馬身半。重賞初挑戦で初勝利だった。上のクラスで戦えると初めて思わせたのはこの勝ち方だった、と田中はのちに語っている。 3月25日、大井の京浜盃。7頭立ての1番人気で、馬体重は前走から10キロ増えていた。稍重の1700メートルで、ロックターミガンに3馬身及ばない2着。気持ちが入り過ぎていた、と田中は見た。10キロ増も、健康的な増加には見えなかった。距離も明らかに短かった。 負けはしたが、羽田盃への優先出走権は手に入った。この2着が、次の一戦の形を決めることになる。

四コーナー ― 羽田盃

4月29日、大井。雨で稍重になった1800メートルに、13頭が並んだ。単勝で頭ひとつ抜けていたのは京浜盃を勝ったロックターミガン、続いてリアライズグリント。前哨戦で負けたフィンガーは、3番人気だった。 陣営の答えは、前に行くことだった。外めの枠からゲートを出ると、戸崎は最初から押した。1コーナーへ、先頭で入る。ロックターミガンが後ろについた。 ここで一息つけるはずだった。だが2コーナーの外から、出負けして位置を悪くしていたリアライズグリントが、先頭を奪う勢いで上がってくる。ロックターミガンもつられて上がる。向正面に入ったとき、内からフィンガー、ロックターミガン、リアライズグリント。三頭が横に並んで走っていた。 戸崎の感覚は、少しペースを落としすぎたか、というものだった。だから皆の位置が落ち着かない。馬はいい気分で走っている。そう思って、動かなかった。 三頭のまま3コーナーを回る。4コーナーで、二頭がもう一度来た。ロックターミガンが外から、リアライズグリントがそのまた外から並びかける。戸崎の手が動いていた。手応えは、良くなかった。 見ていた田中は、このとき負けを覚悟している。「羽田盃は4コーナーで〝これは負けるな〟と思いました」[^1]。2着に残れるかどうかではなく、後続にのみ込まれる、と。 直線に向いた。並ばれたところから、フィンガーは下がらなかった。二頭の脚が鈍り、内で粘っていたフィンガーがもう一度伸びる。差し返した。そこから、離した。 3馬身。田中は思った。あそこから粘るんだ、と。

出典:東スポ競馬「23日午前の米GⅠに挑むフィンガー 田中博康調教師ロングインタビュー「なかなか見ないタイプです」」2026年8月20日配信(Yahoo!ニュース配信面で本文確認)、閲覧日:2026年9月5日。

三十五秒一 ― 東京ダービー、古巣の男

六週間後の6月10日、同じ大井の2000メートル。前の日曜、田中博康はシックスペンスで安田記念を勝ったばかりだった。厩舎が芝のGIを勝ったのは初めてである。その3日後に、ダートの二冠がかかっていた。 雨で重馬場。16頭。1番人気はユニコーンステークスを勝ってきたシルバーレシオで、フィンガーは2番人気だった。6枠12番。今度は外枠で、逃げられない可能性も田中は考えていた。朝、戸崎と打ち合わせをする。答えは前と同じだった。この馬の良さを引き出すなら、タフな競馬。 ゲートが開いて、4番枠のロックターミガンが行く構えを見せる。戸崎は外から押して、譲らなかった。1コーナーへ、先頭。最初の3ハロン(600メートル)は35秒1。前の年にナチュラルライズが逃げ切ったときより、1秒1も速い。ゴール近くの外ラチで見ていた田中は、1コーナーまでの入りがとても速いと思った。それでも不安にはならなかった。この馬のスタミナは豊富だ、抜かされないだろう、と。 向正面。2番手にロックターミガン、3番手にリアライズグリント。羽田盃と同じ顔ぶれが、同じ順で追ってくる。4コーナーで、先に手応えが怪しくなったのはロックターミガンのほうだった。リアライズグリントにも勢いはない。フィンガーは余力を残したまま、直線に向いた。 後方で脚をためていたシルバーレシオが、直線の半ばを過ぎてから来る。届かなかった。1馬身1/4。3着はリアライズグリント。2分4秒4で、ダート二冠。 「前走もそうだったのですが、手応えは悪くなるんですけど、そこからのしぶとさがこの馬の持ち味かなと思っています」[^1]。戸崎はそう言った。 戸崎圭太は1998年に大井でデビューし、2013年に中央へ移った騎手である。東京ダービーは、大井の騎手だったころに四度勝っていた。五度目は中央の騎手として、古巣の砂で来た。羽田盃も三度目。田中には初めての東京ダービーだった。前の年、この二人はナルカミでジャパンダートクラシックを勝っている。三冠の三つのレースを、二頭で、二年で勝ったことになる。 田中は、スーパーホースという言葉を使った。このペースで粘りきるのは、並大抵の馬にはできないことだ、と。

出典:スポーツナビ(JRA-VAN)「【東京ダービー】「夢のある馬」二冠達成“砂の新怪物”フィンガー 次は三冠、海外遠征も視野に」2026年6月11日配信、https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/2026061100012-spnaviow、閲覧日:2026年9月5日。

デルマー ― 前に行けなかった日

夏、目標はアメリカに置かれた。8月22日、デルマー競馬場のパシフィッククラシック。父ガンランナーが2017年のブリーダーズカップ・クラシックを勝った、その砂である。招待競走ではない。田中は2月の時点で、国内で結果が出ればアメリカへ、とオーナーに打診していた。父も母もあちらの血で、あちらの競馬に合うはずだと見ていた。ジョッキーには積極的に乗ってほしい。これで負けたら仕方がない、と思える競馬を、と語っている。 気がかりは一つあった。この馬は、馬の後ろにいるとすっと落ち着いてしまい、前に出ていこうとしない。だから逃げてきた。山﨑助手は出国前、あえて前の馬を追いかける形の併せ馬を組んでいる。アメリカでは、理想の形が取れない可能性が高い、と。 11頭立ての3番人気。唯一の3歳馬で、斤量は53.5キロだった。ゲートが開いて、周りが速かった。最初のコーナーを7番手で通過する。先頭ではナイツブリッジとフルセラーノが並び、半マイル(約800メートル)を45秒45で飛ばしていた。向正面で戸崎の手が動く。それでも上がっていけない。3コーナーから4コーナーで後退し、直線では無理をさせなかった。11着、最下位。勝ったナイツブリッジは、2着に6馬身1/4をつけていた。 帰国して、田中は「競馬の質を見誤りました」[^1]と言った。向こうの競馬は前が止まらない。ハナに行ければと思っていたが、ダッシュ力が違って前に行けなかった。 初めて、粘る場面が来なかった。粘る前に、その場所へ行けなかった。

出典:東スポ競馬「フィンガーが米遠征から帰国「かなりきつい競馬でした」11着の結果に田中博康調教師は悔しさを口に」2026年8月26日配信(Yahoo!ニュース配信面で本文確認)、閲覧日:2026年9月5日。

指の向く先

名は、指。それ以上の意味は与えられていない。だから何を指すかは、走りが決めることになる。 田中博康は、この馬をなかなか見ないタイプだと言った。調教では動かない。競馬に行くと、こちらが思う以上に頑張る。羽田盃の4コーナーで負けると思い、粘られて、驚いた男の言葉である。戸崎圭太は、手応えが悪くなってからのしぶとさを持ち味と呼んだ。二人が別々の言葉で指したのは、同じ数百メートルだった。 デルマーで負けた日、そのしぶとさは試されていない。前に行けず、粘る場所に立てなかった。裏を返せば、しぶとさはまだ一度も破られていない。年が明けてからハナを切った三つのレースを、この馬はすべて勝っている。 母は勝ちきれない2着を九つ重ねて、GⅠで走る牝馬になった。初仔は三つの2着から始めて、大井の二冠まで登った。心身ともにまだ未熟、というのが田中の見立てである。それで、この結果だった。 大井を知り尽くした騎手が、古巣の砂で先頭に立つ。4コーナーで一度、手応えが鈍る。そこから、もう一度伸びる。指が何かを指すとすれば、あの区間の先だろう。その先は、まだ誰にも見えていない。

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