名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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エポカドーロのイメージビジュアル
エポカドーロEpoca d'Oro
Epoca d'Oro

エポカドーロ

通算成績10戦3勝

獲得賞金27,636万円

生年月日 2015.02.15(平成27年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
エポカドーロの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
10 GI大阪杯 阪神 芝2000 8人気 戸崎圭太 2:02.0 上り36.5映像
5 GII中山記念 中山 芝1800 3人気 戸崎圭太 1:45.7 上り34.2映像
8 GI菊花賞 京都 芝3000 3人気 戸崎圭太 3:06.9 上り34.8映像
4 GII神戸新聞杯 阪神 芝2400 1人気 戸崎圭太 2:26.1 上り34.5映像
2 GI東京優駿 東京 芝2400 4人気 戸崎圭太 2:23.7 上り34.7映像
1 GI皐月賞 中山 芝2000 7人気 戸崎圭太 2:00.8 上り35.1映像
2 GIIフジTVスプリングS 中山 芝1800 3人気 戸崎圭太 1:48.1 上り34.7映像
1 あすなろ賞 小倉 芝2000 1人気 戸崎圭太 2:00.8 上り35.2
1 3歳未勝利 京都 芝1600 4人気 福永祐一 1:36.1 上り35.8
3 2歳新馬 京都 芝1800 4人気 北村友一 1:50.9 上り34.2

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
エポカドーロの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
オルフェーヴルOrfevreステイゴールドStay GoldサンデーサイレンスSunday Silence
ゴールデンサッシュ
オリエンタルアートメジロマックイーンMejiro McQueen
エレクトロアート
ダイワパッションフォーティナイナーForty NinerMr. Prospector
File
サンルージュシェイディハイツShady Heights
チカノヴァTikanova

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2015年生まれの黒鹿毛の牡馬。父オルフェーヴル、母ダイワパッション。主な勝ち鞍は皐月賞。

三石の、七、八頭 ― 名と血

北海道の三石に、田上牧場という小さな牧場がある。1948年に田上雄一が開いた。田上の家は明治の中ごろ、兵庫の淡路島から北海道へ渡り、本桐、三石と移り住んだ一族である。繋養する繁殖牝馬は数頭、二代目・田上稔の代でも七、八頭を保つ堅実な家族経営で、それ以上には広げなかった。 それでも馬は出た。1983年の桜花賞でシャダイソフィアに次いで2着に粘ったミホクイーン。重賞を勝ったカイラスアモン、ジョウテンブレーヴ。そして2004年の朝日杯フューチュリティステークスを、中山の芝1600メートルで2歳コースレコードを刻んで勝ったマイネルレコルト。七、八頭の腹から、そういう馬が忘れた頃に一頭ずつ出てくる牧場だった。 1989年、その堅実な牧場が一度だけ大きく踏み出す。イギリスのニューマーケットへ渡り、牧場の基軸になるような繁殖牝馬を買いに行ったのである。同じ考えを持つ牧場経営者を二人誘い、三人で金を出し合って輸入したのが、ノーザンダンサーの直仔である鹿毛の牝馬チカノヴァだった。その母は、1980年にアイルランドの1000ギニーと、ロイヤルアスコットのコロネーションステークスと、ニューマーケットのチャンピオンステークスを勝った牝馬である。牝馬を買いに行った町の競馬場で、その母は勝っていたことになる。 産まれた仔は三人で分け合う約束だった。田上のもとに残ったのが、1992年に生まれたシェイディハイツの牝馬で、名をサンルージュという。「太陽」と「三人」の意味を込めた名だった。サンルージュは一度も競馬場に出ないまま繁殖牝馬になり、三石で仔を産み続けた。2003年に生まれた父フォーティナイナーの牝馬が、冠名「ダイワ」の大城敬三に買われてダイワパッションとなる。美浦の増沢末夫厩舎から出て四戦目に初勝利を挙げると、そのまま黒松賞、フェアリーステークス、フィリーズレビューと四連勝、重賞を二つ続けて勝った。桜花賞では四番人気に支持されたが16着に沈み、以後は勝てないまま十七戦四勝で引退して、生まれた三石へ繁殖牝馬として帰ってきた。 ダイワパッションには、初年度から五年続けてダイワメジャーが配された。四番仔からは牧場自身の所有となり、その仔はセレクトセールでビッグレッドファームへ渡っている。六年目はエンパイアメーカーを配して不受胎、空胎のまま一年が過ぎた。 七年目の2014年、交配相手を決める役目が三代目を継ぐ田上徹に移る。徹はその二、三年前から配合を考え続けた末に、ひとつの方針を立てていた――産駒がまだ一頭も走っていない新種牡馬を、積極的に自分の繁殖牝馬にあてがう。実績の分からない種牡馬は、小さな家族牧場にとっては賭けである。だが徹は逆に考えた。分からないからこそ、その仔は市場で売れる。ダイワパッションに選んだのは、引退して間もないオルフェーヴルだった。 2015年2月15日、五番仔の黒鹿毛の牡馬が生まれる。早生まれで、体は薄く、これといって目立つところがない。性格は大人しく、集団で走らせても後ろのほうにいる仔だった。徹はその年7月のセレクトセール当歳セッションに、最低希望価格1800万円で上場する。腹の内では2500万円あたりで落ち着くと踏んでいた。値は3000万円を越え、3400万円で株式会社ユニオンオーナーズクラブの藤原悟郎が落とした。 与えられた名は、イタリア語で黄金の時代を意味する「エポカドーロ」。父オルフェーヴルは金細工師、母の父フォーティナイナーはカリフォルニアの金鉱へ押し寄せた四十九年組。父と母父の両方から金を取り、その二つを一つの時代という言葉で束ねた名前だった。 落札の直後、会場で藤原悟郎に声をかけられた男がいる。栗東の藤原英昭である。滋賀に生まれ、騎手を目指して不合格になり、大学の馬術部から調教助手を経て2001年に厩舎を開いた調教師は、オルフェーヴルという馬の高い身体能力と荒い気性に惹かれ、その仔をいつか預かりたいと考えていた。厩舎の初勝利がユニオンの馬という縁もあり、二人は旧知だった。連れて行かれて見た当歳馬は、体つきが父によく似ていた。

別の馬 ― 二〇一七〜二〇一八年春

牧場を出た黒鹿毛は、浦河の辻牧場で中期、同じ町の吉澤ステーブルで後期の育成を受け、軽種馬育成調教センターも使った。仕上がった馬体を見た田上徹は、牧場にいた頃とは別の馬だと思ったという。ユニオンオーナーズクラブでは「ペガサスII」の名で、一口9万円・全500口、総額4500万円の先行募集馬として会員を集めた。募集時の評は、当歳の頃から骨量があり、放牧地での動きがパワフルで、常に他馬へ挑んでいくほど気が強い――良い意味で父の気性が出ている、というものだった。 2017年10月9日、京都の芝1800メートル、2歳新馬。鞍上は北村友一。単勝17.2倍の4番人気で、二番手から進んだが逃げるタングルウッドを捕まえきれず3着に終わる。馬体をもう一段増やすため、そのまま長い放牧に出された。復帰は年をまたいだ2018年1月21日、同じ京都の芝1600メートルの未勝利戦で、馬体重は14キロ増えていた。手綱を取ったのは福永祐一。危なげなく抜け出して、これが初勝利になる。 二月、次に選んだのは小倉のあすなろ賞だった。距離も相手も理由ではない。右回りで小回りの2000メートル――中山の2000メートル、つまり皐月賞と同じ形のコースを、この時期に一度走らせておきたかった。関東の戸崎圭太が呼ばれ、小倉での騎乗はこれが二度目だった。ゲートを出てすぐ先手を取り、後続を離したまま押し切って二勝目。この日から引退の日まで、戸崎はこの馬の鞍を降りていない。 3月18日、中山のスプリングステークス。重賞は初めてで、GI2着のステルヴィオ、重賞2着のルーカスに次ぐ3番人気だった。コスモイグナーツが単騎で大きく逃げ、エポカドーロはそれに次ぐ二番手――つまり、一団になった後続の先頭を務める形になった。残り200メートルで前を捉えて抜け出したところへ、外からステルヴィオが並びかけてくる。二頭は競り合ったまま決勝線を越え、写真判定はハナ差でステルヴィオを1着とした。負けはしたが、皐月賞への優先出走権は手に入れた。同じ形で、もう一度走る機会が残された。

二つの流れ ― 二〇一八年四月十五日

大本命だった2歳王者ダノンプレミアムが挫跖で回避し、混戦になった。単勝3.5倍の1番人気は弥生賞2着のワグネリアン、次いでステルヴィオが3.7倍。エポカドーロは14.5倍の7番人気だった。芝は稍重、力の要る馬場である。 ゲートが開くと、アイトーン、ジェネラーレウーノ、ジュンヴァルロの三頭が先を争って飛ばした。稍重にもかかわらず1000メートル通過は59秒2。残る十三頭はその後ろで一団になり、前との差は十馬身ほどに開く。ひとつのレースの中に、速い流れと遅い流れが二つできていた。エポカドーロは離れた四番手、遅いほうの流れの先頭にいた。「行きたい馬がいるようなので、それらを見ながらの競馬」[^1]。戸崎が藤原英昭と決めていた形が、そのまま現れた。 馬場を苦にする様子はなかった。四コーナーから少しずつ差を詰め、緩んだ内を避けてゆっくり外へ持ち出す。直線を向くと一気に加速し、脚の上がった逃げ馬を外から飲み込んで、残り100メートルで先頭に立った。そこからも伸びは鈍らない。追ってきたサンリヴァルに2馬身の差をつけ、2分0秒8で先頭を守り切った。三番手には、逃げ集団に残っていたジェネラーレウーノが粘り込んでいる。1番人気のワグネリアンは7着だった。 スプリングステークスと同じ位置、同じ運び方で、今度は最後まで前を渡さなかった。重賞初勝利が、そのままGI初勝利になる。スプリングステークス2着から皐月賞を勝ったのは、1980年のハワイアンイメージ以来38年ぶり、史上三度目だった。戸崎圭太にとっては初めてのクラシックである。大井から中央へ移って六年目の春だった。藤原英昭は2010年にエイシンフラッシュでダービーを勝っていたが、皐月賞はこれが初めて。オルフェーヴル産駒のクラシック制覇も、ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンのクラシック制覇も、この日が最初になる。そして三石で生まれた馬が皐月賞を勝つのは、1990年のハクタイセイ以来28年ぶりのことだった。 表彰式、戸崎は馬上で指を一本だけ立てた。まず一冠、という意味である。父と同じ三冠への道が、七、八頭の牧場で生まれた黒鹿毛の前に開いていた。

出典:日本中央競馬会「第78回 皐月賞」レース結果、2018年4月15日、https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/g1/satsuki/result/satsuki2018.html 、閲覧日:2026年7月25日。

半馬身 ― 二〇一八年五月二十七日

五月の東京は晴れていた。皐月賞を使わなかったダノンプレミアムが単勝2.0倍の1番人気、無敗のブラストワンピースが2番人気。皐月賞馬は10.5倍の4番人気にすぎない。レース前、パドックへ向かうのを嫌がって、誘導馬に連れられて現れる一幕もあった。 ゲートが開いて、まず飛び出したのはエポカドーロだった。皐月賞では前を三頭に譲って緩い流れを受け取ったが、この日は自分で先頭に立ち、自分でペースを落とした。淡々と流れた2400メートルは、直線で一斉に詰まる。内からダノンプレミアム、背後から16番人気のコズミックフォース、その後ろからブラストワンピース、外からエタリオウ。四方から来る馬をすべて凌いで、エポカドーロはまだ先頭にいた。 最後に外から来たのがワグネリアンだった。皐月賞では1番人気に応えられず、後方から追って届かなかった馬が、この日は好位まで押し上げていた。残り50メートルで並ばれ、抵抗し、そこで半馬身だけ足りなかった。2分23秒7。三石で生まれた馬のダービー制覇は、1951年のトキノミノルから遠いままになった。 半馬身の前を行った鞍上は、福永祐一である。19回目の挑戦で、ようやくダービージョッキーになった男だった。そしてその福永こそ、一月の京都でこの馬に初めての勝ち鞍をもたらした騎手でもある。四か月前に自分が勝たせた馬を、四か月後に自分が差した。 この馬は自分で逃げて、四頭に襲われて、それでも一頭にしか譲らなかった。指はもう一本、立たなかった。

秋、そして戻らなかった春

夏を休ませ、9月23日の神戸新聞杯から始動した。ワグネリアンも出走し、皐月賞馬とダービー馬が神戸新聞杯で顔を合わせるのは18年ぶりだった。人気はワグネリアンを上回る1番人気。ところがゲートを出た瞬間に大きく躓き、鞍上が落ちかけるほど後手を踏む。中団から追い上げたものの届かず4着、勝ったのはまたワグネリアンだった。 10月21日、京都の菊花賞。3番人気で三番手を進んだが、直線で伸びを欠いて8着に終わる。勝ったのはフィエールマンだった。藤原英昭は、敗因は距離だと語っている。三冠の話は、ここで終わった。 四歳になった2019年は中山記念から。3番人気で5着、勝ったのはウインブライトである。続く3月31日の大阪杯では自ら逃げたが、直線で失速して10着。レースのあと、鼻出血が確認された。 放牧に出された先で、この馬は腸捻転を起こす。開腹手術を経て命は取り留めたものの、戦線を離れる時間は一年を越えた。金鯱賞での復帰を目指して回避し、次に札幌記念を見据えたが、そこにも間に合わなかった。2020年8月5日、復帰を断念して引退が決まる。21日付で競走馬登録が抹消された。藤原は、立て直すのは厳しいだろうと述べ、最後にこう付け加えている。「今まで頑張ってくれた」[^1]。 通算10戦3勝、獲得賞金2億7636万4000円。三歳の一年で七度ゲートに入り、そのうちの二度が、GIの一着と二着だった。

出典:デイリースポーツ「18年皐月賞馬エポカドーロが引退 藤原英師「立て直すことは厳しい」今後は未定」2020年8月6日配信、https://www.daily.co.jp/horse/2020/08/06/0013577489.shtml 、閲覧日:2026年7月25日。

黄金の時代のあと ― 新ひだかの丘で

2021年、エポカドーロは新ひだか町のアロースタッドで種牡馬になった。生まれた町と同じ町である。初年度に52頭を集め、次の年は39頭、その次は44頭。四年目には23頭になっていた。 産駒は中央でこそまだ重賞に届いていないが、地方で走った。2022年生まれのミナトミナイトは、2025年8月に岩手のひまわり賞を、9月には水沢のオータムティアラを勝っている。2023年生まれのココキュンキュンは、園田プリンセスカップ、金沢シンデレラカップ、ラブミーチャン記念と、同じ年に三つの重賞を並べた。牝馬たちが、父の名を各地に運んでいる。 田上徹の牧場も、そのあと仔を送り出し続けた。エポカドーロの三つ下、2018年生まれの半弟キングストンボーイは父ドゥラメンテ。同じセレクトセールの当歳セッションで、兄の倍を超える値がついた馬である。中央では2021年の青葉賞2着が最高だったが、大井へ移ってから走り出し、2024年と2025年の勝島王冠、船橋の報知グランプリカップ、大井のブリリアントカップと重賞を並べて、いまも現役でゲートに入っている。 2025年9月、エポカドーロはアロースタッドを退厩した。移った先は日高町のYogiboヴェルサイユリゾートファームで、そこで功労馬として繋養されている。種牡馬としてではなく、走った馬として過ごす場所である。 中山の直線で二つに割れた流れの、遅いほうの先頭にいた黒鹿毛。速く行った三頭は最後に脚が上がり、遅いほうの先頭にいた一頭が抜け出した。淡路島から北の土地へ渡った一族が、ニューマーケットで三人分の金を出し合って買った牝馬から数えて、四代目の話である。金細工師と、金を掘りに行った男たちの名を継いだ馬に、黄金の時代という名がついたのは、たぶん偶然ではなかった。

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