名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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エイシンアポロンのイメージビジュアル
エイシンアポロンEishin Apollon
Eishin Apollon

エイシンアポロン

通算成績19戦4勝

獲得賞金28,919万円

生年月日 2007.01.22(平成19年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
エイシンアポロンの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
14 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 15人気 池添謙一 1:33.8 上り35.5映像
14 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 10人気 池添謙一 1:21.4 上り34.6
12 GII毎日王冠 東京 芝1800 10人気 池添謙一 1:45.9 上り33.9
15 GI安田記念 東京 芝1600 10人気 池添謙一 1:32.6 上り36.0映像
14 GII読売マイラーズカップ 京都 芝1600 4人気 池添謙一 1:34.4 上り36.2
1 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 5人気 池添謙一 1:33.9 上り34.9映像
1 GIII富士S 東京 芝1600 1人気 田辺裕信 1:35.0 上り34.8
4 GII毎日王冠 東京 芝1800 10人気 田辺裕信 1:46.8 上り33.2
17 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 7人気 蛯名正義 2:00.6 上り36.3映像
2 GII毎日王冠 東京 芝1800 8人気 蛯名正義 1:46.4 上り34.8
9 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 4人気 岩田康誠 1:33.0 上り35.6映像
11 GI皐月賞 中山 芝2000 4人気 池添謙一 2:01.8 上り36.2映像
2 GII報知杯弥生賞 中山 芝2000 2人気 池添謙一 2:06.2 上り36.5
2 GI朝日杯フューチュリティステークス 中山 芝1600 2人気 池添謙一 1:34.2 上り35.2映像
1 GII京王杯2歳S 東京 芝1400 3人気 池添謙一 1:22.0 上り34.5
2 GIIデイリー杯2歳S 京都 芝1600 5人気 池添謙一 1:33.7 上り34.7
5 OP野路菊S 阪神 芝1800 2人気 小牧太 1:48.3 上り34.0
1 2歳未勝利 小倉 芝1800 4人気 小牧太 1:48.1 上り35.9
5 2歳新馬 小倉 芝1800 6人気 小牧太 1:51.6 上り36.3

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
エイシンアポロンの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
Giant's CausewayStorm CatStorm Bird
Terlingua
Mariah's StormRahy
イメンスImmense
Silk And ScarletSadler's WellsNorthern Dancer
Fairy Bridge
DanilovaLyphard
Ballinderry
STORY

旅程 — この馬の物語

2007年生まれの栗毛の牡馬。父Giant's Causeway、母Silk And Scarlet。主な勝ち鞍はマイルチャンピオンS・京王杯2歳S・富士S。

太陽神の名 ― ギニーで敗れた側の血

2007年1月22日、アメリカに栗毛の牡馬が生まれた。 父はジャイアンツコーズウェイ。2000年5月6日、ニューマーケットの英2000ギニーで、4戦無敗のまま人気を集めながら、中団から抜け出したキングズベストに3馬身半突き放されて2着に終わった馬である。その敗戦のあと、セントジェームズパレスステークスからアイリッシュチャンピオンステークスまで、12週のあいだに欧州のG1を5つ勝ち、「アイアンホース」と呼ばれた。年の暮れのブリーダーズカップクラシックではティズナウにクビ差まで迫り、その年のカルティエ賞年度代表馬に選ばれている。 母Silk And Scarletはサドラーズウェルズの娘で、父と同じエイダン・オブライエンの管理馬だった。2005年7月、ハリウッドパークのアメリカンオークス。日本から遠征したシーザリオが4馬身差で圧勝したその一戦に、母も出走している。半弟マスターオブハウンズ(父キングマンボ)は2011年のケンタッキーダービーを5着に走り、翌年メイダンのジェベルハッタを制した。半妹ミノレット(父スマートストライク)は2014年のベルモントオークスの勝ち馬である。 馬主は平井豊光。玩具の会社を営み、1978年には北海道浦河に自分の牧場を開いた男だった。冠名の「エイシン」にギリシア神話の太陽神の名を重ね、エイシンアポロンと名づけられる。勝負服は赤に黒の縦縞、袖は黒。 その二か月後、北海道千歳市の社台ファームで、のちに同じ赤と黒の勝負服を着ることになる牡馬が生まれている。父はキングズベスト――ニューマーケットで、アポロンの父を3馬身半置き去りにした、あの馬だった。 預けられたのは栗東の岡田稲男厩舎。2009年8月2日、小倉の芝1800m。小牧太を背に6番人気で5着。3週後の未勝利戦を同じ小牧太で勝ち上がり、エイシンアポロンは坂を上りはじめる。

二歳の秋 ― 一馬身と、一馬身

9月、阪神の野路菊ステークスは5着。10月のデイリー杯2歳ステークスから池添謙一に手綱が替わり、リディルの2着に入った。 11月14日、東京の京王杯2歳ステークス。3番人気に推されたアポロンは、アニメイトバイオを1馬身1/4差で退け、重賞を初めて勝つ。 12月20日、中山の朝日杯フューチュリティステークス。2番人気。バトルシュリイマンが引っ張る流れのなか、直線でローズキングダムが馬場の真ん中を割って抜け出した。アポロンは最後まで追いすがったが、その1馬身余りを詰め切れずに2着。ローズキングダムの鞍上は小牧太――デビューから3戦、この馬の背にいた男である。しかもローズキングダムは、デイリー杯でアポロンの前をゴールした橋口弘次郎厩舎のリディルが骨折したため、その代役として出走してきた1番人気だった。 一つ勝ち、二度あと一歩で届かない。二歳の秋は、そういう形で暮れた。

同じ勝負服 ― 二〇一〇年春

3月7日、重馬場の中山。弥生賞は2番人気。直線で先頭に立ちながら、残り100mほどで馬群の中から出てきたヴィクトワールピサに捉えられ、また2着に終わった。 4月18日、皐月賞。4番人気。勝ったのは弥生賞で先着を許したヴィクトワールピサで、アポロンは11着に沈む。その同じレースを、11番人気で3着に走った馬がいた。赤に黒の縦縞、黒い袖――エイシンフラッシュである。 アポロンはダービーへは向かわず、5月9日のNHKマイルカップに出走して9着。勝ったのはダノンシャンティだった。 その3週間後、府中の2400mで、キングズベストの子が上がり3ハロン32秒7の脚で馬群を割った。10年前のニューマーケットでアポロンの父を3馬身半突き放した血が、日本ダービーを勝ったのである。二か月違いに生まれ、同じ勝負服を着た同期が、先に頂へ届いた。

抜け出して、捉えられて ― 府中の秋

10月10日、毎日王冠。蛯名正義に乗り替わり、8番人気。直線で先に抜け出したが、内を突いてきた3歳のアリゼオとの叩き合いに屈した。1988年のオグリキャップ以来という3歳馬の毎日王冠制覇を、ほとんど差のない2着で見送ったことになる。 3週後の天皇賞(秋)は7番人気17着。勝ったブエナビスタから2秒4離された。 そしてターフから姿を消す。次に出走するまでには、1年近い時間が必要だった。 これで2着は四度――デイリー杯、朝日杯、弥生賞、毎日王冠。先に抜け出しては捉えられ、あるいは前を捉えきれずに、この馬は勝ち鞍のない一年を終えた。

厩舎が変わる ― 三着を見続けた男

長い休養のあいだに、この馬の所属が変わった。デビューから預かった岡田稲男厩舎を離れ、同じ栗東の松永昌博厩舎へ移ったのである。 松永昌博は1953年、鹿児島の生まれ。体が小さいことから親戚に騎手を勧められ、免許試験に6度落ちたのち、1977年に鞍上の座を得た。1991年からナイスネイチャの主戦を務め、この「善戦ホース」とともに名を知られる。有馬記念3年連続3着。通算5846戦544勝、重賞25勝。GI級の勝利は1997年の東京大賞典ただ一つで、JRAのGIには手が届かないまま2002年に鞍を降りた。義父・松永善晴の厩舎で調教助手を務めたのち、2005年に調教師免許を取り、翌年に自分の厩舎を開いている。 2011年10月9日、11か月ぶりの実戦となった毎日王冠は10番人気で4着。鞍上は田辺裕信。上がり3ハロン33秒2を使い、勝ったダークシャドウとの差は0秒1だった。 2週後、10月22日の富士ステークス。不良馬場の東京マイルで1番人気に推されたアポロンは、中団から直線で外に持ち出し、先に抜け出していたアプリコットフィズをゴール寸前でアタマ差捉えた。2年ぶりの重賞2勝目。捉えられる側だった馬が、初めて捉える側に回った。

クビ差の戴冠 ― 二〇一一年十一月二十日

第28回マイルチャンピオンシップ。富士ステークスで手綱を取った田辺裕信が騎乗停止となり、鞍上は池添謙一に戻った。2010年の春以来のコンビである。その年オルフェーヴルで三冠を制したばかりの男が、やや重の京都で、5番人気のアポロンにまたがった。 好位の5番手。直線で力強く抜け出すと、内で粘る横山典弘のフィフスペトルとの叩き合いになった。11番人気の伏兵は容易に引かない。それでも今度は、追われる側が凌ぎ切った。クビ差、1分33秒9。3着はクリストフ・ルメールのサプレザ、1番人気のリアルインパクトは5着、二年前のデイリー杯でこの馬の前をゴールしたリディルは14着だった。 ゴール板を過ぎた池添は、鞍上で派手なガッツポーズをつくった。「僕が乗せてもらっていたときは朝日杯が2着でしたし、皐月賞は力を出し切れず悔しい思いをしましたからね」[^1]。二歳の暮れと三歳の春に置いてきた悔いが、そこで清算された。 そして松永昌博。騎手として5846戦、調教師として6年目。JRAのGIを勝ったのは、これが初めてだった。三年続けて有馬記念の3着に乗った男が、四度二着に泣いた馬とともに、はじめて一番高いところに立った。

出典:スポーツナビ「“最強世代”エイシンアポロン新王者、池添はGI5勝目=マイルCS」2011年11月20日配信、https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201111230007-spnavi 、閲覧日:2026年7月30日。

メイダンに立てなかった春 ― 五歳

2012年、5歳。始動戦に予定していた中山記念は、寝違えのために回避となった。3月末のドバイデューティーフリーへの遠征も取り止めになる。 その3月、メイダンでは半弟マスターオブハウンズがジェベルハッタを勝った。3月31日のワールドカップデーには、赤と黒の勝負服を着たエイシンフラッシュが同じ競馬場に立ち、日本馬の最先着となる6着に走っている。血の縁も勝負服の縁もドバイに揃っていたその月、アポロンだけが海を渡らなかった。 4月22日のマイラーズカップは4番人気で14着。以降、安田記念15着、毎日王冠12着、スワンステークス14着と、二桁の着順が続く。 11月18日、京都のマイルチャンピオンシップ。一年前に戴冠したのと同じ舞台に15番人気で出走し、14着。これが最後の一戦になった。11月21日付で競走馬登録を抹消。19戦4勝、獲得賞金2億8919万6000円。 翌2013年3月2日、平井豊光が世を去る。77歳だった。勝負服は次男の克彦が継いだ。

絵笛の丘 ― 帰る場所

2013年から、北海道新ひだか町のレックススタッドで種牡馬となった。7シーズンの供用で血統登録は60頭、そのうち50頭が競馬場に出て、37頭が勝ち馬になっている。2020年7月には、産駒のエイシンハルニレが盛岡の重賞オパールカップを勝った。 2018年12月、その種牡馬場に一頭が移ってきた。社台スタリオンステーションからやって来たエイシンフラッシュである。ダービーを勝った黒鹿毛と、マイルの王になった栗毛。同じ年に生まれ、同じ赤と黒を着た二頭が、日高の同じ種牡馬場で二つのシーズンを過ごした。 2020年のシーズンをもって種牡馬を引退。翌年から引退名馬繋養展示事業の対象馬となり、北海道浦河町上絵笛の栄進牧場へ移った。1978年に平井豊光が開き、いまは次男の克彦が代表を務める牧場である。アメリカで生まれ、日本で走った馬は、19歳になったいま、自分を買った人が拓いた丘で余生を送っている。 先に抜け出しては捉えられ、届きそうで届かなかった馬が、一度だけ、京都の直線で誰にも捉えられなかった。四度の二着も、勝てなかった十五戦も、その一度のためにあったように見える。絵笛の丘には、いま、静かな時間が流れている。

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