名馬の記憶を、
再生する。
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エフフォーリア
通算成績11戦6勝
獲得賞金7億7,663万円
生年月日 2018.03.10(平成30年)毛色 鹿毛性 牡
全成績
主要戦績(抜粋)・新しい順| 年月日 | 着順 | レース | コース | 人気 | 騎手 | タイム | 上り3F | 映像 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中 | GII京都記念 | 阪神 芝2200 | 2人気 | 横山武史 | — | 映像 | ||
| 5 | GI有馬記念 | 中山 芝2500 | 5人気 | 横山武史 | 2:33.2 | 上り36.3 | 映像 | |
| 6 | GI宝塚記念 | 阪神 芝2200 | 1人気 | 横山武史 | 2:10.6 | 上り36.2 | 映像 | |
| 9 | GI大阪杯 | 阪神 芝2000 | 1人気 | 横山武史 | 1:59.1 | 上り35.5 | 映像 | |
| 1 | GI有馬記念 | 中山 芝2500 | 1人気 | 横山武史 | 2:32.0 | 上り35.9 | 映像 | |
| 1 | GI天皇賞(秋) | 東京 芝2000 | 3人気 | 横山武史 | 1:57.9 | 上り33.2 | 映像 | |
| 2 | GI東京優駿 | 東京 芝2400 | 1人気 | 横山武史 | 2:22.5 | 上り33.4 | 映像 | |
| 1 | GI皐月賞 | 中山 芝2000 | 2人気 | 横山武史 | 2:00.6 | 上り36.7 | 映像 | |
| 1 | GIII共同通信杯 | 東京 芝1800 | 4人気 | 横山武史 | 1:47.6 | 上り33.4 | 映像 | |
| 1 | 百日草特別 | 東京 芝2000 | 2人気 | 横山武史 | 2:02.3 | 上り33.4 | — | |
| 1 | 2歳新馬 | 札幌 芝2000 | 1人気 | 横山武史 | 2:03.3 | 上り35.7 | — |
血統
金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ| 父エピファネイアEpiphaneia | シンボリクリスエスSymboli Kris S | Kris S. |
| Tee Kay | ||
| シーザリオCesario | スペシャルウィークSpecial Week | |
| キロフプリミエールKirov Premiere | ||
| 母ケイティーズハート | ハーツクライHeart's Cry | サンデーサイレンスSunday Silence |
| アイリッシュダンス | ||
| ケイティーズファーストKaties First | Kris | |
| Katies |
旅程 — この馬の物語
2018年生まれの鹿毛の牡馬。父エピファネイア、母ケイティーズハート。主な勝ち鞍は皐月賞・天皇賞・有馬記念。
血の交差点 ― 一族と鞍上
名門の血が、一頭の鹿毛の上で交差していた。 2018年3月10日、北海道安平町のノーザンファーム生まれ。父はエピファネイア――菊花賞とジャパンカップを制し、その走りに底知れぬ爆発力を秘めた馬だ。父の母、すなわちエフフォーリアの祖母にあたるのが、優駿牝馬とアメリカンオークスを制した名牝シーザリオ。そして父の父はシンボリクリスエス。二〇〇二・二〇〇三年に天皇賞(秋)と有馬記念を連覇し、二年続けて年度代表馬に輝いた漆黒の帝王である。この祖父の名は、のちの秋に、もう一度この物語へ帰ってくる。 母ケイティーズハートはハーツクライ産駒でダートを三勝した牝馬。その母ケイティーズファーストは、二〇〇七年の年度代表馬アドマイヤムーンの祖母でもあった――エフフォーリアとアドマイヤムーン、二頭の年度代表馬は、同じ祖母を持ついとこ同士だったのだ。父系にも母系にも王が並ぶ、血の交差点。 その背に手綱を託されたのは、まだ重賞を勝ったばかりの若手・横山武史だった。デビューから引退まで全十一戦、この馬に跨ったのは、生涯ただ一人この男だけになる。名馬と若武者が、互いをまだ知らないまま、長い旅の入口に立っていた。
札幌の新馬 ― 無敗でクラシックへ
体質は、決して丈夫ではなかった。入厩してしばらくは、調教を強めると腹を痛がるほどで、鹿戸雄一調教師は開催の遅い札幌でじっくりデビューさせる道を選ぶ。 2020年8月23日、札幌の芝2000m。単勝一番人気に応え、エフフォーリアは危なげなく新馬戦を勝ち上がった。続く東京の百日草特別も難なく制すと、明けて2021年の共同通信杯へ。四番人気という下馬評をあざ笑うように、上がり三ハロン33秒4の鋭い脚で突き抜ける。走るごとに、この馬が並でないことは誰の目にも明らかになっていった。 新馬、特別、そして重賞――無敗のまま三連勝で、エフフォーリアはクラシックの扉の前に立った。まだGIの舞台は踏んでいない。それでもその脚は、もう春の主役のものだった。
無敗の皐月 ― 二〇二一年四月十八日
中山の芝2000m、皐月賞。二番人気に推されたエフフォーリアは、好位の内で脚を溜め、直線で満を持して抜け出した。二着タイトルホルダーにつけた差は、三馬身。無敗のまま、クラシックの一冠目を完勝で手にする。 この勝利は、鞍上にとって初めてのGI制覇でもあった。横山武史、二十二歳。父・横山典弘も一九九八年にセイウンスカイで皐月賞を制しており、親子二代での戴冠となる。 父系には天皇賞と有馬を連覇した祖父シンボリクリスエス、母系には年度代表馬のいとこアドマイヤムーン。血に約束された格を、若い馬と若い騎手が実力で証明してみせた春だった。連勝は四に伸び、次は誰もが二冠を思い描く、府中の大一番である。
十センチの夢 ― ダービーの敗北
2021年5月30日、東京優駿。単勝1.7倍、断然の一番人気。無敗の二冠まで、あと一つだった。 最内の枠から道中を内で進めたエフフォーリアは、残り五百mで外へ持ち出し、堂々と先頭に立つ。府中の大観衆が勝利を確信しかけた、そのゴール板の直前――後方から矢のように伸びてきたシャフリヤールに、首の上げ下げで交わされた。写真判定の末に出た着差は、ハナ。二千四百mを走り抜いた果ての、わずか十センチほどの差だった。史上十度目の、ハナ差で決したダービー。無敗の二冠は、その十センチの向こうへ消えた。 この敗北は、若い騎手の胸に長く突き刺さった。半年が過ぎてなお、横山武史はこう明かしている。「今でも普段の何気ない日常の中で、全く関係のないことをしているのにも関わらず、ふとダービーの記憶が頭をよぎることがあるんです」[^1]。テレビにあのレースが映れば、とっさにスイッチを消してしまうほどだった。先頭に立ちながら、最後の一完歩で交わされる――その絶望を抱えたまま、二十二歳は夏を越える。悔しさの答え合わせは、秋に待っていた。
出典:Number(ナンバー・文藝春秋)「「日常の中で、ふとダービーの記憶が…」エフフォーリア&横山武史は「悔やみ切れないハナ差」をどう乗り越えたのか《天皇賞・秋制覇》」2021年11月3日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/850493 、閲覧日:2026年7月21日。
撃墜王の秋 ― 祖父の背中
秋、エフフォーリアは古馬の王道へ駒を進めた。天皇賞(秋)、東京の芝2000m。立ちはだかるのは、無敗の三冠馬コントレイルと、マイル女王グランアレグリア。ともにその年限りで引退を控えた、現役最強を争う歴戦の古馬たちである。三歳のエフフォーリアは、三番人気にすぎなかった。 中団から直線を迎えると、先に抜け出したグランアレグリアを競り落とし、追いすがるコントレイルの末脚をクビ差で封じ込める。勝ち時計1分57秒9、上がりは33秒2。世代の頂点に立つ二頭を、まとめて撃ち落とす一戦だった。鹿戸雄一がこの馬を「撃墜王」と呼んだのは、この日からだという。 三歳馬による天皇賞(秋)制覇は、二〇〇二年以来、十九年ぶりの快挙だった。そしてその十九年前にこの盾を三歳で勝った馬こそ、シンボリクリスエス――エフフォーリアの、父の父である。祖父が三歳で駆けた同じ府中の二千mを、孫がまた三歳で駆け抜けた。血が、十九年の時を越えて、同じ道を静かになぞっていた。
頂点 ― 有馬記念と年度代表馬
暮れの有馬記念。エフフォーリアはファン投票で、当時の歴代最多となる二十六万七百四十二票を集め、堂々の一位に立った。単勝も一番人気。中山の芝2500mで、前年の覇者クロノジェネシスをぴたりとマークして直線を向くと、満を持して抜け出す。二着ディープボンドを四分の三馬身しのぎ、GI三勝目。この日を最後に引退するクロノジェネシスは、さらに半馬身差の三着だった。 祖父シンボリクリスエスは、天皇賞(秋)と有馬記念を同じ秋に勝ち、年度代表馬に輝いた。その孫が、三歳にして同じ秋の二冠を続けざまに掴んだのだ。 2021年、エフフォーリアはJRA賞年度代表馬と最優秀三歳牡馬に選ばれる。三歳牡馬が年度の頂点に立つのは、二〇一一年のオルフェーヴル以来のことだった。春に十センチで手放した夢を、若い馬と若い騎手は、祖父の駆けた秋の道で、まとめて取り返してみせた。頂点は、確かにこの一頭のものだった。
心房細動 ― 二〇二三年二月十二日
栄光の翌年、歯車は静かに狂い始める。 2022年、一番人気で臨んだ大阪杯は九着。ゲートの中で暴れて落鉄し、蹄を傷めていたことが後にわかった。続く宝塚記念も一番人気で六着――皐月賞で三馬身ちぎったタイトルホルダーが、この日は先頭でゴールを駆け抜けていた。暮れの有馬記念は五着。四コーナーでは先頭をうかがう場面もあったが、伸び盛りのイクイノックスらに突き放された。かつて古馬を撃ち落とした撃墜王が、今度は追われる側で沈んでいく。年度代表馬の面影は、少しずつ薄れていった。 2023年2月12日、京都記念。二番人気。先行集団に取りついたエフフォーリアは、しかし第四コーナーでずるずると後退し、直線を前に最後方まで下がった。心房細動――レースの最中に、不整脈を発症していた。横山武史はゴールを待たずに馬を止め、下馬する。無事だけを確かめる、静かな下馬だった。 これが、十一戦目のラストランになった。数日後に引退が発表され、エフフォーリアは北海道安平町の社台スタリオンステーションへ、種牡馬として旅立つ。十一戦六勝、そのすべてに横山武史がいた。皐月賞、天皇賞(秋)、有馬記念――三つの盾と、一つのハナ差の夢を、この一頭とともに駆け抜けた若武者は、やがて日本を代表する騎手へと駆け上がっていく。 祖父から継いだ秋の輝きも、いとこと分け合った母の血も、いまは血として次の世代へ渡された。安平の厩舎で草を食むその馬体には、二〇二一年のあの秋、府中と中山を沸かせた王の面影が、確かに残っている。
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