名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

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デシエルトのイメージビジュアル
デシエルトDesierto
Desierto

デシエルト

通算成績16戦6勝

獲得賞金15,376万円

生年月日 2019.01.17(令和元年)毛色 黒鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
デシエルトの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
14 GI大阪杯 阪神 芝2000 7人気 池添謙一 1:57.7 上り36.6映像
4 GII東海テレビ杯金鯱賞 中京 芝2000 2人気 武豊 2:01.7 上り39.0映像
1 GIII中日新聞杯 中京 芝2000 3人気 岩田康誠 1:58.4 上り35.6映像
1 LアンドロメダS 京都 芝2000 8人気 岩田康誠 1:58.6 上り35.3
6 Lグリーンチャンネルカップ 東京 ダ1600 3人気 岩田康誠 1:35.2 上り37.2
13 GIIIプロキオンS 小倉 ダ1700 5人気 岩田康誠 1:44.8 上り39.0映像
3 OP三宮S 京都 ダ1800 2人気 岩田康誠 1:52.1 上り39.2
5 LオアシスS 東京 ダ1600 2人気 戸崎圭太 1:37.4 上り37.0
5 LすばるS 京都 ダ1400 1人気 戸崎圭太 1:24.9 上り36.9
4 OP霜月S 東京 ダ1400 1人気 戸崎圭太 1:22.8 上り36.1
1 Lグリーンチャンネルカップ 東京 ダ1600 2人気 戸崎圭太 1:33.5 上り34.4
15 GI東京優駿 東京 芝2400 15人気 岩田康誠 2:24.0 上り37.3映像
16 GI皐月賞 中山 芝2000 7人気 岩田康誠 2:01.3 上り36.3映像
1 L若葉S 阪神 芝2000 2人気 岩田康誠 2:00.2 上り35.3
1 3歳1勝クラス 中京 ダ1800 2人気 岩田康誠 1:52.9 上り39.0
1 2歳新馬 阪神 ダ1800 1人気 岩田康誠 1:53.7 上り37.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
デシエルトの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ドレフォンDrefongGio PontiTale of the Cat
Chipeta Springs
EltimaasGhostzapper
Najecam
アドマイヤセプターキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
アドマイヤグルーヴAdmire GrooveサンデーサイレンスSunday Silence
エアグルーヴAir Groove
STORY

旅程 — この馬の物語

2019年生まれの黒鹿毛の牡馬。父ドレフォン、母アドマイヤセプター。主な勝ち鞍は中日新聞杯。

砂漠の名を負って ― 名前と血

デシエルト(Desierto)はスペイン語で「砂漠」を意味する。馬名は、チリのアタカマ砂漠に立つ巨大な彫刻〈マノ・デル・デシエルト(砂漠の手)〉に由来する。乾いた大地から突き出た一本の手。不毛の只中で天を掴もうとするその像が、やがてこの馬の歩みの隠喩になるとは、名付けた者も知らなかったろう。 だが血は、乾いてなどいなかった。母アドマイヤセプターは、4代母ダイナカール(優駿牝馬)から続く日本屈指の名門牝系の一頭。曾祖母エアグルーヴは優駿牝馬と天皇賞(秋)を制し、祖母アドマイヤグルーヴは武豊を背にエリザベス女王杯を連覇した。母系をさかのぼるほど、牝馬たちの勲章が積み上がる。同じ牝系からは大叔父ルーラーシップも出た。そして母アドマイヤセプターの全弟こそ――2015年の皐月賞と東京優駿を駆けた二冠馬ドゥラメンテ。デシエルトにとっては叔父にあたる。 2019年1月、北海道安平町のノーザンファームに生まれたこの黒鹿毛は、その夏のセレクトセール当歳で2億5000万円(税抜)の高値で落札された。良血の看板を背負い、栗東・安田隆行厩舎へ。この物語は、期待の重さのほうから始まる。

七馬身 ― 岩田康誠と歩き出す

2021年12月19日、阪神のダート1800m。単勝1番人気に推された新馬戦で、鞍上の岩田康誠はためらわなかった。ゲートを出るとすぐに先頭を奪い、後続を離し続け、二着に七馬身の差をつけて逃げ切る。デビュー戦とは思えない圧勝だった。 年が明けても脚は衰えない。3歳1勝クラスを逃げて連勝し、初めて芝に挑んだ3月の若葉ステークスでも、二着に三馬身差をつけて完勝。デビューから無傷の三連勝である。砂で生まれた快速が、芝でも止まらない。春のクラシックが、はっきりと射程に入った。

叔父の掴んだ二冠 ― 春の挫折

向かった先は、叔父ドゥラメンテが七年前に駆け抜けた道そのものだった。皐月賞と東京優駿。血の記憶に引き寄せられるように、デシエルトは同じ二冠へ挑む。だが、その叔父はもういない。二冠馬ドゥラメンテは前年の夏、九歳の若さで世を去っていた。 4月の皐月賞、中山2000m。逃げを身上とする脚は、GIのペースと急坂の前に沈んで十六着。デビューからの連勝は、ここで止まった。続く東京優駿は十五着。芝の一線級が刻む底力と二四〇〇mの距離に、快速は最後まで応えられない。血がくれたのは名門の看板であって、ダービーを勝つスタミナではなかった――春が、それを突きつけた。

砂へ還る ― 骨折と放浪

芝で躓いた馬は、生まれ育ったダートへ帰った。2022年10月、東京ダート1600mのグリーンチャンネルカップを、コースレコードを更新して逃げ切る。快速はまだ錆びていない――そう思わせた矢先に、左前脚の骨折が判明した。長い休養。砂漠の名を負った馬は、皮肉にも砂の上から、しばらく姿を消す。 戻ってきたのは一年一か月後だった。戸崎圭太を背に霜月ステークスで四着。以後、すばるステークス、オアシスステークス、三宮ステークス、プロキオンステークスと、ダートの重賞・オープンを転戦するが、勝ち切れない。掲示板の前後をさまよう日々が続いた。砂漠の手は、天を掴みかねていた。

芝に帰る、岩田も帰る ― 重賞初制覇

2024年3月、安田隆行の定年に伴い、デシエルトは息子・安田翔伍の厩舎へと移った。父から子へ。牝系がそうして血をつないできたように、この馬もまた次の手へ託される。そして秋、二年半ぶりに芝へ戻された。鞍上には――デビューの七馬身を演出した岩田康誠が、戻っていた。 11月のアンドロメダステークス、京都2000m。八番人気の伏兵評価をよそに、岩田はハナを奪い、後ろを一度も行かせなかった。逃げ切り勝ち。翌12月の中日新聞杯、中京2000m。三番人気に応え、一番人気ロードデルレイを二馬身抑えて、またも先頭でゴールを駆け抜ける。五歳の暮れ、デシエルトはついに重賞のタイトルを掴んだ。連勝での初制覇だった。「馬場も味方してくれた」[^1]。岩田は、自らの形で運んだ逃げを静かにそう振り返った。デビューを勝たせた男の手で、砂漠の手はようやく天に届いた。

出典:東京スポーツ「【中日新聞杯結果&コメント】デシエルト逃げ切りで重賞初制覇 岩田康誠「馬場も味方してくれた」」2024年12月7日配信、https://tospo-keiba.jp/breaking_news/52721 、閲覧日:2026年7月19日。

砂漠の手 ― その後と血

明けて2025年、金鯱賞の鞍上は武豊だった。かつて祖母アドマイヤグルーヴを二度の女王杯へ導いた名手が、その孫の手綱を取る。結果は四着。続く大阪杯はGIの壁に阻まれ、十四着に沈んだ。そして同年10月、競走馬登録を抹消。十六戦六勝、重賞一勝。旅は静かに幕を下ろした。 華々しい二冠は、叔父のものだった。だがデシエルトは、砂で生まれ、芝で躓き、砂で傷つき、それでももう一度芝へ帰って、自らの脚で一つの重賞をもぎ取った。名門の血が約束するのは看板だけで、勝利は一戦ごとに掴むしかない――その当たり前を、長い遠回りで証明した馬だった。アタカマの砂漠に突き出た一本の手のように、乾いた歩みの果てで、この馬もまた確かに天を掴んでみせた。

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