名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

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デアリングタクトのイメージビジュアル
デアリングタクトDaring Tact
Daring Tact

デアリングタクト

通算成績13戦5勝

獲得賞金64,413万円

生年月日 2017.04.15(平成29年)毛色 青鹿毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
デアリングタクトの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
4 GIジャパンカップ 東京 芝2400 5人気 T.マーカンド 2:23.9 上り33.7映像
6 GIエリザベス女王杯 阪神 芝2200 1人気 松山弘平 2:14.0 上り36.5映像
6 GII産経賞オールカマー 中山 芝2200 1人気 松山弘平 2:13.7 上り35.7映像
3 GI宝塚記念 阪神 芝2200 4人気 松山弘平 2:10.3 上り36.0映像
6 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 5人気 松山弘平 1:32.7 上り33.6映像
3 GIクイーンエリザベス2世カップ シャティン 芝2000 1人気 松山弘平 2:01.4 映像
2 GII金鯱賞 中京 芝2000 1人気 松山弘平 2:01.8 上り36.1映像
3 GIジャパンカップ 東京 芝2400 3人気 松山弘平 2:23.2 上り34.4映像
1 GI秋華賞 京都 芝2000 1人気 松山弘平 2:00.6 上り35.8映像
1 GI優駿牝馬 東京 芝2400 1人気 松山弘平 2:24.4 上り33.1映像
1 GI桜花賞 阪神 芝1600 2人気 松山弘平 1:36.1 上り36.6映像
1 LエルフィンS 京都 芝1600 3人気 松山弘平 1:33.6 上り34.0
1 2歳新馬 京都 芝1600 2人気 松山弘平 1:37.7 上り34.8

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
デアリングタクトの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
エピファネイアEpiphaneiaシンボリクリスエスSymboli Kris SKris S.
Tee Kay
シーザリオCesarioスペシャルウィークSpecial Week
キロフプリミエールKirov Premiere
デアリングバードキングカメハメハKing KamehamehaKingmambo
マンファスManfath
デアリングハートDaring HeartサンデーサイレンスSunday Silence
デアリングダンジグDaring Danzig
STORY

旅程 — この馬の物語

2017年生まれの青鹿毛の牝馬。父エピファネイア、母デアリングバード。主な勝ち鞍は桜花賞・優駿牝馬・秋華賞。

指揮棒を継ぐ血 ― 名前と一族

デアリング――挑む、恐れを知らぬ、という母系の名がある。三代母デアリングダンジグ、二代母デアリングハート、母デアリングバード。北の牧場が代々受け継いできたこの一族の名に、指揮棒を意味するタクトを添えて、一頭の青鹿毛の牝馬は名づけられた。デアリングタクト。 2017年4月15日、北海道日高町の長谷川牧場に生まれる。夫婦二人で切り盛りする小さな牧場だった。セレクトセールの一歳市場で1200万円――決して高くはない値で落札され、栗東の杉山晴紀厩舎へ送られる。2016年に開業したばかりの、まだGIを知らない調教師だった。そして新馬戦から手綱を託されたのが、松山弘平。2019年11月、京都の芝1600mを勝ち上がったその日から、この二人三脚は始まる。 もう一つ、血が結んだ因縁がある。二代母デアリングハートは、2005年の桜花賞で三着に敗れた牝馬だった。その同じレースで二着に沈んだのが、のちにこの馬の父エピファネイアを産むシーザリオである。十五年前、桜の頂にわずかに届かなかった二頭の血が、いま一頭の牝馬の中で出会っていた。

桜、十五年越しに ― 無敗の一冠

明けて2020年、京都のエルフィンステークスを危なげなく勝ち、無傷のまま桜花賞へ向かう。 4月12日、阪神。前夜からの雨で馬場は重く沈んでいた。単勝一番人気は逃げるレシステンシア。デアリングタクトは二番人気で、中団のやや後ろに控える。直線、松山は迷わず馬群の大外へ持ち出した。残り数完歩、先頭で粘るレシステンシアを一気に呑み込み、一馬身半突き放してゴールを駆け抜ける。デビューからわずか三戦目の栄冠だった。 杉山晴紀にとっても、生産した長谷川牧場にとっても、初めてのGI制覇。そして十五年前、この桜の舞台で二着と三着に敗れた二頭の血が、ひとつになって、ようやく桜を勝ち取った。届かなかった夢の続きを、孫娘が走り切っていた。

塞がれても ― オークスの二冠

5月24日、優駿牝馬。距離が2400mに延びても不安の声はなく、単勝1.6倍の圧倒的な支持を集めた。 だが道中は苦しかった。直線を向いても前は壁、外も塞がり、松山は進路を探して馬を我慢させ続ける。ようやくこじ開けた隙間から、デアリングタクトは弾かれたように伸びた。刻んだ上がりは33秒1――オークスの長い歴史で最も速い末脚だった。厳しい流れをねじ伏せての二冠。強さの質が、桜花賞からもう一段上がっていた。

一番強いと信じて ― 史上初の無敗三冠

10月18日、京都。秋華賞は単勝1.4倍、誰もが戴冠を待つムードの中で行われた。稍重の馬場。ゲートで立ち遅れ、隊列の後ろからの競馬になる。それでも松山は慌てなかった。中団で折り合いをつけ、直線でするりと先頭へ。二着に一馬身四分の一の差をつけ、五戦五勝のまま三冠目を掴んだ。 中央競馬史上、初めての無敗での牝馬三冠。牝馬三冠馬としては、メジロラモーヌから数えて六頭目だった。感染症で入場を絞っていた京都のスタンドにも、この日は制限つきながらファンが戻り、歴史の瞬間に立ち会っている。レース後、松山は静かに言った。「一番強いと信じていました」[^1]。二〇一六年に厩舎を構えた杉山にとっても、忘れられない一日になった。 この秋、牡馬ではコントレイルが無敗の三冠を達成している。一年のうちに、無敗の三冠馬が二頭。競馬の歴史でも例のない、豊かな世代だった。

出典:Number Web(島田明宏「デアリングタクト史上初の無敗三冠牝馬に! 圧巻の秋華賞で見せた今までにない強さとは」)2020年10月19日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/845457、閲覧日:2026年7月22日。

三冠馬、三頭 ― 二〇二〇年秋、府中

11月29日、ジャパンカップ。枠順が出たとき、競馬ファンは目を疑った。牝馬三冠のアーモンドアイ。無敗の三冠牡馬コントレイル。そして無敗の牝馬三冠デアリングタクト。三頭の三冠馬が、ただ一つのゴールを争う――前代未聞の一戦だった。 三番人気に支持されたデアリングタクトは、直線で内にもたれながらも懸命に脚を伸ばし、三着に踏ん張った。先頭でゴールを駆け抜けたのはアーモンドアイ、二着コントレイル、三着デアリングタクト。三冠馬によるワン・ツー・スリー。無敗の記録はここで途切れたけれど、敗れてなお、この一頭は競馬史の一頁の真ん中に立っていた。

異国の異変 ― 繋靱帯炎

四歳になったデアリングタクトは、始動戦の金鯱賞で一番人気に応えられず二着。それでも力は健在に見えた。春、陣営は海を渡る決断をする。香港・シャティンのクイーンエリザベス二世カップ。単勝一番人気に推されたこの遠征で、三着に敗れる。 そして帰国後、体に異変が見つかった。右前肢の繋靱帯炎。競走馬にとって、ときに現役生命を絶つほどの重い故障である。デアリングタクトはターフから姿を消す。無敗で三冠に上りつめた蹄が、次に競馬場の芝を踏むまで、三百八十四日を要した。

還ってきた蹄 ― 復活と別れ

2022年5月15日、ヴィクトリアマイル。中三百八十四日、馬体は二十二キロ増えていた。長い休養明けの身で六着。まずは戦列に戻ったこと自体が、大きな一歩だった。 一戦叩いた宝塚記念で、彼女は片鱗を取り戻す。中団から末脚を伸ばして三着。かつての切れ味がよみがえりかけていた。松山は悔しさをにじませながら、大怪我からここまで戻した愛馬をこう讃えた。「すごい馬です」[^1]。復活は、もう手の届くところにあるように見えた。 だが、そこから先が長かった。オールカマー六着、一番人気に推されたエリザベス女王杯も六着。そして最後の一戦となったジャパンカップは、松山からトム・マーカンドへ手綱が渡り、四着に走った。翌2023年、再起を期して調整を続けたものの、繋靱帯炎が再発する。10月、デアリングタクトの現役に幕が下りた。 余生の地は、北海道新ひだか町の岡田スタッド。かつて桜の頂にわずかに届かなかった二頭の牝馬の血は、孫娘の代で無敗の三冠という頂に届いた。その血はいま北の大地で母となり、次に指揮棒を握る走者を待っている。

出典:中日スポーツ・東京中日スポーツ「末脚伸びて3着のデアリングタクト、大けがからの復活の兆しに松山『すごい馬です』【宝塚記念】」2022年6月26日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/496678、閲覧日:2026年7月22日。

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